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目次
君に幻覚を。
僕への罰だろうか。
僕への呪いだろうか。
日常が__
**静かに崩れていく音がした**
---
僕の名前は高山悟。
中学一年生だ。
『悟〜!早く行かないと遅刻するわよ〜!』
そう呼びかけるのは僕の母さん。
高山美穂だ。
「うん!分かったよ、母さん!行ってきまーす!」
そう言ってドアを開けると風が僕を歓迎する。
暖かかったので春一番だろうか。
そろそろ中学二年生になる。
後輩を持つんだ。
少し…不安だ。
『行ってらっしゃい』
母さんがそう言ったと同時にドアが閉まる。
なんら変わりない通学路。
なんら変わりない学校。
下駄箱に靴を入れようとすると__
「おはよう。悟」
僕の友達の橘 瑛人。
同級生で同じクラスで席は隣同士。
「うん、おはよう」
僕が靴を完全にしまい切って…
そのまま一緒に教室に行く。
~~何か…様子が…~~
教室に行くと高橋がいつものようにふざけてた。
テレビをつけていた。
---
速報です。現在、8:25。
東山町で『美穂』さんの死体が発見されました。
警察によりますと、苗字は分からないがこれからの調査で判明する…とのことです。
---
美穂…?
いや。きっと別人だ。
そんなはずない。
心臓がドクドクと、うるさいくらいの速さで脈打ち始める。教室のざわめきが、急に遠くの出来事のように聞こえなくなった。
すると教室のドアがガラリと開いて。
静かにテレビの電源を消して…
「高橋、後で職員室な」
「…はい…」
そうして1時間目。
2時間目。
3時間目。
4時間目。
給食。
昼休み。
5時間目。
6時間目。
そして部活。
何事もなく日常は過ぎて__
「ただいま。母さん」
『おかえり、悟』
『悟、おかえり』
こっちは僕のお父さん。
高山隆だ。
『今日、学校はどうだった?』
「うーーん…また高橋くんが怒られてたw」
『またか!?あいつこりねぇなぁ…w』
そんな他愛もない会話を続けて。
次の日。
「えー。高山悟くんですね?」
大人が早朝から訪ねてきた。
「…はい…」
「少し…いいかな?」
ここであったことはあまり覚えていない。
大人の人に。
事情聴取…だろうか?
そんな感じのことをされた。
また学校に行く。
また次の日。
また次の日と…
日常は過ぎていって…
---
続報です。
警察によりますと、容疑者は__
---
『悟、もう行きなさい』
「うん!」
次の日。
また大人の人が来て__
誘拐された。
牢獄のような場所に入れられた。
監禁専用ルームだろうか。
それ目的で作られたとしか言えない作りだった。
僕への罰だろうか。
僕への呪いだろうか。
日常が__
**静かに崩れていく音がした**
いや…日常を…
静かに…
確実に…
僕が…
壊したんだぁ。
え?なんでかって?
だって母さんはもうこの世にはいなくて__
父さんも…
みーーーーんな…
`僕が殺したからね`
「1158番、飯の時間だ」
「はぁ〜い」
僕?はそのままついていく。
食堂に先にいたのは
瑛人だった。
「よう、悟。どうだった?幻覚実験」
「んーー。楽しかった。昔に戻れたみたいで」
「いーなぁ。俺も早くやりてぇ」
「順番待ちだよぉ〜?」
次の日。
「ねぇ。調理人さぁん」
「ん?なんだ?」
「包丁…ある?」
「は?何言って…んだ…?」
悟はニヤリと笑みを浮かべながら。
食品をおく棚の上にしゃがんで手を差し伸べている。
「ありがとう」
「誰も殺すなよ?」
「殺すわけ…ないじゃ〜ん」
悟はその包丁で…
自分の首を。
肉を。
頸動脈を。
切り裂いた。
即死だ。
──プーーー……。
食堂の喧騒が、突如として無機質な機械音にかき消される。
白い部屋の中、モニターを見つめていた研究員が、冷淡に手元の端末に文字を打ち込んだ。
【被験体コード:1158。過去の『家族殺害』のトラウマを再現する幻覚実験中、現実への絶望から自死を選択。実験強制終了】
「……次、橘瑛人の番だ。準備しろ」
隣の部屋で待つ瑛人の元へ、冷たい大人の足音が近づいていく。
ホラー賞を目指してます!
