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#2幽霊さんは空気が読めない
冷凍食品を買いに行く機会を逃したものの、頭は物理的にも精神的にも冷やされていた。とりあえず自室に戻り、逃げ出すように後ろ手に扉を閉めた。呼吸が苦しい。柄にもなく薙刀を振り回した反動が今来たらしい。震える体を抑えながら、鏡の前に立って頬をつねってみた。じんわりとした痛みが頬を襲う。鏡の目の前で頬をつねっている蜜哉を見た元・第壱位の黒もやは、蜜哉の頭の上に乗ったまま、浮き出た眼球を細ませて面白そうに笑っている。
「……あのさ。君、一応僕の家族の仇なんだよ。分かる?」
蜜哉は、頭の上の黒もやに向かって事細かに説明してやる。『義兄は蜜哉が小さなときに第壱位によって戦死したこと』、『両親は蜜哉が14歳のときに、第壱位によって目の前で死亡したこと』を。
--- ***「はい!そうですね!……確かに私は蜜哉殿のご両親を、もうどかーん!と、ドドドドッ!!と、やりましたね!」*** ---
まさかの言質が取れた。もし、物理攻撃が効くのなら、今すぐこの元・第壱位の首を掻っ切るところだが、そういうわけにもいかない。なんせ物理攻撃が効かないのだから。
「(………なんで仇を頭の上に乗せてるんだ。)」
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今さらながら浮かんできた疑問を振り払うように、リビングへ向かう。ご飯が無いため、今日は軽食で済ませるしかない。忌々しげに黒もやを睨んだ後、戸棚からジャムクッキーを取り出して、真っ白なお皿に2個ほど乗せる。元々あまり食べない体質に加え、家族を失ったショックが引きずられて食欲が湧かないため、これぐらいで翌朝までは持つだろう。黒いもやは、リビングに置いてあった茶色の小さな家の周りを浮遊している。今まで独りきりだった部屋に、人(?)がいると、多少なりとも違和感を抱く。蜜哉を育ててくれた親戚とも、独り暮らしを始めてからはぷつりと連絡を取り合わなくなったのも関係あるのかもしれない。いつものように「いただきます」と手を合わせた蜜哉の声で振り返った黒もやは、お皿の上のクッキーを見て、眼球をきらきら輝かせた。
「蜜哉殿!それ、私も欲しいです!!蜜哉殿!!!」
黒もやは勢いよく蜜哉の周りを旋回する。そもそも食べられるのだろうかという疑問はあったが、口(らしき部位)を開けて待っている黒もやに、クッキーを投げつける勢いで突っ込む。咀嚼音が聞こえてきた。
「ん~♪美味しい、美味しいですねぇ蜜哉殿!!私、ジャムクッキー好きなんですよ!!」
そう言って目を細め、幸せそうにクッキーを頬張る黒もやを見て、ふと小さなときの記憶がフラッシュバックしてきた。閉め切られた子供部屋で、向日葵のような笑みを浮かべてジャムクッキーを頬張る1人の少年の姿。
「(…偶然か。)」
あまりに美味しそうに食べるため、蜜哉はもう一つのクッキーも差し出す。少しだけ満たされた空白に高鳴る胸を抑え、リビングに布団を敷いて、眠りについた。黒もやも、蜜哉の頭上でとぐろを巻いている。独りきりの夜よりは、やっぱり誰かが近くにいた方が良かった。例えそれが何だったとしても。
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翌朝、小鳥のさえずりとゆーさんのどんちゃん騒ぎで目が覚めた。
「蜜哉殿!!これ!これなんですか!!」
ゆーさんは、黒いもやの形を変えて矢印にして1つの日記を指差し、目を三日月型に歪ませて、それはもう気味が悪いほどにケタケタと笑っていた。蜜哉は一度息を吸って、冷静を装って、それとなく日記を回収する。
「それは家族の仇を殺すための戦略日記。」
「え~!!そんなこと言って、蜜哉殿も年頃なんですから!!ポエムとか、俺の右腕が疼く!!とか書いてあるんじゃないですか!?あ、それか破廉恥なこととか……………」
「うるさい。」
騒ぐゆーさんを遮り、日記を、いや、違う。『闇の黙示録』を、あまり使わない勉強机の収納棚に放り込んだ。
「(言えない言えない………絶対言えない……正解だなんて言えない………ッ!!!)」
絶賛厨二病時に書いた日記を処理する決心がついた瞬間だった。
ずいぶんと雰囲気変わりましたね。
結構長編になる気がしてきました(自分的には10話程度で終わらせるつもりだった)
別サイト→本編投稿、ここ→裏話、みたいな感じにしようか悩んでいます。でも、そんな器用なこと夜月、できな~い🥺🥺…はい。