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【曲パロ】パジャミィ
原曲様
https://m.youtube.com/watch?v=aBZqxfnvaVA&pp=ygUP44OR44K444Oj44Of44Kj
きらきらした音とMVが大好き
アプリコット(関連作品曲パロ)
https://tanpen.net/novel/636fa895-af47-4c66-8b79-88bf93654bc7/
私が生まれたのは、遠い遠いあの日。
暗い夜が怖くて泣いていたあなたを守るために私は生まれた。
実ははじめましてじゃないんだよ?
私はあなたと、ずっと一緒にいた。
あなたは私だし、私はあなただったんだから。途中から分離しただけ。
まあ、イマジナリーフレンドってやつなのよね。クラスメイトとは少しだけ違う。それでも友達だもの、私とあの子は。
あの夢の部屋の秘密基地に、こっそりと小さな声であの子を連れて行った日を私はよく覚えている。
大人に、成長に縛られていたあの子を。
「こんばんは!私、パジャマの妖精。…うん、あの絵本の、だよ?パジャマちゃんだと可愛くないから…もっと素敵な名前をつけてほしいな?…パジャミィ?パジャミィね!ふふふ、素敵。私、気に入っちゃった!ねぇ、遊びましょう?私はつみきがしたいな…|杏《あんず》ちゃんも?じゃあ遊びましょう!…何で名前を知っているかって?それは秘密!」
きみの傷を癒せるように。痛みを少しでも和らげて、見えなくするために。
おもちゃをひたすらとっちらかして、無我夢中で私たちは遊んだ。長いパジャマの袖がお互いの肌に触れたのがほんのちょっとくすぐったくて、とても新鮮で、ついつい笑っちゃった。
でも楽しい時間はあっという間だから。もう夜明けが来ちゃったみたい。
夢からあの子を覚ますように、私はあの子の頬をつねった。あの子も「仕返し!」と言って私の頬をつねった。痛くて、でも楽しかった。
「また会おう!」
そのうち乱闘になって、裸足で蹴り合いながら私は笑った。
大事なあの子が大人になるまでの時間かせぎ。
私にはそれしか出来ない。けど。
あの子が少しでも目覚めを忘れられて、明日も生きていたいと思えたらいいな。
明日になってほしいとほんの少しの間でも思ってくれたら、いいな。
「また来てくれたの?ふふふ、覚えてる?私たち、はじめましてじゃないわよ?…何年も来てるから覚えてないわけないって?私も。杏ちゃんのこと、覚えてないわけないわ。大事な大事な、友達だもの。」
今日もいつものようにあの子が私の夢の部屋にやってきた。
あの子を苦い朝から逃して、優しいと思えるようになった夜を長引かせる。
ずっとずっと一緒にいる、大事な友達は、私に悩みを打ち明けてくれる。
それでも怯えてるのか、ささやき声だけど。
…ぜーんぶ知らないと思ってるのね。私はあなただったから、よーく知ってるのに。
苦い朝が怖いことも。
お母さんもお父さんも、嘘をついてるってことも。
自分が自分じゃなくなるのが怖いことも。
涙ぐむ瞳に映る秘密から彼女を守るため、私は生まれてきた。
だから、今日も私たちは遊ぶ。
あの子はもう最初にここに来た時よりもずっと成長している。向こうでは中学生って呼ばれる年ぐらいまで、ね?
大人になっていってる。あの子が恐れていることは、どんどん進んでいってる。
だから、大事なものが見えなくなってる。忘れちゃってる。
「さあ、遊ぼう?」
私たちはちょっとだけ心を擦りむいちゃっただけ。だから大丈夫。私と遊べば、まだあの子は子供のままでいられる。
前よりも笑顔が硬くなってしまったあの子は、朝焼けがやってくるたびに背中を刺されたように苦しそうな顔をする。
「またね」
閉じたドアから冷たい空気と聞いたこともないような怖い声が流れてくる。
「本当の気持ちは誰にも言えないのに。こんな|大人《わたし》はどうせ地獄に落ちるだけなのに。何で私は大人になるの?嫌だよ…私は、何も見たくない。子供のままで居たいよ…。」
やっぱり、私は時間かせぎしか出来ていなかった。ちっともあの子の傷を癒すことなんて出来てなかった。
中途半端な苦しみを、あの子に与えただけ。
一緒に見た映画も。朝が近づくたびに日光浴をしたことも。秘密のお話も。
楽しげな音楽もいつかは消えてしまうように。
おもちゃで遊んだ後は片付けなきゃいけないように。
いつかはもう終わりにしないといけない。
あの子の中学校の卒業式。その日が来たら、私はもう何も出来なくなる。してあげられなくなる。
とっても寂しいし、残念だけど。
私たちにも、お別れがやってくる。
今日も遊んだおもちゃを片付けながら、私はきみにお話する。
まだ時間かせぎをしたい。
だって私は、あなたからたくさんのことをもらったんだもの。
誰かと遊ぶ楽しさも、秘密のガールズトークも、夜がとっても綺麗なことも。
私はあなたがいなかったら生まれてこなかったし、このことを知ることもなかった。
ちょっともらいすぎちゃったの。
私はそれを返すために生まれてきたんだ。それがもうすぐ終わる。
だから私はあの子とお別れしなきゃいけないんだ。
今日は晴れた。月が、星が、はっきり見える綺麗な日。あの子が中学生ではなくなる日。お別れの日。
今日で最後じゃない。そんな顔をしながら私はまた笑う。
あの子と同じように、おもちゃ箱をひっくり返して、カラフルな風船をたくさん飛ばして。
それから、私もあの子も子供のまま変わっていないパジャマの長い袖が、くすぐったかった。
…空が明るくなっていく。
…あーあっ!まだまだ笑いたかったのに。いつもみたいに裸足で乱闘して、宙に向けて拳を振り上げて、じゃれあいたかったのに。
覚悟はできてたと思ったのにな。
私はまだまだ私の時間かせぎがしたかったんだ。
わがままだ。全然…子供だ。子供のままだ。
私だけ、子供のままだ。
「…おはよう。朝になったわよ。朝のお勉強、するんでしょう?また明日も…きっと、遊べるから!起きましょう?」
目を涙で濡らして。あの子はこちらをちょっと振り向いて。ドアの向こうに消えて行った。
きっとお互い分かってる。もう会えないことも、遊べないことも。
それでも、いつか大人になったあの子が私のことを思い出してくれたら。
忘れ物をそっと届けるように。
また、時間かせぎができるかな?
「ごめんね。子供のまま立ち止まってごめんね。あなたと一緒に歩いていけなくてごめんね。」
自然とこぼれ落ちた雫は、静かに床を濡らして行く。
冷えた空気の中で、薄れゆく意識の中で願った。
こんな私だけど。忘れないでほしいな。