でもできれば最優秀賞がいいn(((殴
████の気候
テンプレは作品の重大なネタバレを招くため、あとがきにて書いてあります
いつも夢の中にはこんな声が響く。
---
「ねえ、知ってる?明日は████なんだって」
「へぇ〜そうなんだ」
---
これで終わり。
短いように感じるかもしれないが…
それだけの。
これだけの。
夢に意味がある。
---
今日の天気をお伝えします。
今日、北海町は晴れのち曇りでしょう。
降水確率は30%程度です。
---
「んー。一応傘持ってくか」
そうしてぼんやりしたまま学校で過ごす。
そうして下校時。
雨が降った。
「傘持ってきて良かったぁ」
傘をさして歩き続ける。
少し歩いていると友達が話しかけてきた。
「なぁ、降水確率30%だったじゃん。30%でここまで降るかなぁ?」
友達がそんな疑問を投げかけると
「そういう日もあるだろ。北海町って言っても俺たちのとこにピンポイントじゃないんだから」
北海町は東雪市に近いところで東雪市は今日、雨の予報だったらしい。
「それもそっかぁ…」
友達がそう言うと。
「スッキリしたわ!また明日!」
「ん。また明日!」
そうして別れる。
また。
夢を見た。
---
「ねえ、知ってる?明日は土砂██なんですって」
「へぇ〜そうなんだ」
---
次第に内容は聞き取れるようになる。
土砂…
なんだろう。
---
予報です。
北海町は晴れでしょう。
降水確率は低いです。
---
そう言われても。
傘を持って行く。
夢の土砂が気がかかりだ。
もし、土砂降りなら__
そうして下校時。
土砂降りだ。
「…マジか…」
そうして歩いてると
ゴゴゴゴゴ__
何かが来るような音が鳴る。
「え?」
土砂降りによる。
土砂崩れだ。
自分の家は山に近い。
走って。
家へと向かう。
すると道路が一部崩れていて、車が落ちていた。
土砂崩れの影響だろう。
幸い、家に人はいなかったはずだ。
でも…住処が奪われた。
あの夢は一体なんだったのだろう。
---
「ふぅ…大変だった」
今、俺は過去の自分に死なないよう、メッセージを送っていた。
俺は過去に土砂降りで走って家まで帰り、土砂崩れに巻き込まれて死んだ。
そこで傘を持たせて余裕を作り、被害を防いだというわけだ。
なんで生きてるかというと、死者蘇生の薬だ。
それを飲んで復活した。
俺はその薬の被検体に選ばれたというわけだ。
「よし。ミッションコンプリート」
彼はまた暇つぶしに過去の自分の
人生を。
記憶を。
覗くのであった__
・なぜそのタイトルにしたか:夢の████は気候のことを言ってるのでこのタイトルにしました。
・こだわったポイントは何か:夢の正体です!
・ジャンルは?:ミステリー?SF?どっちかです!
