個人的に好きなボカロ曲を小説にします。
1話読み切りです。何から読んでもOK
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目次
ヴィラン
使わせてもらった楽曲 ヴィラン
てにをは様
晴瀬です。
男にも女にもなれない、なりたくない恋する少女の話です。
きっと、手を繋ぐことすらできない。
どんなに僕が好きでも、そんなのは夢のまた夢。
侵害される、そう言われる。
こんな僕が君を好きなだけで「侵害している」と。
突然変異とかじゃない。
生まれつき、僕は僕だ。
ただ、の僕さ。
Xとか、Yとか、そんなのに縛られてて何も疑問を抱かないなんて皆平和だな。
性別を決めるときの染色体?かなんかなんだよ。
X、Yとかね。
そんなの、なくなればいいのに。
こんなものがなくなれば僕は幸せだった。はずなのに。
頭がいい、論者さん達は善も悪も表も裏も手持ちのカードのように隠し持っていて、その時に応じて出す札を変えていた。
卑怯なのは誰にだって分かるはずなのに誰も声を上げない。
怖いから。
怖いものからは目を背けた。
楽だったから。
僕は、僕のせいで君を侵害してしまうのは、君を悪者にしてしまうのは、嫌だ。
すごく嫌だ。
僕は悪者で、悪役だ。
イカれ狂った悪役だ。
君のために夜遊びを繰り返した。
違う服着て君の前では男子のふりをして。
夜君に会えればもうそれでよかった。
友達として、それでもうよかった。
僕はきっと君と無条件に一緒にいられる夜のほうが花のように輝いているんだろう。
まっすぐな笑顔で。
君に会えるなら、家族と気まずい時を過ごさなくていい。
一石二鳥じゃないか。
昔、映画を見た。
SF映画だった。
Dr.Duran。
悪役だった。その映画の悪役の名前。Dr.Duran。
その人に言いたい。
迎えに来てほしい、と。
僕を悪役の世界に連れて行ってくれ。
僕はずっとここにいるから。
僕は性別に囚われたと自覚した時点で、僕が顔も知らない人にとっての悪役なんだ。
こんなやつは、誰にとっても悪役だ。
僕の性格も何も知らないのに、性別を消したいと思ってしまう時点で悪者なんだ。
悪役。悪役。悪役。悪役。悪役。
僕は悪者なんだ。
嫌われ妬まれ、疎まれる。
そんな人生を送ることが分かっている僕は皆の悪者だ。
挙句の果ては、ぐだぐだのどろどろだ。
学校?
学校ではすべてを隠していた。
逸脱した性を知られないように。
僕は男を演じた。
友達として君に接した。
雄蕊と雄蕊じゃ立ち行かないだろうから。
諦めと見切りは時には大事である。
「ねえ知ってるか?江戸川乱歩って初恋同性だったしいぜ」
僕が言う。
喋り方男でしょう?
江戸川乱歩には申し訳ないけれど、皆がこの話にどんな反応を示すのか見てみたかった。
僕が友達を信じられるように。信じていられるように。
「えぇー、きも」
「まじかー」
「俺結構好きだったんだけど江戸川乱歩」
「えどがわらんぽって誰?」
ああ、駄目だ。駄目だ。
信じられない。
少し受け入れてくれるかもしれないと思った自分が馬鹿だった。
どうすればいい。
僕はこれから、何を信じればいいんだ。
どれだけ小さな裏切りも僕には、大層なものに見える。
偽りでも嘘でもいつかは実を結ぶと信じていたい。
江戸川乱歩をきもいと笑った君を僕はどうしても嫌いになることはできない。
いっそのこと嫌いになってしまいたいのに。
信じられないと、分かっているはずなのに。
恋って怖いんだと思う。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
駄目だ。
ぶるってんじゃねーよ。
多種多様の性だろ?
さあ悲しい哀しい話をしようぜ。
柔らかくて脆く弱い話を。
何をびびっている?
怖いものなんてないだろう。
きもい?だからなんだ。
「で?」
きもくて何が悪いんだよ。
でも僕はどれだけ強がったって悪役から逃げ出せはしない。
僕はずっと悪者だ。
雄蕊と雄蕊が実を結ぶ可能性を信じて。
幸あれ。なあ。
君が「友達」だとはにかんだように笑う人と喋っているだけで苦しくなるんだよ。
僕のハートは1LDK。狭いんだからちょっとぐらい、嫉妬したっていいでしょう?
君の心は広いんだから。
でも微熱ぐらいでよかったな。
こんなに好きにならなかったらもっと割り切れた、はず。
微熱愛でよかったのに。
誰も知らない僕のこと。
誰にも知られたくない僕のこと。
皮膚の下だから。もう誰も簡単には見られやしない。
僕と同じ素晴らしき悪党どもにこのうたを捧げよう。
骨まで演じきってやれ悪辣に。
残酷な街ほど綺麗な虹が、強く人を好きになってしまうから。
|猥雑《わいざつ》広告に踊るポップ体のように浮いた僕達は浮いてしまったことを、浮いたことを誇りに思おう。
愛があれば。
愛があれば何だって出来るから。
ああ、僕は悪役だ悪で悪で悪だ。
悪者すぎる。
“友達”と夜遊びを繰り返す僕の服装は男だ。
違う服着て僕は男子のふりを!
拝啓Dr.Duran、Duran!
僕はここだ!
僕が顔も知らないようなやつに僕という人間がいると認識されているなんて、ああ、なんて光栄なんだ。
なあ僕はVillainなんだ。
でもVillainだっていいじゃないか。
嫌われ妬まれ疎まれる。
そんな人生で何が悪い。
1度きりの人生なんだろう?
だったら生ききってやるよ。
僕は、Villainなんだから。
ヴィラン/てにをは
https://m.youtube.com/watch?v=p9FJXfGHtDA
独りんぼエンヴィー
晴瀬です。
リクエスト頂きました。
ありがとうございます。
虐待表現があります。苦手な方はUターンで、お願いします。
逃げたくても逃げられない少女の話です。
悪戯は知らん顔で、言い訳は涙を使って。
学校ってさ、すごく緩くて甘いんだよね。
そんなことしてりゃ大体許される。
ずっと学校にいたいと思ってしまうのはそういうところなんだろうな。
寂しいな。遊びたいな。
え、誰が遊んでくれるの?誰のこと?
蜂蜜みたいに甘い笑顔貼り付けたところで友達は出来ない。
誰も構ってくれない。
私の心は蜂蜜みたいにどろどろだ。
ねえあなたにもあなたにも、私は必要ないでしょう?
別に、いなくても変わらないでしょう?
じゃあ、私はなんでここにいるの?
世の中、弱いものは除け者にされる。
けんもほろろってね。
誰も取り合ってくれない。自分のことで精一杯手一杯。
外に出て気付く。
お祭りがやっていた。
ああ、楽しそうなお祭りね。
私はそこに近付く。
森の中。
お祭り。
楽しそうに踊って、美味しそうな屋台が並んで。
高校生がこんなところに来てたら不自然に思われるだろうか。
踊っているのは皆小学生くらいの小さな子。
ああ、お母さんと、来たかった。
さあ歩いて。歩いて。
こっちへおいで。
お祭りが、その場が私を呼ぶ。
甘い誘惑。私は耐えられない。
手を叩いて歩いて、らったった。
楽しい。
いつの間にか踊っている。
楽しい。何もかも忘れて踊る。
呑気で陽気な音楽にのせて体は動く。
ああ、楽しい。
子供に混じって輪になって踊っていると少しずつ、一人ずつ、子供が踊り回る輪から離れていく。
私はそれには気付かない。
気付けば私の周りに人はいない。
また、また、私はまた、独りぼっち。
子供がおもむろに口を開き、近くに立っていた母親らしき女の人に言う。
「やだ。やだ。この人やだ」
そう言って、まっすぐに私を指差す。
嫌んよ嫌んよ。そう駄々をこねるように母親に抱きつく子供達。
そっぽ向いて私を視界から外そうとする。
ああ、そうか。
私は今日も悪い子。要らない子。
夢見ては極彩色。
色が混ざって、ぐちゃぐちゃで、でも綺麗だと思う。
夢だと分かっている。
目が覚めて、現実は変わらない。
どんなに綺麗な夢を、何度見たって現実は変わらない。
お母さんの怒鳴り声が私の部屋まで届く。
「ちょっと、なんで洗濯できてないの!?今日出掛ける予定あったって言ったよね?
ちょっとユナ!起きてるの!?
聞いてる!?
ねえやっといてって、言ったよね?
今日土曜日じゃん。時間あるはずでしょ?なんでそんなゆっくり寝てるの?
やることやってから寝なよ?
困るのはあたしなの。
あんたじゃなくてあたしなの。
ちゃんとやってもらわないと困るわけ?
ねえ聞いてる?
今すぐやってくんない?暇でしょ?
あたしは忙しいの!!」
ああ、五月蝿い。
なんで今日だったの。何で今日に限って帰ってくるの。
ここで私が自分の部屋から出てお母さんのもとまで行ったら殴られる。
何度経験したことか分からない。
でも、でも、もし行かなかったらもっと怒る。
もっと、困らせてしまう。
私はどんなに考えたって行き着く行動は同じ。
ヘラヘラ笑って、ごめんなさいと連呼して。
響く罵声。殴られる顔。蹴られる腹。お母さんの金切り声が響く。
ああ、私はお母さんに愛されたかった。
愛されたかったよ。
お母さんの気が済むまで耐えて、お母さんが出掛ける準備をしだすまで耐えて。
お母さんの足が私のお腹から離れた途端私は起き上がり正座をする。
そのまま前に手をついて頭を前に倒し床におでこを押し当てる。
そして一言。
「迷惑かけてごめんなさい。」
所謂土下座ってやつ。
お母さんが準備を終え、家から出るその瞬間まで土下座を続ける。
どれだけ長くだってどれだけ体が悲鳴を上げても。
ただ無心に、その体制を崩さず続ける。
お母さんがバタバタ動き回る音を聞きながら、その時が来るまで耐える。
ガチャン
鍵を閉める音が聞こえて、ようやく体制を崩す。
はあああ、と小さく細く溜め息をついて洗濯機を回す。
時計を見て、朝の9時だったことに少し驚く。
私は1時間も、お母さんに耐えていたのか。
可笑しかった。
逃げられない私も、お母さんの優しさに期待してしまう私も。
全部馬鹿みたいに可笑しかった。
そして時は過ぎる。
何もせずにぼーっとしてたら夜になる。
お母さんは今日も帰ってこない。
夜の9時、私だけ劈く楽しそうな歌声。
ああ、楽しそうね。
さあ今夜今夜、あの場所へ。
あの森へ。
また、お祭りがやってるよ。
皆で行こう。走れ。らったった。
またお母さんと一緒の子供を見て少し苦しくなる。
楽しそうに踊る気ままな知らぬ子。
いいな、いいな。
羨んだって現実は変わらない。
ああ、お母さんと、来たかった。
楽しく踊りたかった。
お母さん。優しいお母さんに戻ってよ。
りんご飴を買ってくれる優しいお母さんに。
わたあめを買ってくれる優しいお母さんに。
私の願いは届かない。
ずっとずっと、願ったって変わらない。
思い出す。
小さい頃の幸せな記憶。
いちにのさんしでかくれんぼ。
ひろくん、はるちゃん、みつけた。
あとはゆりちゃんだけだよ。
いきをきらしてはおにごっこ。
ああー、きみにつかまっちゃった。
純粋で無垢で幸せな私の記憶。
ああ、お母さん。
「さあ」
声が聞こえる。
「あんよ、あんよ、こっちおいで」
甘い誘惑に私は耐えられない。
お母さん。お母さんがいるような気がしてならない。
優しくて綺麗なお母さん。
手を叩いて歩けらったった。
震える一歩、踏み出して。
独りぼっちにばいばい。
なんて。
ばいばいできたら、楽なのに。
「ねえ」
私の口から漏れる言葉が言う。
「愛よ愛よこっちおいで」
「お母さんのもってる愛よ、全部私に、こっちにおいで」
握っていた手を開いて見つめる。
そこに愛があるような気がして触れる。
あっ、つい。
私には、愛に触れられない。
熱くて熱くて、私には愛が触れない。
私に愛をくださいとそう言う前に、私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
「ねえ」
私の周りにいつの間にか子供が集まっていた。
この前私から離れていった子供達が私の汚れた目を無垢な目で見つめていた。
「良いの?良いの?私なんかが、いいの?」
そう問う。
子供達は優しく頷く。
私の目から涙が溢れる。
目を明けた。
夢が、覚める。
子供達は、お祭りは、どこにもいない。
すべて私の妄想だ。
ああ、私はどこにいても独りぼっち。
今日も明日も、…みんなとあそびたいよ。
私は森で独り。
辛い現状から目を背け、暗く寒い森で独りで泣いた。
泣くことしかできず、私は独りを痛感する。
「あぁあああぁああぁぁぁああ」
ただ叫んで私は愛を求めていた。
独りんぼエンヴィー/koyori/電ポルP
https://m.youtube.com/watch?v=UKVioegPPds
ロウワー
晴瀬です。
ヤナギ様にリクエストして頂きました。
ありがとうございます。
離れない、信じ合う少女達の話です。
そう、簡単な祈りだった。
それなのに端から段々と消える感嘆。
音は聞こえなくなって、会場は静かになる。
今から緞帳が上がって物語が始まるから。
静まり返った会場を後に。
さよなら。
――――――――――――――――――――
言いかけていた事が一つ消えてまた増えて、自分が怖がっていることを実感する。
だめだと分かっているのに、言うことが出来ない。次の、標的になってしまう。
“いい子ぶる女子”こそ彼女たちの最大のカモだ。
そういうのを分かっているからそれを何度となく繰り返した。
いつも帰り道、あの子の泣き声を聞いて背中に後ろめたさが残る。
彼女たちに従って味方になって楽になりたいという心根を吐き出さないように込めて胸の中が澱のように濁る。
そんな日々を過ごしていた。
