夢とゲームを融合させたVR空間:【ネバーエラー】。
不登校で引っ込み思案で、ちょっぴり常識破りな高校生の主人公は、「友達がほしい」という願いすら口にできず、ネバーエラーでの“フレンド”を作ることを決意する。
そんな彼女の前に現れたのは、夢とゲームが融合したVR空間を司る、傲慢で可愛らしい少女の悪魔が、「なんでも叶えてやろう。文字通り、なんでも……夢中なのじゃ」と笑う彼女と共に、主人公は理想の世界で“友達”を作り、何度もやり直しながら人との関わりを学んでいく。
Th1s 1s 4 Dr34m.
夢とゲームを融合させたVR空間の「なんでもできる」という褐色肌ののじゃロリな悪魔と、引っ込み思案で不登校の手帳持ち障害者(軽度の知的障害)の高校生の主人公が織りなす、「夢」を叶える物語で、主人公が「友達を作りたい」で、最終回では全て主人公の妄想した手帳オチという作品をつくります
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目次
お孵り
言葉が嗤いかける。数字が嗤いかける。音が嗤いかける。誰も、味方ではない。
点数は散々で、紙も散々。普通が背中を押して、押し続けて、戻れることはない。
ベランダ越しの風は、びゅうびゅうと、どこまでも当たりが強くテストの紙も彼方へ飛んでいってしまいそうだった。
飛んでいったところで、テストの点など10点もいかないのだから、どうでもいいテストだった。その度に怒鳴られても、理解のできない授業を延々と繰り返される私の方が怒鳴り散らしたくなる。普通であれと言われても、普通ができない。中途半端に濁った脳があるばかりで、普通を飲み干そうにも喉奥に現実が引っ掛かる。吐きたくなっても上手く吐くことはできず、ただただ泥沼の中に沈みゆくばかりで、抜け出そうにもない。風は強さを増して、視界の隅でカーテンが激しく揺れ出す。机の上にはスタンドアロン型のVRゲーム用のヘッドセットが適当に転がって、もう一つの脳は動いていない。
悠く、悠くへ何もかも思い出せない程に、脳を紙のように薄っぺらにしてでも夢の中へ堕ちてしまいたい。
ただ、それだけを普通のように願うばかりだ。風が、生暖かい。
微睡みつつある脳がゆっくりと溶け出して、地面の中に一体化していく。どろりと溶けて抜け出そうともしない。逃げたくもない。
「普段、主は逃げてばかりじゃからのう」
厭な声がする。どこか、女の子らしい可憐で、のびのびとしているような声。逃げたくなる消耗品の愛が嗤っている。
小学生低学年程の小柄で華奢な身体つきに、夏の陽射しによく焼けた小麦色の褐色肌が特に目を引くものの、それよりも劣らず、頭から飛び出た二本の角と、褐色の肌を突き破るように生えた黒い羽が印象的だった。そのうえ、角の出た太陽のような金髪と淡い水色の瞳が海のようで、いやに眩しく恐ろしい。さらに、柔らかで豊満な肉付きのいい身体に腹の見える黄色いタンクトップがよく映え、灰かな青色のレザーショートズボンが肉付きを強調させたその上に黒く先がハートのようになった尻尾が見える。その中で、淡い桃色のサンダルに褐色の小指が覗いて随分と可愛らしく、花の子のようだった。
「そう足を速く動かしていると、逃げ癖がついてしまうぞ?聞いているか?」
そうやって、花の子が似つかわしくもない言葉遣いで、小さな胸の膨らみに手を当てて諭してくる。
「チビで悪いものか、初老で悪いものか。妾は稚児にあらず……名を“リリス”と候て、実しやかな言葉遣いは似而非を帯びているものよ」
水色の海が、顔を差す。花の子のような少女の“リリス”は言葉を止めることがない。
「して、己は夢を憶えておらず、ただ春を待つ如くの冬の子。文殊の知恵と言えども、阿呆鳥が集ってしまっても油を売るだけで、知恵など塵と化している……それもまた、此処には在らず。主よ、名をなんと申し候?」
混乱した頭はまだ、卑し酒にどっぷりと脳を浸からせたまま這い上がりもしない。それでも唇は動く。ここは、自由だ。誰もが才女だ。
「……“イデア”」
「イデア、イデア、イデア……ああ、プレイヤーか。イデア……さて、主は何をする?」
リリスの後ろに複数のポータルのようなものが現れ、どれも千紫万紅なものが集まっている。
