就活に苦しむあなたに届ける、ネガティブ×ローテンション×ブラックコメディ。
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目次
一度目の失敗
今目の前にあるのは一台のPC。
そこに知らんおっさんと、僕を含めて三人のスーツ姿の学生が写っていた。
「では、自己紹介をお願いします。」
「私は〇〇大学所属、〇〇と申します。大学では〜...」
「私は〇〇大学所属、〇〇と(以下略)」
心臓はバクバクと騒がしく踊り、僕を上気させた。
「わ、ワタシは〇〇大学...〇〇大...所属...ゴクッ...田中タニシと申します...」
あ、終わった。この面接終わった。
初っ端でつまずくと後に響くのを、僕は痛いほどに知っていた。
と言うか僕の名前は田中タニシではなく、田中タイシである。
「では、自己PRをお願いします。」
「私には決断力があります。大学でサークルに所属しており〜...」
「私にはチームをまとめる力があります。アルバイト先で〜...」
また来るぞ。また来る...僕の番が!
「はい...僕...私はっ...えっと...その、あの...」
はい終わったー。人生終了のお知らせ。不幸せの黒い鳩が届けてくれました。
「それでは面接を終わります。」
パタン。
誰もいない虚しい自室に、PCの蓋を閉じる音が寂しく響く。
僕はそのまま後ろに倒れ込んだ。古びた畳がちくちくと手の甲や頬を刺激して心地が悪い。
なーにー、やっちまったなー。落第生は黙ってフリーター。
横向きになって畳の上に転がったままの積み木のおもちゃを見やる。
こんなことを話せば子供っぽいと笑われるので、誰にも話したことはない。しかし僕の趣味は積み木でお城を作ることなのだ。もちろん履歴書に書くはずもない。嘘でも団体戦のスポーツとか書いた方がいいよ。
再び仰向けになって、天井を見上げる。
電灯がチカチカと光って、僕の目を刺激する。下からも上からもPCの向こう側からも攻撃されて、僕はもうHPが限りなく0に近かった。
「もう、人間辞めたい。」
一人呟いた言葉が、ホコリと共に宙を舞う。僕の人間としての誇りも散っていった。
指先を掠めたスマートフォンがバイブレーションを鳴らす。メールを送ってきた人物は、母親だった。
『お昼ご飯いるー?』
呑気なものだ。僕の気も知らないで。
ほんの少しだけ腹が立った。
しかし僕も趣味以外についてはそこまで子どもではない。
冷静さを取り戻し、スマホを手に取りメールを返す。
「いらない もう食べた...っと。」
はぁ、と深くため息をつく。
いつかは人間をやめて富裕層の柴犬かノルウェージャンフォレストキャットになりたいものだ。
二度目の挑戦
僕は田中タイシ。絶賛就活中。
志望は今の所おもちゃメーカーの企画部。積み木が大大大好きなため「積み木で世界をクリエイト」と言うのを信条としている。
しかし志望職種に勤める前に、まず僕の心が死亡してしまいそうだ。
人間を辞めたいと本気で考えている。
「それでは、弊社を志望した理由をお聞かせ願えますか。」
きた!僕が一番寝る間を惜しんで練り上げた、あのエピソードをご覧じろ!
「はい!えっと、私が御社を志望したのは、幼少期の思い出が深く関わっています。私は幼い頃から積み木遊びが好きで、現在もあらゆる国の積み木をネットでかき集めコレクションしたりお城を作ったりしているのですが、やはり積み木というのは子供だけのおもちゃというイメージが世間一般に浸透しており、僕としてはそういった認識を変えたいと思い恩赦を志望したのですがまず僕がやってみたいことというのが積み木の名前を前衛的なスタイルに変更するということで何案か考えており『ブロキ』とか『ツミック』とか『エクストラツミキレボリューション』とかあとは...」
そこで僕はやっと気がついた。面接官の顔が能面のようになっていることを。
「...a」
「はい、ありがとうございました。以上で面接を終わります。」
「...」
人生終了のお知らせ再来。僕は死にますーーー!!積み木が好きだからーーー!!