超特急シニアの裏側
東京駅23番線ホーム。
金属質の鋭いノーズを持つ新型ハイパーリニア『シン・ツバメ』が、微かな駆動音を響かせて滑り込んできた。時速三百キロの世界を約束するその車体は、現代日本の最高技術の結晶だ。
「おい見ろよ、あれが噂の……」
「今日の乗客、政財界の超VIPばかりらしいぜ」
ホームを隔てるガラス越しの群衆が、物珍しそうにスマートフォンを掲げている。招待された一握りの特権階級しか乗ることを許されない、完全予約制のファーストラン。
その喧騒から少し離れた乗車口に、一人の男が立っていた。
氷室 駿(ひむろ しゅん)。
周囲の仕立ての良いスーツや高級ブランドに身を包んだセレブたちの中で、彼のラフな黒のジップアップパーカーとジーンズは異様に浮いていた。手元にあるのは、闇のチェス賭博の元胴元から毟り取った、出所不明のプラチナチケットが一枚だけだ。
「お客様、チケットを拝見いたします」
にこやかに微笑む女性乗務員の胸元には、銀色のネームプレート。
『新藤(しんどう)』。
駿の切れ長い瞳が、彼女の顔と、その奥に見える車内の光景を捉えた。
——カシャ、と頭の中でシャッターが切れる音がする。
新藤。
身長一六二センチ。右の口角の横に小さなほくろ。
制服の第一ボタンの糸が、少しだけほつれている。
彼女の手元にある乗客名簿。上から四番目。『IT担当大臣・江藤(えとう)』。その横の座席番号は『1号車 2A』。
駿にとって、世界は常に「録画」されている状態だった。
一度見た文字、すれ違った人間の顔、空間の配置。そのすべてが、本人の意思に関わらず、消えないデータとして脳のハードディスクに書き込まれていく。
「……結構です。一号車へどうぞ、氷室様」
乗務員が頭を下げる。駿は何も言わず、ただ小さく頷いて車内へと足を踏み入れた。
自動運転システムによって完全に制御された、静寂に満ちた車内。
駿は通路を歩きながら、無意識に周囲の「データ」を脳内に蓄積させていく。
通路ですれ違った初老の男。左足を引きずっている。靴底の減り方は外側。
壁に貼られた緊急避難マニュアル。全四二行。フォントはゴシック体、十一ポイント。左下の配電盤のロックコードは『0418』。
すべてのデータが、彼の脳内で一瞬にして整理され、保管されていく。
一般人なら数分で忘れてしまうようなノイズのすべてが、駿の頭の中では「いつでも取り出せる武器」として整列していた。
窓際の席に深く腰掛け、駿は目を閉じた。
リニアが静かに加速を始める。時速、百キロ、二百キロ、そして三百キロへ。
これが、乗客全員の命を乗せた「終わりのないシミュレーション」の始まりだとは、この時の駿はまだ知る由もなかった。
「まもなく、本列車は最高速度に達します——」
車内アナウンスが響いたその直後。 ガガッ、とスピーカーから耳障りなノイズが走り、車内の照明が一斉に掻き消えた。
「キャッ!?」
「おい、なんだ!? 停電か!?」
車内が完全な闇に包まれた。
静寂だった空間が一瞬でパニックの波に飲まれる。非常用の予備電源が作動し、通路の足元だけが薄暗い赤色のライトで照らされた。時速三百キロの振動が、闇の中で不気味に肌に伝わってくる。
「……始まったか」
**氷室 駿(ひむろ しゅん)**は座席で微動だにせず、ただ静かに目を開けた。
彼の脳は、暗転した瞬間の周囲の動きをすでに完全にスキャンし終えていた。
電気が消える直前、通路を前方に歩いていた車掌の歩幅。悲鳴を上げた女性の位置。そして——一号車の前方、VIP個室の方向から聞こえた、鈍い「ゴトッ」という不自然な物音。
ピンポーン、と緊迫したチャイムが鳴り、車内モニターにノイズ混じりの映像が映し出された。
画面に現れたのは、不気味な**「チェスのナイト(騎士)」のマスク**をかぶった男だ。
『乗客の諸君、パニックにならずに聞いてほしい』
ボイスチェンジャーで変えられた機械的な声が、スピーカーから響く。
