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尾を喰んで紡がれた輪
当初は番外編の予定だったんですが、
作中一番の重要回みたいになってしまった
テーマが壮大で宗教っていう重めのやつだから結構調べたり個人的解釈も構築してってるけど言うて、全然資料不足だし趣味の範囲内なので大目に見てほしい定期
………………
「ねぇ、おいらの簪どこか知らないかい?」
久方ぶりに訪れた、三毒らが巣食う閉塞的な「宮殿」には珍しく鶏、蛇、豚の皆が揃っていた。宮殿と言っても、その構造は至ってシンプル。楕円になった蛇の徘徊する渡り廊下ともなる長い長い一本の道。その円に囲まれるようにある箱庭には鶏が鎮座する玉座。そしてそれらの全ての中心には豚が眠りにつく異空間のようなものがある。其々がその配置に着き、全ての並びが「輪」として完成された時こそ「三毒」という「人」に不可欠な欠けた情が芽生えるのだ。
「…………」
相変わらず、豚は無口だった。数世紀ぶりの再会で口から音を出す方法もわからなくなったのか、それすらに"迷い"が生まれるのか、まさに豚と云った所だと感心すら覚える。
「知らないなぁーあ!」
「あんたにゃ聞いてないよ」
すかさず、鶏の野郎が絡んでくる。此奴は三毒の中でも一番最初に世に産まれたモノだ。そのような存在であるというのにいつも"彼の方"だけでない万物の何よりも尊い存在あらせられるあのお方にも不敬をはたらく。
気に食わない。鶏は馬鹿ではない。何よりも人の世の末や三毒は何たるかに重きをおく者。そうだと云うのに鶏の言動には一々、矛盾や何某か理解の至らぬ点がある。______
「おい!!ひでぇじゃねえか!おい!」
「ごめんよ、あんさん」
「やめろや気色わりぃお前が|下手《したて》にでるなんて、今からでも空から槍が降ってきそうだ!」
「あらあら、そりゃあ酷いことをしちまったみたいだねぇ、あはは」
「ごめんよ♡」
「ゔぅぅ」
「で、---------?あんたはアタシの簪知らないかい?」
「………見て……ないわ………」
「……そうかい、」
嗚呼この女の生前あった事象全てが偽りやまやかしであれば今頃、アタシはこの世にうまれる事すら、無かったというのに。
憎くて仕方がない
そんな愚かしい感情と生来の付き合いになっていくのかと思うと、涙も枯れる。というものだ_____
---
つくづく思うが、|怒罵巳《どびめ》とあの女の距離感は一向に縮まらないどころか、開いていくばかり。怒罵巳のあの女に対する触れ合いには少々角が立つものも垣間見える。彼奴が豚でなかったのなら今頃、どんな風に関係が破綻していたのか、と軽く想像するだけでも肩に降りかかる重力が増す。
まぁ仕方がないのかもしれんな
怒罵巳からしたら、アイツ___三毒における|愚癡《ぐち》を司る|癡《ぶた》は怒罵巳………
否、|瞋《へび》をこの世に産み落とした存在だからな。
怒罵巳の生まれもった怒りという情はそれを産んだ豚の無知や迷いなどと云う愚かさと対照的になるよう"あのお方"によって|デザインされて《創られて》いる。
もつれた繋がりが一番面倒臭いな
「うぅゔぅー!あー暇すぎる!!!」
「女でも侍らすこととするかな」
「またかい?飽きないねぇお前さんは本当に」
「………飽きるも何もなぁ?________
欲望ってのは湧いて出てくるもんなんだよ!
そして、俺は三毒における|貪《にわとり》だぞぉ?!
欲望は尽きない。それが渇いて枯れて消えてなくなった時こそ!______________
|人《ヒト》の死が訪れる瞬間だ!」
「そりゃそうね、誰しも人には望みがあるもの。
衰弱死寸前の人だってもう何も望まないなんていいつつ、楽になるのを望んでる…………」
「はははは!自分語りか?"ジン"よ___」
「ふふふふ、|黒硝《コクショウ》_____」
着物の袖から体を波打つようにして怒罵巳の腕に巻きつくように現れた黒蛇はすぐさま、鞭へと変貌した。
空にしなやかに回して魅せると弾くようにまた反対方向へと手首をしならせた。
シュパァァァァッッッッン
あたり一体に破裂音が響く
「__それを言うならあんさんは、怒りの化身ともなるおいらを怒らせて___……どうなるのか検討くらいはつくでありんしょう?
ましてや、その名を呼ぶことを赦されるのは|現世《うつつよ》や|黄泉《よみ》においても何より尊い存在である"あのお方"のみだ!!!!