「そういうの、よくないんじゃない」
いつの間にか私はそんなことを言っていた。
いつの間にか立ち上がって、一人の女生徒を囲んで苛める彼女たちに向かって控え目ではあったけれど確かにそう言った。
私は馬鹿だ。
でも不思議と悪い気はしなかった。
助けている、と実感があったのかもしれない。
「えぇ?何?なんて言ったのお?聞こえなかったあ」
わざとらしく甘ったるい声を出して彼女は私の目を見た。
主犯格の、その子は大きな目をしている。
私はその目をじっと見つめて。
「そういうの、よくないと思う」
クラス中が私のことを私達を注目していた。
ある生徒は私を馬鹿だと思い、ある生徒は私を英雄だと思っただろう。
でも私は双方、なったつもりはない。
「えぇ!?やっばぁ。いい子ぶってんの?そういうのめっちゃめんどいんだけど。
えー、じゃあ明日から、覚悟しなよ?」
その言葉を最後に、私は今日一日を終えた。
その出来事は朝休みのことだったんだけど、座学ばっかの一日の話は一切聞かないと決めている。
だからはっきり覚えている言葉は、それ。
寝て。
そして朝起きる。
昨日の出来事を反芻して一人で笑った。
なんて馬鹿なことしちゃったんだろって。
学校に行く。
自分の机にまっすぐ歩みを進めると、机に落書きが書かれているのが見える。
私の机。
典型的な、いじめじゃないか。
おっと、と強がろうとしている自分に気付く。
受け止めたいけれど、分かっていると思っていたけれど、自分には抱えられず持て余した「あの子を助けてあげた」という自尊が私を守っている。
霞んだ声はからからに喉を焼いて埋め尽くす。
何を言えばいいか、分からずにその場に立ち尽くす。
感じていたものが遠く放たれていく。
私は何を思って何をしていたのだろうか。
同じようで違う。何かが違う。
おかしい。何かがおかしい。
その正体を私は知っているはずなのに考えることを放棄していた。
分からなくなって、思考がとまる。
私は、私は――
立ち尽くす。
誰かが、駆け出す音が聞こえた。
タッ、と軽やかで速そうな気配を感じた。
刹那、私のぶら下がった右手に誰かの指が絡まりそれに引っ張られる。
私はなすがままで、その手に引っ張られ教室を後にした。
さようならと言う間もなく。
引っ張られながら、私は手の主を見る。
そして息を呑む。
「なんで」
と声が漏れた。
その声は私が出したものだと気付くのに時間が掛かった。
走りながら答える。
「昨日、助けてくれたから」
あの子だった。
昨日まで彼女たちに苛められていたあの子。
名前は、
「サユリ?」
ポロリとこぼした私の言葉に走りながらあの子は頷いた。
「私はサユリ」
まともに喋ったのはこれが初めてか。
よく彼女らに泣かされていたはずなのに、私が見るサユリはとても強く見えた。
「なんで、私、昨日まで、何もしなかったのに」
校舎の外まで出てもなお走り続けるサユリに追い付きながら私は尋ねる。
「だって、昨日、助けてくれたから」
息を切らしながら走り答えるサユリ。
よく見ると彼女はとても綺麗な顔をしていた。
サユリは急に立ち止まり言う。
「私の家」
小さく短く呟いていた。
「入って」
どこまで走ったか分からなかった。
とにかく私は、助かったのだと思った。
あの空気から、あの雰囲気から、あの視線から、あの音から、全てから逃げ出せたのだと。
家に踏み込んで周りを見回しても普通の家にしか見えなかった。
誰もいない。
サユリはリビングと思しき部屋のソファに座って伸びをした。
私がリビングのドアの前で立ち尽くしているとサユリが手招きする。
私はサユリの真向かいの椅子に座る。
サユリは突然言った。
「私達が離れるなら、私達が迷うなら、それなら助け合おう。
迷ってしまったなら、離れてしまったなら何度でも繋がれるように、ここに居てくれたなら私は守る。
あなたも、カナタも私を守って。
守り合おう。助け合おう。
離さずいられたら、私たちは幸せであれる。
嫌な学校からも抜け出して、私たちは助け合えるから」
私の名前を呼んだ。
誰も知らない感覚で助けられているような気がした。
私はすんなり頷いた。
ただサユリとは生きていけると直感的に思った。
サユリの方が辛いのは分かっているのに、私が助けられていた。
私の家庭環境を、学校生活を、何も知らないと思っていたサユリがはにかんだように笑った。
「平穏は、消耗品なんだよ。
永遠の平穏なんて絶対ない。そんなの偶像だ。
全部嘘ばっか」
サユリはそう吐き捨てるように言って私を見た。
「すべてが綻ぶ前に、ここを出ていこう」
私は小さく笑った。
サユリは薄く、安心したように笑った。
少し時間が経ったとき私は都合のいい願いを都合のいいように呟いてしまう。
「死んでしまいたいな」
「どこから聞こうか」
「話したいところから話して。話を急かすと大事なところを見失うから」
定かじゃないから私はこのポジションを動けない。
真面目で正しくて勉強ができて、ただの陰キャで。
勉強ができるのは親の喧嘩を聞いていたくないからずっと机に向かって気付かないふりをし続けたせいだし、そのせいで私は大事なものを失ったし。
真面目なのはそれが楽だからだし。
正しいのはそっちが勝手につけたレッテルでしかない。
死んでしまいたい。
「私たちが疲れるなら」
私は顔を上げてサユリを見る。
サユリは強い意志の見える瞳で私を見た。
その瞳には優しさが混ざっていた。
「私たちが疲れるなら、これ以上がないなら、そのたびに何回も逃げ出せるように、心を守れるように、奪われないように、お互いに託してさ」
「それで、身体を預けてよ。頼って、二人で心から笑えるようにさ」
私はふっ、と何かが緩んだような気になった。
目が熱いのを分かっていた。
サユリも一緒に。
君と泣く。
君と笑う。
君と怒る。
君と歌う。
君と踊る。
君と話す。
楽になるのが分かった。
「こんな世界、いつまで続くんだろうね」
同じように二人で呟く。
今の時を忘れないように刻むこの空気を何度思い出し何度励ましにするだろう。
私たちだけが
「私たちが離れるなら私たちが迷うならその度に何回も繋がれるようにここにいてくれるなら離さずいられたら、まだ誰も知らない感覚で、私たちの生きてる全てを確かめて、それで正しくして」
こんな短時間で人を信じることができるなんて思いもしなかった。
私は、私とサユリは二人で生きていく。
もう一人じゃない。
二人なら、きっと助け合えるから。
ロウワー/ぬゆり
https://m.youtube.com/watch?v=3sEptl-psU0
ヤナギ様
https://tanpen.net/user/userpage/2008sukotoyanagi/
コールボーイ
使わせてもらった楽曲 コールボーイ
syudou様
晴瀬です。
悪い人の話です。
辛くなると、いつも足が向く。
そこは繁華街の場末のバー。
お洒落でもなんでもない、料理が特別旨いわけでもない。
でもそこはいつも賑わっている。
一夜で使い捨てたいクズと、使い捨てされたい輩が集まって大繁盛だ。
―――――――――――――――――――――
目が覚めて、酷い頭痛に気付く。
また昨日呑みすぎたな、と今のうちは思うものの酒を前にすればそんな思いも酒と一緒に流れていく。
小さく息を吐いた。
朝が始まる。
---
そして夜になる。
細かくは夕方の4時30分。
無意識に歩いていた。
気付けば目の前にあのバーの入口が。
引き返さず、そのまま歩みを進めバーの扉を開けた。
この扉から外に出る俺の横には知らない女。
「別にどこだっていいだろ」
ぶっきらぼうに言う。
ホテルにいちゃもんつけてくる奴は本当に面倒臭い奴だ。
どこだっていい、と小さく女は言った。
混ぜ物多めの安価なバーボンを煽って煽って煽る。
「半端なアンタがよく似合う」
昔、これを呑んでいると名前も知らない女がそう言っていた。
安いバーボンに似合う奴って何なんだと今では思う。
酒臭い息を吐きながら俺は笑う。
下で仰向きに寝転んでいる女も笑った。
「なあに」
笑顔を崩さず女は言った。また妖艶に微笑む。
「いや、なんでもない」
酔ったら全部同じこと。
皆同じ女で、朝起きれば気味が悪くなる。
髪の長さ?声?顔?体格?容姿?
どれも同じだ。
やることも、その後の後悔も、全部同じ。
寝落ちた隣の女を見ながら考える。
人は孤独を殺すため、"虚しい"を呑みすぎた酒と一緒にもどすために酒を呑むんだ。
金も時間も肝臓も。
「なぁ」
そう言う声はガサガサで俺の声ではないみたいで。
何でもやるからさ。
「二人でいよう?」
目は女を見ていたはずなのにいつの間にか酒に入れ替わっている。
酒は裏切らない。
そして俺は寝落ちる。
---
目が覚める。
隣に寝ているのは裸の女。
「誰」
俺が呟くと、その声が予想以上に大きかったのか女がむくりと起き上がる。
口角が上がっていく。
「何?」
笑顔のまま寝起きの声で女は聞き返す。
「誰」
俺がもう一度言うと女の笑みはゆっくりと崩れていく。
はあ、とあからさまに不機嫌な顔をして大きく溜息を吐いた。
「またそれぇ?」
わざとかというほど甘ったるい声で女は言う。
また、とはなんだ。
だんだん記憶が戻ってきてあのバーに行ったことを思い出す。
でもあそこは使い捨ての、
「ねえ、いつもそうやって記憶なくして、なくすまで呑んで、私を困らせて。
いつも第一声は『誰?』って。
いつも私心折れるんだからね?
ねえそういうの悪いって思わないの?」
苛ついたように黒目を回し、下着を履きながら女は言う。
「良いとか悪いとか言うそれ以前に俺には一切記憶がねえんだよ」
「はあ?」
ああ、もう、猛弁解。
きっと明日も弁解して誤解されて、知らない女に怒鳴られ続けるんだろう。
「ねえ分かってる?呑んだら明日に響くって何度も言ってるじゃん。
なんで学ばないの?
ちゃんと控えてよ。
明日のことを考えて。私のことを考えて」
「呑んだら明日に響くと言うけど飲まなきゃその明日すらもねえんだよ」
そう言ってから小さく「クソが」と呟いた。
もう嫌になる。
また大きく息を吐いてもう空になりかけた酒の瓶を煽る。
「ほらまた呑んで!」
女の声が頭に響く。
そろそろ服を着てほしい。
下着姿のままうろうろするな。
「もうやめなよ!」
俺に水を差し出す女。
それに構わずまた煽った。
---
明日の行方も今夜の宛も全部無くしてあのバーに行ってみれば尚も大繁盛。
バーを出る俺の横には知らない女。
また俺は問う。
「どこでもいいだろ」
俺よりも少し小さな背丈の女は言う。
「どこでもいい」
プライドと理性捨てりゃ愛を偽るのは簡単だ。
「好きだ」
「愛してる」
そんな言葉を馬鹿みたいに繰り返して何かを言おうとする女に笑い掛ける。
「しー」
と人差し指で黙らせて。
以下省略。
午前2時。
結局いつものこと、って言ったらお終いなんだけど。
隣で寝落ちた女を見ながら考える。
人は誰もが偽善者だ。優しい嘘を餌に狩りをする。
それを誘拐だとか暴行だとか、都合がいいにも程がある。
血酒火の酒苦い酒。
色んな酒を呑んできた。
「ねぇ」
そう言う声は子どものようで。
優しくするからさ。
「一人は嫌だ」
目は女を見ていたはずなのにいつの間にか酒に成り代わっている。
酒は裏切らない。
そして俺は寝落ちる。
---
目が覚める。
隣に寝ているのは裸の女。
「誰」
俺が呟くと、その声が予想以上に大きかったのか女がむくりと起き上がる。
口角が上がる。
「何?」
笑顔のまま寝起きの女は聞き返す。
「誰」
俺がもう一度言うと女の笑みはゆっくりと崩れていく。
はあ、とあからさまに不機嫌な顔をして大きな溜息を吐いた。
「またそれなのぉ?」
わざとかというほど甘ったるい声で女は言う。
また、とはなんだ。
だんだん記憶が戻ってきてあのバーに行ったことを思い出す。
でもあそこは使い捨てのバーじゃないか。
使い捨てて、一晩で、
「ねえ、いつもそうやって記憶消して、消えるまで呑んで、私を困らせて。
いつも第一声は『誰?』って。
いつも私心折れるんだからね?
ねえそういうの悪いって思わない?」
苛ついたように、髪を括りながら女は言う。
「良いとか悪いとか言うそれ以前に俺には一切記憶がねえんだよ」
「えぇ?」
ああ、もう、また猛弁解。
きっと明日も弁解して誤解されて、知らない女に怒鳴られ続けるんだろう。
「ねえ分かってる?呑んだら明日に響くって何度も言ってるじゃん。
なんで学ばないの?
お酒控えてよ。
明日のことを考えて。私のことを考えて」
「呑んだら明日に響くと言うけど飲まなきゃその明日すらもねえんだよ」
そう言ってから小さく「クソがよ」と呟いた。
もう嫌になる。
また大きく息を吐いてもう空になりかけた酒の瓶を煽る。
「ほらまた呑んで!」
女の声が頭に響く。
そろそろ服を着てほしい。
ほぼ裸のままうろうろするな。
「もうやめなよ!」
俺に水を差し出そうとする女。
それに構わずまた煽った。
「ねえ、私は恋なの。ずっとアンタが好きなの。
なのに何?いつもいつも朝起きたら私のこと忘れてる。
夜あんなに優しくしてくれたのに、朝になったらこれ。
恋なのよ。愛なんだよ」
唾を飛ばしてそんな幻を語る女に俺は言う。
「愛だの恋だのやんやと騒ぐけどな、酔ったら結局誰でもいいんだよ」
暴言を吐き散らす。
女も負けずと口を出し、荒ぶりて暴言タイム。
「誰でもいいって!?その誰かに私を選んで私もアンタを選んだんでしょう!?
ねえ馬鹿なの?阿呆なの!?
なんで酒なんか呑むの!?