はぁ、なんでいつもこうなるんだろう。他の人はもっと上手く自分の強みと情熱を言葉にして相手に伝えることができるのに。時には嘘さえ交えて。
僕は正直者すぎるのだろうか。就活のために自らを汚し、この薄汚れた社会の錆びついた歯車に混じらなければならないのだろうか。
そんな結末が待っているのなら、僕は|争《あらが》う。
この汚い社会を「積み木で世界をクリエイト」しなおしてやる!
そして僕は畳の上に立ち上がった。
突き上げた拳は電灯の影になり、再創造された世界の面影を網膜に映した。
三度目の恐怖
ああぁぁぁぁぁああぁぁぁ...どうしようどうしよう...
目の前にあるのは一件のメール。
恐る恐る開いてみると
あ、不採用通知だ。
僕は目の前が真っ暗になった。
---
「海...」
キラキラと光る海面が僕の足元に向かって引き伸ばされていく。
僕はいつの間にか海岸にいた。
ふと屈んで見て見てみると、そこには小さなヤドカリがいた。
「お前はいいよな。ずっと閉じこもっていられる。」
ヤドカリは小さく頷いた、気がした。お前もヤドカリにならないかと言っているようだ。
僕はふっと息を吐いて、そして大きく吸った。
できないよ、人間を辞めたいとは言ったけど、だけどそんなこと実際にはできないじゃないか。
現実逃避はいつでも、自分を惨めにさせるだけだった。
そんな姿を見てか、ヤドカリは波に飲まれてどこかへと旅に出た。
「またな。」
そうして小さなハサミを振って、僕に別れを告げた。
「うん、また。」
僕も片手を振って見送った。あいつはきっと大きな夢をそのハサミに掴んで戻ってくるだろう。
---
「じゃねーよ!絶賛現実逃避中じゃねーか!」
僕は砂浜で飛び上がり、妄想に耽る頭を叩き直した。
こんなことをしている場合じゃない。一刻も早く家に帰り、また書類を送ったり企業研究をしたり、対策をしなければならない。もうやだあっぁぁぁ!
気狂いになりかけながら半狂乱で家まで走る。道中で小学生たちに白い目で見られていたことは気にする余裕もない。
「はぁはぁ...ははは...」
僕は涙目で玄関にぶっ倒れる。もうどうにでもなれ。
そして気を失ってしまったのだった。
四度目の限界
「ちゃあんと就活してるんですかぁ??」
目の前で波打つ眉。奇妙な形を成して垂れ下がる目尻。腐った林檎の如くぐにゃる口。
全てがうざいんだよ。というかよくそんな絶妙な顔ができるな。逆に弟子入りしたいわ。お前と同じ顔ができればうざい顔戦国時代の天下取れるわ。
目の前で僕の就活事情に口を出してくるこいつは就職担当の50代おっさん。
たまーに顔を見るたびに毎回「ちゃあんと就活してるんですかぁ??」と一言一句違わず聞いてくる。
妖怪か何かか…
とにかくうざい顔で言ってくるので、案の定他の生徒からも苦手意識を持たれているようだが、本人は気がついていないのか全く改める気配がない。鈍感というのは甚だ恐ろしいな。
僕はトボトボと帰宅してスマホ動画を見る。我が人生で唯一の癒しだ。
『そこのあなた、就活してますか?』
『今始めないと間に合わない!就職活動!』
『あなたはESにどのくらい時間をかけましたか?私は3分_』
「このやろうっ!!!」
僕は思いっきり広告に向かって暴言を吐き出した。しかし画面の向こうのうざい顔には一切変化がない。当然だ。収録しているんだもの。
どうして就活の傷を癒すために動画を見ているのに、また就活について考えなければならないのか。僕たち就活生は時間や体力、労力に加えて逃げ場すらも奪われるのか。
こんなんじゃ無気力になるのも頷けるよなぁ!?