この狼藉者が!!!!________」
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「___逃げ足が随分と早いものだな」
「はぁぁぁぁあ………失くした簪も戻ってこなければ、鶏野郎はなんたる無礼を!!!!」
ゔぅゔぅ…………意識が段々と混濁して____
突如として蛇の視界が墨汁が一滴、一滴と垂れてその水滴が一つのかたまりへと親和していくように、視覚が途切れた。途端に身体のバランスが崩れ、花魁がその美しさをひきたてる為の高い下駄がガラガラと地面との摩擦で引き摺れていく音が鳴り、それに連なり頭を豪華に飾り立てた簪の音もしゃららんと辺りに反響した。
嗚呼、今宵もこの"道"にまた呼ばれてしまったのね………
--- ズシン ---
その瞬間に怒罵巳______もとい、蛇の身に纏う美しい着物のたもとから一本の簪が溢れ落ちた。その簪はその身に纏う着物の三匹の柄の黒色、瑠璃色、翡翠色が混ざり合い、溶けあう綺麗な色の簪であった。その簪は蛇の最愛を注ぐ"彼の方"から贈られた物であった。その大切な簪を蛇はその黒々とした足や全身の重みに耐えきれず踏み潰してしまった。そして、その地面に強く踏みしめた片足から胴体、ついには顔まで漆黒に染め上げられていき、その麗しく綺麗な形に結いあげられた黒髪が、そこに飾られた簪を弾き飛ばしていき、その髪も自身の身体と比にならない程に伸びていく。頰を伝って地に落ちる涙と同時に瞼を開くと蛇の黒と白の境界のはっきりとした瞳とは違う金色の瞳孔があった。周囲に立ち込める蛇の覇気で風が起こり、その額に厚い前髪で隠された瞼も解き放たれていた。
その眼球には大きく正三角形の数があった。
蛇はそれまでの可憐な姿とは打って変わって禍々しい怪物のような姿を隠しもせず、ただ透けていてとめどなく溢れる涙と共に、着物や下駄、羽織全てを身から捨ておくように歩みを止めなかった。______
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鶏が蛇との諍いに逃げ隠れた場所は、永い時も共に生きてきた、三毒の蛇と豚も知りえない、密かに佇む"真堂"に訪れていた。
真堂というのは、三毒と人の未来を導くお告げを頂く神聖なる堂の事だ。
鶏はその昔、人がまだ火という恵みを天から授かるよりもずっと前から天で健やかに暮らしていた。
だが、人との出会いが鶏という神聖な存在を大きく変えた。
謂わば、堕とされたのだ。人の手によって
その事象を鶏は悔いを残す事も人を憐れむ事をなかった。
鶏は既に天に無い、人のみに司る"情"という災いがその身に宿っていたからであった。
天にすむ者たちは、鶏を拒絶した。
そうして鶏は人を惑わす卑しい存在へと成り果てたのであった。
空から光が溢れ照らされていく。
「|貪《とん》よワタシが憎いかい?
のぞめど、満たされずにその原因もわからずに不満ばかり募る
三毒
人が悟りを開く道標に立ち塞がり、阻まんとする者らよ
三善根をワタシは止めることはできなかったことをここに
もうすぐ、弥勒菩薩との結びも果たされようとしている
ワタシは人を悟りへと導く神となって幾億年
もうお前たち三毒を人は超えずとも悟りに辿り着いてしまうのだ
願わくば、人には乗り越えて進まんとして欲しかった。
だが、それが人の行く末なのだ。
ワタシはそれを悟るのみ………………
|神《ワタシ》はそれを阻まない。」
「………神の御言葉を否定なさるような者は神への信仰を無下にする不届き者。___私めはそう存じておりまする。ですが、どんな処罰を身に受けようとも言わせてもらいたい
貴方様を憎いなどと感じた事などありません。」
ズッシャァァァァァァァア
瞬間、鶏の身体から大量の血が噴き出した。
顔や、首、腕、背中、至る所まで傷だらけになりしまいには腹には骨が文字通り、木端微塵に砕け散り、臓物が弾けて血みどろになって肉塊となり辺りに散乱していた。
--- それには道理があった ---
--- 神の御言葉を否定した罰が下ったという ---
--- 立派な道理が ---
再度、鶏は至純な敬意を表すべく一意専心のごとく深々と頭を下げた。
それを目の前にした釈迦は満足そうにも、苦渋そうにもしておらず、淡々とその瞳の揺らぎすらも無い、まるで大地が水や太陽の加護の元生い茂り、育つように自然の摂理として見届けていた。
「そうか
であらば、何故先のような呼び名を蛇にかけた___」
「はい。先も貴方様が申せられたように、我ら三毒の人にもたらす、貪、瞋、癡なる者らが三善根の多大なる影響で衰弱が読みとれた次第になります。」
と、淡々と述べている鶏の神のご意志を否定した報復の末負った傷がみるみる回復していく。鶏の膝をついて頭を下げた視線の先にある赤黒い溢れでた血液すらもすぅっと身体にまるで治癒というより、最初から傷などついていないような真っさらな肌へと戻っていった。
最初から神からの罰など存在していなかったように
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箱庭の中心で独りで深く眠りについていた豚がゆっくりと身体を起こす。そしてぽそりと呟いた
「…………………無知でいることが何よりの幸」
豚のその背には大きなつぎはぎに縫われた口があった。また、豚が眠りにつくため身体を丸めるとにんまりと不気味に微笑み、頑丈に縫合された傷から血が滲み出ていた。