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【曲パロ】KING
https://m.youtube.com/watch?v=cm-l2h6GB8Q&pp=ygUES0lORw%3D%3D
原曲様です。Kanariaさんワールドの沼にハマりはじめました。
リクエストありがとうございました。
塔があった。
高くそびえる塔があった。
灰色の薄汚れた壁に蔦がまとわりついている。一目見てまともに管理されていないと分かる塔だった。
そこには王がいる。王といっても、もうじき処刑されるただの囚人だった。
外見にたがわず内部は薄暗く、寒く、鼠や蝿などが蔓延っている。そんな塔に近づく物好きなど、革命が落ち着いた今はもういないだろう。
1人の女がやって来るまでは、そう思われていた。
漆黒の髪に、血のような真紅の瞳。ファーがふんだんにあしらわれたきらびやかな衣装。黒のチョーカー。華奢な足を包み込んでいる網タイツ。その姿を見つけて、牢屋番は恭しく頭を下げる。
この国の次代国王と名高い少女であった。
革命軍を率いて、ここにいる男の立場を国王という華々しいものから囚人へと変えた張本人だった。
護衛は1人もいなかった。
牢屋番と一言二言言葉を交わすと、少女は堂々と塔の中へと入っていった。部屋の前までの行き方は、すでに知っているようだった。
ひび割れた階段を、ヒールでかつかつと叩く音だけが塔を支配する。
しばらくして、一度その音は止まった。しかし
、少女が有刺鉄線を通り抜けるための別種の音が響くことになった。
通り抜ければ、目的地はすぐそこ。
「久しぶりですね、陛下。」
代わりに少女の口が動き、凛とした声が響いた。
「お利口に幽閉されていましたか?逝く前くらいは。」
鉄格子の向こう側にいる、塊に話しかけているようだった。正確には塊ではなかった。
毛布を被った、人間がそこにいる。
「ユーヘイされてるんじゃ、利口になんて難儀でしたか?」
少女は「幽閉」という単語をあどけない声でなぞった。
「ねぇ、ダーリン。返事してくださいよ。」
少女は追い打ちをかけるように、愛する人に対しての言葉を使う。
しばらくして、毛布の中にいた人間はくぐもった声で返答する。
「幽閉なんてもうやめてくれ。知らなかった。知らなかったんだよ。勘弁してくれよ。」
父上も、私みたいな政治をしていたから。
母上も、これでいいって言ってくれたから。
そう言いたげな瞳だった。
いつまで経っても幼稚だった。
「お前も惨忍だと思うだろう?」
「思いませんね。」
冷淡に、震える王の投げかけを一刀両断する。
「民衆が、あなたの死を望んでいるのです。皮肉なことですね。一番大切にするべきだったものに、この牢獄の中で気づくのですから。」
紙束を鉄格子越しに王に突きつけた。無機質な投票用紙の束である。
「誰もがあなたの処刑を願っていること、愚鈍なあなたでも理解できましたか?」
「お前!」
大きな声をあげたものの、無機質な処刑器具の刃を思い浮かべてしまったので、王はそれ以上何も言えなかった。口をもごもごと動かすだけだった。
「楽しみですね。非常に。一足先に始めていたいような気がします。」
もうすぐ何が待っているのか、否が応でも分かってしまう。
眼前のヴァージンによる、民衆を幸せにするためのショー。
王には、どう頑張ってもその先は見えないのだろう。
「何でもする。土地だって、名誉だって、金だって、なんだって用意しよう。だから、私を助けてくれ!」
なけなしのプライドを捨てて王は懇願するが、その命乞いは全くもって無駄だった。
少女の王に対する愛は変わらない。愛はそこにはない。
「無いですね。あなたにお願いすることなど1つもありません。」
相も変わらず、王の言動は幼い。
「あなたはもう何かを授けることはできないんです。身の振り方を考えたほうがいいですよ。」
おまけに、警告まで与えられてしまった。
そこで王の張り詰めた思いは溢れる。
「私は王だ!舐めるのもいい加減にしろ!お前は、お前は婚約者として私を助けて、私を立てなくてはならなくて!」
左側も、右側も。歯を剥き出して、少女への敵対心も剥き出しに王は叫ぶ。
「生き恥晒して、照れくさいんじゃないですか?」
それでも王は左側に、右側に、ふらつきながら体を鉄格子にぶつける。出られないか、と模索する。
「私は王だ!この冠が、見えないのか!?早く出せ!出せよ!」
牢屋の隅で、埃にまみれてしまった王冠。それを少女に突きつけても、効果はなかった。
「Haha!」
