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Ⅰ「発端」
誰かのあくびが伝染した。
教室に差し込む朝の陽光は、漂う埃の粒をきらきらと浮き彫りにする。
眩しさが、覚醒しきらない頭には無機質だ。
どこか現実味を欠いている。
チカゼは昨日配られた紙をこっそり取り出して眺めた。
定期試験の総合結果。
クラス順位、二位。
優秀者の集うA組での二位は、学年次席を意味する輝かしい数字だが、
(また負けた)
彼女の性質上、到底満足できない。
全体的に点数が落ちていた。
実技重視科目である“魔技”が最も低い。
ここ一年半、魔法の出力が安定しない。
得体の知れない焦燥が、腹の底でくすぶっている。
ふと視線を感じた。
左隣、蒼い瞳と目が合う。
白皙の少年……シュウの表情がパッと輝いた。
嬉しそうに微笑んでいる。
チカゼには、何が面白いのか理解不能だ。
首席の許婚を睨み返そうとする。
が、何故だか力が抜けた。
「ま、いいか」という妥協の言葉がこぼれ、成績表を持つ指先が緩む。
(……いいえ、良くない!)
再び成績表を握りしめた。
次席に甘んじるつもりなど毛頭ない。
“王子スマイル”に毒気を抜かれかけた思考を叩き起こす。
終わった試験の結果を引きずるようになっている。
そんな自分自身が、何より自尊心を削っていく。
(時間の無駄)
漠然とした不安を断ち切るように成績表をクシャリと丸めた。
…………その直後。
鼓膜を直接突き刺すような凄まじい爆音が、教室を貫く。
校舎を揺らす物騒な振動に、心臓が脈打つ。
室内外から悲鳴が上がった。
チカゼの中で、何かがやっと目覚めたような閃きがあった。
すぐに教頭が駆けつけ、
「中庭に不審者です。全員、落ち着いて避難しなさい」
と言うなり、移動魔法で姿を消した。
行動力のあるマイペース・チカゼ、指示に背くことを決意。
まずはクラスメイトと同じように廊下に出る。
中等部三年A組の列の、最後尾に並ぶ。
前の男子が怪訝そうな顔をした。
「あの、チカゼさん……シュウ君は一番前にいるけど」
「うん。いいの。私は忘れ物を取りに行く予定だから」
「え?」
「まだ皆に言わないでね、すぐ追いつくから」
やがて、そこからそっと離脱。
逆方向の廊下を歩きだした。