一旦落ち着いて深呼吸することにする。
吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー
「このやろうっ!!!」
僕はスマホをベッドの上に投げ捨て、頭を抱えてへたり込んだ。
企業からメールが来た。ESだせ、面接日程決めろ、説明会の予約しろ…僕はマルチタスクができないんだよぉおぉ!!
なぜ就活生はこんなにもしんどいのだろう。
しかし僕は知っている。他国ではさらに熾烈な戦いが繰り広げられていることを。
だからと言って今の自分の状況が軽いとは微塵も思えないんだが?というか比べるものでもない。僕は僕だ!僕の苦しみがある!
「…そうだよ。僕は僕、なんだ。」
戦いで失った力は取り戻せない。だけど今からまた、始めよう。
「マルチタスクはできないが、『一日一個だけやる』という目標を持って向き合ってみよう!」
これが僕にできる限界の活動だった。
五度目の怨恨
こんにちは。
株式会社〇〇 新卒採用担当です。
先日はお忙しい中、
当社選考にご参加くださいましてありがとうございました。
慎重に選考を行いました結果、
誠に残念ではございますが貴意に添えない結果となりました。
ご希望に添えず恐縮ですが、ご理解くださいますようお願い申し上げます。
数ある企業の中から、当社にご応募いただきましたことに感謝するとともに、
田中様の今後のご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。
---
「〇〇〇〇ーーー!!」
いかん、放ってはならない言葉を口走ってしまった。僕は鉄の味のにじむ唇を舐め回しながら、心の奥底でグルグルと渦巻く黒い何かを吐き出すようにつばを吐いた。
「なんなんだよ、まぁさ、別にさ、行きたいところじゃなかったからさ、なんとも思わないけどさ…」
僕の目には生き井戸のように水が湧き出していた。なんだ、強がりじゃないぞ!
ノロノロと電車から降りると、足をもつれさせて転けかける。前にいたババアから「どこ触ってんだい!!この痴漢!!」と、あらぬ疑いをかけられた。お前みたいな熟れすぎた果実、誰が食うかよ!
足早にその場を立ち去る。もう散々だ。いつもこうだ。周りのやつら全員敵だ!
家に帰ろうとしたが、あまりにしんどくて歩幅が小さくなっていく。やがて一切の身動きをも取ることができなくなった。もう、帰りたくない。
実は僕の両親は就活をしたことがない。公務員試験を受けて一発合格のエリート。だのに僕はなぜこんなに落ちこぼれているのか。鷹が鳶を生むとはまさにこのことだ。
そのため親にいくら辛いことを話しても理解されない。無知は最大の罪だとこの頃よく思う。
近くのボロ公園のボロベンチに腰掛ける。空を見上げたところ、白いものが降ってきた。ハトの糞だ。
「クソ野郎!」
まさしく糞野郎であった。
そんなこんなで今日も日が沈む。僕の心も水平線の遥か下へと沈んでいった。
六度目の嫉妬
耳をもぐことができれば、こんなふうに苦しむことはないのかもしれない。
脳みそを空っぽにして廃人になれば、こんなことで心がざわつかないのかもしれない。
目を抉り出して仕舞えば、もう悲惨な自分の姿を見なくて済むのかもしれない。
あゝ、世はムジョウなり。
僕は周りから聞こえる音を遮断するようにして教室を飛び出した。三猿になって馬鹿になって虎馬を呼び起こさないようにした。
…今、馬が二回出てきたな!?馬車馬のように使われて可哀想な動物だ!
