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【曲パロ】間に合え結婚式
久しぶりの曲パロです。
結婚していませんし結婚式に出たこともありませんが結婚式にまつわる話を書きます。
アルバム曲は初めてですね。MVはありませんが私なりの想像で書きました。
約4500文字です。
洗練されきった原曲リンク↓
https://www.youtube.com/watch?v=5RD5HvOdr48
もう十年経ったのか。
早いもんだ。
十年前の私は、何をしてたっけ。
「早く逃げろお前ら!」
「部長、どうしたんですか?」
「爆発するんだよ!」
何がですか、と訊こうとしたが、その前に部長が叫んだ。
「俺たちの職場がな!」
「はぁ!?何言ってんですか、ってこれ……。」
部長が走り去ろうとして何かにつまづく。
カチカチと音を鳴らしながら、赤く光る数字がカウントダウンを刻んでいる。
コテコテの時限爆弾。
そして、タイムリミットが01から00に。
私の職場は閃光に包まれ……。
目が覚めた。
職場が爆発する夢で目が覚めた。
何だ、夢か。
職場が爆発するのは面白そうだし、しばらく働かなくても良さそうだけど、自分が死んだら意味ないよね!
そもそもあんなコテコテの時限爆弾なんてあるのかな。
そんなことを考えながら、もぞもぞと布団を剥いで起き上がる。
うーん、とひと伸びして、窓を開ける。
雲ひとつない……と言ったら嘘になるが、気持ちの良い青空が広がっている。
お日柄も良いね!
これは絶好の結婚式日和。
そう、私は今日友人の結婚式に出席する。
ちょっと、いやかなり冷たい印象があった子だけど、話してみると意外とそんなことはなかった。
とにかく、あの子は「私に近づくな」オーラがすごかったのだ。
流石にぼっちは可哀想だ、と肩をべしべししながら日々を過ごしていた。
私たちはそれからしばらく離れていたのだが、今日、彼女が結婚するにあたって久しぶりに顔を合わせるのだ。
よし、気合い入れてメイクするぞ!
いったい彼女はどんな旦那を手に入れたのか、楽しみだな。
結構な美人だから、金持ちのイケメン捕まえてたりして、なんてね!
はは。
……はは?
私はふと、時計を見た。
おかしいな、時計の針がなんか私が思ってた時刻じゃないぞ。
パラレルワールドかな?
……もしかしてこれ、いやもしかしなくてもまずいのでは?
「寝坊したっ!」
まず同じく結婚式に出席する友達、それから会場の人に急いで連絡して、財布やらスマホやらその他貴重品を詰め込んで、あとその他もろもろも。
あれをこうして、それをああして、とやっている間も時計の針は進む一方。
ようやく準備が整う。
非常によろしくない。
結婚式やってる最中、遅刻しましたー!なんて突撃できるわけない。
これは、今まで考えていたルートだと間に合わないな。
私はそう判断した。
そして素早く、自分でも惚れ惚れする速度で最短ルートを乗り換えガイドアプリから見つける。
しょうがない、知らない電車乗るか。
不安だったから辞めておいたやつ。
急がば回れ?
そんなの知らねぇ!
回っても遅れるんだ!
一か八か、待ち合いそうな方へ行くしかない。
待ってろ、この招待状の主役。
あなたに今から、会いに行く。
走る。走る。
泣く泣くハイヒールはやめた。
ひたすら走って、滑り込みで電車に間に合う。
だが、これはただの第一関門。
ここからさらに、まだまだ道のりはあるのだ。
間に合え!間に合え!間に合え!
心の中で叫ぶ。
お願いだから、今日はちょっと速度速くして!
