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#2 化け物と神様
--- ー唯視点ー ---
このことを誰かに話すのは初めてだった。ここ最近普通の人に会うことが無かったから、皆何となく察してくれた。だから、忘れていた。自分は普通ではないことに。花漣の目を見開いた顔を見て、唯はしくじったと思った。こんなこと、話すべきではなかったと。今すぐに記憶を消すべきだろうか。唯は焦る。しかし、戦いばかりの日々でコミュニケーションなどろくに取ってなかった。それだからか、かける言葉が見つからない。必死に脳内の中で言葉を探すうちに、不意に花漣の唇が動いた。
「大丈夫だよ。」
急に大丈夫な気がした。花漣はきっと自分に言ったのだろうが、唯の心にも響いた。花漣の虚ろな瞳の先ではいつの間にか雨が止んでいた。言うなら今しかない、と唯は思った。
「なあ、花漣。お前は世界の秘密と俺の秘密二つを知った。それなりに知ったし、お前自身も神だから言う。選択肢が二つある。一つ目は記憶を消して元通り。もう一つは、俺と神を殺すようになるか。」
唯の言葉を聞き、花漣の目に光が灯った。唯の目を真っ直ぐに覗き込む黒い目。窓の隙間から流れた風が花漣の茶髪を揺らした。
「私、唯と行くよ。」
その返事は強い決意とほんの少しの期待が滲んでいた。そのはっきりとした言葉に唯は不安になった。
「未練とかは?」
「……………ない。……………未練なんて、ない!!」
「すまない…………。」
突然の大声に唯は驚き、謝った。すると、花漣ははっとしたように顔を上げ、恥ずかしげに顔を真っ赤にした。手を目の前で振り、口をパクパクさせる。その行動がなんだか可愛らしくて唯は吹き出した。
「ちょ、笑わないでよ~!!」
「悪い悪い…………。」
花漣は頬を膨らませて怒る。さっきまでの大声が嘘のように普通な花漣。つまり、あれは異常ということ。花漣は過去に何があったのだ。そう言えば、今日は平日なのに花漣は家にいる。それに、花漣に流れている神の血。父母のどちらか、あるいは両方に神がいるということだ。父母はそれを承知でいるのか。なぜ黙っているのか。もしかして、《《父母は花漣を人間として暮らさせたかった》》のではないだろうか。だとしたら、唯は最悪なことをしてしまった。チラリと花漣を見ると、長髪の先を指で弄ってすねていた。今からでも遅くない。記憶を消してもらうべきだろう。
「なあ、花漣。」
その時、唯は威圧感にとっさに刀を手にした。急に床に倒れ、体中が痺れて動けなくなった。攻撃された。唯はゆっくりと横を向く。
「まだ、生きてたのか、|永雷ノ巫女《えんらいのみこ》。」
「おやおや、手加減したとはいえ動けるとは。やっぱり、化け物は違うね。」
凛とした軽やかな声で告げる少女は浮いていた。永雷ノ巫女__新たな雷神の座に降り立った神だ。唯は痺れたままの指で刀の柄をグッと握った。
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--- ー花漣視点ー ---
何が起きたのか分からなかった。いきなり倒れた唯。窓の外の庭に出現した紫の着物を着る浮く少女。神__という言葉が頭をよぎる。こういう時はどうするべきなのだろうか?花漣は思わず唯を見る。すると、唯は刀を掴んでいた。薄ら笑いを浮かべる少女の手には金色の扇が握られていた。唯はいきなり跳ね起きると、庭に飛び出し、刀を少女の胸に突き刺そうとした。しかし、刀が少女の胸に突き刺さることはなかった。火花が散って、落雷に似たなにかが唯の上に落ちた。唯は上を向いて両膝立ちになる。手は空中に垂れ下がる。少女は残酷な笑みを浮かべた。
「私はいたぶる趣味はない。今、楽にしてやる。」
少女が唯の首に手を置く。あそこに電流を流して殺す気なんだ、と花漣は分かった。何もできない__逃げてと叫ぼうとするが声にならなかった。少女の髪飾りの鈴がシャリンと鳴った時、頭の中に声が鳴り響いた。
--- 『俺、人間じゃないんだ』 ---
唯の目が赤く光る。その目は、少女の笑みよりもゾッとした。あれは、確かに人間じゃない。そして、あれは唯でもない。唯は少女の手を手で引き剥がした。立ち上がると、首をコキコキと鳴らす。あれは、誰?
