編集者:R!u.
さや香という名の世界一不仲コンビ。
名誉覆えさせます。
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目次
目が覚めても、そこにいて。
不仲コンビで有名なさや香。
お互いプライベートで話すことなどなく、本当にビジネスパートナーでしかない。
そんな2人の距離が、ほんの少し縮む話。
石井side
「ん、…」
うわ、やらかした。
目覚めた瞬間から嫌な予感がした。
体が重く、以上に体が熱い。
昨日土砂降りの中、近所の子供が傘を忘れたと言っていて渡してしまったのが原因。
でも今更その子を憎めないから、もう一度布団に顔を埋める。
今日は大事な収録に日。
スマホを開くとロック画面に映し出される時間が9時24分と示している。
今日の打ち合わせは10時からで、45分には出なければならない。
パスワードを打ち込み、LINEを開く。
「新山に…連絡…、」
いつも憎まれ口を叩きあう相方に『熱が出たから休む』なんて送りたくない。
「チッ」と舌打ちをしてスマホを閉じる。
行くしかない。
先ほどよりも更に重くなった体を持ち上げて洗面所へと歩いた。
新山side
静かな楽屋にゲームのスコア音が響く。
楽屋に着き約20分、時刻は収録時間を少し超えた10時10分を回る。
普段は自分よりも早く楽屋に着き台本を読んでいる相方の姿がなく落ち着かない。
「連絡もつかんし…」
ゲーム画面をスライドさせて、石井とのライン画面を写す。
10時ジャストに送ったメッセージに通知はない。
既読無視は多くあり、逆に未読無視と言うのが新山を不安にさせていた。
事故に遭ったのではないだろうか。
何か急用ができたのか。
自分らしくないとは思いつつも、そう思わざるを得なかった。
諦めてもう一度ゲーム画面に戻した所で楽屋のドアノブが回る音がした。
「っ悪い、遅れた…」
そこに現れたのは息を切らした石井だった。
「…遅かったな」
怒る気力なく、ただそう呟く。
「準備に手こずっただけや。」
そう軽く返したかと思うと俺に背を向けた。
なんやねん、こっちは心配しとったんに。
少し怒りが込み上げてきたが、これから打ち合わせだから空気を悪くするわけにも行かず、黙ってスマホへと顔を戻した。
ただ、いつもより少し違和感があったのを俺は無かったことにしてしまった。
石井side
準備に手こずったというのは、嘘。
体が思うように動かず、その上嘔吐して時間を削ってしまった。
片付ける時間もなく諦めて家を出て急いだが、10分ほど遅れて到着した。
新山は特に怒ることなく聞いてくれたが、朝から続く頭痛にイライラしてつい冷たく言い放つ。
気まずくて顔を見れず背を向けると、背後から怒りを感じた。
怒らせたな、とすぐに察したがなんと声を掛ければいいかも分からずそのまま打ち合わせの準備をする。
打ち合わせが始まり、いつも通り意見がすれ違う。
「ここは観客からのウケ狙った方がええやろ」
そう言うと新山からさっそく反論が返ってくる。
「いや、そこはまだいつも通りでええやん」
意見がすれ違うのはいつも通りのことだが、今日の俺にとってはそれが辛かった。
早く打ち合わせを終わらせて帰りたい。
それなのに、またいつも通り予想時間を大幅にオーバーして切り上げる未来が見える。
このままじゃ熱があるのがバレるのも時間の問題だと思って意見を変えた。
「…じゃあいつも通りな」
そう言って台本に目を戻す。
視界の隅には不自然だと言う表情を浮かべた新山の顔が映る。
「ここは、どうしたいん」
俺が意見を言ったってすれ違うだけ。
それなら、もう新山の意見で決めてもらおう。
そう考えていたのに。
「…お前はどうしたいん」
は?と言いたくなり顔を上げるとどこか心配そうな顔をした新山と目が合う。
なんでそんな顔するん。
そう聞きたくなるような表情を浮かべていた。
「…俺は、別になんでもええ」
「なんでや、お前のことでもあるやん」
「別に他人事にしとるとちゃうわ」
「じゃあお前の意見も聞かせろや」
言い合いがヒートアップする。
新山の声が狭い楽屋に反響して響く。
それが更に俺の頭を痛くしていく。
もういい、帰ろう。
そう思って俺は言い返さず立ち上がる。
「…もうええ、そっちで決めといて」
それだけ残して楽屋のドアノブに手をかける。
「おい、待てや!」
後ろから新山が俺を引き止める声がするが、無視をして部屋を出た。
新山side
石井が出ていって再び楽屋に沈黙が訪れる。
いつも通りのすれ違いからの言い合いへのヒートアップ。
だけど今日の石井はどこかおかしかった。
遅刻してくるし自分の意見を貫き通さない。
そして、出ていってしまった。
何も変わらないいつもの打ち合わせだったのに。
石井にとって、何がダメだった?