もちろん、ダイヤの影響でそんなことはできない。
分かっているけど、願わずにはいられなかった。
いっつもツーンと暗い顔で、教室の隅で世界を呪うようにして座っていたあの子。
あいつが結婚するんだ。
気にならないわけないし、私は友達としてあいつの晴れ姿を見たい。
それで、結婚式でもあんなツーンとしたシケた顔してたら、花婿の前で蹴り飛ばしてやるよ。
そんでもってウェディングケーキも食って帰るわ。
何が何でも間に合わせてやる。
空き教室で、よく私たちは駄弁っていた。
揺らぐ放課後の風。エアコンなんてつけられなくて、うちわでお互いをパタパタしながら過ごした夏。華のJK、まさに無敵だった私たち。
どうでもいいことばっかり話してたっけ。
それで、いつもなぜか寝坊して、あいつらと始業のベルになんか駆られて。
間に合うこともあったし、お説教食らってしょげてたこともあったし、ノーダメージだったこともあったし。
若き冒険者でもあるのに、進路のしの字も考えてなくて、今思うと綱渡りな気もする。中高一貫に通ってた弊害かな。
未来、本当に進学できるのか。急に怖くなってた。
そんな中、ひたすら無言で、無表情で、人形みたいに勉強をこなして、部活までザ・お嬢様って感じだったのがあの子。エリートだなーって、みんなで噂してた。
話しかけられてもツンデレ、なんていう可愛いものじゃなかった。
まさに「氷の華」って感じかな。
でも、ある時見ちゃった。
あの子が学校のノートに、落書きしてるのを。
あんな真面目ちゃんでも落書きすることあるのね、って見てたら、その絵のクオリティに仰天だった。
柔らかなタッチで、色鉛筆であの子と謎の女の子が描かれてた。
金髪で、青いパジャマ?を着てた子で。
ちらっと見える他の絵も謎の女の子とあの子のやつだけで。
何だ、創作の女の子か何かなのか?って思ってたらそうじゃないみたいで。
こっそり、描きながら泣いてた。
あのクールな真面目ちゃんが。
いっつも冷たい目で、私たちを見下すみたいな目で、蔑むような目で見ていたあの子が。
こっそり。泣きながら。
意味が分からなくて、ついシャーペン落としてたな。
それであの子にも気づかれて睨まれちゃって、その時はもう見られなかった。
でも、あんな子でもソフトでナイーヴでデリケートな一面があったんだな、って。
それからただのクラスメートだったあの子を、意識するきっかけになったんだ。
それからというもの、自分でもドン引きするくらいあの子に付き纏ったっけ。
その度に突っぱねられたけど、七転び八起きの精神で、毎日毎日。
友達にも「あんた、何やってんの」って言われるまで追いかけて。
ようやく、絵を見せてくれた。色鉛筆だけでなく、水彩絵の具を使って描かれた絵もある。
その時の、あの子のブラックホールみたいな得体の知れない目。絵の中のあの子の、小さな女の子みたいな純粋な目。どこか物哀しい目。
金髪の女の子の、伏せられた目。長い睫毛。
今までの人生で見たどんな絵よりも想いが込められていた。書き込みがすごかった。
私の直感がそう囁いていた。
最初はオリキャラみたいな感じなのかなって思ってたけど違ったみたいだった。私もオリキャラの絵、よく描くから。
「……あの子はね、最強なの。誰よりも優しくて、可愛くて、弱虫な私の強い分身。」
そうポツリと呟いた。
うまい返しが思いつかなくて、「そう」としか言えなかった。
何があったかは、知らない。
どんな悲しいことがあって、どんな苦しいことを経験してきたのか。あの子の好きな食べ物や誕生日すら知らなかった当時の私なんかが分かるわけないし。
でも頑張ってる。それはただのクラスメートだった私だって、分かった気がするんだよな。
だから、「あんたも別に言うほど弱かないけどね」って言えば良かった。
今更言うのも、気恥ずかしいから。今でも後悔してる。
結局、私はその年の3学期に転勤で引っ越しちゃったし。
転勤が決まった、って黒板の前で堂々と言った時、あの子はどうにも形容できない変な顔をしてた。面白い、と思ってしまった自分は嫌な奴だ。
しばらくあからさまに避けられて、別の友達とぼーっと過ごしてるうちに、あれよあれよという間に引っ越しよ。
そして、引っ越し前日になってようやく、あの子が話しかけてきて。
「また会いたいって、お願いしてもいい?」
お願いって何だよ。
避けられてたお返しに、ちょっと意地悪した。
「叶わねーよ、馬鹿たれー!」
こんな会話をしたのを覚えている。
ビクッと震えて、固まって。
数秒経ってから言った。
「嘘になるかもしれないけどね」
「……じゃあ、会いに行ってもいい?」
返事の代わりに言ってやった。
「数年後、お互い何やってんだろね。私は楽しみだよ。」
ぱあっとあの子の表情が明るくなっていく。
全く、大人っぽいのか子供っぽいのか、分からない奴だよ。
でも、そんな風に思ってもらえたのが嬉しくて、照れ隠しでつい意地悪したのかな。私。
当時の私のことは分からないな。
歳を食ったって忘れられない。
私の大切な青春の記憶。
そういうのって、あるよな。
電車のアナウンスは、私の目的地を何度も繰り返している。
バックを腕にかけて、靴を確かめて、深呼吸。
もうすぐあるイベントについて考える。
結婚、か。先を越されちゃったな。
悔しい。けど、あの子ならまあいいかという気にもなる。
どうせなら根掘り葉掘り訊こう。
出会いは?相手の好きなところは?初デートの場所は?
