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3話「学園オークション」
学園の地下に存在する、使われていない円形講堂。
そこは週に一度、生徒会書記・一ノ瀬蓮が主催する闇の競り市——
**『|学園オークション《ブラック・マーケット》』**
の会場へと変貌する。
「皆さん、今週もよく集まってくれました。さあ、本日最初の|出品《アイテム》です」
ステージ中央、スポットライトを浴びる一ノ瀬は、モデルのような端正な顔立ちに爽やかな笑みを浮かべていた。
だが、彼の胸元に光る【学園スコア:3200】の数字は、彼がこれまでにどれだけの生徒を合法的に剥ぎ取ってきたかを示す血の証拠だ。
今回のオークションに出品されているのは、スコアだけではない。
「借金で首の回らなくなった女子生徒の『一週間の所有権』」
や、
「優等生の『期末テストのカンニングデータ』」。
人間のプライドや秘密が、品性のない声とともに競り落とされていく。
「エグい趣味ね。相変わらず反吐が出るわ」
仮面で顔を隠した神代が、俺の隣で低く呪詛を吐いた。
「あの男はそうやって他人の弱みを買い叩き、自分のスコアを増やしてきた。……神代さん、あなたのスコアを奪ったのも、あのステージの上ですね?」
「ええ。私のプライベートな『音声データ』を買い取ったと脅されて、公式決闘で全スコアを譲渡させられたのよ。中身はただの捏造だったのに、当時の私は怯えてしまった」
神代の指先が、悔しさで小刻みに震えている。
だが、その歪んだ怒りの熱量こそが、俺たちを動かす最高のエンジンだ。
「安心してください。あの男の『嘘』は、すでに僕の眼が捉えています」
俺はステージ上の一ノ瀬をじっと見据えた。
呼吸、1分間に18回。安定している。だが、彼がオークションハンマーを振り下ろす瞬間、右の眉がわずかに1ミリ上がる。——彼は、出品物の価値を自分で決めていない。裏で誰かから指示を受けている。
その時、一ノ瀬の鋭い視線が、観客席の俺たちへと向けられた。
「おや……。珍しいお客様ですね。今週、新道からスコアを全額強奪して一躍有名になった、スコア『742』の御堂綾くん。そして——元・女王の神代玲奈さんだ」
会場のすべての視線が、一斉に俺たちに集中する。
「せっかくの勝者が、そんなはした金で何をしに来たのかな? ここは最低入札額がスコア1000からの、選ばれた貴族の遊び場だよ」
一ノ瀬の口元が、クズを見るような歪んだ三日月形に変形する。
「一ノ瀬さん。貴族の遊びに、俺たちも混ぜてください」
俺は仮面を外し、冷徹な笑みを浮かべてステージへと歩き出した。
「僕が今から競りにかけるのは、スコアではありません。学園AIですら測定不能な、僕の『過去の特級秘密』。これを一ノ瀬さん、あなたのスコア3200すべてと競らせてもらう」
一ノ瀬の目が、欲望と警戒でギラリと光った。
これが、破滅へのカウントダウンとも知らずに。
「ふ、ふざけるな……!こんなポイント、バグに決まっている!おい、システムを強制終了しろ!」
ステージの上で、一ノ瀬が声を荒らげる。かつての爽やかなエリートの面影はどこにもない。
だが、巨大モニターの数字は消えなかった。それどころか、俺の投下した『秘密』の毒があまりにも濃すぎたせいで、学園オークションのシステム全体が悲鳴を上げ始めていた。
**バチバチッ**
と火花が散る。
「何が起きているの……?」
神代が目を見開く。
「システムをハックしたんですよ。一ノ瀬の管理するサーバーに、AIが処理しきれない『国家機密級のバグ(僕の過去)』を流し込んだ。……ほら、決壊しますよ」
次の瞬間、会場の全モニターが真っ赤に染まり、警告音が鳴り響いた。
**【システム異常:管理者の秘匿データを全開示します】**
「なっ……やめろ! 遮断しろ!!」
一ノ瀬が狂ったように叫ぶが、もう遅い。
画面に映し出されたのは、一ノ瀬がこれまでに他の生徒から脅し取ったスコアの裏帳簿、そして——神代玲奈を陥れるために、彼が自ら仕組んだ『捏造スキャンダル』の音声データだった。
『神代のやつ、俺を信じ切ってて笑えるよな。適当にデータを偽造して家畜に落とせば、あの利権は全部俺のモノだ』
スピーカーから流れる一ノ瀬の嘲笑混じりの声。
会場の生徒たちの視線が、一瞬で「軽蔑」へと変わる。一ノ瀬の築き上げた絶対的な信頼が、ドミノ倒しのように崩壊していく。
「あ、あ、違う、これは俺の声じゃ——」
言い訳をしようとした一ノ瀬の胸元で、電子音が鳴った。
**ピピッ——**
【一ノ瀬蓮:スコア3200→0】【神代玲奈:スコア0→3200】
システムがイカサマと不正を検知し、一ノ瀬のスコアを全没収、本来の持ち主である神代へと強制返還したのだ。
灰色に染まったバッジを掴み、ステージにへたり込む一ノ瀬。
「査定完了。被検体:一ノ瀬蓮。価値、ゼロ」
俺は冷酷に告げ、神代の手元に戻ったスマホを指差した。
「約束通り、取り戻しましたよ。元・女王様」
「ええ……ありがとう、綾くん」
神代は一ノ瀬を一瞥(すら設定せず、俺を見て妖しく微笑んだ。その目には、感謝以上の、俺という「怪物」への深い執着が宿っていた。
パチ、パチ、パチ。
その時、ホールの暗闇から、ゆっくりと拍手をする音が聞こえた。生徒たちが恐怖に満ちた表情で道を開ける。現れたのは、黒い生徒会腕章を巻いた長い黒髪の少女。
「素晴らしいわ、スコア0のハッカー。一ノ瀬のような小悪党を、まさかシステムごと叩き潰すなんてね」
彼女の胸元で怪しく光るバッジの数字は——【学園スコア:8500】。 生徒会副会長、如月院 夜空。
学園の『偽神(会長)』のすぐ右隣に座る、本物の絶対強者だった。
「御堂綾。あなたのその『秘密』、今度は私と賭けてみない?」
彼女の冷徹な笑みが、次なる地獄の幕開けを告げていた。
——本日の観測終了。一ノ瀬蓮の失脚を確認。上位個体:如月院夜空の介入を感知しました。
次回、5話「黒い副会長」