そんなことはさておき、僕は誰もいない場所、河川敷へといつの間にかやってきていた。もう自分が何をしているかもわからない。
教室では学生の半数以上が内定が決まったことに関して口々に報告しあっていた。皆、嬉々とした表情で、猿のようにウキウキキーキーとハシャいでいた。やかましいわ。
ご存知の通り、僕、田中タイシはいまだに内定が一社も出ていない。それどころか最終面接まで進んだこともない。たとえ一次選考を通過したとしても、その先に更なる高難易度ステージが立ちはだかっていると考えたら、僕は…どうしても…越えられる気がしない。
ふと、マリオのゲームを思い出した。一面をクリアしたら二面へと進み、二面をクリアしたら三面へと進み。クリアできなければもう一度トライする。
人生もこんなふうだったらまだマシなのに、と考える。就活には中間地点すらもない。しくじったら振り出しに戻る。鬼畜双六である。
僕はそんな双六世界が嫌いだ。就活なんてほぼ運ゲー。内定をとって浮かれている奴らは単にサイコロで6を出してゴールしただけだ。ラッキーハピネスだ。
僕は毎回1を出しているのかもしれない。一マス進む。一マス進む。もう一マス進む。…あ、ここのマス「振り出しに戻る」じゃん。アンラッキー。
そうだ!ただの運ゲーだ!僕が否定されているわけじゃないんだ!
そう考えてふと我にかえる。
運でも…負けているということか?
「くっそぉぉぉぉお!!」
行き場のない怒りとも悲しみとも取れない叫びが、河川敷を超え川をこえ、見知らぬ野良犬の耳に届いたのであった。
「わん!」
七度目の失望
あ!第一希望の企業から選考結果のメールが来てる!
見るのこっわ...
僕は震える指で、スマホ画面上の通知をプッシュした。
---
株式会社〇〇の採用担当でございます。
先日は、ESをご提出いただき、ありがとうございました。
厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、
企画職としては今回採用を見合わせていただくことになりました。
ご希望に添えず、申し訳ございません。
もちろんほかの職種でのチャレンジは大歓迎ですので、ぜひご検討ください。
多数の企業の中から当社に応募いただきましたことに感謝いたします。
---
僕は無言でブラウザバックした。
は?冗談だろ?きっと見間違いに違いない。
そしてもう一度、怯えながらメール本文を見る_
結果は変わらなかった。
「な、んで…」
僕は歯を強く食いしばり、拳を硬く握りしめた。僕の何がダメだったというんだ…!
ふらふらと千鳥足で自室のベッドに沈み込む。
もう終わりだ。僕の全人生をかけて目指していた会社にまで祈られた。この先生きていてもきっと碌なことがない。そうだ、きっとそうだ。
目頭がじんわりと熱くなる。本当に大声で泣き出したい気持ちだった。
しかしもうすぐ親が帰ってくるので、そんな無様なことはできない。
世の中の全ての人間が敵に思えてくる。コンチクショー!
八度目の虚無
「えーいやもう、もしも全然こちらの職種に興味がなくともですねぇ、えーいやわからなくとも一から手取り足取り教えますのでそこまで気をはらなくても大丈夫ですしぃ、えーいや新卒の方はとにかくやる気とガッツがあれば問題ないと思いますがぁ、えーいやしかしさすがにどんな人でもいいというわけではなく、えーいやこちらに歩み寄ることも必要でして、えーいやーえいやぁー」
なっげぇんだよ!?
さすがに長すぎるわ!この説明会いつから始まってると思う?もうすぐで2時間になるぞ!?
というかさっきから何話してんだ?二十分もかからないようなスッカスカな内容なのに!?あんた今、人の大事な時間奪ってるってこと気づいてる?ぜってぇ気付いてねえ!!!
だんだんイライラしてきた。僕がこんな事を考えている間にも、この人事だか役員だか知らん女の人は、ずっと能面のような顔をした画面奥の僕に向かって話し続けている。
「えーおや向いてない業務につかされるなんてことになったら、えーおややらされている側も周りの社員も辛いでしょうから、えーおやミスマッチを避けるためにもえーおやえーおいおい」
なんか、意外とハッとさせられること言い始めたぞ。焦って冷静な判断力を欠いている僕を見透かしたのか?
「えーいいやぁえーいいやぁ〜」
もう何か歌い始めてないか?