『この列車のAI運行システムは、我々が完全にハッキングした。現在、ブレーキを含むすべての手動制御は無効化されている。このままいけば、終点・大阪の車両基地の防護壁に時速三百キロで激突する。……おっと、緊急停車ボタンを押そうとしても無駄だ。配線はすでに焼き切ってある』
車内が悲鳴で満ちる。
『命が惜しければ、一時間以内に十億ドルを指定の口座へ振り込め。……それと、一号車のお客様には、すでに小さな「罰」を受けていただいた。身の程をわきまえさせるためのな。ハハハ……』
プツン、と映像が切れた。
乗客たちが泣き叫び、掴み合いの混乱が始まる中、駿は静かに席を立ち、一号車の最前方にあるVIP個室へと歩き出した。
個室の扉の前には、数人の乗務員と、SPらしき男たちが真っ青な顔で立ち尽くしている。
「開かない……! 電子ロックがハッキングされて完全にロックされている!」
「どけ」
駿は短く言い放ち、SPの男を押し退けて扉の前に立った。
「おい、一般人は下がって——」
駿は彼らの言葉を無視し、扉の横にある操作パネルのカバーを素手で引き剥がした。剥き出しになった電子基盤と、明滅するエラーランプ。
駿の脳裏に、乗車時にチラ見した『シン・ツバメ 構造マニュアル』のページが鮮明に浮かび上がる。全四二行、フォントは十一ポイント。左下の注釈。
——『システムダウン時、ドアの強制解放コードは中央基盤のディップスイッチを2、4、7の順にオンにする』。
駿は指先で正確にスイッチを弾いた。
プシュー、とエアーの抜ける音がして、重厚な扉がゆっくりと左右に開く。
中を覗き込んだ乗務員が、短い悲鳴を上げてへたり込んだ。
個室の豪華なシートに腰掛けたまま、IT担当大臣・江藤が首から血を流して絶命していた。
部屋の窓は完全に閉まっており、中から鍵がかかっていた「完全な密室」。
床には、犯人のものと思われる、返り血を浴びた**「チェスのナイト」のカード**がぽつんと落ちていた。
「う、嘘だろ……ハッキングされてからまだ三分しか経ってない。この密室で、一体誰が……」
怯える周囲をよそに、駿は冷徹な目で室内を見回した。
床に散らばった書類。大臣の首の切り口。そして、部屋の隅にある小さな空気清浄機のフィルター。
駿の頭の中で、乗車時に記憶した「すべての乗客のデータ」が超高速でパズルのように組み合わさっていく。
「三分じゃない」
駿がつぶやいた。
「大臣が殺されたのは、停電が起きる前……いや、この列車が東京駅を発車した直後だ。犯人は、最初からこの中にいる」
「発車直後だと……!? バカを言うな、停電の前に俺たちは何度もこの前を通ったが、不審な奴はいなかった!」
SPの男が駿の胸ぐらを掴みかけるが、駿はその手を冷たく払いのけた。
「お前の目はただ景色を映しているだけだ。脳を使って見ていない」
駿は個室の床に落ちている書類を指差した。
「江藤大臣が持っていたはずの『リニア運行システム仕様書』。全12ページあるはずの書類が、いま床に散らばっているのは7ページ目までだ。残りの5ページがどこにもない」
駿の脳内では、乗車時にすれ違った乗客全員の姿が、鮮明な映像として再生(プレイバック)されていた。
「東京駅のホームで、大臣のすぐ後ろを歩いていた男がいた。男は右手に大きなアタッシュケースを持っていたが、乗車後の座席ではそれを足元ではなく、不自然に膝の上に抱え込んでいた。……そのケースの厚みはちょうど8センチ。中身が空なら、そんな持ち方はしない」
駿の視線が、野次馬の中に混ざっていた一人の男を射抜く。
男の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「新藤さん」
駿は近くにいた乗務員の女性を呼んだ。
「君が発車直後に淹れたコーヒーのトレイ。個室に運んだとき、江藤大臣はすでにサインを終えていたはずだ。だが、大臣の胸ポケットにある万年筆のキャップは閉まったままだ。つまり、サインをしたのは大臣本人じゃない。彼を殺し、書類を奪って、大臣になりすましてドアをロックした男——お前だ、国交省の随行員、佐藤」
「な、何を根拠に……!」
男が後ずさりする。
「お前の靴だよ」
駿は冷徹に言い放った。