アンタが酒を呑まなきゃ私は認知されていつも幸せでいられるのに!」
その「誰でも」すら俺は選ばれず泣くのもダセェし酒を浴びんだよ。
そう言い返そうと思ったがまた面倒になるだけだ。
本当に嫌になる。
俺は勢いよくまた酒を煽る。
酒を煽る手を俺は止めない。
喚く女には構わずもう一杯。
意味もなくもう一杯。
---
俺みたいな馬鹿と煙草の煙で酒が進む。
色んな店を|梯子《はしご》して、色んな酒を梯子した。
危なっかしげに、浴びるように酒を呑む俺はさながら蜘蛛の糸。
地獄から天国へ登れるかもしれないと淡い期待を胸にまた酒を呑む。
『どこもかしこもクソだらけだよ。
…っておい。
一番クソなのはオマエだ馬鹿』
---
「なんで覚えてないの!?」
「だから…」
「それくらい悪いって分かるでしょ!?」
「良いとか悪いとか言うそれ以前に俺には一切記憶がねえんだよ」
「またそれ。それで私がどれだけ傷付くと思ってるの!?」
「…………」
「黙ってないでなんか言ったらどうなの!?」
ヒステリックに叫ぶ知らない女。
何度説明しても理解できないこれは猿か。
嫌になるぜ、もう限界。
「呑んでもないのに難なく生きてるアンタの方こそ世界に呑まれてるんだよ!」
そしてまた小さく「クソ野郎が」と呟く。
なぜ話が通じない。
もう嫌になって昨日と今日とで4本目の酒の瓶を煽る。
酒を煽る手は止まらない。
まだ喚き叫ぶ女には小さく舌打ちをして酒を煽った。
太陽はもう頭上に上がっている。
コールボーイ/syudou
https://m.youtube.com/watch?v=FXnzOGTEcuc
悪い人
https://tanpen.net/novel/42def359-2d29-465c-9aab-3915adf88847/
命に嫌われている。
晴瀬です。
リクエスト頂きました。
ありがとうございます。
人が死にます。
大分主人公が捻くれてます。
生きる少年の話です。
死にたいと言った。
「え…?ちょ、え?何びっくりした…。そういうこと言わないでよ心臓に悪いんだから笑」
「私だってそう思うことあったけどさ、生きてたら楽しいことあるから」
「何?意味分かんないんだけど。勝手に死にたいごっこしてろよ」
曲を聴いた。
「死にたいなんて言うなよ」
「諦めないで生きろよ」
テレビをつければ『若者を勇気づける詩』なんて肩書でこんな歌が流れている。
そんな歌が正しいなんて、馬鹿げてるだろ。
実際自分は死んでも良くて、でも周りが死んだら悲しくて。
「それが嫌だから」っていうエゴで生きていた。
生きている意味なんて、真面目に考えたところで辛くなるだけだからそんな考えも捨てた。
だから「貴方は何故生きているんですか」そう問われたところで答えられるはずもない。
「親が、友達が悲しむでしょう」
僕が死んで悲しむ親は、友達はどこにいたっけな。
全部、綺麗事なんだよ。
自分に関係ない他人が生きていようが死んでいようがどうでも良くて、誰かを嫌うこともファッションで。
ほら、一見汚くてもさ、綺麗に着飾ればファッションなんだよ。
僕みたいなセンスのない人間が人を嫌うのと、センスがある人が他人を嫌うのとでは雲泥の差があるんだよ。
僕みたいな子供でさえそんなことも分かりきっているのに大人はまだ「平和に生きよう」なんてほざいてて、なんて、なんて素敵なことでしょう。
そんなことを考えていると、思い出してしまう。
―――じゃあね、ハルキ
―――ユウマ?何、してんの
―――ごめんね、ハルキ
フラッシュバックした。
あいつの、最期が。
---
あいつは、|結真《ゆうま》といった。
元気で、明るくて、悩みなんて1つもない顔した僕の、友達、だった。
4年、くらい経ったんだろうな。
僕と結真は11歳だった。
ある日僕は結真の家に遊びに行った。
結真の家には親がいなかったからリビングで結真はスマホを弄って、僕は本を読んでいた。
遊ぶ、といっても2人でゲームをするとか話すとかそういうのじゃなく、2人同じ空間で各々別のことをして過ごすっていう、2人ともただその雰囲気がその空気が好きで心地良かったんだと思う。
結真は優しい。僕がまともに家にいることが出来ないから、それを分かっているからよく家に呼んでくれた。
いつものことだった。
いつものように、過ごしていた。
突然、結真が言った。
「この人、死んじゃったらしいよ」
誰だったか、名前は覚えてない。
確か有名な俳優だった。
「ニュースになってんの?」
僕の問いに結真は首を振った。
「いや、それを嘆いて誰かが詩を書いたんだって。それに音楽当ててもらってYouTubeに出したらめっちゃ流行ったらしい。今それ聴いてた」
ふうん、と僕は相槌を打った。
「いいよね、そうやって死んだら曲まで作ってもらってさ。羨ましいや」
結真はそう言って小さく笑った。
「そうだね。でもそうしてもらえるようになるよ。結真なら」
お世辞なんかじゃない。
本気でそう思ってた。
結真がいるだけで場は和むし、結真は学校でも人気者だから。
「そっかぁ。じゃあさ、俺が死んだら|春来《はるき》が曲作ってよ」
「無理だよー」
僕は笑った。
そんなに事を重く受け止めていなかった。
何故今から生とか死とかそんな話をしているのか。
何故滅多にこんな話をしない結真がそう言い出したのか。
そこに、その時疑問を持てばよかった。
そうすれば、結真は死ななかったかもしれないのに。
「この曲めっちゃいいよ」
「へー、そんないいんだ」
「うん」
僕の興味はその曲から既に離れていた。
今考えれば結真はどうにかしてこの話題で僕と話したかったように思う。
「俺、感化されちゃったかも」
僕に聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言った結真を僕は本から視線を上げ見詰める。
「何?感化…?何どういうこと」
結真は笑った。
僕は、何も気付かなかった。
結真が何を伝えたかったのか僕は、見落として知らないフリをした。
嘘だと見えなかったフリをして、結真を縛ろうとした。
「結真」
僕は無意識に名前を呼んだ。
結真は走った。
キッチンに走り、棚を開け何かを持った。
「ナイフ」
僕が呟いたときにはもう遅かった。
「春来、止めないでね」
「結…」
「春来」
結真は笑顔だ。
笑顔で僕を咎めた。
笑顔でナイフの柄を持ち刃先を自分の首に向けた。
「結真?」
時計の秒針の音がやけに耳に響いた。
「じゃあね、春来」
「結真?何してんの。
おいで、こっちに、来て」
「春来」
「結真、お願いだから、こっちに来て。
それ置いて、こっちで、速く。駄目だ。駄目だから、結真」
「春来。辛くなったら不死身になるって、SF映画みたいなことを考えるんだよ。
辛くなくなるから」
「結真、何言ってるの?速く、こっちに来てよ、冗談はよして」
「春来。少年だったお前はいつか大人になるんだ。
大人になって年老いて、いつかは枯れ葉のように朽ちていくんだ。
だから、さ。ね?春来」
「何だよ、結真。速く、こっちに、速く。結真。冗談でも怒らない。
ちゃんと、結真。向き合うから。僕は、結真にも、自分にも。
だから結真。お願いだから」
「ごめんね、春来」
結真はナイフを降ろさない。
「ごめんね、春来。守って、あげられなくて」
血が舞った。
紅が飛んだ。
僕の、名前を呼ぶ声が部屋に響く。
その日は、結真の母親の誕生日だった。
それに何の意味があったのか僕は未だに分からないフリをし続けている。
僕は、命に嫌われている。
結真を生かしたかった、結真に生きてほしかったと嘆くくせに自分の命はどうでもいい。
自分より人の方が大事、なんて綺麗なもんじゃない。
人はどうでもいい、自分だけ逃げてしまいたい、ただそれだけ。
価値観を、エゴを押し付け合っていつも誰かを殺してみたいと思っている。
いつも誰かを殺してみたい、その思いを誰かが曲にして発信してみれば人が死ぬ。
結真のように。
軽々しく死にたいだとか、軽々しく命を見てる僕は結真に、命に嫌われている。
きっと僕が大人になったところでお金も稼げないただの駄目人間になっているだけだ。
一日中寝て食べてだらだらだらだら惰眠を貪って、生きる意味なんていつまで考えたところで見付からない。
無駄を自覚しているのに、酸素を吸って二酸化炭素を吐く。
結真が死んだ光景を、死んだ事実を時折思い出してこの傷を『寂しい』とその一言だけで済ませていいのか、そんなくだらない意地ばかり抱えて独りで眠っているんだろう?
少年だった僕は青年に変わっていく。
そして大人になって、いつかは年老いて誰にも知られず枯れ葉のように朽ちていく。
その間に僕はずっと、独りでSF映画のような想像を繰り返す。
その度に、結真を思い出す。
不死身の体を手に入れて一生死なずに生きていく。
そんなことがあれば、きっと辛い。
何度考えても今は自分が死んでもどうでも良くて、それでも周りに生きてほしい。
でもそんな矛盾を抱えて生きてくなんて、きっと怒られてしまう。
『正しいものは正しくいなさい』
『死にたくないなら生きていなさい』
そんな簡単なことも解らない僕はいつだって悲しんでいる。
何かに怒って、悲しんで、辛くなって。
『それでもいいなら、ずっと一人で笑えよ』
僕の記憶の中の11歳の結真が、そう言った。
僕は、いや僕らは命に嫌われている。
幸福の意味すら分からず、生まれた環境ばかり憎んで簡単に過去ばかり呪う。
自分は悪くないと高を括って人に罪を着せた。
自分の保身にばかり走った。
結果人が死ぬ。
それでも、幸福だって別れだって愛情も友情だって、すべて滑稽な夢の、幻想の戯れで結局は金で買える代物で。
それを信じたくなくて。
明日死んでしまうかもしれない。
すべて、今までやってきたすべてが無駄になるかもしれない。
朝も夜も春も秋も、変わらず誰かがどこかで死ぬ。
夢も明日もいらない。どうでもいい。
君が生きていたなら、それでいい。
そうだ。
僕はそれが言いたかった。
結真が、生きていたらそれでよかった。
僕は、僕は結真以外に人を死なせちゃいけない。
本当は、そういうことが詠いたい。
命に嫌われている。
結局いつかは死んでいく。
『君だって、俺だっていつかは枯れ葉のように朽ちていく。』
僕の名前を呼ぶ結真の声が聞こえた。
それでも僕らは必死に生きて命を必死に抱えて生きて、
殺してでも、
足掻いてでも、
笑って、
抱えて、
生きて、
生きて、
生きて、
『生きろ』
そう、言いたかったんだろう?
結真。
お前の分も、生きてやるから。
お前の伝えたかったことを、僕が代わりに伝えるから。
結真。
『じゃあさ、俺が死んだら春来が曲作ってよ』
結真の声が鮮明に蘇った。
曲を、作ろうと思う。
人を、殺すんじゃなく生かす曲を。
タイトルは、『命に嫌われている。』
命に嫌われている。/カンザキイオリ
https://m.youtube.com/watch?v=0HYm60Mjm0k
悪い人
使わせてもらった楽曲 悪い人
syudou様
晴瀬です。
悪い人の話です。
この品性も意味もない毎日にあたしはずっと殺され続けている。
あたしの思いも、気持ちも、考えも、全部が|無碍《むげ》にされてあたしは死んでいる。
だから、なのかな。
いつまで経っても認識されないけどさ。アナタを求めてあたしは行ってしまう。
繁華街の場末のバー。
あたしが行くといつもアナタは静かに、安い酒をちびちび呑んでいる。
半端なアナタがよく似合う、唯一の酒だと思う。
その酒を呑むアナタを見てやっぱりやめられてないんだな、とあたしは少し嬉しくなる。
ねえ、やっぱりそうでしょう?アナタはきっと逃げたい。
ずっと逃げたいんだ。
ねえ、あたしだってそうだもん。
逃げたい。
だから、ここへ来るんでしょう?
それに、この人生や身を滅ぼすほどに誰かに強く愛されたいんだ。
そうだろう?オマエもきっと。
だから忘れたって忘れたって求め合うんでしょう?
だから、ここへ来るんでしょう?
言えない、なんて言えないな。
ああ、もう、アナタにつけられるこの痛みさえも愛おしい。
これは危ない。まともではない。
初めて見て、思った。
アナタは異常だったもの。
でも、ねえ。
分かっていたって、胸は踊る。
ほら、アナタだってまたこのザマ。
あたしだってこのザマ。
醜くて、穢らわしい。
アナタのタバコとあたしのアザ。
アナタの着けるタバコはあたし大好き。
アナタがあたしにつけるアザは、本当に愛おしい。
だから、アナタは悪い人。
暴れ出す躁。ああ、溢れ出しそう。
アナタの狂いようを見てるだけで、狂っていたって、あたしは凄く楽しい。
あら楽しそう。アナタの隣りにいる女はだあれ?
あたし以外にも、あのバーで出逢うのね?
アナタの思想をあたしは覗いてみたい。
あたしはあんなにアナタを愛しているのに、オマエは忘れるのね。
いつもいつも、朝起きたら、ね。
でもあたしは分かるから。
本当に、アナタは悪い人。
可もなく不可もなく生きるよりも、アナタと共に奈落を選ぶの。
そっちの方が、楽しいでしょう?朝、アナタに「誰?」と言われる絶望を味わえる。
夜、「愛してる」と繰り返すアナタを間近で見ていられる。
ねえ、幸せでしょう?
あたしは、生きる理由を見つけられる。
そうなの。あたしはきっと消えたい。ずっと消えたいな。
でもアナタのおかげであたしの身体に貼ってある絆創膏はどんどん増えて。
ああ、あたしは生きているんだって、生きていけるんだって思えるんだよ。
そう思わせてくれるのは、愛があるからでしょ?
あたしにも、アナタにも。
絆創膏が増える度にアナタから確かな愛を汲み取ってしまうの。
そうなの。あたしもきっと…。
痛いし、苦しいけどそんなもので咎められるほどの気持ちじゃない。
痛い、けど会いたいの。
後ろめたいほど、アナタから酒の匂いと強い香水の香りがした。
アナタは夜突然起きて叫ぶのよ。
『愛してくれ』って。
あたしはアナタを抱き締めて、「愛してる、愛してるわ」とアナタの名前を呼ぶ。
そして誰かへの憎悪を垂れ流して、色んな人を困らせるのね。
隣の部屋の人とか、その隣の部屋の人に苦情をつけられたホテルの従業員さんとか。
あまりに言葉が汚いから皆驚いてアナタを取り押さえるの。
酒に酔ってると、あたしは弁解して。
取り押さえられながらアナタは自傷をする。
怒鳴りながら、嘆きながら、叫びながらアナタは爪を突き立てて腕を引っ掻く。
皮膚が赤くなって、更には血が滲む。血が流れて、アナタは発狂して。
でもあたしは分かってる。
怒鳴っていたって、目は悲しい。
孤独を飼い慣らせないアナタは弱い人。
そんなことであたしの気を引いて、あたしはまんまと丸め込められちゃうんだから。
癒やしてあげる、満たしてあげる、そうあたしが囁やけばアナタは途端に静かになって。
今した自傷の傷を見つめる。
「痛いの痛いの飛んでいけ」
あたしは微笑む。
アナタはボロリと泣いた。
虚勢を張って、人の悪口を大声で叫ぶアナタも、情が垣間見えるアナタもあたしは大好きだから。
全部、あたしは気付いてる。
アナタは弱い人。
この世全てに値札を貼ろうと、大人も子供も意地を張ったって、無償の愛ほど|悍《おぞ》ましいものはないから。
あたしもアナタもよく解っている。
だから対価を求めるし、"一夜限り"の設定なの。
一夜限りだと、思っているのはアナタだけだけれど。
これは危ない。まともではない。
何度会ったってあたしはそう思う。
アナタはいつも何かに怒って、悲しんで、喜んで、嫌ってる。
これはおかしいと、分かっていたって胸は踊る。
アナタとあたしで「もう呑まないで」「明日のことを考えて」そう言い合う時間もあたし大好きなのよ。
本当にあたしは恋だし、愛なの。
あたしはアナタのために喚いて。
明日のために、泣き叫ぶの。
『なんで覚えてないの』と。
ほら、愛された分、愛すのがルールだから。
アナタは、ほら。
悪い人。
あたしに、アナタに逃げ道はない。
誰も、許してはくれない。
でもあたしだけは、許してあげるから。
仕返しも、介抱も凄く手が焼ける。それでもアナタの足掻くさまさえも映えるなんて。
本当にアナタは悪い人。
本当に、
弱くて。
アナタは悪い人。
そして弱い、
アタシは悪い人。
悪い人/syudou
https://m.youtube.com/watch?v=qCLFfQZA0Gs
コールボーイ
https://tanpen.net/novel/69c6d8d1-411c-4a20-b6be-011f69e7522c/
転生林檎
使わせてもらった楽曲 転生林檎
ピノキオピー様
晴瀬です。
気付いた、一人の人の話です。
平凡な自分が嫌だった。
当たり前のように生かされて、当たり前のように就職活動をした。
『特に問題もないですが、特に取り柄もないですねぇ』
どの会社にも採用されない。
平凡で良かった人生じゃ生きていけないのだと知った。
平凡すぎた。
平凡な自分を嫌いになった。
それでもなんでもなく生きている自分が嫌だった。
なんでもない生活が嫌だった。
街を歩いた。
今日も面接があった。
すっぽかして、本気で、死ぬ気で歩いた。
「こんにちは」
いつの間にか目の前には怪しげに微笑む男。
年齢が分からない、変な男だった。
片手に怪しい青林檎を乗せていた。
「平凡な人生が、嫌になりましたか?」
男は目を細めた。
「賢いワナビーはみんなやっている。一端の何者かになれる、これは転生林檎」
胡散臭いのは分かっていた。
怪しいのは分かっていた。
死ぬかもしれない。
苦しむかもしれない。
特に何も起きないかもしれない。
私はお金と引き換えに、林檎を、買ってしまった。
家に帰りそれをしばらく眺め、そして、頬張った。
林檎らしい、爽やかな食感が耳に届いた。
---
ある表現者になった。
創って発表すればすぐに評価が届く。
『凄いです!!』
『色んな解釈ができますね』
『何を伝えようとしているのだろうか…』
『考察しようよー!』
『単純に上手い』
『綺麗』
全世界で賞賛され、テレビで取り上げられ、ネットで騒がれた。
自分は平凡ではないのだと、自分が特別で、他は凡人なのだと、その才能に酔いしれた。
たがこの表現者は人を愛する才能はなく、ここまで支えてくれ彼が愛していた仲間は去っていた。
自分に、人を愛する才能がなかったから。
あー。またダメでした。
--- 転生しよう ---
---
ある発明家になった。
世紀の大発明をした。
テレビ出演したとき私は言った。
「世界が平和になりますように、そんな想いを込めてこれを造りました」
好感度を上げるためとか、そんな邪な気持ちはなかった。
本気で、心からそう思った。
だが発明は兵器に利用され残酷な血の雨が降った。
自分がこんなものを造ったから。
あー、またダメでした。
--- 転生しよう ---
---
才能がない
---
頭が悪い
---
運動ができない
---
才能がないからチェンジして、頭が悪いからチェンジしてすべてをリセットした。
人生の攻略法、幸福の必勝法を探して人格を飛び回った。
どうすれば幸せになれる?
