リレー開始者:よ藻ぎ
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川村玲奈視点です
チャイムが校舎に鳴り響く。たむろしていたクラスメイトたちが自分の席へと散っていくのを私はぼうっと眺めていた。チャイムの重い余韻が漂っている中で、教室のドアが勢いよく開き理科Bの先生が入ってくる。
「きりーつ、礼、ちゃくせーき。」日直がやる気なさげな声で号令をかけ、授業が始まった。
先生は自身の髪の毛を背中に投げながら口を開いた。
「えーと今日はテストを返します…ああ、平均点は49点。難しくしすぎたかもしれないね。」黒板にチョークで『平均49』と書かれて私は思わず安堵した。テストの束を手に取り「……じゃあ、1番から取りに来てー。」と先生は浅見紬の方を見やる。
出席番号1番、浅見紬。高い位置で結んでいる髪の毛を揺らしながら彼女は立ち上がる。隣の席の私はその横顔を盗み見た。
何点なんだろう。答案用紙をもらって席に戻ってくる彼女を控えめに目で追いかけながら、出席番号6番の私は重い腰を上げた。教卓に向かう。「はい川村さんね。」手渡されたそれを受け取り、自分の机に足を進めながら内側の数字を恐る恐るのぞいた。無機質なフォントで印字されている数字。63。自分の椅子を引き寄せ、座りながら私は長く息を吐いた。平均点を考えれば良い方だと口角をあげる。
それから、顔は動かさずに右側に視線を投げた。すでに解説を待つ体制に入っている浅見紬の答案用紙が、簡単に見えた。88。そんな数字が躍っている。私は咄嗟に、自分の点数を肘で隠した。
答案返却を終えた先生が言う。
「最高点は88点で、浅見さんです。」
クラスメイトがおーとかすごーとか声を上げた。私は問題用紙をファイルから探すふりをする。先生が解説を始める。私はいつまでも問題用紙を探し続ける、ふりを続ける。浅見紬が私の机を軽く叩き反射的に顔を上げる。浅見紬は言う。「問題ないの?私の問題、写真撮る?」自分の問題用紙をスッと差し出してくる彼女に私は歪な笑みを浮かべる。「…ありがとう。」学校用のタブレットで私はそれを撮る。
授業が終わった。私はタブレットから問題用紙の写真を消そうとした。けれどやめた。彼女の手が映り込んでいることに気づいて。
浅見紬の席に彼女の友人が2、3人集まってくる。「つぎ数学Aだよね?嫌だなー絶対点数低いもん。」そのうちの1人が嘆いて浅見紬はわかると笑った。
「紬はどうせ点数いいでしょ、理科Bでも最高点だったし。」
「いや数学Aはほんと苦手だからさ。」
「紬の苦手は学年10位だから流石に信用できないでしょー。」
私は席を立つ。廊下に出て自分のロッカーを無意味に漁りながら、タブレットに保存されている、彼女の特段細くないような日焼けした指を思い出す。
浅見紬(あさみつむぎ)
川村玲奈(かわむられな)
2
平均点は49点だ、と告げられて、ふうん、と一旦他人事のように考えてから、自分がテストを受けた時の手応えを思い出してちょっと顔を顰めた。
私は小学生の頃からずっと出席番号は最後で、テストを返されるのも最後だ。クラスの一位は誰だろうな。自分の番号が呼ばれるまでのちょっとした時間に考えた。ぼんやりと前の方を眺めていたら、前列の方の子の答案が目に入りそうになってしまったので、慌てて目を逸らした。
返却された答案には、47点と記されていた。先生が遠くで、「クラスの最高点は88点で、浅見紬さんです」と告げるのが聞こえた。私は居た堪れなくなって、誰も見ないと分かっていても、答案を折り曲げてそっと点数が書いてある部分を見えないようにした。
先生の解説が始まって、皆んなが一斉にゴソゴソと問題用紙を取り出す。私もファイルに仕舞い込んでいたテスト冊子を取り出す。冊子を開くとページの間に挟まれたまま潰れた消し屑が目に入った。それだけのことだったけれど、なんだかやる気を削がれてしまった感じがして解説を聞いているふりをしながら前の方をぼんやりと眺めた。前列には最高点を取っていた──別に珍しくもないけれど──浅見紬がいる。その浅見紬が、何やら隣の席の机を叩いて問題用紙を差し出すのが見えた。隣の席の女子はどうやら問題用紙を忘れていたようで、彼女は小さく会釈して写真を撮っていた。シャッター音はほとんど聞こえない。私はもう一度机に目を落とす。
