公開中
1.きっかけ
レイ
#あなた#「はあ……。」
駅のホームで電車を待っている時に、ふと出てきた溜め息。
そりゃ溜め息の一つや二つ出てきてしまう。なんせ、連勤続きで会社につけば即上司からの仕事や後輩への教育クライアントからの無理難題先輩からの仕事の押し付け…………、考えるだけでドッと疲れてしまう。
しかも、最近は金欠気味でもやし生活。アパートの家賃もギリギリ払えている状況だし、そろそろ別の賃貸を探さなければと感じている。
#あなた#「(憂鬱だ……)」
遠くからゴトン、ゴトンと、電車の走行音が聞こえてくる。「この電車に乗ったら会社に行かなくてはいけないんだ」なんて思い、働く前から1日分の疲れが溜まった気がする。
プシュー、という音に、聞き慣れたメロディーと人の声や足音に全身を纏われているかのような感覚に、しばらく手の震えが止まらなかった。
#あなた#「乗らなきゃ……、」
電車の中に足を踏み入れ、今日もまた、地獄の1日が始まったなと実感した。
人が行き交う中、当然座席に座れるわけもなく、吊り革を握る。
意識が遠のいていく感覚がしなくもないが、電車が揺れ、体が左右に傾く度に意識が引き戻される。
ただのサラリーマンには気を失う権利すらも無いのか、なんてネガティブな考えも頭に浮かんだ。
#あなた#「(良い物件ないかなぁ……)」
そう思いながら、不動産屋のサイトをスクロールしていく。その時、一つの物件が目に入った。
#あなた#「『五十嵐マンション』……?」
家賃5000円、しかも今すぐ入居可能という超絶優良物件。立地もかなり良い、口コミにはなぜかコメント0だけど、正直今の俺にとっては即契約の選択肢以外無かった。
#あなた#「早めに仕事終わらせるか〜」
俺はスマホの電源を落とし、電車から降りて、会社に向かった。