「此処はネバーエラー、夢とゲームが混ざった場所と言えば……主の愚鈍な脳みそにも分かってもらえるか?それとも、また違う勘を働かせてしまうか?」
「…………」
「役立たず、鈍間、馬鹿、優柔不断、お荷物、無能、腰抜け……気狂い」
「わ、分かった……分かった……!」
脳に垂らした罵倒を慣れきっているはずが、ひどく響く。笑うだろう。否定するだろう。本当の意味を言うでもなく、ただほんの少しの距離感を置いた言葉を重ねる。友達なんてものを願ったとて、続くはずもない。
「……フレンドを作りたい」
零した言葉に含んだ意味は、本来の意味よりも格下なのかもしれない。
それを花の子は、悪魔は、リリスは、咲うのだから。
吐き雲蛇
友達、友人、フレンド……何故か、フレンドの方が作りやすいと思ってしまうのは何故だろうか。言葉の重みが違うと思ってしまったのはいつからだろうか。もう随分と昔から分からない。冗談を真に受け、空気すらもまともに読めず、会話が続かない。続かそうともしない。どう足掻いてもできない。
「……障害を個性にしてしまったら、それこそ負け犬よ」
負け犬。負け犬……私が負け犬なら、勝ち犬はなんだというのか。
「面倒な考えをしておるの、主は……それでフレンド作りなどできるのか、まったくもって笑いが出る」
「なにが……」
「おお、怒った、怒った。この程度の匙に怒るのか……まぁ、その程度であろうな」
誰だって怒るだろう。怒るはずだ。その、誰が誰なのかは分からないが。
後ろのポータルは輝いて、今にも吸い込まれそうになっていた。リリスの髪や翼が後ろへ流れて揺れている。
「さて、イデア。似た者同士か、或いは違う者同士か……分からずとも、対面するのが早かろう」
ポータルが少し近づいてきている。ゆっくりと、確実に。踏み出せもしない私に代わって、近づいてきていた。
言葉は水のようなものだ。どんな形にも変形し、変貌し、変化する。優しく海のように広がったり、激しく突き立て滝のように打ちつけたり、じんわりと雨のように染みていったりする。決して勝手に乾いたり、固まったりすることはない。何かの圧力によって形を変えていく。
水には味はない。言葉には味はない。それでも何故か、私はその存在しない味を吟味しようとしている。理由は分からない。
そんなものを口に入れたところで、腹が満たされるわけでも、飢えるわけでもない。あるのは、ひとときの満たした気持ちと、胃液になった水だけ。
味はない。存在しない。何も、残らない。
残ったのは、それを口に入れて、残ったという事実だけだった。
ポータルの先は、やけにぐちゃぐちゃとした色味の水ばかりの空間だった。橙色や焦げ茶色、緑色……それらが何故か、人参や唐揚げ、ほうれん草だと脳が認識している。どろどろに溶けた水が、固形物だと言っている。
「汚いのじゃ」
リリスが一言、呟いた。返す言葉に賛同してもいいのに、私の唇からは「綺麗だよ」と真反対の言葉が漏れた。綺麗な汚物。汚物ではないのに。何故。
「汚物だと思うなら、それは汚い物に過ぎないのだ。千切れた雲は千切れたことにすら気づかず、ただ悠々と青い空を浮かび続ける。不思議じゃろう?それが一説ゆえ、主は知らぬよ」
「……どうにも、難しくて……」
「雲、な。雲泥の差というのは、一定の間隔の多大なる自尊心を呼び起こす為に在る」
トマト、ハムカツ、チーズ、ゼリー、色彩豊かな中で、一際に異彩を放つ誰かがいる。
「人が生きて人生と刻むなら、そこまでの道程は何故か。過程を過ぎた結果だけを求めては……何も成し得ないのじゃ。腹が満たされぬと嘆く前に、その舌に触れた水の冷たさを、喉を焼くような不快さを、まずは慈しめ。結果という名の死に急ぐ必要など、どこにも在らぬのだからな」
遠くの誰かは、ボサボサとした茶色い短髪に黄色い瞳が人ではないような色白の肌につき、薄紫のカーディガンと黒いへそ出しTシャツに隠れながらも見えてしまっている。さらに、青い半ズボンや黒いスニーカーといった普通の格好だと言うのに、首に茶色い蛇を巻いていた。
「……名前は……」
「己で聞くがいいぞ、主よ」
ああ、なんて役に立たない!自らも役に立つとも言えないが!
