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【曲パロ】KING
Kanariaさんワールドの沼にハマりはじめました。
リクエストありがとうございました。
※ Kanaria様の「KING」の二次創作です。
塔があった。
高くそびえる塔があった。
灰色の薄汚れた壁に蔦がまとわりついている、塔だった。一目見てまともに管理されていないと分かる塔だった。
そこには王がいる。王といっても、もうじき処刑されるただの囚人だった。
外見にたがわず内部は薄暗く、寒く、鼠や蝿などが蔓延っている。そんな塔に近づく物好きなど、革命が落ち着いた今はもういないだろう。
1人、華奢な女がやって来るまでは、そう思われていた。
漆黒の髪に、血のような真紅の瞳。ファーがふんだんにあしらわれたきらびやかな衣装。黒のチョーカー。白く艶やかな足を包み込んでいる網タイツ。その姿を見つけて、牢屋番は恭しく頭を下げる。
この国の次代国王と名高い娘であった。
革命軍を率いて、ここにいる男の立場を国王という華々しいものから、囚人へと変えた張本人だった。
護衛は1人もいなかった。
牢屋番と一言二言言葉を交わすと、少女は堂々と塔の中へと入っていった。部屋の前までの行き方は、すでに知っているようだ。
ひび割れた階段を、ヒールでかつかつと叩く音だけが塔を支配する。
しばらくして、一度その音は止まった。しかし、少女が有刺鉄線を通り抜けるための、別種の音が響くこととなる。
通り抜ければ、目的地はすぐそこだ。
「久しぶりですね、陛下」
代わりに少女の口が動き、凛とした声が響く。
「お利口に幽閉されていましたか?逝く前くらいは」
鉄格子の向こう側にいる、大きな塊に話しかけているようだった。正確には塊ではなかった。
毛布を被った、人間がそこにいる。
「ユーヘイされてるんじゃ、利口に……なんて難儀でしたか?」
少女は「幽閉」という単語をあどけない声でなぞった。
「ねぇ、ダーリン。返事してくださいよ」
少女は追い打ちをかけるように、愛する人に対しての言葉を使う。しばらくして、毛布の中にいた人間はくぐもった声で返答する。
「もうやめてくれ。知らなかった。知らなかったんだよ。勘弁してくれよ」
父上も、私みたいな政治をしていたから。
母上も、これでいいって言ってくれたから。そう言いたげな瞳だった。顔立ちは大人のそれであるのに、表情は幼いのがひどくアンバランスだった。
「お前も惨忍だと思うだろう?」
「思いませんね」
冷淡に、震える王の投げかけを一刀両断する。
「民衆が、あなたの死を望んでいるのです。皮肉なことですね。一番大切にするべきだったものに、この牢獄の中で気づくのですから」
紙束を鉄格子越しに王に突きつけた。無機質な投票用紙の束である。
「誰もがあなたの処刑を願っていること、愚鈍なあなたでも理解できましたか?」
「お前!」
大きな声をあげたものの、無機質な処刑器具の刃を思い浮かべてしまったので、王はそれ以上何も言えなかった。口をもごもごと動かすだけだった。
「楽しみですね。非常に。一足先に始めていたいような気がします」
もうすぐ何が待っているのか、否が応でも分かってしまう。眼前のヴァージンによる、民衆を幸せにするためのショー。
王には、どう頑張ってもその先は見えないのだろう。
「何でもする。土地だって、名誉だって、金だって、なんだって用意しよう。だから、私を助けてくれ!」
なけなしのプライドを捨てて王は懇願するが、その命乞いは全くもって無駄だった。
少女の王に対する感情は変わらない。愛はそこにはない。
「無いですね。あなたにお願いすることなど1つもありません」
相も変わらず、王の言動は幼い。
「あなたはもう何かを授けることはできないんです。身の振り方を考えたほうがいいですよ」
おまけに、警告まで与えられてしまった。そこで王の張り詰めた思いは溢れる。
「私は王だ!舐めるのもいい加減にしろ!お前は、お前は婚約者として私を助けて、私を立てなくてはならなくて!」
左側も、右側も。歯を剥き出して、少女への敵対心も剥き出しに王は叫ぶ。
「生き恥晒しちゃうなんて、照れくさいんじゃないですか?」
それでも王は左側に、右側に、ふらつきながら体を鉄格子にぶつける。出られないか、と模索する。
「私は王だ!この冠が、見えないのか!?早く出せ!出せよ!」
牢屋の隅で、埃にまみれてしまった王冠。それを少女に突きつけても、効果はなかった。
楽しそうに、実に愉快そうに、少女は嘲笑した。はは、と、乾いた笑い声がよく聞こえる。
