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終わりは始まり
夜桜七星
姿は見えなくなっても、あなたの温もりはここにある。涙が温かい笑顔に変わる。
飼い主目線
「あなたと出会えてよかった」
そう呟いてみたところで、部屋に響くのは冷たい静寂だけだった。
あなたとの別れが、これほどまでに辛いなんて思わなかった。
それからの私は、まるで魂が抜けてしまったかのようだった。眠れない夜が延々と続き、布団の中で「お願い、戻ってきてよ」と何度も、何度も祈った。
声にならない声で「ねぇ、返事をして」と呼びかけても、部屋の隅にあるお気に入りのクッションは空っぽのままだ。
目をつぶれば、思い出すのは最後の夜のこと。あなたの最後の温もり。あの愛おしい重みが、今も手のひらにこびりついて離れてくれない。
何日経っても、一向に元気は出なかった。
ご飯はのどを通らない。仕事に向かう気力なんて、1ミリも湧いてこなかった。
(あぁ、私も、もう、終わりだ……)
ベッドの中で丸まり、涙も枯れ果てて、人生のすべてを諦めかけたその時だった。
スッと、部屋の空気が優しく変わった気がした。
「……え?」
顔を上げると、そこにあなたがいた。
病気で痩せてしまった姿じゃない。私が出会った頃のような、生前のふかふかで、つやつやの毛並みのままのあなたが、音もなく佇んでいた。
あなたはトコトコと迷いのない足取りで近づいてくると、私の頬を、ちいさな舌でそっと舐めてくれた。
ザラザラとした、懐かしい感触。
(あぁ、慰めてくれているんだ……)
言葉は交わせなくても、すぐに分かった。それがあなたなりの、精一杯の優しさの方法なのだと。
不思議だった。もう冷たくなってしまったはずなのに、あなたの触れた場所から、じんわりと温かい熱が広がっていく。
「こんな私でごめんね……」
私はボロボロと新しい涙を流しながら、あなたの幻影を抱きしめるように手を伸ばした。
「そうだよね。寿命だったんだもんね。仕方ないよね。あなたはちゃんと、最後まで生きたんだよね。」
胸の奥の氷のような塊が、あなたの温もりで溶かされていくのが分かった。
私は決意した。この温かさを、この救われた瞬間の気持ちを、私は絶対に忘れない。
そう心に強く誓い、私は何ヶ月も触れていなかったパソコンを開いた。
あふれ出る想いを指先に込め、あふれ出る涙をこらえ、夢中でキーボードを叩く。タイトルは『あなたとの思い出』。
あの時、世界が真っ暗になって、すべてが「終わり」だと思った。
でも違った。あなたが遺してくれた温もりと、この物語は、私の新しい人生の「始まり」だったのだ。
手元に残った原稿を見つめながら、私は窓を開けた。
差し込んできた朝日からは、あなたの温もりを感じた。
愛犬を亡くしてしまった主人公。切なくとも、温かい物語にしました。