あの厳しそうでお金持ちな家ならお見合いとかもしてる?はたまた許嫁?いや、そんなわけないか。流石にテレビの中だけの話か。でも、やっぱりあり得るのでは……。
……どれでもいい。どうでもいい。重要なのはあの子が望んでいるかどうかだ。
私だって恋人の1人や2人、いたことはある。
他に好きな子が出来たとか、自然消滅とか、長続きしてないけど。
今までひしゃげていった恋。叶わなかった恋。積み重ねていったら、いつか実を結ぶかもしれない。
そうやって、私たちは大人になる。
どうして大人にならなきゃいけないの。
もし、あの子が不思議に思ったとしたら……今までのことを思い返してみるのも悪くない。
アルバムのフィルムを手繰っていった時、何かに出会える。
私なりの経験則だ。
……あんたより結婚が遅くなった人の経験則だけどね。お祝いの言葉で言ってみようっと。
まあ、本当に大人になりたくなかったのかは分からない。全部私の妄想だったりして。
そんなことを考えていると、電車の扉は無慈悲に閉まりそうに……。
走れ体、間に合え扉!
間に合え結婚式。
間に合え!間に合え!間に合え!
ゾーンというものが何なのか分かった気がする。
鈍足ではない。かと言って俊足でもない。それでも今の私、すごく速い。
道を間違えることなく走り続けている。すごいぞ私、方向音痴なのに。
真っ白い建物が見えてきた。
入り口は……ここだ!あれ、違ったかもしれない。
ここにきて方向音痴、発動。
時計をチラッと覗くと、あと数分で始まるところだった。
あーあ。全くさ、私は何してんだろね。
結婚式の日に寝坊して。平謝り確定だな。
気分は清々しかった。
今日はやっぱり、お日柄も良いね!ウェディングブーケが映える良い日。
こんな日に挙式できるあの子は幸せな人だ。
ようやく、入り口を見つける。体感時間はかなり長かった。
扉を開けて、受付の人に私の名前やあの子の名前を伝える。
「|栗江《くりえ》いと様ですね。」
まだ始まっていないことを確認する。
間に合った、結婚式。
そして席に着く。始まってもいないのに、どっと疲れが押し寄せる。
「全く、何してるの。」
「いとちゃん、遅いよ。」
「ごめんごめん!」
呆れながら友達に言われてしまって、縮こまることしかできない。
荘厳なBGMが流れて、私たちの姿勢はしゃんと、自然に良くなった。
着飾ったあの子が入ってくる。
白いドレスは、黒いあの子の綺麗な髪によく似合う。憎くなるほどに。あの子の二つ結びが揺れる。そして。
あんずの香り。
ふわりと。
あの子に見つめられて、微笑まれて。熱が指先から頭まで、巡っていく。
私のはやる気持ち、温めているから。
来てよかったな。心から思った。
その穏やか気持ちは消えることなく、色々披露宴へとあっという間に移った。
あの子と対面した。
「来てくれてありがとう。」
言葉少なだけど、言ってくれたのが嬉しくて嬉しくて。忘れちゃったよ。
ああ。数分前、何を言おうとしてたっけ……。
思い出せないや。
「|杏《あんず》。」
「……うん。」
せめて、私はこれだけは言わなきゃいけない。
あの子の友達として。
「おめでとう。」
お読み頂きありがとうございました。
この結婚式のあるじはおそらく……とか考察してます。そういうオタクなんです、私は!