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Ⅰ「紅」
二週間前の授業中だった。
静かな教室を、ものすごい“爆音”が貫いた。
比較的平和な我が国にあるまじき物騒な振動が、お腹の底を叩き、心臓を脈打たせる。
すぐに教頭先生が駆けつけて、「中庭に不審者が出ました。全員、落ち着いて速やかに避難しなさい」と言うなり、移動魔法でフッと消えた。
私は当然、避難指示に背いた。
(発動音からして、第三階位以上の高位魔術ね。侵入者は相当強い魔法使い。見ないと損)
避難する中等部三年A組の列からそっと離れ、逆方向の廊下を静音魔法で駆け抜ける。
(もし侵入者に見つかって、その攻撃にかすりでもしたなら、そうなったら、最悪だけれど)
どうしてか、普段より頭がすっきりしていたし、体も身軽に感じられた。
空気を滑るように進み、誰もいない教室に入る。それから中庭側の窓に寄り、気配を探る。
庭園は、北から中央に向かって、大きく斜めに焼きえぐられていた。
今朝まで咲き誇っていたサツキやハナミズキの姿はなく、池の水は干上がり、石畳は黒く炭化している。
(炎属性の仕業ね……いた、あれだ)
焼きえぐられた大木の切り口。
淡い銀色の光と熱気が渦を巻き、空気を震わせている。
その中心に浮かぶ、黒い人影。
闇色のローブはぶかぶかで、フードを目深に被っている。
体型が分かりづらい。
この状態だと顎しか見えない。
でも今日の私は、運良く絶妙な位置に立っていた。
わずかに体勢を変えただけで、丁度、フードの内側を覗き込める。
鼻から下、口元の辺りが見えた。
肌は黒に近い褐色。
顔の角度からすると、相手は、私がいる場所とは、どうやら違う方向を見ている。
こちらに気づく気配はない。
それでも念のため、退避魔法の発動準備を続けておく。
未来の一流魔導士たるもの、決して油断を許さない。
(……それにしても、想像よりずっと若い。まさか、私と同じくらいの歳じゃない?)
その思った瞬間、少年の横顔が露わになり、体温が一気に跳ね上がった。
彼の瞳は、太陽をそのまま閉じ込めたような紅玉色をしている。
黒く焼け焦げた空間から、燦々と私を照らす。
汗が頬を伝って落ちた。
制服のシャツがべたりと張り付く。
確信した。
(さっきの魔法を、この人が撃っ…………)
「チカゼ、お待たせ。行こうか」
思考が二週間前から現在、茜色の放課後に切り替わった。
私は中等部校舎の玄関で、一人ぼんやりと過去を振り返っていた。