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転生林檎
使わせてもらった楽曲 転生林檎
ピノキオピー様
晴瀬です。
気付いた、一人の人の話です。
平凡な自分が嫌だった。
当たり前のように生かされて、当たり前のように就職活動をした。
『特に問題もないですが、特に取り柄もないですねぇ』
どの会社にも採用されない。
平凡で良かった人生じゃ生きていけないのだと知った。
平凡すぎた。
平凡な自分を嫌いになった。
それでもなんでもなく生きている自分が嫌だった。
なんでもない生活が嫌だった。
街を歩いた。
今日も面接があった。
すっぽかして、本気で、死ぬ気で歩いた。
「こんにちは」
いつの間にか目の前には怪しげに微笑む男。
年齢が分からない、変な男だった。
片手に怪しい青林檎を乗せていた。
「平凡な人生が、嫌になりましたか?」
男は目を細めた。
「賢いワナビーはみんなやっている。一端の何者かになれる、これは転生林檎」
胡散臭いのは分かっていた。
怪しいのは分かっていた。
死ぬかもしれない。
苦しむかもしれない。
特に何も起きないかもしれない。
私はお金と引き換えに、林檎を、買ってしまった。
家に帰りそれをしばらく眺め、そして、頬張った。
林檎らしい、爽やかな食感が耳に届いた。
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ある表現者になった。
創って発表すればすぐに評価が届く。
『凄いです!!』
『色んな解釈ができますね』
『何を伝えようとしているのだろうか…』
『考察しようよー!』
『単純に上手い』
『綺麗』
全世界で賞賛され、テレビで取り上げられ、ネットで騒がれた。
自分は平凡ではないのだと、自分が特別で、他は凡人なのだと、その才能に酔いしれた。
たがこの表現者は人を愛する才能はなく、ここまで支えてくれ彼が愛していた仲間は去っていた。
自分に、人を愛する才能がなかったから。
あー。またダメでした。
--- 転生しよう ---
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ある発明家になった。
世紀の大発明をした。
テレビ出演したとき私は言った。
「世界が平和になりますように、そんな想いを込めてこれを造りました」
好感度を上げるためとか、そんな邪な気持ちはなかった。
本気で、心からそう思った。
だが発明は兵器に利用され残酷な血の雨が降った。
自分がこんなものを造ったから。
あー、またダメでした。
--- 転生しよう ---
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才能がない
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頭が悪い
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運動ができない
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才能がないからチェンジして、頭が悪いからチェンジしてすべてをリセットした。
人生の攻略法、幸福の必勝法を探して人格を飛び回った。
どうすれば幸せになれる?
どうすれば楽しく人生を過ごせる?
自分と、俺と、僕と、私と、彼女と、彼と、あいつと、君と、貴方と、誰?
見境が、ない。なくなった。
自分って誰?
あれ?「自分」が消えちゃったの?
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繰り返し繰り返し生まれ変わり間抜けに"たった一度"の人生を終え灰になった山のような亡骸の上で踊った。
転生する者の悲痛な叫びだった。
幸せになるために、人格を廻って自分を見失って、"一度の人生"が可哀想だと笑いたい。
誰か
愛して愛して。
嫌。
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繰り返し繰り返し生まれ変わり自分の人生よりかは煌めいている似たり寄ったりの物語。
転生する者の呪縛。
これが幸せだと分かっているのに、必要以上に求めてしまう。
どうして
どうして。
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ある救世主になった。
無償の愛をすべての人に分け与えた。
たくさんの人が私を慕い、尊敬し、老いた人も若き人もすべての人が私に頭を下げた。
幸せだと思った。
これが一番正しい生き方なのだと確信した。
だがその人たちは純粋すぎて悪に騙され、骨までしゃぶり尽くされてしまった。
自分が悪という存在を訓えなかったから。
あー、またダメでした。
--- 転生しよう ---
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ある革命になった。
変な綺麗事を嫌った。
正直者が馬鹿を見る世界でルールを疑い戦った。
自分の正義で、戦った。
だが手に入れた世界で力に溺れ平和ごと燃やしてしまった。
あー。またダメでした。
--- 転生しよう ---
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人望がない
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大義がない
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人望がないからチェンジして、大義がないからチェンジしてすべてをリセットした。
快楽の奴隷インテリの亡霊。
幸せを求めて何にでもなった。
何にでもなれる。
やっぱり異世界でも現実はシャバかったよ。
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繰り返し繰り返し生まれ変わり歴史のない無教養の謝罪を。
転生する者の悲痛な叫び。
愛して、愛して。
嫌。
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繰り返し繰り返し生まれ変わり1000回やっても失敗の告白も。
すべてあの人生と同じ。
転生する者の呪縛。
幸せだと、信じてみるのに物足りない。
必要以上に求めてしまう。
どうして
どうして
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ある冒険者になった。
理想を求めて旅立った。
無謀な挑戦でもそれを貫く姿勢に人々は感動した。
こんなことでも、人を勇気付けられる。そう思った。
だが理想を求めるがあまり罪のない人が犠牲になった。
自分が理想を追いすぎたから。
あー、あー、またダメ?
どこへ向かうのだろう?
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繰り返し繰り返し生まれ変わり山積みにされた亡骸の上で小さく笑い踊った。
転生する者の悲痛な叫びなのに。
愛して
誰か、誰でもない自分を愛して。
嫌。
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転生林檎 転生林檎のお陰で生まれ変わり
転生林檎 転生林檎のせいで限界を知ったり
転生林檎 転生林檎ですべての、一巻の終わり
どうして
どうして
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ああ、転生が終わった。
平凡な自分に戻った。
悲しいけど、なんだかホッとした。
さあ、"自分"はどうしようか。
その賢いワナビー達はシラフに戻ったらみんなやめていく。
林檎をもう二度と使うことはない。
自分が、自分であるために。
転生林檎を眺めた。
息を小さく吐いた。
食べかけで、まだ転生しようと思えばできる。
ワナビー、それは実質が伴わない人。
それを知っていてあの売人は自分にこれを売っていた。
勢いでベットの上から立ち上がった。
手に持っていたそれを放り投げる。
ゴミ箱に捨てた転生林檎
転生林檎/ピノキオピー
https://m.youtube.com/watch?v=LYWP8HtgeLQ
『ワナビーとは』
有名人や人気者などに強くあこがれ、それになりたがる人。
憧れて真似をするが、実質が伴わない人のことをいう。