やる気のなさそうな号令係の声を合図に、わっとクラス全体がざわついて、テストの結果や、勉強の愚痴などが一斉に飛び交う。次の時間はなんだったか考えながら、ロッカーに向かおうとすると、すれ違う途中浅見紬と、彼女と仲のいいクラスメイト達の会話が耳に入った。「つぎ数学Aだよね?嫌だなー絶対点数低いもん。」「紬はどうせ点数いいでしょ、理科Bでも最高点だったし。」「いや数学Aはほんと苦手だからさ。」「紬の苦手は学年10位だから流石に信用できないでしょー。」そっか、次は数学Aだった。まず思い出してから、次に苦手ってなんだよ、と勝手に浅見紬に対し腹を立てた。それは私がさっきのテストで60点くらい取れていたなら、まず抱かなかったであろう感情だったから、なおさら自分が惨めに思えた。私は黙って席に引き返し、残りの休み時間を、硬い机で、なんとか微睡みながらやり過ごそうと突っ伏した。解説を聞いていた間は眠気に引き込まれそうなほどだったのに、少し歩き回った後の頭はすっかり冴えてしまっていてた。
やがて次の授業開始のチャイムが鳴り私は顔を上げる。返却されたテストは、予想通りというか、前日に解いた問題集と同じくらいの正答率だった。つまり、酷い点数だった。そんな必要はないけれど、誰の顔も見ずに歩いて自分の席についてから、ファイルを開いて、しまったと思った。さっきの時間に取りに行こうと思った問題用紙をロッカーから取ってくるのを忘れていた。周りに写真を撮らせてもらえないかと思ったが、すぐに声をかける勇気はない。不自然な挙動になるのが恥ずかしくて周りを微妙に目だけで見渡したりしているうちにすっかりタイミングを逃してしまった。私は仕方なくタブレットを机の上に置いて、問題用紙の写真を見ているていにする。画面を暗くして、適当なアプリを開きながら、浅見紬が今の私を見たら話しかけるんだろうかとふと思った。きょろきょろして明らかに困ってますというふうの私に、さっきみたいに、自分から私の机を叩いて知らせてくれたりするのかな。浅見紬は一番前の席で、前をじっと見つめて真剣に解説を聞いている。まず誰かに自分から話しかけるような状況ではない。解説なんて、聞かないといけないところの方が少ないだろうに。
そもそも出席番号一番の浅見紬と出席番号三十番の渡辺沙希にはほとんどと言っていいほど接点がない。多分浅見紬は私のことを知らない。でも、文句は言えない。私も、浅見紬のことを知らないから。
渡辺沙希(わたなべさき)
3
17時半ごろ、私は帰路に着く。顔を上げると自分の家の屋根が他の家のあいだからのぞいていて私は歩を早めた。角を曲がりさらに歩き見慣れた外観が視界に入るようになったとき、前から人がやってくるのが見えた。あ、と思った。黒のセーラー服に身を包み、足元の石ころたちを蹴るようにしている彼女は、幼馴染の浅見紬であった。
彼女は私に気づいていない様子で、私の家の隣に建つベージュ色の家の敷地内に足を踏み入れ、ドアの前に立ち通学カバンを漁り始めた。鍵でも探しているんだろう。その間も私は足を動かしているので距離は縮まっていく。とうとう私が自分の家にたどり着いてしまい、彼女に気づかれずに玄関をくぐるのは無理があると判断したとき、私は諦めて口を開いた。
「久しぶり。」
聞こえなかったはずないのに彼女は視線を動かさず、数秒してやっとやや上目遣いでこちらを見やった。
「こんにちは。」
やけに他人行儀な挨拶をされてため息が落ちそうになる。
会話はそれだけで、彼女は通学カバンから取り出した鍵で家に帰っていったし、私も同様にした。
浅見紬が私に対してよそよそしくどこか冷たい態度をとるようになったのは、彼女が中学に上がる2ヶ月ほど前のことだった。きっかけは多分、彼女が私の通う中高一貫校に落ちてしまったからだろう。彼女は滑り止めだったと思われる学校に進学した。
私は昔から優秀だった。彼女もそうだった。私は昔から大人に褒められていた。彼女もそうだった。私と彼女が10歳を超えたあたりから、比べられるようになった。そうすると必ず、私の頭ばかりが撫でられて、彼女は肩を軽く叩かれた。思えば、多分あの頃から、彼女は私に疎ましいような視線を向けていた。
翌朝、7時25分に目が覚めた私は、時計の長針のさす数字を理解した途端、やってしまったと声を上げたくなった。いつも7時30分には家を出ているが、あと5分で支度ができるわけもない。それでもなるべく急ぎ朝食は食べる時間がないので抜き、家のドアを開けたのは7時40分のことだった。
「あっ。」
家の鍵をかけ、足を突っ込んだだけの制靴を調整し履き直していると、横からそんな小さな声が聞こえてきた。踵を返し歩き出すついでにそちらに視線を投げると、ちょうど家から出てきたらしい浅見紬と目があった。うわ、でも、ああ、でもない言葉が口から漏れ出た。
「おはよう。」
彼女の家の前を早歩きで通りながら言った。彼女は片手に持った単語帳を通学カバンで隠すようにしながら、眉をひそめる。私が完全に通り過ぎたとき、「おはよう。」と後ろから返された。遅いな、と思った。
語り手の名前が出てきませんでした…。
田畑歩美(たばたあゆみ)