---
「あ!お時間ちょっと過ぎてしまいましたね、すみませぇん。それではここいらで説明会を終わりにしたいと思います。」
「あ…はい。ありがとうございました。」
僕は退出ボタンを押して、PCを閉じた。
はぁ〜…疲れた…
異様に長い説明会だった。しかも中身がない。
だけどなぁ…ちょっとあの女の人、綺麗だったな。…熟女だけど。
いやいかんいかん!邪な思いよ、直ちに召されよ!
僕は神に懺悔して頭を垂れた。
九度目の仰天
今日は対面でのグループ面接だ。
…いやだな。…はよ帰りたいな。
頭上からは鋭い日差しが照りつけ、その熱に空気が熱されて非常に蒸し蒸しとしていた。
今日参加する説明会は、会社説明の後にグループ面接も同日にやるという、非常に効率的な形式をとっていた。
そのため僕はわざわざこんな遠い都会まで来て、あっつい日差しの中、汗だくだくで、コンクリートの砂漠の上をよろよろと歩いている。
「あー。帰りたい帰りたい。」
周りには都会の洒落たブランドショップ、リアルを満喫している高校生、香水のきつい外国人のカップルがひしめき合っていた。そのなかに僕も混じる。
「嫌だ…帰りたいぃ。」
頬を伝う汗の雫は、涙よりも塩辛かった。
---
ヒイヒイ言いながら着いた場所は、ガラス張りの洒落たオフィスだった。さすが都会と言うだけある。
すると、目の前のエントランスの中から社員らしき人が手を振っているのが見えた。その男性は僕に向かって愛嬌のある笑顔を向けて、中に入るように促した。
入った先にはすでに四人ほど椅子についている学生がいた。彼らは黙りこくって壁のスクリーンを見つめている。
僕はそのなかに混じった。田舎者とバレていないだろうか。
後から続々と他の学生がやってきて、おそらく全参加者が席に着いた。
流れる様に、とはいかなかったが、おぼつかない様子で説明会が始まる。
---
そんなこんなで説明会が続いていったが、途中で企業の代表が現れ、急に身の上話を始めた。
とんでもねぇジジイ様だったのでおそらくかなり昔の時代の話だろう。ネットがなかった時代らしい。
代表の話をぼーっと聞いていると、グループ面接の時間になった。ついにきてしまった...
「それでは、履歴書を出してください。」
その言葉が代表の口から発されたところ、他のグループ面接の参加者の三人は流れるようにカバンから履歴書の紙を取り出した。
え?今時紙の履歴書なん??持ってきてないけど???
僕は全身から汗が吹き出して、体感的にはシャワーを浴びた後のようにずぶ濡れだった。
「あ、履歴書ないんですね。大丈夫ですよ、この紙に学校名とお名前を書いてください。」
先ほどの爽やかな社員が白い紙を四枚ほど手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
僕はそれに持ち前の汚ねぇ字で学校名と名前を書いた。
グループ面接が、今始まる_
---
後日、迷いに迷ったが、やっとの思いで企業に選考辞退のメールを送ることにした。
なぜかって?答えは簡単。あの会社は絶対に『アットホーム』な会社だ。
つまりは確実にパワハラ昭和風味の社風である。僕は一瞬で見抜いたぞ。
面接自体は大して難しいことはなく、出身や就きたい職種、入社後に会社に求めることなどを聞かれただけでほとんどアンケートみたいな問答だった。面接という感じはしなかった。
しかし…
代表がなんかやばそう。まぁとにかくやばそうだったんだ。おそらく合う人にはめっちゃ合うが、合わない人にはとことん合わないタイプである。それは僕自身にはどうしようもないことだった。
ということで選考を辞退することを決めたという流れだ。
しかし会社の屋上からみたあの夜景は綺麗だったな。田舎とは違う、弾けるような眩い夜景。あれがもう二度と見られないというのは惜しいものだな。
僕はメールの文面に向き直る。
これまで何度も、何度も何度もやられてきたことをここで|返す《八つ当たり》。
「お祈り返しダァァっ!!」
僕の甲高い声が勇ましく、部屋中に飛び散った。
十度目の困惑
また今日もオンライン説明会か。
そろそろ飽きてきた。いや、もうずっと前から飽きている。
「はぁ…」
そろそろ内定決めないとやばいよな。もう周りの奴らはほとんど…
いや、いやいや、駄目だ。弱気になるな。
僕だって色々と頑張ってきた。今日の説明会もしっかりと爪痕を残そう。
「よろしくお願いします!」
僕は元気よく挨拶をした。しかし帰ってきたのは弱々しい声。
「あ…はいぃ。よろしくお願いします…」
頭の中に?マークが発生した。この人が、代表?
