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勝斗視点 世界に別れを告げる人の気持ち #5
5話です。
あれから一週間が経った。
あれから美春には会えていない。
今日でようやく退院なので、俺は美春の家へ向かっているところだ。
「お父さんにも会えるからね。帰ってくるのは6時半ぐらいだけど。」
車を運転しつつ、母親さんが話しかけてくる。
ほう、父親。そういえば父親さんにはまだ会っていない。
どんな人物なのだろうか?
家は病院から割と近かった。
小さな赤い屋根の一軒家。
もちろん知らない家なので多少緊張する。
「お邪魔します」
「ふふ。あなたの家でもあるのだから、遠慮しなくていいのよ」
恐る恐る入る俺の姿を見て母親さんが微笑む。
その温かい目に居た堪れなさを感じつつ、玄関を上がる。
右側にドア。左側は廊下。そして、正面に階段がある。
「廊下の奥から二番目が洗面所だから、手洗ってきて」
「はい」
とりあえずその指示に従って洗面所で手を洗う。
洗面器がタイル張りになっていて可愛らしいデザインだ。
「洗い終わった?じゃああなたの部屋に案内するね。」
母親さんがこちらに声をかける。
俺は母親さんについていく。
部屋は二階にあった。
二階の角部屋だ。ドアを開けてもらって中に入る。
柔らかいピンクの壁紙にいくつかのぬいぐるみ。
女子の部屋にはあまり入ったことはないが、女子っぽい部屋だな、と思った。
「じゃあ晩ご飯ができたら呼びに来るからそれまでゆっくりしててね」
そう言って去っていく母親さんをぼんやり目で追った。
ぱたんと部屋のドアが閉められ、一人の空間になる。
別に異性の部屋のベッドでくつろげるほどの精神は持ち合わせていないので、
勉強机の椅子に腰掛ける。何気なく引き出しを開けると、スマホが入っていた。
パッと持つと、スマホの下に紙が入っていた。
どうやらこのスマホのパスワードが書いているらしい。
なんて不用心な、と思いはたと思い直す。
そうか。死んだ後のためか。
死んだ後、このスマホを家族が確認できるようにするために、この紙を。
複雑な気持ちになりつつ、スマホを開く。
一つ一つアプリを開いていき、日記が書けるアプリで目が止まった。
スマホを買ってもらった話、何気ない日常の話。
前半は実に平和なのだが、後半に行くにつれていじめの詳細が書かれ始める。
最後の日記は今までの文字数が嘘のように簡潔なたった一行。
「『さようなら、世界。』」
思わず声に出して読む。
美春の声で喋ると、まるで本当にこの後自殺しに行くみたいでゾッとした。
いやいや、と首を振る。
気を取り直し他のアプリを開こうと日記のアプリを閉じる。
「美春!ご飯できたよ!」
一階からであろう母親さんの声に重かった空気が晴れた気がした。
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一階へ向かったはいいが、どこに行けというのだろう。
とりあえず廊下のドアをバタバタと開けていく。
物置、さっきの洗面所、脱衣所と風呂場、トイレ、誰かの寝室。
廊下のドアは全て開けた。が、違ったということは。
玄関近くのあのドアだろう。
戻ろうと思ってくるりと振り返るとメガネをかけた男性が立っていた。
⋯。
「うわぁぁぁぁぁあああああああ!」
「うぇ!?」
思わず声に出して驚いてしまった。
全く気配を感じなかった。
男性は俺の声に驚いたのか、後ろに後退る。
⋯コイツ、もしかして。
「父親、さん?」
男性―――父親さんはにへらと笑いながら頷いた。
他人のベッドでくつろげる精神は持ち合わせていなくとも、
他人のスマホを勝手に覗く精神は持ち合わしている。
それが勝斗です。