どうすれば楽しく人生を過ごせる?
自分と、俺と、僕と、私と、彼女と、彼と、あいつと、君と、貴方と、誰?
見境が、ない。なくなった。
自分って誰?
あれ?「自分」が消えちゃったの?
---
繰り返し繰り返し生まれ変わり間抜けに"たった一度"の人生を終え灰になった山のような亡骸の上で踊った。
転生する者の悲痛な叫びだった。
幸せになるために、人格を廻って自分を見失って、"一度の人生"が可哀想だと笑いたい。
誰か
愛して愛して。
嫌。
---
繰り返し繰り返し生まれ変わり自分の人生よりかは煌めいている似たり寄ったりの物語。
転生する者の呪縛。
これが幸せだと分かっているのに、必要以上に求めてしまう。
どうして
どうして。
---
ある救世主になった。
無償の愛をすべての人に分け与えた。
たくさんの人が私を慕い、尊敬し、老いた人も若き人もすべての人が私に頭を下げた。
幸せだと思った。
これが一番正しい生き方なのだと確信した。
だがその人たちは純粋すぎて悪に騙され、骨までしゃぶり尽くされてしまった。
自分が悪という存在を訓えなかったから。
あー、またダメでした。
--- 転生しよう ---
---
ある革命になった。
変な綺麗事を嫌った。
正直者が馬鹿を見る世界でルールを疑い戦った。
自分の正義で、戦った。
だが手に入れた世界で力に溺れ平和ごと燃やしてしまった。
あー。またダメでした。
--- 転生しよう ---
---
人望がない
---
大義がない
---
人望がないからチェンジして、大義がないからチェンジしてすべてをリセットした。
快楽の奴隷インテリの亡霊。
幸せを求めて何にでもなった。
何にでもなれる。
やっぱり異世界でも現実はシャバかったよ。
---
繰り返し繰り返し生まれ変わり歴史のない無教養の謝罪を。
転生する者の悲痛な叫び。
愛して、愛して。
嫌。
---
繰り返し繰り返し生まれ変わり1000回やっても失敗の告白も。
すべてあの人生と同じ。
転生する者の呪縛。
幸せだと、信じてみるのに物足りない。
必要以上に求めてしまう。
どうして
どうして
---
ある冒険者になった。
理想を求めて旅立った。
無謀な挑戦でもそれを貫く姿勢に人々は感動した。
こんなことでも、人を勇気付けられる。そう思った。
だが理想を求めるがあまり罪のない人が犠牲になった。
自分が理想を追いすぎたから。
あー、あー、またダメ?
どこへ向かうのだろう?
---
繰り返し繰り返し生まれ変わり山積みにされた亡骸の上で小さく笑い踊った。
転生する者の悲痛な叫びなのに。
愛して
誰か、誰でもない自分を愛して。
嫌。
---
転生林檎 転生林檎のお陰で生まれ変わり
転生林檎 転生林檎のせいで限界を知ったり
転生林檎 転生林檎ですべての、一巻の終わり
どうして
どうして
---
ああ、転生が終わった。
平凡な自分に戻った。
悲しいけど、なんだかホッとした。
さあ、"自分"はどうしようか。
その賢いワナビー達はシラフに戻ったらみんなやめていく。
林檎をもう二度と使うことはない。
自分が、自分であるために。
転生林檎を眺めた。
息を小さく吐いた。
食べかけで、まだ転生しようと思えばできる。
ワナビー、それは実質が伴わない人。
それを知っていてあの売人は自分にこれを売っていた。
勢いでベットの上から立ち上がった。
手に持っていたそれを放り投げる。
ゴミ箱に捨てた転生林檎
転生林檎/ピノキオピー
https://m.youtube.com/watch?v=LYWP8HtgeLQ
『ワナビーとは』
有名人や人気者などに強くあこがれ、それになりたがる人。
憧れて真似をするが、実質が伴わない人のことをいう。
ノンブレス・オブリージュ
使わせて頂いた楽曲 ノンブレス・オブリージュ
ピノキオピー様
晴瀬です。
息が続かない少年の話です。
世界中のすべての人間に好かれるなんて気持ち悪いよ。
でも、君だけには好かれていたい。
1つになれない世界で君とたった2人で生きていきたいの。
---
数で押す暴力には初めから戦おうとせず白旗を上げて降参した。
でも君は戦っていた。
嫉妬妬み憎悪後悔嫌悪悪意、そんな悪感情を殺して笑顔を作って、王者に媚びを売って。
でも君は自分を貫いていた。
策の詳細や客観的な事実よりも個人的信条や感情へのアピールが重視され、世界が作られる。
そんなおかしな世界を、甘く甘く包めて正しいとされていた。それを誰も疑わず、声を上げず見過ごした。
でも君は声を上げていた。
大人の欲望で言いくるめられた歪んだ愛と平和に引き攣ってでも笑って見せた。
でも君は笑っていなかった。
自己中心的な考えで人を殺して傷つけて、被害者を多く出した強者たちを誰も咎めようとはしなかった。
意味はないのに。
人を傷つけることに意味がないと分かっているんだ、強者だって。
それでも、人を傷つけることをやめようとはしなかった。
それすらも高級に作られた殺しの許可状を振りかざして、弱者を虐めた。
楽しく遊ぼうと思ったら分断が生まれる。
無痛分娩で授かることができる可愛い子供はどんな大人に育てられどんな大人になるのだろうか。
そんな、壮大な内輪ノリを皆"歴史"と呼んだ。
生きたいときに死ねと言われ、死にたいときに生きろと言われ。
幸せ自慢はダメ?不幸を嘆いてもダメ?
だったら、僕らは何をすればいい?
どう、人に"僕"を伝えればいい?
図々しい言葉を避け明るい未来のために我慢して、耐えて。
正しい大人にさんはい、と声を揃えて言わされる。
『この世には息もできない人が沢山いるんですよ』
だから、息をできる貴方達は幸せ者。
それは、本当か。僕たちは息ができているのか。そんなの誰にも分からない。
争うことを知らない人達もいずれ気付く。
あちらが立てばこちらが立たない。
相手を優先させるか自分を優先させるか。
譲って奪って守って、行き違って争いを避けて走り逃げた先に地雷原を見つけはと思い出す。
このまま進めば、全てが無くなるのだと。
だったら、自分が我慢しよう。
自分が我慢すれば人が助かるのだから。
大人しく犬になって「ワン」
息ができない息ができない息ができない息ができない。
もう皆、愛してるよ、
そう嘘ついて。
息苦しい水面下で静かに煙る血の花。
それを綺麗だと思ってしまう僕らはもう、。
僕らはコンプレックスを武器に醜く争ってそれぞれの都合と自由のため強者は弱者の息を止めること強制する。
息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる
生きたいが死ねと言われ死にたいが生きろと言われて。
生きたい人に死ねというのは悪なのに
死にたい人に生きろというのは善なんだ。
どっちも苦しいのに。
正当防衛と言って自分に甘くして、人を傷つけるためのチェンソーを振り回すまともな人達が怖いよ。
愛のように光り輝いて、春の花のように綺麗なものだと言われていた大事なものが日々だんだん消えていくよ。
愛は、消えない永遠のものじゃなかったの?
さんはい、『この世には愛も知らない人が沢山いるんですよ』
だから、愛を知ることができた貴方達は幸せ者。
僕が触れたこれは、愛なんだろうか。
共感羨望嫉妬逆恨み。
真黒な一見汚れた涙が零れ落ち醜い感情が吹き出し、皮肉にも白くなっていく。
こうして、真っ白い鳥になるんだな。
息ができない息ができない息ができない息ができない。
愛してる、はずだよね。
氷点下の水の中でも絶対に凍らない深海魚と泳いで、見上げれば届くはずのないザラメのような星があって。
僕らは直接、直接は手を下さないまま想像力と判断力を奪う液晶越しに誹謗中傷して、息の根を止めてそこでやっと安心する。
息ができない息ができない息ができない息ができない。
愛したいよ。
それぞれの都合と自由のため息を止めること強制する。
息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる
苦しい。
このまま、苦しいままなら。
諦めて息を止めた。
息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める息を止める
そんなとき、君が謳った。
僕を抱き締めて名前を呼んだ。
久し振りに人の温もりを感じた。
人は、温かかった。
大丈夫じゃないのに君は大丈夫だと僕に笑いかけて、心配しかないのに心配ないと僕の背中を擦った。
僕は、泣いた。
息が詰まる息が詰まる
大好きだよ。
僕は、君がいる世界なら生きていける。
それぞれの好きを守るため、君と僕を守るための防空壕で息を吸った。
息ができる。
涙が流れた。
僕と君の呼吸する音が、こだました。
ノンブレス・オブリージュ/ピノキオピー
https://m.youtube.com/watch?v=lw7pcm1W5tw
エリート
使わせて頂いた楽曲 エリート
Chinozo様
晴瀬です。
笑い嗤われる少年の話です。
小さい頃
「言うこと聞かなきゃいけません」とママは言ったけれど、
「大人も大体間違えてる」ってパパは言った。
いっぱい、教わってきた。
方法論。人生論、余論、公算論、原論、否定論、存在論、対論、感情論。
強制的に「ほうほう」を。
こんなことに何の意味があるのか疑問に思いながらなんだかんだ出来ていた。
全然、夢も無いわ。
愛情に絞る「ありがと」
理性に掛ける「ごめん」も。
郷に入れば郷に従え、そんな言葉も知らない、理解出来ない馬鹿を叩き笑った。
「本当に、お前は馬鹿だな」
だって僕は
優等生だから。
馬鹿な奴らはここにいる意味ないよ、帰りなよ、と笑顔で言って。
常識すら守れないならもう要らないよ。
僕は笑う。
「ハッハ」
乾いた笑い声。
僕はこの中で1番の優等生。
良識くらい、習って仕込めよ。
ほら、常識くらい守って暮らせよ。
ハッハ……はぁ
なんだかな、涙すら忘れてしまったようです。
立派な制服晒して闊歩してそれも虎の威を借りて。
『虎の威を借りて生きているならお前が凄い訳じゃないだろう』
知ったかぶりする大人が僕に言ったことがある。
いや、違う。
馬鹿な奴は、虎の威を借りようだなんて、思い付きさえしないんだよ?
「虚栄心だけで」
ハッハ。
「髪を染めるのはいけません」
「先生ずっと言ってたよ、ずっとさ!」
「人に注意が出来て偉いですね」
はあ、安心した。
なんかいい感じ。
待って。全く夢もねえわ。
---
そうだよ、全部僕じゃない。
今のは全部、僕が生み出した"僕"なんだ。
いつしか愛情に飼い慣らされて、何も言えなくなって口答えするなと嗤われて。
自分を騙して、自分は強い者なんだって錯覚しようとして。
泣けなくなった。
笑うしかなかった。
でも愛想笑いだって上手くない。
「ハッハ」って、
乾いて、乾ききってもう味のしなくなったガムのように使い古した言葉で笑って。
僕の光は、全部塵箱に捨てた。
自分で、結果的に自分で捨てたんだ。
だったらもう全部、忘れてしまえ。
こんな詩歌いたくない。
時間があったら勉強をしろって、言う人がいるからね。
だからいつもクタクタで、クタクタな人生を生きてて。
自我をなくして狂っていたいくらいに忙しい。
マイノリティになるくらいなら、総勢圧に負けて調整されてそうして静かに生きていたい。
でも周りの環境や意見に絆されて。
貴方にゃ到底分からない。
こっちゃこんなに苦労してんだぜ?
こんな苦労して、優等生なんだぜ?
見りゃわかる。
僕が世界で1番真面目真面目真面目真面目真面目真面目。
真面目?
僕は、優等生。
常識は守って暮らせよ?
良識は習って仕込めよ?
こっちに従えりゃあんたも楽なのにな。
---
ねえ、愛って何?
ねえ、褒められないと勉強が出来ないんだそれって何で?
ねえ、誰も褒めてくれないの。当たり前になってるんだよ?
ねえ、誰か、上手い笑い方を教えて
誰か泣き方を…
なんで、いきてるんだろう。
ああ、だりいから考えるのやめ。
ラルラリラ ラルララララリラ
なんだかな、涙すら、忘れてしまったようです。
エリート/Chinozo
https://m.youtube.com/watch?v=YznQjwMjDKw
願い歌
使わせて頂いた楽曲 願い歌
カンザキイオリ様
晴瀬です。
願いの話です。
常識なんてわからない。
人の痛みもわからない。
そもそも自分の痛みも、うまく言葉にできない。
"人間"になりそびれた。
そう思うほうが正しい。
形のないことばかり染みるように積もるばかりで。
息が苦しい。
すれ違う人すべて、自分と同じことを考えてる。
そうだったら、いいのにな。
そうじゃないのは、なんでかな?
