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『??部(仮)は今日も主役が多すぎる!』ー部長の机勝手に改造事件ー
アユト
この物語は、ただ静かに受験勉強がしたいだけのしがない男子高校生が、癖が強すぎる自称・主人公たちに振り回される苦悩の記録です。
読者の皆様におかれましては、どうぞ胃薬をお手元にご用意の上(いらないよ…多分…主人公以外)、生温かい目でお見守りください。
なお、登場人物たちの会話の噛み合わなさに対するクレームは一切受け付けておりません。
(澄野 律)
「3年になってから急にこの部活に入れって言われても……何の部活だよ〜」
溜め息まじりに愚痴をこぼしながら、俺――澄野律(3年)は、旧校舎の埃っぽい廊下を歩いていた。
受験勉強に集中したいこの大事な時期に、担任から突きつけられた条件はただ一つ。
『新設された「??部」の部長になって部員をまとめろ。さもなければ内申点は保証しない』
理不尽すぎる。そもそも「??部」って何だ。名前すら決まってないじゃないか。
「まあいい……静かで誰も来ないなら、ただの自習室として使ってやる」
そう自分に言い聞かせ、俺は「??部」と書かれた札がぶら下がるドアをガラッと開けた。
――それが、俺の平和な高校生活の終わりだった。
「……なぁ、俺の机どこ行った?」
そこに広がっていたのは、俺が昨日まで使っていたはずの、地味で平坦な学習デスクではなかった。
「フッ……遅かったな、部長。我が『美の聖域』へようこそ」
真っ先に声をかけてきたのは、自前の金縁卓上スタンドミラーを前に優雅にポーズを決めるナルシスト・鳳凰堂だ。俺の机の左側には、一輪挿しのバラと、彼の自慢の生写真が整然と並べられている。
「勝手に人のデスクをドレッサーにするな! 鏡が反射して眩しいんだよ!」
「くっくっく……恐れるな、律。その右側に施されし『赤の陣』こそ、貴様の秘められた力を抑え込む封印結界だ……!」
右側に目を向けると、右手に痛々しい包帯を巻いたバトル漫画気取り・漆原が、真っ赤な水性絵の具で俺の机に謎の魔法陣を描いていた。
「教科書置く場所に落書きすんな!! 落ちなかったらお前が雑巾がけしろよ!?」
「おやおや、律くん。みんなに愛されていて羨ましいな〜」
ニコニコしながら近づいてきたのは、自称・親友(フレネミー)の木村だ。彼は「はい、喉乾いたでしょ?」と缶コーヒーを手渡してきたが、よく見るとプルタブが絶妙に壊されていて、絶対に素手では開かない仕様になっていた。
「地味な嫌がらせの精度を上げるな!! ニッパー持ってこい!」
「オーッホホホ! たかが缶コーヒーひとつで取り乱すなんて、相変わらず浅はかですわね、律!」
高らかな高笑いとともにドアを蹴り開けて入ってきたのは、自称・悪役令嬢の西園寺だ。彼女は俺の机のど真ん中に、これみよがしに『高級ベルギーチョコレート』の箱をドンと置いた。
「この私以外の者が貴様を苦しめるなど許しませんわ! ほら、これを食べて私の寛大な慈悲にひれ伏しなさい!」
「高笑いしながら差し入れしてくんじゃねえよ! 根がいいヤツだな!!」
さらに、机の中央にはライバル気取りの勝木が勝手に引いたビニールテープの境界線まで存在している。
「ここから右は俺の領土だ! 奪い返したくば、まずは俺と期末テストの合計点数で勝負しろ!」
「俺の机の8割が他人の領土ってどういうことだ!!」
静かな自習室……俺の淡い幻想は、完璧に打ち砕かれた。
全員が全員、自分こそがこの物語の「主人公」だと言わんばかりに、己のこだわりと自我を主張し合っている。会話が1ミリも噛み合っていない。
「ハァ……ハァ……」
ツッコミすぎて胃のあたりがズキズキと痛み出す。
俺は胃薬の袋をポケットから取り出すと、水も飲まずにそのまま噛み砕いた。
「……もういい」
「ん? どうしたんだい、律くん?」
「何も言わん……俺は、宿題をやる……」
俺は遠い目をしたまま、金縁の鏡を脇へ押しやり、赤の封印陣の上に数学のドリルをバサッと広げた。そして、勝手に引かれた境界線を無視してシャーペンを走らせ始める。
「な、なんだと……!? 封印の陣の上で、動じることなく三次元方程式を解いているだと……!?」
漆原が目を見開いて戦慄する。
「フッ……鏡に映る己の集中した美姿に見惚れているのだな?」
鳳凰堂が満足そうに頷く。
「あら? 私の差し入れをガン無視して宿題なんて、いい度胸ですわね……!(※そっと消しゴムを使いやすい位置に置いてあげる)」
西園寺がフンと鼻を鳴らす。
「おい全員、喋りかけるな。鏡が邪魔でドリルの右側が見えねえし、陣のせいで5の数字が6に見えるんだよ。あと西園寺、消しゴム助かる」
「素直じゃないですわね!!」
……この学園には不思議な部活がある。
選ばれし「主役」しか入れないと噂される、その名も「??部」。
だが、現実のそこにあるのは――世界一カオスな机で、ただひたすらドリルを解き続ける可哀想な部長の姿だけだった。
(頼むから……誰か俺に普通の高校生活をくれ……!)
苦労人部長・澄野律の、胃が痛すぎる放課後はこうして幕を開けたのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
第1話をなんとか生き延びた、苦労人部長の澄野律です。
……いや、ちょっと待ってくれ。読者……というか、この物語を書いた「主(作者)」!!
お前に物申したいことが山ほどあるんだが!?
なんで受験を控えた大事な3年のタイミングで、こんなカオスな部活の部長に仕立て上げたんだよ!
机の上のバラを退かして魔法陣の絵の具を拭き取るだけで30分かかったぞ! プルタブの壊れた缶コーヒーのせいで爪は割れそうになるし!
唯一の癒やしが悪役令嬢の差し入れってどういう状況だよ! 胃薬の消費スピードが尋常じゃないんだが??
……ハァ、ハァ……。
頼むから次回は、もう少し平和で普通の高校生活を描いてくれ……。
(主よ、僕のこの叫びに何か言うことはあるか……?)
ー主からー
うーん…トクニナイカナ
じゃなくて、面白ければすべて良し!
(終わりが良ければどうにでもなるんだよ!)
この部活背負っての受験頑張ってね!(他人事)
「面白ければすべて良しって、一番タチ悪い作者の思考回路じゃねえか!! 終わりが良くても途中で俺の胃に穴が開いたらどうすんだよ!?」