ろくに櫛も通されていないような茶髪が鬱々とした瞳を断片的に覗かせる。その度に、汗が全身の毛穴から噴き出すような感覚がある。じわりと湿度の帯びた瞳が灼熱の温度を引き出して、身を焦がしそうになる。
「あの」
一言。そこから、会話は続かない。続かせようともしない。誰かが振り向く。黄色い瞳が刺す。刺す。刺している。ナイフが、勇気を刺して深々と突き刺さる。
「……名前……な、なんですか」
「……シュブだ」
そのまま「気にしなくていい」と返され、少しの間が開く。それを突いて、リリスがようやく助け舟を出していった。その会話に口を挟むことはできそうにない。自分の名前も、言えていないのに。
「妾はリリスじゃ。シュブ、其処の蛇の名は?」
「この蛇?……ニグラス、男の子だよ」
「種類はシマヘビか?」
「……そうだよ。可愛いでしょ」
「そうか、なんとも愛らしいの」
会話が続いていく。私が入る隙はない。勇気はぱっくりと割られ始めている。蛇が嘲笑っているような気がする。
「シュブ、嫌なものはあるか?」
「……?……なんで?」
「妾が気になるだけよ」
「ああ……そう」
シュブが手の指を一本ずつ折りながら「食べることや野菜以外の固形の食べ物とか……過食嘔吐をしたことがあるから、満腹や嘔吐も苦手かな……」と答える。そこにリリスが相槌を打つ。
「そうすると、固形物は食べないのか」
「そうなるね……固形物を食べるのは嫌だ……食べるのって面倒だからゼリー飲むぐらいでいい……」
「食事が面倒、か。普段から断食でもしていそうな言い方をするな」
「……断食すると頭もお腹もがすっきりする感じがして、とても良いよ。餓死するのだって私からしたら本望だし……」
「それは良いことを教わったな」
同意、肯定、参加。どうして?会話はまだ続く。私を残して、会話の中を走る列車は揺れている。
「ああ……そうだ。シュブよ、妾の隣の者はイデアじゃ」
「イデア、リリス……2人ともいい名前だね。神話にそんな名前なかったっけ……どうだっけ……」
「…………」
列車が止まる。リリスが少しはにかんで、シュブに聞こえないか分からない小声で「そんなもん知るか」と呟く。否定、拒絶、苛立ち?ただ、どうしようもなく会話が怖くなる。何を恐れていたか、何を怖がっていたかは知らない。知ってはいけない気がする。
悪魔の裏を知りたくはない。
「ねぇ、なかったっけ」
シュブが返答を促す。
「……神話か……。然程、詳しくはないのよ。妾はその意味を知り得ていないのだからな」
「そう……イデアは?」
急に話を振られる。裏も知らぬのに、話はどことなく振られる。
「し、知らない……」
そう答えれば黄色い瞳が揺れて、自分から目線はズレる。それでも、リリスの小声は聞こえていた。私が会話の列車から降ろされていたとしても。
「主の脳は妾と同一よ、これを知らぬが脳を持たぬ偽人は……」
同じか?本当に、同じ?会話が弾んでいるのはどちら?
「して、シュブ。イデアはフレンド作りをしたいらしいが、どうじゃ?」
「……フレンド?……いいよ」
主導権は私にない。提示された契約に頷くだけの権利。シュブが差し出した掌を握り、見せつけのようにフレンドだと強調する。蛇が嘲笑っている。痛い程に握った掌を強く握り返すほど、嘲るような感覚になる。
「断る理由は作られていないものな」
リリスが呟き、シュブは不自然に変色した掌を握り込む。私に掌を振りほどく勇気は欠片も残されてはいなかった。
可愛がり歪執心
歪にもハートの形をしたリリスの尻尾が、ぐるぐると腕に巻き付いている。尻尾の主はそれを知ってか知らずか目の前で考え込んだまま目を合わせようともしない。
「……蛇を喰らい、夢を喰らい……妄の檻の中にいることに気づかぬ雛鳥は餌を待つのみ」
尻尾はさらに堅く巻きつき、腕を引き千切る程に強くなっていく。
「餌を運ぶ親鳥は出もしない雛鳥に餌を流し、成長させることなく肥えさせていく……肥えた鳥はもう飛べず、出ることもできず、檻中から見える空を願うが如く枯れていく。主も、また……」
「……リリス?」
「ああ、イデア、主よ。まるで飼い殺した雛鳥のように、たとえ土の中へ埋めれゆくとも妾はその亡骸の傍で妄に浸ると誓おう。現ではないのだから主の脳とまた共に在る。主のどんなに愚劣で白痴で愚鈍で凡庸で浅薄で……徒労であろうとも、妾は理を得ておるよ」
「………………」
そんな筋合いはない。そうされるような価値ある存在でもない。
「む、確かに……」
リリスが少し回り、ふと思い出して指を鳴らす。ぱちんとした景気のいい音が響いて、ポータルがまた現れる。腕に巻き付いた尻尾は緩く、名残惜しそうに手を撫でていた。
笑われることが苦痛でした。泣かれることが苦痛でした。遊ばれることが苦痛でした。視線が、苦痛でした。
皆が一人に罪を押しつけて、押しつけた罪を断罪人にでもなったように処刑する。指差した向こうには死体の山々で、誰もが押し入れに籠りっぱなし。
僕の何が悪いんですか。私の何が悪いんですか。何が悪かったんですか。罪を押しつけて、免罪を刻印したかっただけですか。誰でも良かったんですか。
裁判官は不公平。弁護人は不公平。検察官は不公平。傍聴人は不公平。平等の正義を掲げた悪が高笑い。
どうして僕だったんですか。どうして私だったんですか。どうして君だったんですか。
理由を教えて下さい、裁判官。主犯は貴方です、裁判官。
咎人は被害者です。裁判官は加害者です。傍聴人は観衆です。見て見ぬふりした貴方は傍聴者です。誰も助けてはくれません。誰も助けようとも思いません。
だって、次の罪人になったら大変ですから!