代表らしい男は辿々しい様子で説明を始めた。
「今日は他に二人くるはずだったんですが…時間になっても来ないのでもう始めちゃいますね…」
へへへ、とこっちが虚しくなる様な笑いをこぼす。なんだこれ。
その後の説明もこっちが応援したくなるほどオタオタとしており、非常に頭に入ってこなかった。
「えっと…じゃぁ、今から共有しますね。…あれ、あれ?できない…ちょっと、あ、すみませン…」
が、がんばれー。
僕は心の中で応援しながら見守った。ペットか赤ちゃんが飯を食っているところを眺める親の気分だ。
そんなこんなで説明会は終了した。終始話すことがネガティブ寄りで、本当に人を雇いたいと思っているのか、甚だ疑問になるレベルであった。大人でもこんな感じの人いるんだな。なんか安心したわ。
十一度目の苦悩
あの言葉が忘れらない。あのジジイのあの顔、あの声、あの言葉が脳裏にふと蘇るたびに、心の奥底から黒々とした負のエネルギーが湧いてくるのを感じる。
忘れて仕舞えばいいのに。
気にする必要ないって。
あんなの死期迫るクソジジイの戯言だって。
周りの人や心の中のもう一人の自分は色々と励ましてくれるが、忘れることができたならば苦労しない。あのクソジジイのせいで夜も満足に寝られない。寝不足で凡ミス頻発、頭ん中ゴミ屋敷。
あのジジイなんて言ったと思う?
「君は...うちの会社では厳しいね。」
笑いながら、僕のことを見て、他の三人の学生の前で公開処刑。
僕はその場でただヘラヘラと笑うことしかできなかった。速攻なぶり◯してやりたいくらいだったけど、世界で三番目くらいに優しい僕にはできなかった。
今思い返しても反吐が出る。あの日から僕の目に映る世界はノイズ混じりになった。
十二度目の白紙
今日はとっておきのガムを噛んで、とっておきのスーツを着て、とっておきの心持ちで家を出た。
なぜ全てとっておきなのかって?それは普段使わないからさ。
そう、今日は僕の初めての最終面接。
やっとの思いでここまできた。もう、逃げるわけにはいかない。
最終面接があるのは、このこぢんまりとしたオフィスだ。中々に味があっていい。僕はここで働きたい。そう、絶対働きたい。
震える心を握りしめるように深呼吸する。絶対できる。絶対できるさ。
---
インターホンを押すと、中から女性が現れた。人当たりの良い優しげな女性だった。
オフィスの二階へ行くと、そこには二人の男性がいる。二人ともしっかりとした大人という感じだった。
僕は恐る恐る礼をして、合図と共に席につく。喉がひくついてうまく呼吸ができない。
三人の大人は僕の前に並んで座り、机越しに面接を始めた。
「それでは、弊社で活かせるあなたの強みを教えてください。」
僕は早速言葉を失った。無論、答えを用意してこなかったわけではない。単に自信がなくなったのだ。この会社で僕は、希望の企画職ではなく、営業志望として面接に来ていた。
僕の用意した答えは、営業には向いていない。
「えっと…僕、私は…話すことがあまり得意ではないですが…」
この時点で相手側の顔色が変わった。猫がふいっと横を向いた時のような、もうすでに飽きた、というような空気感。第一声で完全にしくじった。
それでもなんとか取り繕うように話を続ける。
「僕は…えっと、その…それでも、克服する努力はしていて…」
相手側の顔をそろそろと盗み見る。目は色を失っていた。
完全に興味をなくしている。あまりにも自分が場違いだと感じて震えてきた。
誰か、頼むから僕に場違いじゃないと言ってくれ。
気が遠くなって、冷や汗がダラダラと流れ出して寒い。ここはプールか何かか?
