知り合いの代わりに、他人の葬式に参列していただけだった。
何かに背中を叩かれて振り返ったのが、私の運命の分かれ道だった。
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目次
もしもし
私、草薙栞は今、欠伸を噛み殺して畳の上を静かに歩いていた。
何故かって?これが知らない人の葬式の最中だからだ。
急な用事で行けなくなったとかで、知人の代わりに急遽参列することになった。
だがその知人も本来は代理役だったらしく、故人のことはよく知らないらしい。
私からすれば遺影の中で笑うのみの故人のことなど余計に全く分からないのだ。
ほぼ、というか絶対に他人である。知人の知人の知人の葬式など初めて聞いたわ。
最早参列する意味があるのか分からない。そんなことをぼーっと考えていた。
焼香を終え、席に戻る。私は最後の方だった。血縁の近さ順なので、当たり前か。
その時、後ろから微かに気配がした。他の参列者が身じろぎでもしたのだろうと
思い、特に気にすることもなかった。しかし今度は明確に感触があった。声も。
「あの、もしもし?」遠慮がちな呼びかけは続く。誰かが私に用があるのかな。
丁度花入れの番が回ってきそうだったので、こっそり後ろに振り向いてみた。
そこには、どこかで見たような、見てないような、スーツを着た男性が居た。
「どうしました?」
「あの、これって、誰の葬式ですか?」
変なことを聞くなぁ。なんでこの場に居るのに知らないんだろう?
とはいえ私も名前まではあんまり覚えていない。花入れの順番も来てしまった。
「ちょっとお待ちくださいね」
席を離れ、故人の棺に入れる花を受け取る。そういえば、葬式なんて初めて来た。
これが死化粧か、まるで生きてるみたいだな。なんて思いながらそっと花を置く、
はずだった。私は花を取り落としていた。だって、そこにあった故人の顔は・・・!
慌てて花を棺の中に置き直し、平静を装って席に戻る。
さっきの、さっきの|幽霊《・・》はまだそこに居た。
2人で小声で会話する。
「あっ戻ってきてくれた。みんな話しかけても無視なものですから・・・」
「いや、貴方死んでますよね!?」
「・・・?」
「貴方の名前を伺っても?」
「東雲|柊《しゅう》ですが・・・何故僕の名前が?」
「それでは前方をご覧ください」
やっぱり、と思い祭壇を指し示す。そこには遺影と故人の名前があるからだ。
「・・・僕ですね」
「ですよね。終わるまで待っててください。貴方、他の人からは見えないらしくて」
そう、幽霊こと東雲さんは、僧侶さんが話している最中に思いっきり立っている。
しかしこの場の誰もが気にしていない。見えていないのだ、私を除いて。
東雲さんは、よく見ればうっすら透けている足で大人しく会場の隅に移動した。
やっぱ幽霊って足透けるんだなぁ・・・
続編どこまで出せるか分からないですヨ・・・
死んだ理由
「ということで無事式が終わった訳なんですけど」
「何も無かった訳ではないですよね・・・すみません」
東雲さんは申し訳なさそうに俯いている。
遺影からは黒髪好青年、という印象を受けたが、目の前にいると存在感がすごい。
何故なら彼の身長が、クソデカだからだ。本人に聞いたところ、180㎝前後らしい。
私は150前後なので死ぬ程羨ましいが、黙っておいた。
私が彼について全く知らなかったこともあり、お互いに改めて自己紹介をしあった。
『草薙栞です。さっきは貴方の葬儀中に取り乱してすみませんでした』
『東雲柊といいます。驚かせてしまい申し訳ありませんでした』
そして移動した公園のベンチで、改めて東雲さんについて話し合うことになった。
葬式の時同様、私は東雲さんの目を見ずに、画面はOFFでスマホを見て話している。
口もなるべく開けずに話している。空気中に向かって話しているのは流石にマズい。
そう、東雲さんと色々試したところ、彼が幽霊であることがほぼ確定した。
子供に勝手に混ざってサッカーボールを蹴ると、子供たちが不思議そうな顔をした。
透けている部分の足に私が触れると、手が完全に貫通した。他は触れた。
お婆さんに声をかけたが、全然反応しない。
つまり東雲さんは、姿と声は他の人に見えず、物理では干渉できるということだ。
いや最後の婆さんに関しては耳が悪いだけの可能性もあるが、
葬式中の様子からするとやっぱり声も届かないのだろう。
それって・・・・
「最強の透明人間じゃないですかっ」
「えっ」
「だってだって、見えないのに干渉したい時だけできるんですよ!強いでしょ!」
「僕はそんな悪用するつもりはないですよっ!」
私だったら絶対悪用する。つまみ食いとかする。東雲さん偉いなぁ。
冗談はさておき、私は気になっていることの一つを聞いた。
「で、聞いていいか分かりませんけど、なんで死んだんですか?」
「あー・・・とても恥ずかしい理由なのですが・・・聞きます?」
「聞いていいならば、聞きますけど」
なんだか照れて勿体ぶっている。そんなにしょうもない理由なのか?酒とかか?