僕らはさ
願ったりさ
叶わないのなら歌ったりする。
そのくせにさ
馬鹿にしてさ
わかり合うフリしてガムを吐く。
愛した人
許した人
その全ても時に零れ落ちる。
心が荒んでいくのがわかる。
でも今僕らは叫ぶしかない。
学校なんて嫌いだ。
仕事なんて大嫌いだ。
僕らが本当に求めるものは一体どこにあるんだ。
やりたいこともできない。それはお前のせいだ。
そうして嘆く合間にゆるやかにシワを重ねて。
あのときやっておけばよかった。
歳をとるたび思い出すんだ。
裏切られたこと。
どうしようもなかったこと。
楽しい思い出もあったんだよな。
そう思えないのは、なんでかな?
僕らは
願ったりさ
叶わないことばかり愚痴りあって。
そのくせにさ
燻るばかり。
口だけだなんて馬鹿にするなよ。
夢を知らないだけなんだよな。
今が一番好きなんだよな。
泥だらけの肌で渇望する姿を馬鹿にするな。
願うって信じた分だけ無様って笑うよな。
そんなの、わかってるんだよ。
願いたいから願うんだよ。
例えば僕でいるために。
もしくは君を愛するために。
あるいは人間らしさを噛みしめるために。
僕らはさ
願ってもさ
叶わない日々に妥協もするよ。
見下される。
馬鹿にされる。
それでも這いつくばっているのさ。
僕らはさ
この選択が間違いじゃないと誓っていう。
「この心だけは濁せやしない」
「だからこそ僕らは叫ぶんだ」
『願い歌』/カンザキイオリ
https://m.youtube.com/watch?v=ToziEb7IeI4
少女レイ
使わせて頂いた楽曲 少女レイ
みきとP様
晴瀬です。
電車と、青空と、少女たちの話です。
私はまるでハツカネズミのようだった。
実験のように扱われて、私はクラス中の敵だった。
私なんか、死んだほうがいいんだなぁ…。
こうして追い詰められたハツカネズミは絶望の淵に立って。
今、踏切へと、飛び出した。
車輪が軋む
耳触りな音が響く
何かが車体に当たる
ドン、と鈍い音がした
---
14歳の彼女の声が聴こえてふと目が覚めた。
僕は女の子だ。
体も、心も。一人称が僕なのは…なんとなく。
いいじゃん。そういうの。
僕には好きな子がいて、僕の友達の|黎依《れい》っていうんだ。
可愛くて、本当に可愛くて。狂おしいほど、可愛い。悪魔的な可愛さだよ本当。
でもね、僕と黎依はずっと友達のまま。
親友なんだ。
いつも近くでいられて、凄く幸せなんだけどさ、やっぱり少し寂しい。
僕と黎依は友達だけど、恋人には絶対なれないんだ。
あの、最初は我慢してたんだよ。
これは、僕も黎依も女の子で、僕が女の子を好きになる人で黎依は男の子を好きになる人だっただけで。
でももう、辛くなっちゃって。
我慢の、限界で。
黎依に僕を見てほしいって
女の子として僕を見てほしいって
僕のものにしたいって
思っちゃった。
黎依は頭が僕より良くて、運動も僕よりできて、可愛くて、僕より劣ったところなんてないんだ。
僕は黎依に頼ってほしかった。
いつもいつも、僕が頼ってばっかりだから。
だから
だから僕は黎依をクラス中のいじめの標的にした。
僕は手を出さず、クラスの人に黎依をいじめさせた。
僕は黎依をいじめるクラスメイトを、助けを求める黎依を黙って見つめた。
放課後、クラスメイトが帰った教室で黎依と僕で二人になる。
もう夕方だってのに、蝉が鳴いていた。
まだ濃い太陽が、地面に照りつける。
僕はそれを見ながら呟く。
「ごめんね、助けられなくて」
僕は涙を出して見せる。
黎依ははっとしたような顔になった。
「|遊生《ゆき》のせいじゃないよ」
黎依は優しい。
「ごめんね、ごめんね」
何度も何度も僕はそう言って黎依を抱き締める。
ほら、僕と黎依は友達で、ここに居場所も無く独りなんだからさ、僕の手を掴んで。
僕を頼ってよ。
「いいんだよ」
黎依は僕を抱き締めたまま耳元でそう言う。
「今度は絶対、助けるから」
「いいんだよ」
いいんだよ、黎依はずっとそう繰り返していた。
「私、遊生のこと大好きだよ」
教室に二人きり。
どうせ、友達としてなんだろうけど。
きっとこの儘愛し合えるさ。
そうこうしているうちに夏休みに入って。
僕と黎依で出掛けたときにキーホルダーを買った。
お揃いの、キーホルダー。
黎依は嬉しそうに笑って、鞄の横に付けた。
僕も真似て通学鞄に付ける。
「私達の友情が壊れないようにしっかり結ばなきゃ」
そう言って黎依はキーホルダーの紐をきつく縛った。
黎依は笑った。
そこで僕は気付く。
目の奥が、笑ってない。
酷く恐怖を覚えた。
僕の黎依が、僕の黎依なのにもしかしたら何処かへいってしまうかもしれない。
他のものに、なってしまうかもしれない。
そう思った。
大学の受験勉強をしていたときフラッシュバックした。
あれから定期的に何度もあった。夜寝る前に思い出す。
あの目を。
黎依がクラスメイトにいじめられるときに僕に向けていた目。助けを求める、目。
同時に蝉の声が耳で鳴る。
黎依がいじめられるときはいつも蝉が強く鳴いていた。
まるで僕に忘れさせないようにするために。
もう、二度とは帰らぬ君の目を。
いつも、毎日、思い出す。
永遠に千切れてくお揃いのキーホルダー。
6年前の夏と一緒に消えていったあの白い肌の少女に
あの、短い髪をした少女に
少女|黎依《レイ》にずっと取り憑かれて仕舞いたい。
哀しい程に。
ずっと。
僕の本性がさらに暴れ始めたのはそれから1年後の9月の始め。
高校1年生の二学期が始まった頃。
1ヶ月ぶりのチャイムが教室中に響く、9月のスタート。
僕には、癖がついていた。
好きな子をいじめる癖。
次の標的に置かれた花瓶。
仕掛けたのは、僕だった。
彼女と友達の僕は彼女の目を見て「ごめん」と言う。
助けられなくて。
あの日のように繰り返した。
でもさ、君が悪いんだよ。
僕に向かって、好きな子が出来たなんていうから。
指差したのは、目立たない物静かな男子生徒で。
なんで?
なんで僕じゃないの?
ねえなんでよ?
そう、君が悪いんだよ。
僕だけを見ててよ。君のいじめを傍観しているんだよ?
その男子生徒なんか、ただの意志の弱い傍観者じゃん。
君は苦しいんでしょ?ほらここにいるよ。僕はここにいる。
助けを求めなよ。ここに救世主が、君の心の支えがいるよ?
ずぶずぶと僕が仕掛けたいじめに溺れていく|其《そ》の手に僕は素面で手を伸ばした。
優しく引き上げて|口吻《キス》をした──。
君に向けて薄笑いを浮かべる獣と化したクラスメイトたちの心が晴れるまで。
彼女は綺麗に揃ったスカートに爪を突き立てる。
綺麗な顔をした君には似合わないくしゃりとしたスカート。
僕と隣に並ぶと長さも不揃いで。
夏の静寂を切り裂く君の悲鳴に僕は小さく笑みを漏らした。
愛おしい君の声が、大きく聴こえる。
君は痛みに弱い。
君の声が|谺《こだま》する教室の窓にはあの日のような青空。
そうだよ。僕は友達。
僕の手を掴んでいいんだよ。
そう、君がいなくちゃ僕の居場所は、…君がいなくちゃ?
いや、僕がいなくちゃ君の居場所はずっとないままだよ。
ああ、綺麗で透き通った世界で愛し合えたらいいのにね。
汚してるのは、僕と知りながらも黙って。
受験を終えてだらだらごろごろしていたときにフラッシュバックした。
あのとき叫んだ君の声と、黎依の優しい声と、蝉の声を。
二度とは帰ってこない黎依の顔が脳裏に強く映って。
黎依があそこへ飛び出した日に千切れたあのお揃いのキーホルダーの落ちた音が僕を泣かせる。
「黎依を殺したのは誰!?」
そう叫んだ、黎依のお母さん。
今になって真実を知ったんだ。黎依がいじめられていたこと。
中学の同窓会に呼ばれて行った僕は、途中から乱入してきた黎依のお母さんを見てそう思った。
「誰なのよ!?名乗りなさい!殺してやる!!」
そう泣きながら叫んだお母さんを少し経って到着した警察官に取り押さえられる。
これで警察に事情を訊かれて発覚するんだ。
6年前の14歳のとき、黎依がいじめられていたこと。
ニュースになるのかな。
その日の帰り道、僕の目に映ったのは透明な彼女。
黎依だった。
黎依が視えた。
耳元であの声が響く。
『誰なのよ!?名乗りなさい!殺してやる!!』
黎依のお母さんの声。
6年前の夏、僕が消してしまった白い肌の少女に哀しくなる程取り憑かれて仕舞いたい。
透明な君は僕を指差していた──。
少女|霊《レイ》───
踏切が降りる
踏切の音が道路に跳ね返って、響いた
少女レイ/みきとP
https://m.youtube.com/watch?v=JW3N-HvU0MA
2015.4 中学2年のクラス替えによって藤堂黎依が岡澤遊生と出会う
2015.7 岡澤遊生による藤堂黎依へのいじめが始まる
2015.8 二人でお揃いのキーホルダを購入
2015.8 藤堂黎依がいじめの首謀者は親友だと思っていた岡澤遊生だと知る
2015.9 藤堂黎依、帰路にある線路を通る電車への身投げによる自殺
岡澤遊生のキーホルダーが千切れる
2015.10 岡澤遊生に定期的にあの日のフラッシュバックが起こるようになる
2016.4 岡澤遊生が中学3年生に進級
2017.4 岡澤遊生が地元の高校に進学
2017.5 岡澤遊生がクラスメイトに恋する
2017.7 岡澤遊生による喜多山優佳へのいじめが始まる
2017.7 喜多山優佳が岡澤遊生に好きな人を告白
2017.7 喜多山優佳へのいじめが悪化
2017.11 喜多山優佳が自分の家の近くの線路で2年前女子中学生が亡くなったことを知る
自分の友達の岡澤遊生がそれについて詳しいことに気付く
2017.2 喜多山優佳が転校する
2018.4 岡澤遊生が高校2年生に進級
2019.4 岡澤遊生が高校3年生に進級
2020.4 岡澤遊生が地元の大学へ進学
2021.4 岡澤遊生が大学2年生に進級
2021.6 藤堂黎依の母、奈緒子が娘の死んだ原因はいじめだったと知る
2021.7 中学の同窓会が行われる
藤堂奈緒子が乱入
警察に聴取され、藤堂黎依が亡くなった原因はクラスからのいじめだったと発覚
岡澤遊生が藤堂黎依を目撃(後に錯覚だったと捜査の結果判明)
2021.8 岡澤遊生、死亡
死因は、電車ではねられたことによるショック死
夜明けと蛍
使わせて頂いた楽曲 夜明けと蛍
n-buna様
晴瀬です。
朝が怖い少女の話です。
苦痛の部活の時間が終わって、帰宅したときに空に浮かんでいた淡い月。
私もこんな風に、生きたかったのにな…って少し見とれて。
でも私は月にはなれない。
それが少し、哀しかった。
そうやってぼうっと歩いていたら暗い足元も見えずに。
「──痛っ」
転んでしまう。
---
私は幸せな人だった。躓いたことに気付かずにそのまま進んでいける。
よく言ってポジティブ、悪く言って周りが見えていない、自分が見えていない。
それを嫌だと思う者は山ほどいる。
だって、何か集団で物事を行うとき私が足を引っ張っていても私自身はそれに気付かないから。
周りも指摘しづらい。
小さい頃は、ポジティブで、前向きでいいって言われてた。
だけどもう、そんな歳じゃない。
自分を見つめて、自分と周りをよく見て、日頃の行いを振り返って、そんなことが毎日のように言われるような歳になってしまった。
でも私はそれができない。どうしたって、どう頑張ったって、できない。
それが彼女たちにとって好都合だった。
裏でクラス全体が嫌う人で、
でも"特別"迷惑じゃないから表では良しとされていて、
先生ももううんざりしてきた頃で、
自分たちが気に食わなかった人。
それが、私だった。
遠い空に光る星が眩しくて、それを眺めていたら星が滲んだ。
私は下を向く。溢れないように目を瞑って。
かれこれ何ヶ月か。
私は傷付けられていた。クラスに、あの子達に。
|所謂《いわゆる》、いじめ、ってやつ。
でもしょうがない、傷付けられるのも。私が悪いから、元はと言えば。
私が、自分のミスに気付けていたら気付けられる人間だったらこんなことにはなってない。
私が悪いから。
私が悪いから。
私が悪いから。
もうそろそろ、進路を決めなきゃいけないなんて言われる時期になってまでそれは続く。
皆暇なんだ、きっと。
頭がいいから勉強なんて必要ないんだ、きっと。
私は、やりたいことが見つからない。
やりたいことがあっても私はミスに気付けない人だから、失敗するに決まってる。
私は勝手に諦めてる。
でも、あれもこれも見て見ぬふりする担任は急かしてくる。
そろそろ決めないと─、
そんな言葉を聞き続けて。
私は急いだ振りをして俯いたまま。
転んだことに笑われているのも気付かないふりをするのだ。
そうすればきっと、明日も朝を迎えられるから。
形のない歌で明日の朝を描いて、そんな理想がかなったらなぁって私は泣く。
でもそんな理想が叶うはずもなく虚しくも"いつも通り"は始まってゆく。
どれだけ辛くても、どれだけ苦しくても。私は生きる。
浅い浅い夏の向こうに君の手が見えた。
私の救い。たった1つの助け。
みんなみたいに冷たくない。温かい君の手が見えた。
淡い空。
私は笑う、そして泣く。
私は、明けの蛍。
---
大嫌いだった自分がただの染みに見えるほど嫌いなものが増えたので、
それに、私を守ってくれる君がいたので、誰もいない地球の裏側へ飛びたいと思う。
無人の駅に届いて、誰にも咎められないように降りれるように。
そうしたらきっと、楽になれるから。
そう信じて。
どうあがいても、夜は明ける。
朝は来てしまう。
でも私の夜は明けない。ずっと辛いまま明るい朝は来ない。
それでも物語は続いていく。
まだ私の人生にも続きがある。
でももう、ここで書くのはやめる。
あなたの物語もまだ続いているから、あなたはあなたの人生を生きて。
転んで俯いた私の視線に君の手が見えた。
その手を取ると温かさに涙が溢れた。
誰のものでもない、温かい君の手が私に触れている。
私が何者でもなくても何もできなくても、君がいたら生きていける気がする。
水平線を見つめると太陽が昇った。
朝が始まる。
私は立ち上がった。
服についた汚れを払って、一歩を踏み出した。
夜明けと蛍/n-buna
https://m.youtube.com/watch?v=nDbNRb9gOr4
私事ですが、本日で短編カフェを初めて1年が経ちました!!!