「なるほどね、落雷はユイが気絶するわけだよ。でも残念。俺がいるんだよな。」
唯は刀を拾う。すると、刀身が燃え上がった。少女は笑みを引きつらせた。少女が扇子を唯に向けると、紫の電流でできた小さい龍が出る。それを唯は刀の一振りで龍を叩き切った。少女の扇子が泳ぐと再び龍が出た。今度は何匹も何匹も。そのすべてを唯は鮮やかな手つきで切り裂いた。その目は燃えたように真っ赤で思わず見とれてしまった。さっきのような残酷な笑みではなく美しい笑み。よく見ると、唯はイケメンだ。そう考えると、心臓が跳ねて、顔が真っ赤になった。駆け出そうと思った花漣はいつの間にか立ち止まっていた。こんなにも美しい戦いがあるなんて__。花漣は人事だからそう言えた。
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--- ー唯?視点ー ---
俺は攻撃を弾いたり切ったりして永雷ノ巫女に近づき始めた。まさかコイツが《《俺と同じ悪神に堕ちる》》とは思わなかった。殺すのは可哀相だが、ユイに危害を加えるのであればやるしかない。すべての攻撃を受け切った俺は永雷ノ巫女の喉元に刀を向けた。巫女の所々に黄色の混じった黒髪が切れハラハラと宙を舞う。
「残念、ゲームオーバーだね。」
「それはどうかな?」
永雷ノ巫女はニヤリと笑う。気になったが所詮は負け犬の遠吠えだ。俺が目を閉じようとした時、永雷ノ巫女が雷撃を飛ばした。その雷撃は俺の後ろに向かった。俺は振り返る。
「お前!!」
俺は茶髪の__ハナレという少女へと駆け出す。守らなければならない。ユイが気にかけた子を。俺も守られたから、守り返す。俺の脳裏には俺に向かって手を伸ばし笑いかけるユイの姿___。永雷ノ巫女の唇が動いた。
「さようなら。」
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--- ー花漣視点ー ---
雷がこちらに飛んでくる。それを花漣はただただ見ていた。見るしかできなかった。思わず目を瞑る。死ぬ__死ぬと分かっても特に何も感じなかった。これで、花漣としての人生は終わり。だが、雷撃が花漣の体を貫くことはなかった。次に目を開けると、花漣の体は誰かに抱かれていた。長い黒髪に美しい顔。真っ赤な目は瞼に隠されていた。
「……………唯?」
唯は体を起こさない。背中は黒く焼け焦げていた。花漣を庇って、唯が死んだ。それを理解するのは早かった。心臓の鼓動が早くなる。
「唯!!」
花漣は唯の体を揺する。何度も名前を呼ぶが唯の瞼は堅く閉じられたままだった。庭で少女だけが笑みを浮かべていた。
おまけ
作者「今回は2625文字ですよ!??」
唯「俺、こんだけボロボロにされたのに2625文字かよ。」
花漣「私、死にかけたのに?」
作者「ま、まあ、新キャラ登場させたからね!??」
永雷ノ巫女「終わり方がなあ。」
作者「ほらほら、もう帰って帰って!!……………ふう、帰ってくれた。」
作者「神様と人間、本当に天と地との関係だけなのか?神様とは一体正なのか悪なのか。そんなことを想像してくれれば嬉しいです。好きなキャラとかも出てくるんでしょうね。ではでは皆さん、今回はこれで。え?バリエーションが少ない?じゃあ、have a good night.」