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Ⅱ「蒼」
「チカゼ、お待たせ。行こうか」
思考が二週間前から現在、茜色の放課後に切り替わった。
花壇に咲く花の香りが、春物のローブの隙間を心地良く通り抜けていく。
いつの間にか校門に高級車が停まっている。
「君がそんな風に物思いに耽るのは珍しいね。事件のこと、まだ考えているのかい」
見慣れた顔が、困ったように微笑んでいた。
背がすらりと高く、長い黒髪を上品に束ね、蒼い瞳が爽やかな印象を与える。
許婚でクラスメイトのレンだ。
彼は自然な所作で私の手を取り、歩きだす。
ひんやりとした大きい掌に触れられると、妙な熱さも消えていく。
手を引かれるがまま、ふかふかの後部座席に腰を下ろした。
「僕も、異常だと思ったよ。伝統ある学園の庭が攻撃魔法で焼かれたのに、テレビや新聞……どのメディアにも、ほとんど取り上げられていない」
私はうなずいた。
世間に知られると都合の悪いことでもあるのか、庭園事件は不明な点が多すぎる。
紅い瞳の彼は何者だったのか……。
「先生は『侵入者は逮捕されました』としか教えてくれないし、彼の顔を見た生徒は私だけみたい」
[キャラ紹介その2]
◯レン(16)
・高等部一年A組、氷の魔法使い
・黒髪青目の正統派美男子
・誠実、チカゼのことが好き