早いもんだぁ。
ということで少々昔話を。
使っていたサイトが閉鎖されて、新しいサイトを探していたら短編カフェと出会いました
初投稿は『春』という作品でその場でパッと書いて投稿しました
そんなものにもファンレターを頂いて、初のシリーズ物『あの夏が飽和する。』をカンザキイオリさんの同名曲の二次創作で投稿
その時初めてのリクエストを頂いて『独りんぼエンヴィー』を二次創作 読み切りで投稿
そこから曲パロも初めてリクエストもちょくちょく貰って書いてました
企画に参加させていただいたりリクエストもたくさんいたたいて、まだ書ききれてないリクエストや完結できてないシリーズもありますが
色んな人と関わらせていただいて仲良くさせていただいて本当に嬉しかったです
なんか色々あったなあって思うけど、なんだかんだ続けられてるのは
読んでくれる方、
ファンレターくれる方(毎回匿名で送ってくれる方いつもありがとう)、
前々から細々とだけど関わってくれる方、
運営さん
のお陰です
ありがとうございます!
投稿頻度も落ちてあんまり浮上しなかったり、ファンレターも最近はほとんど送ってないし、ここに来て知名度はほとんどないんですけど笑
まだやめないので引き続きよろしくお願いします!!
では!(^_^)/~
Overdose
使わせて頂いた楽曲 Overdose
なとり様
晴瀬です。
オーバードーズとかって依存性すごいよねって話です。
本当は解っていた。
よく、解っていた。
君を愛すことは、君と"恋愛"するのは悪いことだって。
何故なら君には、他にパートナーがいるからね。
そんな君と僕とが一緒にいるなんて世間的にNOだもんね。
僕には愛が足りない。
昔から愛されてこなかった。だから僕は弱い。愛に弱い。
僕をこれでもかと愛してくれる君。でも僕は君の一番にはなれない。その席はもう埋まってる。
でもそれに魅力があって。
僕は離れられない。そして君も離れない。僕のことをよく分かっているから。
君と一緒になれることを描いて、独りで笑った。
そんな夢が叶うはずもないし、赦されるはずもない。
でも辛い。
行き場もなく愛し続けることがこんなにも難しい。
これは誰にも赦されないんだ。
僕が君から離れれば問題は全部なくなるのに。
それでも無理なんだ離れられない。
君が愛おしくて堪らない。
--- オーバードーズ ---
そんな言葉を知った。
──薬物の過剰摂取を意味する「オーバードーズ」。 一時的な高揚感などを求め、市販のかぜ薬などを大量に摂取する行為のことである。
そんな説明と共に載る大量の市販薬の写真。
僕のことだと思った。
だめだって分かってるのにやめられない。
君に相手してもらえる一瞬の高揚感。それだけのために僕は君に尽くし続ける。
大人な君は全部分かってる。
僕がどんな想いか。分かってて弄ぶ。僕はそれを咎められない。それだって一瞬の高揚感に繋がる。
僕にとっての薬。
君に電話した。時刻は0:28。君の旦那さんはきっと、寝てるかまだ仕事か。
2コール掛かって君は電話に出た。
スマホ越し、吐息混じりの掠れた声に僕の口元は綻ぶ。
暗い部屋でヘッドホンをつけて、君と話した。他愛もない話。
「──寂しかったんでしょう?」
君は|一声《いっせい》そう言った。僕の全てを解っているから。
久しぶりの高揚感、幸福感。
あまりの甘さに吐きそうになる。
電話を切って。
少し泣いた。
これで、この声で全部忘れて眠ってしまえるでしょう?
そう自分に言い聞かせる声はいつの間にか君の声に成り代わっている。
僕はずっと求めてる。君の愛を。
--- Overdose ---
君とふたり。そうなれることを願ってる。
君が一人に別れて僕の元へ来てくれることを祈ってる。
そうなったらどんなに幸せか。
朝一緒に起きて、一緒に朝ご飯を食べて、毎日日常を話して、好きなときに抱き締めて、時々キスして、笑い合って、君が泣いたら僕も一緒に泣いて、毎日を半分に分け合いっこして、それで、僕は幸せで、。
叶うわけないけどさ。絶対。
こんな夢だって輪郭もはっきりしないけどさ。
でも、逆に君に別れを告げられるんだったらこんな風な解像度の悪い夢を見ていたい。
--- Overdose ---
ひと月ぶりくらいに君と二人で会った。
嬉しかった。楽しかった。
君と合えるだけで嬉しいのに、丸一日君は時間を作ってくれた。
幸せ過ぎて、もう死んでもいいと思った。
別れ際君は言った。
「私が居なくても大丈夫?これからまた会えるのはずっと後だよ」
僕は言う。歪な笑顔を作る。
「大丈夫だよ」
君は静かに微笑んだ。
「愛してる」
「僕も」
「大好きだよ、僕」
君は笑った。長い髪が揺れた。
---
僕の友達は言う。
「本当に分かってる?いけないことだって、分かってる?」
「分かってるけど──」
「嘘だ」
友達は僕の言葉を遮って言った。
「それ、浮気…不倫だよ?相手には旦那さんがいるんでしょ?気持ちもわかるけどさ、」
友達は僕の名前を呼んでそう言う。
「早く別れなよ。本当に悪いことだって分かってるんならできるでしょ?」
「分かってるよ」
………多分。
そう声には出さずに。
目の前に出されたドリンクに水滴がついているのが見えた。
時間だけが過ぎていく。
その時間も問答で満ちている。
友達の口から問いが飛び出る。その速度はだんだん増していく。僕は口を挟めない。
言い訳する間もなく、僕が知らない僕の秘密まで暴かれて。
きっと僕のストレスは溜まっていくんだ。
もう十分なはずなのに、まだ、まだ、って君を求めてる。
ずっと、いつまでも僕は馬鹿みたいに君の名前を呼んで叫び続ける。
全部終わってしまえばきっと楽になるのかもしれない。
君が、僕を嫌いと言って離れていく。
僕は泣いて、泣いて、叫んで、|嘲笑《わら》って、狂ったように嘲笑って、死んだようになる。
時間が経って立ち直ったらきっと、君と出会う前の日常に戻っている──のかもしれない。
きっと、そうなってくれる。はずだけど、その自信がない。
だったら、僕が思考する前に君がふっと消えてくれたら、いいのかな、。
この気持ちを放置していたら傷んで腐ってしまう。まるで甘くて弱い果実のように。
それを分かっているけれど、君に迷惑をかけるのを恐れて僕はスマホ片手に考える。
「今電話したら、迷惑かな」
「もし、旦那さんと時間を過ごしてたら」
「もしかしたら、僕以外にもまだ相手がいるかもしれない」
「だったら僕は邪魔者だ」
口をついて出るのはそんな言葉で。
深夜僕は悩む。
壊れながら僕は悩む。
だったら、いや、だから、踊って眠って全部忘れちゃえ。
「今から、会える?」
『今って、深夜じゃん』
君は少し笑った雰囲気を出した。
『だから、か?』
今度ははっきり声を漏らした。笑っている。
僕も少し愉快になって、息を零した。
「会える?」
『会おうよ』
『今日暇なんだ』
君は分かりきった嘘をついて僕に会いに来てくれた。
暇じゃないくせに。
嘘を被った君と隣り合わせで眠る。
後ろめたさからかちゃんと僕と目を合わせない君と見つめ会えたら。
--- Overdose ---
君とふたり。確かにこの狭い部屋で君とふたりでいられてる。
幸せなのに。幸せで堪らないのに。
どこかやるせない。
それはきっと、君の一番になりたいからだと思う。
やっぱり、解像度の悪い夢を見ていたい。叶えたい。
できるなら君の一番に、かけがえのない存在になりたい。
--- Overdose ---
君とふたり、この状況がとてつもなく悪いことだって分かってる。
でもなぜそれをやめないか。
きっとまだ、僕は分かってないんだ。
この関係がバレたとき僕はどうなるのか、周りからどんな目で見られるか。君がどんな目に遭うか。
解っているのに、まだ解っていない。
分かりたいのに、心がそれを拒む。
「怖くないの?これ不倫だけど」
ふと君が言う。まるで僕の心を見透かしたように。
まだ寝てなかったんだ。
そう呟いて僕は応える。
「怖くない、よ」
変に間が空いた。
僕はこんな嘘が嫌いだ。これは嘘じゃなくて強がりだから。
君にバレないように嘘をつきたいのに、強がりになってしまえば逆に心配させてしまうから。
--- Overdose ---
僕と君は、バレたら終わる。
僕らは地獄の2歩手前で生きている。
--- Overdose ---
君とふたり。
「大丈夫かな、バレたらやばいから別れたほうがいいと思う、」
不安から、ぽろりとそう零した。
「定期的に言うよね、それ」
「1ヶ月に1度くらいの頻度で別れた方がいいとか言う」
君は僕の名前を呼んだ。
「大丈夫だよ。もしバレたら、私が守ってあげる」
いつものように君は言った。
絶対それは嘘だ。君は誰より早く我が身の保身に図る人だから。
でも、君の笑みに僕は強くは言えない。
君だって僕の気持ちは分かってるけどそれを知って言うんだ。
だから僕も笑った。
ハッタリだと知りながら。
でも君が発する言葉は全て甘いから。そのハッタリだってくどいほど甘い。
その甘さに我慢できずえずいた。
--- Overdose ---
君とふたり。
いつか、どうせバレる関係だけど
いつか、きっと罰される日が来るんだろうけど
いつか、別れなきゃいけないんだろうけど
僕はこの一瞬の幸せを糧に生きていきたい。というか、この一瞬の幸せがなければ生きていけない。
どうなるか、分からないけど。
僕はまだ生きていたいから。
変に間の悪い嘘でもいいから。
どうにでも、君とふたりで、一瞬の快楽のために、甘いハッタリで少しでも長くこの関係を続けていきたい。
どうしょうもなく苦しい夜があるけど、
悪いことだって、やめなきゃだって分かってるけど、
この歌を止めないで。
僕の愛しい人。
どうか、僕を生かして。
君がいなきゃ僕は死んでしまうから。
どうか僕を、僕の人生を与えてください。
どうか僕を、与えてください、
--- |Overdose《過剰摂取》 ---
Overdose/なとり
https://m.youtube.com/watch?v=H08YWE4CIFQ
君の神様になりたい。
使わせて頂いた楽曲 君の神様になりたい。
カンザキイオリ様
晴瀬です。
"君"の神様になれれば他はなんでもよかったけれど、そんな話です。
歌を歌って、ネットに投稿する──歌い手という文化を知った。
好奇心だった。
よく知っているボカロ曲のサムネイルをタップすると知らない声で知っている曲を歌っている音声が流れる。
コメント欄を覗く。
『━━━さんの声を聴くと安心する』
『━━━さんは私の命の恩人です』
『私はこの声に救われました』
この人は、好きに歌ってそれを投稿しているだけだ。
それでも、それだけで、人を救えるの…?
だったら、僕も"君"を救えるんじゃないの…?
