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三話「勇者ルナよ。人類に仇なす魔王を滅ぼし、世界に安寧をもたらせ」
今回もちょっとやりすぎちゃったので心して読みなされ()
スープを三杯、ふっかふかのパンを二個も食べた僕はすっかり満腹になった。
「いっぱい食べたね。じゃあ夕飯まで寝ててね」
ルナは僕にパジャマを着せつつ、そう言った。
僕は特にやることも思いつかなかったので素直に頷く。
あ、そういえば書斎。気になるな⋯
「うん。約束守らなさそうだから、寝るまで側にいるね」
どうやら顔に出てたらしい。
仕方なくベッドに潜る。そういえば寝かされてたからあまり気にしてなかったが、
とってもふかふかで清潔なベッドだ。なんだか僕が寝ると、汚してしまいそうな気がする。
僕はできるだけ小さくなる。それを見たルナはクスッと笑った。
「本当に猫みたいだね。そうだ。眠れるまで子守唄を歌ってあげよう」
「いらない」
「まぁそう言わずに。」
そう言ってルナは歌い始めた。少し低めの旋律に合わせて体を優しくトントンされる。
赤子じゃないんだ。こんなもので寝るものか。
しかし、抵抗虚しく歌が二番に差し掛かった頃、ウトウトとしてしまう。
「⋯て、にぎっ、て」
「ん。」
自分でも何を口走ったかわからなかったが、ルナが手を握ってくれたのを確認して、僕は目を閉じた。
+++++
「寝たか。」
子守唄をしっかり歌い切った頃には魔王は眠っていた。
ことりとも動かない魔王が心配になり、呼吸してるか確かめる。
ルナ―――私はふと、ここに至るまでの経緯を振り返っていた。
++
「勇者ルナよ。人類に仇なす魔王を滅ぼし、世界に安寧をもたらせ」
そんな王命と共に私は魔王を殺す旅に出た。
正直なところ、私はこの事柄に関しては人類の自業自得じゃないかと思っていた。
別種を差別し迫害し、蔑む。その報いではないかと。
そして魔人を殺すたび思った。醜いどころか、人間より美しいではないかと。
宝石のような色とりどりの目、金や銀などの荒々しくもどこか儚い角。
透き通るような翼を持つ者もいた。
戦場ですら人間を攻撃することを躊躇ういじらしさ、そのどれもに私は心をつかまれる。
けれども、私は人類だ。
どんなに彼らに心奪われようとも、王命を受けた以上使命は果たさなければならない。
結局、さして人間と変わらないどころか人間よりも美しい者たちを私は数多く殺した。
その度に心が張り裂けそうになった。挫けそうになった。死にたく、なった。
だから私は秘密裏に降参した魔人を廃村に匿った。
これは人類への裏切り。でもそれでいい。私だけは、彼らの味方でいたかった。
そしてとうとう魔王と対峙した。
自分の目にその姿を移したとき私は思わず息を飲んだ。
絹のように白く輝く美しい髪。緋色の目。黒曜石のように輝く角。
私の見たどの魔人よりも美しいそれに、私はただただ圧倒された。
これは、神ではないのだろうか?私はこれを殺してもいいのだろうか⋯?
至高の芸術品を粉々に砕かなければならないような、そんな気持ちに襲われた。
けれど、この魔王は数多くの人を死に追いやった。そんな存在を人類は野放しにはできない。
私は剣を持ち、魔王に切りかかった。でも、心のどこかでは降参してほしいとも思っていた。
三日三晩、あぁ三日三晩だ。
魔王が攻撃をすることは少なかったがそれでも一撃一撃が致命傷となり得るほど重くのしかかった。
魔力も体力も尽きかけ、ボロボロになった私の脳裏に撤退がよぎった。
そんな絶体絶命の私が苦し紛れに放った魔法。
【スリープ】という民間魔法だった。これは、魔人殺しで寝れない日が続いた私に村の人がくれた魔法だ。効果はただ次の朝まで眠らせる。たったこれだけ。なぜ自分がこれを放ったのか自分でもわからない。とにかく、防御を一切取らなかった魔王はもろにその魔法を食らい眠りについた。
眠りについた魔王を運んだのは私だ。
このまま魔人を匿っている廃村に連れて行くつもりだった。
そう、つもりだったのだ。魔王城を出ると、門の前に国王の使者と近くの村人たちがいた。
村人たちは歓声を上げた。使者は魔王の状態を見て全てを察し「こちらで預かります」と笑顔で言った。
従う、しか、なかった。だって私は“人類”の英雄で、救世主で、勇者なのだから。
でも大丈夫。あの魔王は死なない。いや、“死ねない”のだ。
必ず迎えに行く。そして、二度と人間に苦しめられることのないように―――
王都に戻ってから知った。
「廃村で生き延びていた魔人の群れを軍が討伐しに向かった」という噂を耳にしたのは。
嫌だ。嘘だ。だって、そんな⋯私は無我夢中で走った。
途中で靴が駄目になってしまっても、石で足裏が血まみれになっても、肺が痛くなっても。
痛みなんて感じないぐらい必死に走った。
着いて目についた光景を私は絶対に忘れることはできないだろう。
血で土が見えなくなってしまった地面。白かった外壁に散りばめられた血痕。
周りには無惨な死体が転がっていて、その中心では人間の宴が行われていた。
軍の一人が私に気づいた。
「これは勇者様!まさか我々のために増援に?申し訳ありません、既に全て討伐した後でして!」
「⋯そう、だったんだ」
「良ければ宴に参加されませんか?皆も喜びましょう!」
「⋯私は、そろそろ行かなきゃ」
死体だらけの中、美味しく食事を取るなんて悪魔の所業だと思った。
気づけば泊まる予定だった宿屋にいた。
私は泣いた。己の無力さに、不甲斐なさに、表立って彼らの味方になれなかった愚かさに。
そしてやっぱり眠れなかったから自分に【スリープ】をかけた。
王から褒美が出た。
伯爵の爵位と、大きな屋敷と、沢山のお金。そして、魔王の処遇を決める権限も。
こんなくだらない物のために、私は戦ったのか。馬鹿らしくなった。
でも、これで。私は魔王を救えるのだ。なんて皮肉なことだろうか。
せめて、せめて残った彼だけでも。
魔王の身柄を受け渡す手筈が整ったのは2週間後だった。
拷問室に案内され、久しぶりに見た魔王はやはり美しかった。
けれど、床にはまだ乾ききっていない血溜まりができていて、ピクリとも動かなかった。
私は【人間側】として魔王に接した。魔王は虚ろな目に少しの不思議を滲ませて私を見ていた。
盲目な人間よりよっぽど賢い彼に、魔人を守れなかったことを告げた。
彼は唇を震わせたあと、涙を流した。胸が苦しくなった。
その後、私は一度彼を眠らせて、布をかけた。色々しなくてはいけなかったから。
私は彼を運んでいる途中ずっと彼の脈を測っていた。
死んでないか不安になったから。消えないか怖くなったから。
術をかけられている時も、首枷をはめられている時も。
与えられた大きな屋敷に運んでいる時も。
彼の儚い容姿は小さくなったことによりすぐにでもいなくなってしまいそうだった。
私は働いてくれている使用人たちに彼の存在がバレないように静かに、素早く運び込んだ。
血まみれでどろどろの体を洗ってやり、買っておいたパジャマを着せる。
そして、そぉっと布団の上に寝かせる。
一度も身じろぎをしない彼の脈を測る。規則正しくトクットクという感覚にひどく安心した。
私は誓った。彼を必ず幸せにする、と。
++
あとがき
うーん。暗すぎ?