その後は淡々とした空気のまま時が流れ_
「今日はこれで以上です。結果は後日お送りします。お気をつけてお帰りください。」
「…はい。」
僕は何事もなく返された。話が盛り上がることもなく、深掘りされることもほとんどなかった。
帰り道にやるせなくて逃避行に走る。
---
知らない街の、知らない景色。
歩道橋から見下ろすこの景色も、きっと二度と見ることはないだろう。ここに通うことは決してないのだから。
僕は思わず身を乗り出した。しかしやめた。
できるわけがないだろうっ!?僕の弱さを舐めるなよ!?
そうしてまた何事もなく帰宅した。
十三度目の受容
またメール。
案の定不合格通知の連絡。もう飽き飽きだよ。
このメールを見ることにも慣れ、そろそろ精神が摩耗して麻痺してきた。
かろうじて体裁を保ってはいるが、もう◯にたい。
ここまで否定されると、自分がそもそも社会でやっていけるのか、不安になる。
たとえ受かったところで_
そんなことばかり考えて、むしろ何も考えていない方が楽になる。
こう見えて周りの人たちより早くに就活を始めていたのにな。
みんなが遊んでいる間、僕はインターンに行ったり履歴書を書いたりしていたのにな。
普段授業すらサボっている人たちにも負けている。なぜだ??
結局は顔とコミュ力ですか!はいはいそうですか!
僕はやるせなくなって脱力した。運も結果も味方しない。
周りの奴らは「その会社とは合わなかったんだよ。」とか「別の道があるよ。」とかいうけど、そういうことじゃない。対して難しくないところでも落ちているんだから、最低限の力もないということだ、僕には。
努力が足りない、そういうことか。なら、どれだけ頑張ればいいんだよ。面接なんてものがあるから僕は_
気がついたら視界が霞んでいた。もう、何も見えない。わかってた、わかってたのに_
これまで一生懸命やってきたのに、一瞬でよく知らねぇ赤の他人に否定され、今まで築いてきたものが崩されていく。お前ら誰だよ。僕の何を知ってるんだ。
…はぁ、もう疲れた。すでに「人間辞めたい」が口癖になっている。
みんな聞いてくれ。努力は裏切らないという人がいるが、あれは嘘だ。いつも他人の勝手な判断と、自分のコンディション、そして運に左右される。
……あぁ、確かに僕は間抜け面の落ちこぼれだよ。
社会で生きる価値もない、誰の役にも立たない、除け者。
五体満足なだけが取り柄の、形だけ人間の姿をした能無しの化け物。
いっそのこと、通り魔とでも出会いたい。そういうマッチングアプリはないだろうか。
………なんて、馬鹿馬鹿しい。鬱陶しい。騒々しい。鬱々しい。
もう勝手にしてくれ。僕を否定すればいい。それがお前らの仕事だ。勝手にしろよ。
「人間辞めたい」
十四度目の解放
ヤァ、僕は田中タイシ!
現在時刻18時前。只今絶賛ハイになっています!
原因は一時間前に遡る_
---
「おっしゃぁぁぁ!オンライン面接終わったぁぁぁ!あとは休むだけっ!」
目の前のPCをパタリと閉じて、大きく伸びをする。
いつもとは打って変わっていい感じに進んだ!まだ一次だけど!
僕はそこでふと思い出す。
「そうだ、明日も面接だった。」
矢継ぎ早に面接を入れてしまった。というか入れるしかなかった。
他の日はバイトやら授業やらでどうしても外せない。
_そして田中は灰になった。