歌を歌うのは好きだった。
自分の心が浄化されている気がして。
汚いものが全て吐けているような気がして。
初投稿は、もう1年以上前になる。
「僕の命の歌で君が命を大事にすればいいのに」
「僕の家族の歌で君が愛を大事にすればいいのに」
そんなことを少しずつだが増え続ける僕のファンでいてくれる人に言い続けた。
「君を救える歌が歌いたい」
そんなことを言ったって、僕が欲しいのは共感だけで。
真意を受け取るのは"君"だけでいい。
僕のファンには、黙って歌を聴いて、「分かる〜」って薄っぺらい言葉を並べて、僕を引き立ててくれればいいんだ。
皆が共感してくれれば、この歌も伸びる。
そしたらきっと、"君"に届く。
"君"の心に。
僕は、欲にまみれた常人のなりそこないなんだ。
僕は、凄い人じゃない。
僕は、人を救えるような器は持っていない。
苦しいから歌った。
悲しいから歌った。
生きたいから歌った。
"君"に生きてほしいのに"君"はいつも死のうとするから。
僕の、エゴで、ただのエゴの塊だった。
こんな歌で誰かが、"君"が、救えるはずがないんだ。
だけどそれでも僕は、"君"だけの神様になりたかったんだ。
ファンに神だ、って|煽《おだ》てられるんじゃなくて"君"に本心から神様だと思ってもらえるような、"君"の神様に。
でもこんな歌を"君"が聴いてくれたとしても、"君"のジュクジュクに腐った傷跡がこんなので埋まるもんか。
"君"を抱きしめても、埋まらなかった"君"の傷をこんな下手な歌で叫んだって、現実は変わるもんか。
がむしゃらに叫んだ曲だって僕がスッキリするだけだ。
欲しかったのは共感だけ。
でも"君"を救いたかった。
僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。
ボロボロに落ちて落ちて落ちて、かさぶたになって治った僕の傷で誰かと喋ってみたかったんだ。
馬鹿みたいな話だけど。
僕の傷を治してくれたのも、"君"だったから。
だから僕も"君"の傷を治して救いたかった。僕が救われたように。
僕の傷を背負ってくれたのは"君"で、僕が気付いた頃には手遅れに等しかった"君"を。
僕のファンにその話をした。
僕の傷の話。もちろん、"君"のことは伏せたけれど。
僕の、かさぶたになって治った傷の話。綺麗な話ではない、汚い話。
僕が話す音に合わせてコメントがゆるりと流れていく。
決して多くはないけれど、中身は周りよりも濃い、と思う。
『あなたに救われました』
『生きたいと思いました』
僕はそのコメントを拾って読む。
「ああそうかい、変わったのは自分のお陰だろ。よかったな」
『ありがとうございます』
僕はそのコメントを見て少しはにかんだ。
子供の頃は、自分も素敵な大人になると思っていた。
絵本に出てくる、格好良い大人に。
ていうか素敵な大人になって自分を、自分みたいな人達を救いたいって思ってた。
時が経ち僕らは子供と大人の狭間に生きるようになった。
僕が成すのは、理想の素敵な大人のやることではない。
ボロボロの泥だらけの自分。
汚い、ぐちゃぐちゃの自分。
生きるのに精一杯。
大人になってもゲロ吐くように歌う日々だった。
歌って歌って歌って歌って歌って。
歌えばきっと聴いてくれている"君"が救われる、そう願っているしそう信じていたから。
僕は何度だって歌った。
"君"が被せてくれたかさぶたが剥がれるほど歌った。
僕は、歌う僕として"君"を救えたらそれでいいと思っていた。
でも僕は。本当は、生身の僕で、"君"の神様になりたかった。
こんな歌で君のジュクジュク募った痛みが癒せるもんか。
"君"を抱きしめたって、叫んだって"君"が苦しいことは変わらないや。
グラグラで叫んだ曲だって僕も実際好きじゃないや。
でも、やっぱりファンが喜んでくれるから。
こんな気持ちで、ファンに向き合ってこなかった僕を、優しく受け入れてまだ僕の歌を聴いてくれるファンが、喜んでくれるから。
"君"だけを救えれば良かったけれど、"君"以外の、君達も救えたら嬉しいことに気付いて。
欲しかったのは共感だけ。
いや、
欲しかったのは共感だけだった。
でもそれじゃ、"君"も君達も、誰も、誰も救えないや。
そう気付いて。
僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。僕は無力だ。
僕の、生きた証がほしいとか誰かに称えてほしいとかそんなのはさほど重要じゃない。
どうせ落ちぶれた命だ。
--- 誰かを救う歌を歌いたい。 ---
--- 誰かを守る歌を歌いたい。 ---
--- "君"を救う歌を歌いたい。 ---
そんなの、
やっぱり
無理だ。
"君"は"君"が勝手に"君"のやり方で幸せになれる。
僕はできなかったけれど"君"ならできる。
"君"だけじゃなくて、君達も。
僕がいなくてなってもすぐ代わりを見つけて、また『あなたの歌に救われました』なんて言うんだろ。
なあ。
違うって言ってほしいよ。
僕のこんな歌で君のジュクジュク腐った傷跡が埋まるもんか。
君を抱きしめたい、叫んであげたい。君の傷跡も痛みも全部。
でも所詮君は強い。君はきっと一人で前を向いていくんだ。
それならばいい。
だけどもし涙が溢れてしまうときは、
君の痛みを、
君の辛さを、
君の弱さを、
君の心を、
僕の無力で、非力な歌で、汚れた歌で歌わせてくれよ。
僕は無力だ。僕は無力だ。
僕は神様にはなれなかった。
"君"のでも、君のでも、神様にはなれなかった。
僕は無力だ。僕は無力だ。
無力な歌で、非力な歌で、汚れた歌で、君を救いたいけど、
救いたいけど。
君の神様になりたい。/カンザキイオリ
https://m.youtube.com/watch?v=X5kQR92kYn0
"君"…ここでは名前が出ていない架空 の人物。
『僕』が救われ、ずっと救いたか った人。
君…『僕』のファン。
または"君"と『僕』のファン両 方。
ハグ
使わせて頂いた楽曲 ハグ
カンザキイオリ様
晴瀬です。
弱い話です。
ずっと苦しかった。
痛くて、苦しくて、辛くて、気持ち悪くて、寒くて、笑えなくて。
どうしようもなく辛かった。
息が出来ないほど
笑顔が取り繕えないほど
指が動かなくなるほど
目が開かなくなるほど
朝起きれなくなるほど
痛かった。苦しかった。
それを一人で耐えて。独りで堪えて。
涙も出なくなって。
感情が消えて。
あれ、僕ってなんだろうって。
親友の君にも言えなくて。
全部吐きそうになったとき、誰かに抱き締めて貰いたくなった。
人の温もりに触れたくなった。
誰かに抱き締めて貰えれば、まだ生きれる気がした。
誰か、僕を抱き締めて。
って、手を伸ばしても誰もいない。
だったら、頼れるところは1つしかない。
君のところだった。
親友の、僕は親友だと思っている、君の元へ。
何度も喧嘩して、
何度も笑い合って、
何度も怒って、
何度もふたりで泣いて、
ずっと一緒にいた君へ。
この際、全部無しにして。
抱き締めて、なんてお願いする恥ずかしさも全部見ない振りをしてしまおう。
今更、過去に何があったかなんてどうでもいい。
僕も君も、たまに嫌な奴だし。
そもそも"良い奴"なんていないし。
だからもう、僕が今まで苦しんで積み上げてきた努力は端に置いて。
目を瞑って、人の優しさを肌で感じよう。
もう秋風はすでに通り過ぎた。
あの日の傷も、遠に腐り落ちた。
もう大丈夫。
もう頑張れる。
そう思って無理しすぎたのが、祟ったのかもな。
---
僕はずっと、昔からそうだった。
『寒いから』
そう言ってあの日の後悔は見ないふりをして。
『怖いから』
そう言ってあの日の言葉は知らないふりをして。
『痛いから』
そう言って何もかも忘れるほどに、抱き締めて貰うことを望んで。
『今だけ、』
『今だけ、』
なにもかも『許して』
笑って、笑って。
やりたいって言ったのにやらない。
死にたいって言ったのに死なない。
クズはクズのまま。
ダメな奴はダメなまま。
僕はそれを体現したような奴だった。
愛されたい。
許せやしない。
前を向けない。
生活の余裕もない。
優しくする気力もない。
でも優しくされたい。
守られたい。
そうやって、もう十分に貰ってるものを更に求めて。
また一言言うんだ。
『優しくされたい』
今になってはもう、何一つ理解出来ないけどさ。
ネットでは誰もが誰かを求めていて。
皆似たような人だったんだって、なんか少し安心して。
『寒いから』
そう言って僕らはいつでも誰かを裏切った。
『怖いから』
そう言って僕らはいつでも何かを傷付けた。
『痛いから』
僕らはいつでも知らないふりをした。
『今だけ、』
『今だけ、』
なにもかも『許して』
『許して、許して』
やっぱり僕なんかどうだって、どうだって、どうだっていいんだろう?
でも今だけは、そんなこと忘れて。
寒いから、ってそう言うから。
今はもう何もかも忘れて。
バカになっちゃってさ。
どうか、誰か、
お願い、
--- 抱き締めて。 ---
『寂しいから、何もかも忘れるほどに抱き締めて』
『寒いから、あの日の後悔は見ないふりをした』
『怖いけど、なにもかも吐き出す前に抱き締めて』
なんて言って、抱き締めてもらおうか。
--- 「今だけ、」 ---
--- 「今だけ、」 ---
--- 「何もかも許して」 ---
--- 「許して」 ---
--- 「笑って」 ---
--- 「抱き締めて」 ---
僕のすべてを、季節のせいにして。
ハグ/カンザキイオリ
https://m.youtube.com/watch?v=Veu13ajugPc
ダーリン
使わせて頂いた楽曲 ダーリン
須田景凪様
晴瀬です。
自己満&リハビリ
愛しの人に向けて歌う話です。
「私じゃ駄目ですか」
私は言った。独り言。
伝わらなくても、いいから。
でも私は誰よりもあなたをわかってるの。
わかってる。
あなたのすべてを。
全部全部。
わかってるのはきっと私だけ。
私じゃ駄目ですか。
あなたに問う。いいって、言ってくれるよね?
都合いいこと、考えて。
でもなんであなたはあんな子を選んだのか、私は理解できないでいます。
やっぱりあなたはそんな軽いひとじゃなかったってことですか。
私なんかが、あなたの心は奪えない。
わかってる。
こんなに、痛いほどわかってるのはきっと私だけ。
ねえダーリン。
私の全部、あなたにあげる。
なんでも、私のすべて。
だから、お返しはたんと愛で頂戴。
そんなこと言ったら強欲だ、って押し付けても尚見返りを求める私をまた笑うんだろうか。
ダーリン。
いつか認めてください。
私のこと、気持ち、言葉。
その日が来るのを待ってるから。
そうじゃないと、私は死にたいほど苦しくなっちゃう。
もう、死に方を考えるほどあなたに夢中なんです。
私を救えるのは、あなただけ。
---
ひとりじゃ意味がない。
私1人がいったところで言葉は生まれない。
言葉を生むには、それなりの対価が必要だから。
だから誰が必要か。
わかってるの。
わかってるのに愛しているからずっと知らないフリして。
私1人でもいけるって思い込んで。
でもふたりじゃいられない。
どれだけ望んだところで、私が苦しくなっちゃうから。
もう使命のように感じているふたりでいく、なんて叶わない目標を強引に叶えようとしてしまうから。
それがなんとか叶えられたってあなたの心には触れられないから。
あなたに、本当に嫌われてしまうから。
わかってるの。
わかってるのにずっと、ずっと恥を知らずにあなたに近づこうとする。
私は馬鹿だ。
私じゃ駄目ですか。
何度も言う。もうあなたが私に愛想を尽かして返事をしてくれなくなっても。
あなた。
ダーリン。
全部、あなたにあげる。
もう嫌われたのかな。
何を差し出してもあなたと一緒にはいられないの?
あなたは遊びに夢中で私は狼狽えて。
ねえ|ダーリン《あなた》。
いつか忘れてください。
私のことは。
もういいのです。
私があなたに恋して
その気持ちを伝えられなくても
あなたに恋人ができても
どうにか接点を作りたくて近づきすぎた私をあなたが鬱陶しく思っても
あなたが私に優しくしてくれたのは事実です。
でももう私は手遅れです。
あなたに愛してほしくて、ほしくてほしくて堪りません。
ダーリン。
あなたをそう呼びたくて、呼びあいたくて堪りません。
それが叶わないなら、あなたを道連れにして死にたいほど。
私はもう私じゃありません。
あなたに、壊されてしまった。
殺したいほど、愛しています。
大好きです。
「ダーリン」
「全部あなたにあげる」
「お気持ちはたんと愛で頂戴」
私は最期に呟いた。
ダーリン。
いつか私のこと認めてください。
その日が来るのを、待ってるわ
ダーリン/須田景凪
https://m.youtube.com/watch?v=gwAuvX9i8yQ
聲劇。
使わせて頂いた楽曲 聲劇。
未彙様
晴瀬です。
こういう系統2連続な気がする…
離れたい、離れたくない話です。
オヤスミ、だね今日も。
いつも言う言葉は。
電波に乗せて僕の耳に届くのは、あなたの|聲劇《こえげき》。
あなたは昼には電話をくれない。
話してくれない。
いつも学校でも、すれ違ったって無視。
まるで僕と仲がいいことを周りに隠すように。
でもそんなあなたに、僕は恋してしまっていた。
毎日のようにくれる電話は夜にしかかかってこなくて。
きっと昼は、他の男の子といるんだろう?分かってるよ、それくらい。
でもあなたの声が耳に触れるだけで、心が幾度も奪われて。
あなたから離れたいってずっと思ってた。
あなたにはきっと本命がいる。
早く離れないと僕が辛い目にあう。
分かってるのに、あなたの声を携帯越しに聞くだけで「好き」って溢れて。
その電話がぷつりと途切れれば不安になって。
あなたに本当に好きな子がいるのは明白で、それが辛くて、僕は被害妄想を繰り広げちゃう。
その被害妄想にペシャンコに潰されるように、苦しさは薄まることはなく増していく。
電話もなくて会えない日はあなたが恋しくて泣いてしまう。
あなたがあんなに綺麗な顔をしているから。
あなたがあんなに優しい声で僕の名前を呼ぶから。
僕は、あなたのその体温を求めて涙を止められない。
僕を好きなら好きだと言ってよ。
嫌いなら嫌いと言ってよ。
あなたが恋しくて、辛くて泣いて、胸がはち切れそうで、苦しい日はいつもそう思う。
僕は一人、部屋で泣き叫ぶ。
あなたの名前を呼んで。
あなたがその格好良い子にいかないように。
まだ電話をくれるように。
僕を見捨てないでって願って。
所詮年をとってガラクタになるんでしょ?
だったらはっきりしてよ、。
僕がまた辛くなる前に、あなたに決断してもらわないと、苦しいんだよ。
静かにクラスを流れる、あなたに彼氏ができたって噂。
憶測だって分かってるし信じてないけど、その憶測に怯えてしまうから。
悪戯に遊ばれてもいいから。
お願いだから、僕に優しい言葉をかけないで。
頼って縋ってしまうから。
本当に付き合ってくれないなら、最悪の言葉で壊してよ。
僕があなたを嫌えるように。
愛とはなにか考えて考えて考えてでも分からず僕は愛をせがんでる。
もし僕を少しでも好きなら、リアルで抱きしめて証明してよ、。
電話越しじゃなくて。
頼むから。
僕はあなたに記号絵文字で愛を伝えていたはずで。
あなたもそれを見て僕の気持ち、分かっていたと思うのにその言葉は返ってこずに僕は待ち惚け。
あなたは僕と友達でいたいの?
僕の言葉には応えてくれないの?
代わりに電話をくれるのは僕が出した問いに対する答えなの?
今は好きな子といるの?
僕を棄てるの?
今何してるの?
不安がどんどん溜まっていって。
心が歪んで、あなたも歪んでいるようで。僕はあなたを疑って。あなたは僕を友達として疑って。
あなたがついていた嘘、ちょっとずつ僕にバレてるんだよ。なんて言えるわけないよ。
あなたに、彼氏がいるんじゃないかなんて考えに侵されはじめたらもう止まんないよ。
僕の考えと感情が対立してぐちゃぐちゃになってもう笑えないよ。
僕の小さな体にこの想いは収まりさえしないよ。
あなたを好きって思う気持ちも、諦めろって気持ちも全部心で。誤魔化しきれなくて、もう壊れて、壊してしまうよ。
僕を好きなら好きだと言ってよ。
嫌いなら嫌いと言ってよ。
最後に思うのは、言いたくなるのはいつもその言葉で。
所詮ガラクタになって朽ちるのに。
あなたに関する憶測が飛び交うたびに怯えてしまうから。
まだあなたに、僕だけのあなたって錯覚させてほしいから。
悪戯に遊ばれてもいいから。
もし、さよならになるなら最悪の言葉で壊してよ。
僕が今まで以上に泣かないように。
あなたにそうやってはっきりさせてもらえないとずっと、僕はずっと生きた心地がしないの、ねえ。
もし僕があなたに本当のことを言われて哀しむような話なら、最後まで騙し切ってよ。
半端でやめたりはしないでよ。
お願い。
傷も涙も体も全部全部、あなたのものになるんでしょ?
できるなら僕とあなたの関係をまだ繋いでいてよ。
できるならまだ切らないでよ。
どんだけ泣いても。
手頃な存在でいいの。
嘘でも愛して。
あなたに溺れさせて。
あなたを忘れられなくて。
「──くん」
電話越しにあなたが僕の名前を呼んで。
「ごめんね」
そう言った。
僕はあなたに、僕が死ぬまで、あなたに聲劇を続けてほしかった。
聲劇。/未彙
https://m.youtube.com/watch?v=sjrly07TsMk
FAKESHOW
使わせて頂いた楽曲 FAKESHOW
Da-iCEDa-iCE様
晴瀬です。
リクエスト頂きました感謝ですm(_ _)m
この曲の振り付けの動画見たんですけどキレ凄くてわあわあって言いながら見てました()
不器用な人たちの話です。
いつもみたいに彼女と適当に話をする。
何を話しても彼女は上の空だから会話の内容はころころ変わる。
まるでお昼にやるワイドショーかのように。
でもどちらかといえば、フェイクショーなんて言葉が彼女には合うかもしれない。
彼女はいつも、僕に嘘を吐いて一人でFAKESHOWを上演している。
毎日、僕は分かってるんだよ。
君は多分、知らないだろうけど。
友達…君と僕の共通の友達にそのことを相談したってはぐらかされる。
その態度を見てはっきりしたよ。
少し、傷付いたからね。
君と僕の友達は、想い合ってるんだって。
君には僕という存在がいるのにも関わらず。
何を言っても君は笑顔で、僕も笑顔で返して。
きっと君の目には僕は映っていないんだろうな。
もう君は別のひとを見ている。
君は僕を裏切った。でも僕はそれを突きつける勇気がない。
お互い真っ黒い笑顔を貼り付けて乾いた声を出すんだ。
君はきっと今日も誘うんだろう。
今日も誰かを。
今度はまた僕と君の友達か?それとも全く関係のない人か?