ポータルの先は、遠くまで仄暗い部屋が続いている。奇妙な威圧感が肌へ射し込まれる。そんな気が、する。
「……まるで、主の部屋じゃ」
「こんなに暗くない」
「濡れた制服をズタボロにして、押し入れに押し込んだ者の台詞とは思えんな」
なにか、おかしいな。なにか変だ。こんなの、知ってるはずが……。
「妾は主、主は妾、イデアはイデア。知らぬわけがなかろう」
今だって、そうだ。さっきだって。口から、出してなんか。
「主、主、主……人ぞ」
仄かな暗がりの先に、小さく照らされた一人がぼうっと突っ立っている。ぼさぼさとした濃い青紫の長い髪の中に、光の宿らない真っ黒な瞳が覗いている。おまけに身体の至るところに血の流れ出た切り傷が目立ち、身体に着た黒色の長袖シャツと長ズボンでは隠れていない。
「あの、名前……名前、は……」
目の前の少女が気怠そうに振り向き、一言だけを呟く。
「……レヴィ。貴方達……信じていいよね…?」
リリスは何も言わない。ずっとレヴィと名乗った少女を吟味するように見ているだけだった。代わりに私が首を縦に振り、受け答えをする。
「多分、信じても……いいと思う……」
「多分ってなに?」
レヴィの声色に怒りがのったような気がする。全身から嫌な冷や汗が噴き出して、焦りが吹き出物みたいにつき纏う。リリスは何もしてはくれない。
「多分って、何なの。はっきりして」
明確、明白、断言、率直。どれだ。焦りがいやに迫ってくる。戻ってはくれない。
「信じて、いい。信じて」
明確に明白な断言。率直な返し、だとは思う。リリスが隣で「一丘之貉、というものか」とぼやく。レヴィから怒りはもう感じない。恐る恐る石橋を叩いて渡るように私は口を開いた。
「私は、イデア。こっちがリリス」
「……リリスって、悪魔?」
「そうだと……思うけど」
私の煮え切らない返事に、リリスがぐっと私の肩を掴んで前に出る。
「ほえぇ……初めて見た……なんか、悪魔ってこう……痛そうな武器持ってて、こわ〜い顔してて……怪物みたいな見た目してるかと、思ってた……」
「旧いな。神は恐れられる為に異形になり、悪魔は人を騙す為に人に成る。正気でいられぬ神秘が聖を語り、正気でいられる誘惑が悪意を騙る。然し、どちらも目指すべくは同道よ。人と同じく性を持つべし異界墜ちぞ」
「じゃあ、リリスは悪い悪魔なの?」
お前の方が奸物だ。リリスがぼそりと「お前の方が奸物だ」だと。いや、これは、どちらだ?リリスが言葉を続けていく。
「学びの庭はどうだろうか。主は行かぬが」
「……学校?行くわけない。あそこは、私の心を殺した場所……先生も、最初は優しかったんだよ。でも、結局は同じ。自分の立場を守るために、私を捨てた……ねぇ、貴方は私を捨てない?捨てたら……どうなるか、分かってるよね?」
「ふむ……して、その腕は?何をした?何故、そのようなことを?」
「……なんでこんなことするのかって?最初は、誰かに気づいてほしかったのかもね…思うけどでも今は違う。……痛みだけが、私が生きてるって教えてくれる。あの日、あの人に裏切られた時に感じた心の痛みに比べたら、これくらい……なんてことないんだよ」
どうにも暗い。過去にやろうとしたことはあった。そこまでの勇気は私にはなかったが、彼女にはあったらしい。
リリスが適当に安心するような言葉をかけた直後、レヴィが呟く。恨み言のような何かを。
「……嘘つき、みんな最初はそう言うの。『味方だよ』って、『信じていいよ』って……でも、最後はみんな私の前からいなくなる……貴方も、いつか私を裏切るの?もしそうなら……今のうちに、私の手で壊しちゃった方がいいのかな……」
リリスがただ天を仰ぎ、何も言わなかった。そのまま、私を向いて唇を動かす。
「主は妾じゃ」
また、逆も然り。