「お前が乗車したとき、靴の先端にわずかな『油汚れ』がついていた。それはこのリニアの『手動隔離レバー』に使われている特殊な潤滑油だ。お前は乗車直後、すでに先頭車両の床下へ降り、緊急ブレーキの配線を物理的に焼き切っていた。ハッキングの演出は、ただの目眩ましだ」
「くそっ……!」
正体を暴かれた佐藤は、懐から小型のナイフを抜き放ち、乗客を押し退けて車両の奥へと走り出した。
「追え! 捕まえろ!」
SPたちが動き出すが、駿は彼らを見向きもせず、反対方向——暴走する列車の最前部、配電室へと走り出した。犯人を捕まえても、列車は止まらない。終点までのこり、わずか5分。
駿が走り出したその時、脳の奥深くが、ジリジリと奇妙な熱を帯び始めた。
……待て、何だこの感覚は
推理を完璧に組み立て、すべてのピースが噛み合った瞬間、頭の中に妙な高揚感が突き抜けた。まるで、あらかじめ用意されていた正解のルートを、自分の脳が正確にトレースさせられているような、奇妙な強制感。
耳の後ろの古傷が、狂ったように熱を持っていた。
駿はその違和感を振り払うように頭を振り、時速300キロで狂い暴れる列車の最前部へと足を進めた。
内部に潜む真の悪意が、自分の思考を覗き見しているとも知らずに。
リニアの最前部、高電圧の警告マークが貼られたハッチを開け、駿は狭い配電室へと滑り込んだ。
車内モニターのデジタル時計が非情にカウントダウンを刻んでいる。
大阪激突まで、あと3分。
「……これか」
中央の制御パネルは、犯人の手によってドロドロに焼き溶かされ、無数の導線が複雑に絡み合っていた。火花が散り、焦げた匂いが狭い部屋に充満する。
一般の技術者が見れば、どこから手をつければいいか完全に途方に暮れる惨状だ。
だが、駿は目を閉じた。
——脳の暗黒街から、一冊のデータが引き出される。
乗車直前、ホームのベンチで見知らぬ男が広げていた『シン・ツバメ 試作型配線図面』。
全800ページに及ぶ緻密な国家最高機密の回路図が、駿の脳裏に1ミリの歪みもなくプロットされる。
焼き切られているのは主電源。バイパスは……左から4番目の青の太線。いや、電圧が足りない。非常用制動装置を強制起動させるには、電力を120%過負荷させる必要がある。そのためには、運行システムのコア暗号を書き換えて安全リミッターを解除しなければならない
駿の指先が、緊急用端末のキーボードの上を猛烈な速度で走り始めた。
彼の驚異的な頭脳が、リニアの暗号鍵を次々と解読し、システムを強制掌握していく。
その瞬間、駿の耳の後ろの古傷が、焼火箸を押し当てられたかのような激痛に襲われた。
「が、あッ……!?」
脳が沸騰するような熱さ。視界が一瞬だけモノクロになり、時間がスローモーションになる。
駿の脳は、この時気づいていなかった。
彼がリニアの鉄壁のセキュリティ暗号を解き明かし、システムを完全に支配したその瞬間、彼の脳内に埋め込まれた非合法チップを通じて、その【暗号のマスターキー】と【リニアの全制御データ】が、外部のサーバーへとリアルタイムで高速転送されていたことに。
『ピーーーーーーーーーーーー』
耳の奥で、頭蓋骨を突き刺すような不気味な電子音が鳴り響く。
データの送信完了を告げる、組織のシステム音だった。
「残り、60秒……!」
痛みに耐え、駿は工具箱からプライヤーを掴み取り、火花が散る配線群の中に手を突っ込んだ。
時速300キロで激しく振動する車体。1ミリ手元が狂えば、数万ボルトの電流で即死する。
脳内の図面と、目の前の溶解した配線を重ね合わせる。
これだ。
駿は、黄色と赤の混ざった太い同軸ケーブルを掴み、力任せに引きちぎった。それを、高圧電流が流れるメイン基盤へと直接叩きつける。
「止まれッ!」
バチバチバチッ!! と激しい紫色の閃光が配電室を包んだ。
キィィィィィィィィィィッ!!! という、すさまじい金属摩擦音が響き、ハイパーリニア『シン・ツバメ』は、終着駅の防護壁まで残りわずか数メートルのところで、完全に停止した。
激しい呼吸を繰り返しながら、駿は床にへたり込んだ。
助かった。乗客の歓声が、壁を隔てた向こう側から微かに聞こえる。