全部偽ったのに正しいみたいな顔をして道を引くんだろ。知ってるよ。
もう何を信じればいいのか分からない。
偽ったまやかしの声に、君の笑顔に、周りの人の微笑みに。
誰を信じればいい?
君がいて、幸せで、自由だったこの物語がどんどん灰色に染まっていく。
焙り出した、焙り出てしまったこの真実を君の突きつけたところできっと煙に巻いて手を離すだけだろうから。
本当だったことも全部嘘に溶けて消えてしまうから。
「ごめん今日も出てくるね」
そう僕に言う君を見て僕は何も言えない。
最初の頃は、「どこに行くの」とか「誰と遊んでくるの」とか訊いてたけどもう諦めたよ。
時計を見る。
20時を指していた。
僕は細く息を吐きながら言う。
君に見えないだろうけど笑顔は作って。
「いってらっしゃい、気を付けて」
というのが昨日。
今日の朝方君は帰ってきた。
君が立てた物音に僕の目は覚めて、気づく。
寝起きの鼻にもその匂いは突く。
気づかないわけないじゃないか。
気づくに決まってるだろう。
丁寧に巻いた出ていった君の髪の間に微かにタバコの香りが残っていた。
君も、僕も吸わないじゃないか。
タバコなんて。
君も言ってたじゃないか。
「タバコは嫌い」と。
君は昨晩嫌いと言ったタバコを吸うひとと一緒にいたのか。
そんなの、証拠じゃないか。
すべてが、真っ赤な嘘だって。
僕はどうすればいいんだ。
君を裏切った君を好きでい続けてしまう僕はどうすればいい。
君の手のひらで踊らされればいいのか。
そうか。そうなんだろうな。
眠るのも忘れて、踊り狂えばいいんだろう。
わかったよ。わかってるよ。
"騙されてたまるかよ"
自分の中で自分が反論した。
何を信じればいい?
いびつで歪んだこの世界で誰を信じればいい?
分からない。分からないからそのいびつで歪んだ世界に、さよならを。
終わりの始まりへ、皮肉を込めて。
僕と君との共通の友達で、僕が「彼女が浮気してるかもしれない」と言ったら明らかに動揺してはぐらかした人。
タバコを吸って、僕の彼女のように料理が得意な女の子がタイプな人。
検討はついてる。
どこもかしこも嘘だらけで。
君は甘い夢の中で何を望むのかい。
彼女を椅子に座らせる。
僕も彼女の正面に座って。
「浮気してるよね」
思ったよりさらさら言葉が流れた。
「なんのこと?」
「そんなわけないでしょ」
「ずっと私を疑ってたの?」
「酷いよ、酷いよ|大輝《たいき》!」
僕の名前を叫んで煙に巻こうとする。
僕がそれに引っかかったらその話は金輪際口にしないんだろうな。
「でもね」
僕は引っかからないよ。君の言葉に。
「|徹《とおる》」
彼の名前を出すと、ピタリと君の声は止んだ。
やっぱりそうだったんだね。
どこもかしこも本当に嘘だらけ。
「じゃあね」
僕は君にさよならを告げる。
甘い夢の中で君はまだ、何を望むのかい?
FAKESHOW/Da-iCE
https://m.youtube.com/watch?v=gFZMIfpMTTc
リクエストしてくださった方へ
名前だけ出て頂きました。
全員は無理でしたすいません。
タバコは、調べたんですけど吸ってなさそうですよね…。
でもURL貼ってくださってありがたかったです助かりました。
ありがとうございました!
ありふれたせかいせいふく
使わせて頂いた楽曲 ありふれたせかいせいふく
ピノキオピー様
晴瀬です。
リクエスト頂きました、ありがとうございますm(_ _)m
いじめって誰も幸せにならないよねって話です。
狭い教室の中で私はかたつむりのように動きが鈍くなって、彼女は舌打ちでメロディを奏でた。
奪う側、奪われる側
やる側、やられる側
いじめる側、いじめられる側。
何が違うのかと考えてみても何もわからない。
いじめっこもいじめられっこもみんなピーマンは苦い。
両者何も変わらない。
ただ、いじめる側に立つのがあの子の方が早かっただけ。
それが私の出した結論、大発見だった。
クラスの中のかっこいいこもかわいいこもみんな君のもの。
みんな怖がりで臆病だから。
だから言っていることは嘘でも、心は本音でこのクラスにいじめはないと、アンケートにイエスと答える。
「痛い痛い痛い痛い」
どれだけあの子が叫ぼうと私たちは誰も助けない。
助けられない。
痛いのは嫌だから。
逆らえないじゃない…。
あの子に言った「ありがとう」も「おはよう」も「ごめんなさい」も全部、懐かしい言葉になる日が来るの。
知ってるよ。
あの子も知ってるはず。でも耐えてる。今を。
あの子だって知ってる。だけどその"今"を誰かをいたぶることに使ってる。
辛い思いをしている私たち14歳も
見て見ぬふりしてる担任も噂でしか情報を受け取れない保護者たち40歳もみんなで仲良くしようよ。
誰か、誰か、
いじめられてるあの子を、
いじめなきゃ生きていけないあの子を、
傍観するだけで助けられない私たちを、
助けたい思いと|大事《おおごと》にしたくない思いが混ざってる先生を、
事実を知ることができない親たちを、
誰か助けて。
あの子がイライラして、
小さな犯罪を知らぬ間に重ねて、
それでも実力は隠せないから誰かを嬲るその子でも表彰台で笑顔を飾って、
かわいいこがクラスに入れば皮肉を言って敵に回す。
あの子の恋人もあの子にとっての侵略者も、どちらも肉の塊か大きく実験してあの子は笑う。
私たちの顔は引き攣って。
サーロインもツバメの巣も、クラスのみんなの命は全部あの子のもの。
だから、本当にやりたくない本当に加担したくないけどスパイの如く私は本心を隠してあの子を手伝った。
ごめんねごめんねなんて、心の中で叫びながら。
あの子に私の気持ちがバレたら、もう私は生きていけない。
怖いものは怖い。
怖いのはやだから。
何も知らずに温かい布団の中で眠っていたいじゃない…。
「うれしい」も「かなしい」も「わるふざけ」も全部、四六時中監視される日が来るの。
このままだと。
このクラスは"いじめがあったクラス"として名を馳せることになる。
佐藤さんも鈴木さんも歌おう。
誰か正気に戻って。
あの子の帝国から抜け出して。
あの子を助けて。
でもいつか、私はあの子のことをみんなのことをこんなに願っていたのに名前すら覚えていない日が来る。
あの子の仲間になれば私はハッピーエンドを迎えられる?
仲間はずれはどこへ行こう?居場所はある?
逃げようとしてもその術は血まみれでうまく掴めない。
そんな未来が見えるよ。
だから私はどうすればいい?どの道を選べばいいの?正しいの?
選択の瞬間はすぐすぐすぐそばに。
「さよなら」も「おやすみ」も「またあした」も全部、繋がらずに途切れる日が来るの。
いつか必ず。
ただこのクラスが、それが来るのが早すぎただけ。
そう信じて。
信じ込んで。
田中さんも高橋さんも笑おう。
心から笑おうよ。
嘘じゃなくて。あの子の顔色を伺うんじゃなくて。
心から、腹から笑おう。
そのためには、
誰か誰か誰か誰か誰か
「ありがとう」も「おはよう」も「ごめんなさい」も全部、懐かしい言葉になる日が来るの。
あの子が誤魔化すように唱えた陰謀論も、使い方によっては凶器になるガスコンロも、なんでもいいから踊ろう?
お願いだから。
誰か、誰か、みんなを助けて
いじめっこもいじめられっこも呼び方は「あの子」で統一しました
各場面で出てくる「あの子」はどちらなのか考えてください
カゲロウデイズ
晴瀬です。
8月15日午後12時半くらい、あなたは何してましたか?
夏のうだる暑さでみた"夢"の話です。
8月15日午後12時半ぐらいのこと。
天気がいい、そう思っていた。
病気になりそうなほど眩しい日差しの中、することもないからいつもの公園で君と駄弁っていた。
「〜〜〜」
「〜〜〜〜〜〜」
「〜〜」
「でもまあ、夏は嫌いかな」
君は猫を撫でながらそう、ふてぶてしくつぶやいた。
その言葉が何故か、強く耳に残った。
「っあ、」
俺は声を出す。
君の膝に乗って寛いでいた猫が飛び出した。
信号がある交差点のすぐ側の公園。
何を考えたのか、飛び出して走っていく。
「あぁ、」
声が漏れた。
逃げ出した猫の後を追いかけて飛び込んでしまったのは赤信号の歩道。
赤に変わった信号機を背景にした君を見た。
バッと通ったトラックが
君を轢きずって
鳴き叫ぶ
血飛沫の色、
君の香りと混ざり合って
強い匂いを風は運んでむせ返る。
自分の口から言葉にならない声が飛び出た。
夢だと目を瞑ろうとしても、嘘みたいな陽炎が
--- 「嘘じゃないぞ」 ---
って嗤ってる。
夏の水色。
空、海、雲、真っ赤な血を見たくなくて見られなくて、探した水色。
何もかもをかき回すような蝉の音に全て眩んだ。
「俺が、俺が」
「俺が何をした!!!」
さいごにそう叫んだ。
---
目を覚ました。
時計の針が鳴り響くベット。
ああ、何か凄く嫌な酷い夢を見たいような気がする。
「今は何時?」
小さく呟いて時計を薄目を開けて見る。
時計の針は8月14日の午前12時過ぎくらいを指す。
夢の中のやけに煩い蝉の声を覚えていた。
まあとりあえず、することもないし行くか。
そう思って腰を上げた。
どうせ君だっているんだから。
「〜〜〜〜」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「〜〜〜〜〜」
「〜〜」
でもさぁ、少し不思議だな。
そう思って同じ公園で昨日見た夢を思い出した。
「もう今日は帰ろうか」
君がそう言って俺が頷く。
公園の道を抜けた時、周りの人は皆上を見上げ口を開けていた。
「なんで、」
声が空に浮いた。
誰が発した言葉がわからなかった。
落下してきた鉄柱が
隣で歩いていた君を
君を
君を貫いて地面に突き刺さる。
劈く悲鳴と何処かから流れてきた風鈴の音が
木々の隙間で着地できずに空回る。
何かを思い出す。
脳が回る。
大きく息を吸って、喉の奥から高く音が頭を刺す。
ワザとらしい陽炎が、
--- 「夢じゃないぞ」 ---
って嗤ってる。
眩む視界に君の横顔が映る。
薄くなる意識の中でさいごに衝撃を感じた。
笑っているような気がした。
「君は何をしたんだ」
言葉は溢れて足元に落ちて影に溶けた。
---
何度世界が眩んでも、
陽炎が嗤って奪い去る。
こんな最低な日々を繰り返して何十年。
もうわからない。
わからないのに、自分の中の自分は言い放つ。
「もうとっくに気が付いていたろ」
どうすればいいのか。
どうすればいくら経っても俺の前で死ぬ君を見ないで済むのか。
どうすれば君を見殺しにしないのか。
こんなよくある話なら、結末はきっと
1つだけ。
繰り返した夏の日の向こうに俺は今日、飛ぶ。
何百回めかの、8月15日午後12時半ぐらいの時刻。
「でもまあ夏は嫌いかな」
君の台詞。
猫が飛び出す。
真っ赤な色した赤信号。
君の走る音。
俺は走った。
君の後ろ隣。
躊躇なく赤信号に飛び出す君をバッと押しのけ飛び込んだ、
瞬間トラックにぶち当たる。
痛い。
熱い。
何度も見た色。
今回は君のではない。
血飛沫の色、
君の瞳と軋む体に乱反射して
文句ありげな陽炎に
--- 「ざまぁみろよ」 ---
って笑ったら
実によく在る夏の日のこと。
おかしな夏の日々は終わった。
よく在る夏の日に戻った。
だから、
--- 「 」 ---
--- そんな何かがここで終わった ---
---
目を覚ました8月14日のベットの上。
少女はただ
「またダメだったよ」と
一人猫を抱きかかえていた。
これは1人の|カゲロウデイズ《陽炎の日々》の話。
カゲロウデイズ/じん
https://m.youtube.com/watch?v=EMGyiiTC7sg&pp=ygUV44Kr44Ky44Ot44Km44OH44Kk44K6
ギターかっこよすぎ、
人によって色んな解釈があると思うのであんまり直接的な表現は避けたつもりではあります(避けられたかどうかは分かりません)
君の脈で踊りたかった
使わせて頂いた楽曲 君の脈で踊りたかった
ピコン様
晴瀬です。
悔やんでも悔やみきれないこととか、忘れたくなくても忘れていってしまうこととか、どうしてもやりきれない思いってありますよね。
夢から覚めて、息を吐く。
思い出す。
何も変わっていないこと、何も進めていないこと。
ずっと、形のない、形も見えない君を見ていた。
ここ最近ずっと、現実から逃げて君を思い出しては泣いている。
情けないけど、抱きしめてほしくて、そばにいてほしくて、どうにもならなくて辛くなる。
どうすればいいのかわからない。
あの日に戻れたら何か君にしてやれたことはあっただろうか。
そう思っても今まで自分にできたことなんて片手で数えるほどしかないことに気付く。
君を思い出しては泣いて何も進めなくて生活すらままならなくて、だらしないけど抱きしめてほしい。
君に、ここまで来て、抱きしめてほしい。
そんな叶わない願いだけ祈って願って、泣いては寝て、死んだように過ごした。
さよなら、って何気なくいつものように言った言葉が最期の会話なんて思わなかった。
明日だって今日と同じように君と会えるんだってそう信じて疑わなかった。
君がいなくなるなんて思わなかった。
君との会話も忘れていく。
怖い。怖い。怖い。
忘れたくない。
君の存在が消えていく。
怖い。
君を思い出せなくなったらどうやって生きていけばいいんだと考えてみても一向に結論はでないまま。
君と一緒に生きたかった。
ずっと、死ぬまでずっと。
君の脈でリズムを刻んで音楽を鳴らしてそのまま踊っていたかった。
幸せのまま生きたかった。
君と一緒に年を取りたかった。
今はできない。
もう無理なんだ。
生ぬるい記憶に縋って日々を過ごして変われない。
変われないままの日々に溶けていく。
溶けていく。だめだってわかっているのに行動できない。進めない。
君を忘れられない。
忘れたくない。
消えたくない。怖い。
今に負けそうで泣きそうになる。
怖い。
戻りたい。あの日に戻りたい。
君に会いたい。
君のせいと言うつもりはないけれどずっと寂しい思いを抱えている。
生ぬるいまま、ただ息を吐いている。日々に騙されている。
騙されていると知りながら振り切れない。
君の脈で踊りたかった。
踊りたかった。願っても叶わない。
情けないけど、情けないけどだきしめてよ。
そばにいて。
願っても君は来てはくれない。
あの日の自分に、君といる時間を大切にしろとそう言うしかない。
何もできない。
もう会えない君を思い出すしか今はできない。