「飲み会で・・・同僚に思ったより飲まされてしまいまして、」
「アルコールですか」
「はは、僕かなりお酒弱くて、いつもは飲み会控えてたんですけどね。
その日は確か、同僚の空きを埋めるために行ったはずで」
ああ・・・今日の私とどこか似ている。
「帰り道に、何があったかは覚えてないんですけど、死んだんだと思います」
「それは・・・・なんというか、可哀想としか」
私はお酒耐性普通オブ普通なので普段は飲まない。弱い人は大変だよなぁ。
不憫だな、この人。少し胸が痛んだ。
「スーツだったのもそういうことだったのかぁ・・・」
「ああ、それで参列者だと思われたんですね」
どっちからは分からないが、二人ともクスリと笑い出した。
この人の人生、果たして幾つの幸せがあったのだろうか。
これから
「これからどうするんですか?」
「どうしましょう」
ひとしきり笑った後、二人でスン・・・と真顔に戻る。
いくら幽霊とはいえ東雲さんを放っておく訳にはいかない。カラスが鳴いた。
時計を見ればもう6時半だ。日は落ち始めている。
喪服でいつまでも公園にいるのもなぁ。早く帰りた・・・帰る?
「東雲さん、遺族の方は良いんですか?私なんかに着いてきちゃまずかったのでは」
「いえ、家族とはあまり良好な関係ではないので・・・もう良いかなと」
「へぇ・・・あ」
東雲さんみたいな人でも上手くいかないこともあるんだと思っていると。
ポツリ、と顔に何かが当たった。それは次第に数を増やし、私達を濡らしていく。
雨が降り始めたのか。・・・洗濯物を中に入れた覚えがないぞ。外じゃねぇか。
「やばいっ!東雲さん、とりあえず家来てください!!」
「はい!?」
返事を待たずに駆け出す。もう他のことなど頭の中になかった。洗濯物ぉ!!
案の定洗濯物は無事ではなく、取り込んでもう一度洗濯機行きとなった。
そこで私は東雲さんをどこかに置いてきた可能性に気づいた。
走ったり電車に乗ったりで結構な距離を移動しているから、置いてきたならマズい。
「く、草薙さん・・・僕、僕・・・」
あぁ後ろに居た。良かった。
「初めて罪を犯してしまいましたぁ・・・!」
は。はぁ。
「どっどうしたんですか落ち着いて!」
「草薙さんに必死に追いつこうとして・・・勢いのまま電車に乗ってしまいました」
「幽霊なら無賃乗車もギリセーフだと思いますけど」
「でも・・・うぅ」
真面目な人だな。私だったら無賃で色々やりまくりたくなっちゃうけど。
「はっ、それに、勝手に家に入ってしまってすみませんでした」
「それは多分貴方を置いてった私が9割悪いので気にしないでほしいですね」
幽霊はドアとかのすり抜けもできるのか。ちょっと羨ましいかも。
成仏できますか
「まあ折角家にいるのでね、私で良ければ貴方の力になりましょう」
「いいんですか!」
このまま東雲さんをこの世でうろうろさせるのも後味が悪い。
「では、成仏・・・します?」
「えっ僕成仏できるんですか」
「まぁ、ゴリッゴリのゴリに未練が残ってる訳じゃないならそれなりに」
「すごい・・・草薙さんって霊感あるんですか?」
「全くないですよ。祖父ちゃんの遺した塩とお札でなんとかやってみます」
一人暮らししてからずっと仕舞われていた、除霊セットを取り出す。
死んだ祖父ちゃんが私にくれたものだ。丁寧なことに、説明書付きだ。
「えーと、部屋の四隅に盛り塩したので、真ん中に立ってください」
「こうですか」
「それから・・・相手の頭と私の左手首に札?配置気持ち悪・・・」
東雲さんのおでこにペタっと貼り付けてみる。キョンシーみたい。
「舌に塩を敷いて、小指の血を手首の札に。それから呪文と相手の同意」
じゃあいきますよ、と呪文を唱え始める。
『汝 うつし世を彷徨いし者よ 灯火を持たぬ者よ 汝の安らぎは此処にはあらぬ
我 汝を送る者なり 今 此処に汝の道が開けり 未練の残すことなからば』
「我 未練の残るものなき者なり」
『急々如律令!!』
呪文は言い切ったはずなのだが、いつまで経っても発動しない。
おかしいと思って説明書を見直そうとして顔を上げてみると、
東雲さんの額の札が真っ黒になっていた。赤い字で何か書いてある・・・?
『此の者 未練の残りたる 道は開かぬ その刻まで』
仰々しく書いてあるが、つまるところ、「未練残っとるやないかい」という訳だ。
東雲さん、全然未練ある感じしないけどなぁ・・・聞くのが早いか。
「東雲さん、未練残ってたりしませんか?」
「そんなはずはないと思うんですけど・・・」
二人でうーんと頭を抱えても思い当たる節はない。仕方がない。
「東雲さん、明日は陰陽師さん呼びましょうか」