しかし、駿の心臓は別の理由で激しく鳴り響いていた。
命を救ったはずなのに、胸を焦がすようなこの「敗北感」は何だ。
駿は震える指先で、自分の右耳の後ろに触れた。
そこには、硬く小さな、記憶にない「手術の縫い痕」が、熱を持ったまま確かに残されていた。
事件の翌日。
都内の寂れたビジネスホテルの客室で、駿はテレビのニュースを眺めていた。
『——昨日発生したハイパーリニア暴走テロ事件ですが、警察は国交省随行員の佐藤容疑者を逮捕。背後に国際的なテロ組織の関与があるとみて、捜査を進めています。また、乗客を救った命の恩人である「謎の青年」については、未だ行方が分かっておらず……』
アナウンサーの声を聞きながら、駿はベッドの縁に腰掛け、冷え切った缶コーヒーを口にした。
乗客たちの歓声に紛れ、事情聴取を受ける前に現場を去ったのは正解だった。下手に英雄扱いされれば、自分の過去を探られるリスクが高まる。
駿は右耳の後ろに指先を這わせた。
腫れは引いたが、あの時感じた脳の沸騰するような熱さと、耳の奥で響いた「ピー」という電子音の不快感だけが、今もべっとりとこびりついている。
「佐藤の靴の油汚れ、ホームで見知らぬ男が広げていた図面、都合よく手に入ったプラチナチケット……」
脳内の完全記憶から、今回の事件の全プロセスをリプレイする。
すべては自分がロジックで導き出した正解のはずだ。だが、まるで誰かが引いたレールの上を、自分の天才的な脳がただ走らされただけのような——そんな強烈な違和感が拭えなかった。
「……誰だ、俺を動かしているのは」
駿は静かに目を閉じ、次の「ノイズ」が訪れるのを待つように、深く息を吐き出した。
---
同じ頃。都心の超高層ビルの最上階。
外界の光を遮断した漆黒のオフィスで、一人の男が大型モニターを見上げていた。
画面に映っているのは、リニアの配電室で髪を振り乱し、必死にキーボードを叩いている駿の防犯カメラ映像だ。
「実に見事だ、氷室駿」
男はワイングラスを揺らしながら、満足そうに目を細めた。
手元のタブレットには、駿がリニアのセキュリティを解除した瞬間に、彼の脳内チップを介して「ダウンロード」されたばかりの、国家最高機密データが並んでいる。
【ハイパーリニア運行システム:完全暗号鍵・統括権限:取得完了】
「日本の警察やセキュリティ会社が数年かけて作った鉄壁の防衛網も、君の脳にかかれば、わずか数分で解読される『最高の鍵』になる」
男がデスクのボタンを押すと、モニターの映像が切り替わった。
次に映し出されたのは、海の上に浮かぶ巨大な【最新鋭のハイテク豪華客船】の設計図だ。
「第一段階はクリアだ。さあ、次のステージへ進もう。次も君が『正義』のためにその天才的な頭脳をフル回転させてくれるのを、楽しみにしているよ……」
男の胸元には、鈍い銀色に光る**「チェスのナイト」のバッジ**がピン留めされていた。
【名前】📖【ヘビ】🐍
【作品に込めた思い】一般人が実は裏で暗躍していると言う設定は書くのが初めてなのでこだわらせていただきました。
【目指している賞】ミステリー賞
戦争
戦争には、血生臭さが漂っていた。
口の中には、鉄の味。
みんな赤い血を垂らしている。
うるさい。
静かにしろ。
そんなことを思っても…
平和になれ。
そんなことを思っても…
かなわないのが、この世界だ。
「がぁ!?」
その人は右足を撃たれて身動きが取れなくなっていた。
「やめ——」
その瞬間、またうるさい音が響いて。
僕に赤く、べっとりとしたものが付着する。
目の前で人が死んでいく光景を何回も見てきた。
もう誰も、自分の目の前で死んで欲しくないのに。
自分より先に死んで欲しくないのに。
かなわない。
無理だ。
そんな弱音を吐いたって、意味がない事はわかってる。
常識は通用しない、この戦場。
何をしたら、人類は平和を手に入れ、何をしたら争い事はなくなるのだろう。
人類は歴史から学ばない。
過去から学ばない。
キューバ危機で戦争の恐ろしさを知ったはずなのに。
なんでまだ、核戦争寸前なんだろう。