「確かに、あなたは王だ。だから何だ?ここから出られやしないのに!大人しく、処刑を待つしかないのに!」
侮蔑が色濃く宿っている。
「それでも、あなたは王だ」
鉄格子に額を付け、目を見開く王に限界まで近づく。
「まだ「今は」の話だけど」
そう言い残して、少女は牢屋から去っていった。冷え切った静かな空気と、王だけが残された。
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「もう行っちゃうの?」
「わたくしはこれから大事な用事があるのです。戻ってくるまでにあなたが課題を終わらせたら、また遊べますよ」
「やった!」
無邪気に遊ぶ、期待された少年。
将来、少女の側近として育て上げるのだ。この王国の王家の血脈自体は政略に利用できる。少女はそう考えていた。
たとえこの少年が、あの王の親族だとしても。利用しないという手はない。
自らの目的を果たすためなら、どんなことでもする。少女の決意は固かった。
またあの塔へと歩を進める。
「ほら、また来ましたよ」
「お前か」
今日も鉄格子の向こう側で惨めに倒れている王に、少女は語りかける。
「あの子は今日も元気です。座学の成績も上がり続けていますね。素晴らしいことです」
「そうか」
健気に王は笑う。今やこの王の楽しみといったら、少女から少年の成長を聞くことくらいだった。
「痛いのは消えましたか?慣れました?」
「ああ」
硬く冷たい床にいつまでも寝転がっていると、身体中が痛むのだった。たまに、牢屋番から暴行を加えられるので、なおさら痛くなる。
それでも、王は抵抗することすらできないのだった。
「そうですか。苦い思いもなくなったんですね。無様に、少しは楽に死ねるじゃないですか。よかったですね」
無反応だった。
うわごとのように、ラブ・ユーと繰り返す。ラブ・ユーが崩れて、王が繰り返す言葉はラブウになる。
「私はあなたのことが嫌いですよ。民衆もきっとそうだ。嫌いです。最低だと思ってます」
それを聞いてすぐに、王は目からぼたぼたと涙をこぼし、ダウンする。精神が、長い長い牢屋での生活ですり減ってしまったのだろう。
王は最近、同じような言葉を繰り返したり、赤子のように喚いたりするのだ。情緒が不安定だった。
「なにか、あらたにねがいごとはないのか」
たどたどしく、舌をもつれさせながら王は確かに少女に問う。毎度のように、同じことを訊いていた。
やはり、愛情は変わらない。毎日通い詰めているからといって、変わるわけではないのだ。
「無いです。新たなお願いは」
「『新たな』お願いは?」
王は勢いよく跳ねて、食い入るように少女を見つめた。
「はい」
さながら聖母のような美しい微笑みを浮かべて、少女は何かを牢屋の中に投げ入れた。王はそれを拾い上げる。
「これはわたくしたちが元々願っていたことですから、新しいお願いではありません」
喜ばしいものではない。王が期待していたような、牢獄からの釈放の知らせではない。まあ、ある意味、解放の知らせではあった。
「舞台は整った、ということです」
生からの解放の知らせだった。
「そういうことなので、あなたは死ね」
張り詰めた糸がぷつりと切れるように。静寂は壊された。どやどやと兵士たちがなだれ込んできて、牢屋の鍵を開け王を拘束する。
「やめろ!離せ!私は王だぞ!誇り高きこの王国の、王である!」
誰も、二度とこの王の言うことなど聞かない。
左を見ても、右を見ても民衆たちだった。口々に罵声を浴びせ、石を投げつける。
王の体も心も、もうボロボロだった。王の威厳はどこへやら、そこにいたのはやつれた囚人だった。
「お前たちが、お前たちが邪魔しなければ!革命さえ起こさなければ!私は今も、きらびやかな宮殿で幸せに暮らしていたはずなのに!お前たちが、おまえたちが、おまえ……」
歯を剥き出して、汚れた言葉を王は放つ。
元婚約者の醜い姿を少女は嗤う。
「あなたは王だ。でも、これからはそうじゃなくなる。地獄に王冠は持っていけませんよ」
用意されていた真紅の椅子の上で。処刑器具から少し離れたところで、少女は優雅に足を組んで見物する。
いつの間にか王冠は、少女の膝の上にあった。
「You were KING.」
少女が吐き捨てた時、王は事切れた。
「万歳!万歳!新たな王に万歳!」
民衆が両手をあげて、もう二度と動くことがない囚人を目に焼き付ける。
「即位おめでとうございます。これからは、あなたが王です」
「ありがとうございます」
王は、王としての立場を活用して、あの道化を見つけ出すことを再度誓った。
「エンヴィーベイビー。わたくしを弄んだ罰を受けさせてやる。絶対に」