就活に苦しむあなたに届ける、ネガティブ×ローテンション×ブラックコメディ。
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目次
一度目の失敗
今目の前にあるのは一台のPC。
そこに知らんおっさんと、僕を含めて三人のスーツ姿の学生が写っていた。
「では、自己紹介をお願いします。」
「私は〇〇大学所属、〇〇と申します。大学では〜...」
「私は〇〇大学所属、〇〇と(以下略)」
心臓はバクバクと騒がしく踊り、僕を上気させた。
「わ、ワタシは〇〇大学...〇〇大...所属...ゴクッ...田中タニシと申します...」
あ、終わった。この面接終わった。
初っ端でつまずくと後に響くのを、僕は痛いほどに知っていた。
と言うか僕の名前は田中タニシではなく、田中タイシである。
「では、自己PRをお願いします。」
「私には決断力があります。大学でサークルに所属しており〜...」
「私にはチームをまとめる力があります。アルバイト先で〜...」
また来るぞ。また来る...僕の番が!
「はい...僕...私はっ...えっと...その、あの...」
はい終わったー。人生終了のお知らせ。不幸せの黒い鳩が届けてくれました。
「それでは面接を終わります。」
パタン。
誰もいない虚しい自室に、PCの蓋を閉じる音が寂しく響く。
僕はそのまま後ろに倒れ込んだ。古びた畳がちくちくと手の甲や頬を刺激して心地が悪い。
なーにー、やっちまったなー。落第生は黙ってフリーター。
横向きになって畳の上に転がったままの積み木のおもちゃを見やる。
こんなことを話せば子供っぽいと笑われるので、誰にも話したことはない。しかし僕の趣味は積み木でお城を作ることなのだ。もちろん履歴書に書くはずもない。嘘でも団体戦のスポーツとか書いた方がいいよ。
再び仰向けになって、天井を見上げる。
電灯がチカチカと光って、僕の目を刺激する。下からも上からもPCの向こう側からも攻撃されて、僕はもうHPが限りなく0に近かった。
「もう、人間辞めたい。」
一人呟いた言葉が、ホコリと共に宙を舞う。僕の人間としての誇りも散っていった。
指先を掠めたスマートフォンがバイブレーションを鳴らす。メールを送ってきた人物は、母親だった。
『お昼ご飯いるー?』
呑気なものだ。僕の気も知らないで。
ほんの少しだけ腹が立った。
しかし僕も趣味以外についてはそこまで子どもではない。
冷静さを取り戻し、スマホを手に取りメールを返す。
「いらない もう食べた...っと。」
はぁ、と深くため息をつく。
いつかは人間をやめて富裕層の柴犬かノルウェージャンフォレストキャットになりたいものだ。
二度目の挑戦
僕は田中タイシ。絶賛就活中。
志望は今の所おもちゃメーカーの企画部。積み木が大大大好きなため「積み木で世界をクリエイト」と言うのを信条としている。
しかし志望職種に勤める前に、まず僕の心が死亡してしまいそうだ。
人間を辞めたいと本気で考えている。
「それでは、弊社を志望した理由をお聞かせ願えますか。」
きた!僕が一番寝る間を惜しんで練り上げた、あのエピソードをご覧じろ!
「はい!えっと、私が御社を志望したのは、幼少期の思い出が深く関わっています。私は幼い頃から積み木遊びが好きで、現在もあらゆる国の積み木をネットでかき集めコレクションしたりお城を作ったりしているのですが、やはり積み木というのは子供だけのおもちゃというイメージが世間一般に浸透しており、僕としてはそういった認識を変えたいと思い恩赦を志望したのですがまず僕がやってみたいことというのが積み木の名前を前衛的なスタイルに変更するということで何案か考えており『ブロキ』とか『ツミック』とか『エクストラツミキレボリューション』とかあとは...」
そこで僕はやっと気がついた。面接官の顔が能面のようになっていることを。
「...a」
「はい、ありがとうございました。以上で面接を終わります。」
「...」
人生終了のお知らせ再来。僕は死にますーーー!!積み木が好きだからーーー!!
はぁ、なんでいつもこうなるんだろう。他の人はもっと上手く自分の強みと情熱を言葉にして相手に伝えることができるのに。時には嘘さえ交えて。
僕は正直者すぎるのだろうか。就活のために自らを汚し、この薄汚れた社会の錆びついた歯車に混じらなければならないのだろうか。
そんな結末が待っているのなら、僕は|争《あらが》う。
この汚い社会を「積み木で世界をクリエイト」しなおしてやる!
そして僕は畳の上に立ち上がった。
突き上げた拳は電灯の影になり、再創造された世界の面影を網膜に映した。