ブロロロロ、と戦闘機の音が聞こえる。
…戦闘機じゃない。
爆撃機だ。
この戦場はもうすぐ終わる。
また逢う日まで。
大丈夫、僕は死なない。
「はぁ…もう一度」
これまでの出来事が脳の中をフラッシュバックしていくように、時間が巻き戻っていく。
「はぁ」
また、誰も救えない。
うるさい。うるさい。うるさい。
狂気に染まったこの戦場で、戦い続ける。
自分さえも、狂気に染まる。
誰も救いようがない。
そんな戦場で——
「二等兵の癖に突っ立ってんじゃねぇぞ!!!!」
上官の声が響く。
俺は腰にあったピストルを持って。
少し人差し指を動かすだけで——
敵兵が倒れる。
正確無比な銃弾。
これだけで階級は上がるだろう。
でも、爆撃機の襲来を抑えられない。
また、戻らなきゃ。
どんどん息遣いが荒くなっていく。
巻き戻らなきゃ巻き戻らなきゃ巻き戻らなきゃ巻き戻らなきゃ巻き戻らなきゃ——
そう考えているうちに、俺は。
`死んだ`
『もう一度』の一声も出せずに。
後ろにいた敵兵に殺された。
これで俺は終わり。
俺の物語はこれで終了。
戦争の結果はどうなるのかなんて…
今の俺に知るよしはない。
まだ、できてないこともあったのに。
ごめんなさい。
何もできなくて。
何も成し遂げられなくて。
もう、救えなくなっちゃった。
自分自身が壊れていって、意味なんてなくなったんだ。
最初から、戦争なんか行かなければよかった。
戦争がない国に生まれたかった。
平和な国に生まれたかった。
でも、今はどこも戦争してる。
平和な時代に、平和な未来に。
行きたかったなぁ。
生きたかったなぁ。
ごめんなさい。
皆さん。
増殖。
俺は、増えている。
今なお、増え続けている。
何回増えれば良いのだろうか?
一体何回——
何十回——
何百回——
数え出したら、キリがないと思う。
どうして俺はこんなになってしまったんだろうか?
---
「…暇だな」
俺の名前は「高場 大翔」。特になんもすることがない高校生。いわゆる不登校。
暇なのは、おそらく不登校だからだろう。
最近、Safariのシークレットモードというのを使っているが…
履歴が残らないため、よくプロフィールなどを作るやつで、ログインとかがないものでは増殖してしまう。
俺も、増殖したら便利なのにな。
次第にそう考えるようになってきた。
その次の日のことだろうか。
何か変なチク、という痛みがして。
目覚めて、隣を見てみたら謎の膨らみができていた。
気になって布団を裏返すと、そこにいたのは——
「ドうモ、オリジナル」
俺に似た、何か。
防衛反応が働いたのだろうか?
俺は、その場からとっさに逃げ出した。
逃げて、逃げて、逃げた。
もうそいつはいなくて、安心したと思った時。
また痛みがした。
今度はちゃんと見た。
自分が半分になっていく様子を。
「あ?あぁ…あぁ!!ああああああああ!?!?!?」
不思議なことに痛みはあまりないのだが、自分が半分になっていると言う感覚だけで自然と痛みが出てきて、自然と悲鳴なども出てくる。人間は面白い構造をしている。
実際は無い情報でも、脳が勝手に補完してくれる。
ありがたいのか、ありがたくないのか。
そんなことを考えているうちに、俺はまた分裂した。
「ドうも。オリジナルノ私」
恐ろしいことに、先ほどより、日本語が流暢になっていた。
まだ少し粗い部分もあるが…
外国人だと言われたら、信用できるほど。
俺は、その事実に恐怖した。
怖い。怖い。
たったそれだけの考えが頭を支配していく。
他に何も考えられないように。
また、自分が半分になっていくことも、認識できずに。
また、半分。
もう、半分。
十回ぐらい増殖した頃には、もう自分を超えていた。
「どうも、あなたがオリジナルですね?」
…と。さすがの自分でも、ここまで丁寧な日本語を使った事は無い。
そんな事実に、恐怖をした。
次第に分裂間隔が短くなっていって。
最終的には一秒に一回。
---
そうして、今に至るのだ。
治療法は無い。
ここから、巻き返すことはできるのだろうか?
そんなことをぼんやり考えながら、また増殖していく。