スマホを起動させロックを解除して石井とのLINE画面を映し出す。
俺のメッセージには未だ既読がついていない。
『どこにおるんや』とメッセージを送ると、どこからか通知音が聞こえてきた。
まさかと思い音の聞こえた場所へ近づくと、そこには石井のスマホがあった。
どうせ石井は戻ってこないだろうと予想して石井のスマホを片手に楽屋を出る。
車に乗り込み、普段向かうことのない石井の家へと車を発車させた。
石井side
酷い頭痛に耐えきれず、家へ帰宅してきた。
ベッドまで歩ける気もせず玄関でそのまま崩れ落ちる。
「はぁ、…、」
自分の息遣いだけが家の中に響く。
絶対、朝より体温が上がっている。
やっぱり無理するんじゃ無かった、と今更ながら思う。
なぜだか働かない頭は新山に助けを求めていて、勝手に手がスマホを探す。
「…最悪」
ポケットやバッグの中を探っても見つからず、楽屋に忘れてきたと悟る。
終わった、と思った。
もう完全に動かなくなった体を壁に預けて目を閉じた。
どうか、誰か助けに来てくれますように。
新山side
石井の家の前に車を停める。
家の玄関を登りインターホンを押す。
しかし返事はなく、家の中から音がすることもない。
まさか家に帰ってきていないのか。
不安になったが、石井の車はちゃんと駐車場に停まっている。
もう一度インターホンを鳴らす。
しかしそれにも返ってくる声はない。
ダメ元でドアノブを掴み少し手前に引いてみる。
するとドアはすんなりと開いた。
「アイツ、鍵も閉めずに何してんねん…」
そう呟いて家へと足を踏み入れた瞬間、血の気が引いた。
そこには崩れ落ちるように壁に背中を預けている石井の姿があった。
「ッ、おい、石井!!」
名前を呼び体を揺するが返事はなく、目も開くことはない。
しかし触れた体は異常なほど熱く、今日の出来事全てが繋がる。
コイツ、熱があったから今日おかしかったんだ、と。
意識を取り戻さない相方を横抱きにして、部屋へと入った。
石井side
「…ん、」
目を覚ますと、そこは冷たい床ではなく布団の上だった。
隣には、新山の姿がある。
来てくれたのか。
「起きたか」
そこには心底安心したような顔の新山がいた。
「にい、やま…」
「熱、あるんやろ。起き上がらんといて、また倒れたら心臓持たんわ」
茶化すように苦笑いを浮かべる新山を目の当たりにして、こんな顔初めて見たなと思う。
「…今日、打ち合わせ、…ごめん、」
ちらっと新山の顔を見ると驚いた表情を浮かべていた。
「…別に、また今度でええやろ。ていうか、お前がやかましくないとこっちがギクシャクするわ」
ふい、と顔を背けた新山に、つい笑いが溢れた。
何笑ってん、と言う新山を「ごめん」と軽くあしらう。
「はぁ、ったく…もう寝ろ、寝てはよ下げろ。」
頭に手を乗せる新山に質問を投げかける。
「…俺が起きても、ここにおってくれるか。」
自分らしくなさすぎて新山の顔を見れなかったが、きっと凄く驚いた顔をしていただろう。
少しの間があってから、新山にベッドへと押し戻された。
「…んなこと言われんくてもおるわ。やから、お前は安心してはよ治せ。」
そこには呆れたような笑顔を浮かべる新山がいた。
その声を最後に俺の意識は遠のいていった。
目が覚めても、そこにいてと祈るように目を閉じた。
end
お話に付き合ってくださりありがとうございました♪
ぜひ次の作品更新までお待ちください♪
またリクエストもお待ちしております♪
泣きたいなら
『泣くなら俺の前で泣けよ』
『1人で泣くなよ』
『俺がおるやろ』
〜♪✴︎
石井side
『結局、不仲営業なんでしょ?』
『そういうので売れるのはちょっとどうかな』
『それでしかやっていけないのが可哀想だよ』
不仲営業。
その言葉で俺たちは売れてきたって。
そう言われることが増えた。
でも、実際は違う。
ただ本当に自分たちのプライベートに割り込まない。
それだけなのに。
「なんで、こうなるんやろ…」
枕が涙で濡れていく。
最近、こうやって気づけば泣いていることが多くなっていた。
楽屋で何言われたって平気なのに、家に帰ると止まらなくなる。
ぶつけれる相手もいなくて泣くだけ。
『お前最近目腫れてないか』
