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目次
鳩
2026/08/25 鳩
春は二枚目だった。
おれはT/の広い背中を見ていた。
靴箱から靴を取った。
冷たいパンはT/の右手のなかにあった。左手でパンくずを落としていた。
靴を履いておれはいま雨が降っていることを知った。
T/の広い背中はまだ広かった。
春は三枚目になった。
鳩はいない。
T/の落としたパンくずは水に沈んでいった。
おれは靴を脱ごうかと思った。
脱いで、どうしようとも思った。
おれは
「鳩は、意外と賢いんだよ」
と言って、やっぱり靴を脱ぐことにした。
T/の右手のパンは全然減っていなかった。
おれはそれを奪った。代わりに靴を押し付けた。右足の靴だった。
「鳩はいないんだよ」
パンは湿っていた。
T/は右足の靴を見ていた。初めて「春だからか」と言った。
座布団と急須
2026/08/26 座布団と急須
窓の外は明るかった。
おれはカーテンを閉めた。T/が開けた。
おれはあぐらをかいた。
冷たい座布団が冷たいままでいることを願った。
T/がコップを置いた。
机の上に水滴が道をつくっていた。おれは軌跡だと思った。
急須はなかった。
コップはひとつだった。
窓の外は明るかった。
おれは「カーテン」と言った。
T/は「角」と答えた。
おれは諦めようと決めた。部屋が赤くなっていた。おれは諦めた。
おれの願いは誰にもうまく伝わらなかった。
座布団を取った。
誰も使っていない座布団だった。
温かかった。
階段
2026/08/26 階段
階段だけが帰ってきた。
おれはプリンを取った。スーパーにティラミスはなかった。
T/はいない。
階段から音が聞こえた。
おれはプリンを食べようとした。
スプーンがなかった。
階段から音が聞こえた。
おれはフォークにした。
T/は帰ってこない。
おれはプリンを食べていた。
階段だけが帰ってきた。
おれはプリンを飲み込んだ。
「ごちそうさま」
プリンはすこし残っていた。おれは席をたった。
T/がいない。
おれはフォークはだめだと思った。
T/が帰ってこない。
電気がつかなかった。
部屋は暗かった。
おれは冷蔵庫を開いた。プリンがあった。生ぬるいプリンだった。
おれはスプーンもフォークも持ち合わせていない。
プリンを口に入れた。
おれはいつかティラミスを買う。
つぎ、スーパーに行くとき。
T/がいないうち。
おれはプリンを残した。生ぬるい箱に突っ込んだプリン。けだるげだった。
階段から音が聞こえた。
おれは後悔した。
ティラミスはまだなかった。
階段は静かになった。
階段が帰ってきた。
T/。
おれは
「電気がない」
と言った。
だから許してくれ。