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#2
これは、カラがお風呂に入っている間にリビングで行われた会話である。
「おいツキ、なんか訳ありっぽかったから許容したけどよ、あいつ、結局なんなの?」
眉をひそめているヒナに、ツキは「やー、僕にもよくわかんないんだけど」と説明し始める。
「《《ターゲット》》の家で下僕扱い受けてたみたいでね。保護施設に横流ししても、あの子の生活レベルが上がんないことは目に見えたから。せっかくならここで暮らさせてあげようと思ってね」
そう締めて微笑むと、ヒナは「チッ、慈善事業かよ。キッショ」とだけ毒づいた。否定する気はないようだった。
「でも、男ふたりで家事回すの限界あるでしょ?」
「……しゃあねえ。それは確かにありがてえしな」
言い訳するような呟きが、虚空に落ちた。
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「わ、私なんかが一番風呂をいただいちゃって……ごめんなさい……」
「いや、いいってそんなん。つかお前、一人称『私なんか』かなんかか?」
漫才のような会話を繰り広げるふたりに、
「それじゃあ、もう寝る?」
とツキが笑みを向ける。
「俺はこれから仕事。だから先寝てろ」
立ち上がり上着を羽織るヒナに、ツキは「あれ、そうだったっけ。オッケー」と軽く手を振る。
「……あ、だからヒナさんだけお風呂まだなんですか。汚れちゃうから。服も、安物で」
「ヒナさんて呼ぶな。あと安物って言うな、量産品と言え」
「今大事なのって本当にそこかな?」
ひとり納得したように呟くカラに、ヒナがツッコみ、それにツキがツッコむ。
「……本当、君って恐ろしい子だね。気づいてたんだ__僕らの仕事」
ツキとヒナは、いわゆる殺し屋だ。
命令された人を、命令された通りに殺す。他にも裏社会の便利屋みたいなこともしている。
カラの家にはもう誰もいないこと、出かけたツキは風呂に入ったこと、消臭剤が部屋にいくつも置かれていること、フローリングの隙間に赤黒い何かがこびりついていること__とっかかりならいくらでもあったが、それにこの短時間で気づくのか。
この子__観察力がべらぼうに高い。
「え。あ、い、言い触らしたりなんてしませんよ!?」
カラはそんなツキの思考なんて察しもせずに、場違いな弁明をする。
「別に気にしてねえよ。んじゃ、行ってくるから」
「行ってらっしゃい~」
「お、お気をつけて」
バタン、ガチャ。
ヒナが出かけて、部屋にしばらく沈黙が流れた。
「あははっ、緊張してる?」
「え? あ、まぁ……はい」
突然の問いに、カラは気まずそうに答える。
「だよね。いきなり知らない男とふたりきりなんてさ」
人のよさそうな笑み__完璧な笑み。
カラは少し、背筋が凍る心地がする。
「もう寝よう。ここ、地下だからわかりにくいけど、だいぶ夜遅いと思うから」
「……そういえば、わたしはどこで寝るんですか? ソファ?」
「ん? 僕と同じベッド」
硬直するカラ。にこっと微笑むツキ。
「……ん?」
「僕と同じベッド」
「……ごめんなさい、ありえない幻聴が……今日はもう寝たほうがいいかも。移動する時間も惜しいからこのままソファで寝ま__」
「それは大変だ!」
芝居がかった焦り方で叫んで、ツキはカラをひょいっと抱き上げた__お姫様抱っこ。
本日二回目である。
カラに伝わる振動を極限まで減らして、寝室にダッシュで運び込むツキ。
「…………」
「ふう。それじゃあ、おやすみ」
そして至って自然な動きで、カラを寝かせたすぐ隣に寝転び、肩に腕を回し目を瞑る。
流れるような抱き枕扱い。
カラは『寝られるかあ!!』という絶叫を喉頭蓋の手前で飲み込み、
「……おやすみなさい」
と呟いた。