珍しくネタ以外のことで話しかけてきた相方にギクシャクして、違うと言ってしまった。
『気のせいやろ』
あの時、もうちょっと言葉を変えて頼れていれば。
もしかしたら今1人で泣く時間なんて、もう無かったかもしれないのに。
…なんて、誰に期待しているんだろう。
新山side
「不仲営業か…」
今日、とある事務所の先輩芸人に不仲営業と言われた。
本当は仲良しでした〜なんてことも俺たちにはないし、不仲営業ではないんだけど。
まあそれで売れちゃったら周りもそんな風に思うかなーなんて。
石井が家へ帰ってから静かになった楽屋でぼんやり壁を眺めている。
そういえば、アイツ最近なんか静かやな。
一度思えば気になって、楽屋の椅子を引いて立ち上がった。
「行ってみるか」
車に乗って石井の家へと向かった。
石井side
もう、なにもしたくない。
一度泣いて体力が削られると体が動かなくなる。
起動しないロボットみたいだな、なんて自分で考えて乾いた笑いが溢れた。
【ピロン】
「…誰、」
横に置いていたスマホが音を出す。
見ると新山からだった。
<「お前、今家おるか」
「は、なんやねんコイツ急に…」
「おるけど」>
<「鍵空いてるか」
「閉めとるけど、なんで」>
<「家来た、開けて」
『は?』と返信しようとしたがコイツは何言っても引き下がらないだろうと思って玄関まで行く。
【ガチャ】
「…よぉ」
「よぉ、やないし。何しに来たん」
「まあまあええやん」
「ちょ、何入ってんねん勝手に…」
諦めて新山の背中を追いかける感じで部屋へ戻る。
「…朝より、目赤なってへん?」
「なってへんわ、気のせいやろ」
最悪、泣いたばっかだから朝より酷くなってんだ。
話題を逸らそうとして「座れば」とソファへ促す。
絶対、泣いてるなんてバレたくない。
どうせコイツの前やと涙も出らんやろ、と思っていた俺がバカだった。
新山side
石井の家へ、ほぼ無理やり入った。
石井は渋々といった顔をしていた。
気になってしまうのは、目。
朝も腫れていて気になったが、今は朝より酷くなっている気がする。
本人はなっていないと言っているが、その目で言われても正直説得力はない。
そもそも赤くなって腫れた理由はなんだ?
ふと浮かんだのは「泣いた」だった。
石井によってそんなことはないだろうけど、一理あるなとは思った。
最近先輩からの言葉も強いし、なんだか暗い雰囲気の時もある。
理由がわからなくてモヤモヤするくらいなら、実践してやる。
「おい、石井。」
「なんや」
「また先輩から不仲営業やって言われたで」
「…そうなんや」
どこか悲しそうな顔をする相方にもっと追い打ちをかけるように言う。
「そんなんで売れたって、全然すごいことちゃうとぞって」
「…」
「そこまでせんとお前らは売れんのかって」
「知っとるわ」
石井の声が部屋中に響いた。
やば、言いすぎた。
そう思うのは、一歩遅かった。
「…別に不仲営業とちゃうのに、そうやって言われて新山は平気な顔してられるん?」
自嘲気味に笑った石井の目から、一つ二つと雫が落ちていく。
やっぱり、こんな風に泣いてたから腫れていたのか。
そんな石井を見て、全部を石井1人で抱え込んでいるように見えた。
居ても立っても居られず、気がつけば石井は俺の腕の中にいた。
石井side
新山の前でだけは泣きたく無かったのに。
溢れ出したら止まらないのを知っていたのに。
気がつけば俺の体は新山の腕の中に収められていた。
「…なんで1人で抱え込むんや」
いつもと違うトーンの、なんだか変な新山がいる気がする。
でもそれが心地よくて、背中に回された手に力を入れる。
「俺だって、さや香やろ。お前の、相方やろ」
また、涙が溢れていく。
「辛くて泣いてまうなら、別にそれでもええよ」
でも、と後付けするように少し体を離し目を合わせる新山。
「泣くなら俺の前で泣けよ、1人で泣くなよ。…俺がおるやろ」
その言葉を聞いた瞬間、完全に力が抜けてその日の記憶はもうなかった。
でも、ただ安心した。
俺は1人じゃないって。
そう思えた日だった。
end
お話に付き合ってくださりありがとうございました♪
ぜひ次の作品更新までお待ちください♪
またリクエストもお待ちしております♪