楽しそうに、実に愉快そうに、少女は嘲笑した。
「確かに、あなたは王だ。だから何だ?ここから出られやしないのに!大人しく、処刑を待つしかないのに!」
軽蔑していた。
「それでも、あなたは王だ。」
鉄格子に額を付け、目を見開く王に限界まで近づく。
「You are KING.」
そう言い残して、少女は牢屋から去っていった。
冷え切った静かな空気と、王だけが残された。
「もう行っちゃうの?」
「わたくしはこれから大事な用事があるのです。戻ってくるまでにあなたが課題を終わらせたら、また遊べますよ。」
「やった!」
無邪気に遊ぶ、期待された少年。
将来、少女の側近として育て上げるのだ。この王国の王家の血脈自体は政略に利用できる。少女はそう考えていた。
たとえこの少年が、あの王の親族だとしても。利用しないという手はない。
自らの目的を果たすためなら、どんなことでもする。少女の決意は固かった。
またあの塔へと歩を進める。
「ほら、また来ましたよ。」
「お前か。」
今日も鉄格子の向こう側で惨めに倒れている王に少女は語りかける。
「あの子は今日も元気です。座学の成績も上がり続けていますね。」
「そうか。」
健気に王は笑う。今やこの王の楽しみといったら、少女から少年の成長を聞くことくらいだった。
「痛いのは消えましたか?」
「ああ。」
硬く冷たい床にいつまでも寝転がっていると、身体中が痛むのだった。たまに、牢屋番から暴行を加えられるので、なおさら痛くなる。
それでも、王は抵抗することすらできないのだった。
「そうですか。苦い思いもなくなったんですね。無様に死ねるじゃないですか。よかったですね。」
無反応だった。
うわごとのように、ラブ・ユーと繰り返す。ラブ・ユーが崩れて、王が繰り返す言葉はラブウになる。
「私はあなたのことが嫌いですよ。民衆もきっとそうだ。嫌いです。最低だと思ってます。」
それを聞いてすぐに、王は目からぼたぼたと涙をこぼし、ダウンする。
精神が長い牢屋での生活でやられてしまったのだろう。
王は最近、同じような言葉を繰り返したり、赤子のように喚いたりするのだ。情緒が不安定だった。
「なにか、あらたにねがいごとはないのか。」
たどたどしく、舌をもつれさせながら王は確かに少女に問う。
毎度のように、同じことを訊いていた。
やはり、愛情は変わらない。毎日通い詰めているからといって、変わるわけではないのだ。
「無いです。新たなお願いは。」
「『新たな』お願いは?」
王は勢いよく跳ねて、食い入るように少女を見つめた。
「はい。」
さながら聖母のような美しい微笑みを浮かべて、少女は何かを牢屋の中に投げ入れた。
王はそれを拾い上げる。
「これはわたくしたちが元々願っていたことですよ。」
喜ばしいものではない。王が期待していたような、牢獄からの解放の知らせではない。
ある意味、解放の知らせではあった。
「舞台は整った。」
生からの解放の知らせだった。
「そういうことなので、あなたは死ね。」
張り詰めた糸がぷつりと切れるように。静寂は壊された。
どやどやと兵士たちがなだれ込んできて、牢屋の鍵を開け王を拘束する。
「やめろ!離せ!私は王だぞ!誇り高きこの王国の、王である!」
誰も王の言うことなど聞かなかった。
左を見ても、右を見ても民衆たち。
口々に罵声を浴びせ、石を投げつける。
王の体も心も、もうボロボロだった。王の威厳はどこへやら、そこにいたのはやつれた囚人だった。
「お前たちが、お前たちが邪魔しなければ!革命さえ起こさなければ!私は今も、きらびやかな宮殿で幸せに暮らしていたはずなのに!お前たちが、おまえたちが、おまえ……」
歯を剥き出して、汚れた言葉を王は放つ。
「Haha!」
元婚約者の醜い姿を少女は嗤う。
「あなたは王だ。でも、これからはそうじゃなくなる。地獄に王冠は持っていけませんよ。」
用意されていた真紅の椅子の上で。処刑器具から少し離れたところで、少女は見物する。
いつの間にか王冠は、少女の網タイツの上にあった。
「You were KING.」
少女が吐き捨てた時、王は事切れた。
「万歳!万歳!新たな王に万歳!」
民衆が両手をあげて、もう二度と動くことがない囚人を目に焼き付ける。
「即位おめでとうございます。これからは、あなたが王です。」
「ありがとう。」
王は、王としての立場を活用して、あの道化を見つけ出すことを再度誓った。
「エンヴィーベイビー。わたくしを弄んだ罰を受けさせてやる。絶対に。」
いつか関連曲でもやりたい。改めて、リクエストありがとうございました。