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イフ
久しぶりだあああああ。月詠み様のイフです。
「|架理《かり》は本当に歌が上手だね。私、架理の歌が大好きだよ」
「ありがとう。|彩羽《いろは》にそう言ってもらえると、とっても嬉しいよ」
楽しい会話をしていた日常は、もうない。
「架理。私がいなくなっても、たくさん歌ってね。大好きな歌をたくさん歌って」
そう言って死んでしまった友人。
何のために生きればいいのか。
でも、誰のために死ねばいいのかもわからない。
この理由も、
いつかは、
「見つけられるのかな」
*
『今日は、全国で雨が降るでしょう。一日中傘を忘れずに』
朝のニュースで天気予報士の人が言っていた。
けれど、僕の手に傘はない。
テレビの中で作り物の笑顔を振りまく。
そんな人達に嫌気が差し、ほんの少しの反抗のつもりで傘を持たなかった。
晴れを信じたかったから。
自分を信じたかったから。
彩羽がいなくなってから、笑うことができなくなってしまった。
君の笑顔が大好きだった。
僕が笑う理由は、君の笑顔だったのに。
いなくなってしまうなんてね。
誰のためでもなく、周りに合わせるために上げる口角。
僕のこの笑みを本物だと信じたかった。
誰かのために笑うことができる人が羨ましかった。
「そうだった」
小さい頃に夢見た『きっと』。
月はすぐ近くにあって、頑張って走ればたどり着けるんだって。
ずっと願ってた。
そんなことはできないって、わかってはいたけど、信じたかった。
曇った空。
たくさんの笑い声。
色とりどりの傘。
『大好きな歌をたくさん歌って』
信じてる。
わざわざ人に従う必要はない。
誰にも明日はわからないのだから。
*
「ねえ|楪《ゆずりは》くん。いつもぼーっとしてるけど、好きなこととか趣味とかないの?」
「えっと、好きなこと...?」
『もしも』のことを言うのか。
『嘘』をつきつづけるのか。
僕の前にある選択肢。
どっちを選べば良いんだろう。
彩羽のときみたいに、後悔はしたくない。
全てやりきって終わりたい。
どっちにしろ、たらればの話なんだけど。
なんて一人で考えて。
本音が頭の中を駆け巡る。
「僕は、寝ることが好き、かな?」
「あはは。なにそれっ。全然、学生ぽくないなぁ」
結局、本当のことを言えなくて。
自分が馬鹿だと思ってしまう。
その日、久しぶりに彩羽の夢を見た。
彩羽と一緒に話をしていた。
懐かしい笑顔を浮かべていた。
もちろん、それは妄想で。
いつも早く終わりにしたいとか、結局終わりは来るんだとか思ってた。
でも、この夢は覚めてほしくなかった。
|永遠《とわ》にはこない夜明けが見たい。
君のために、こんな気持ちを。
想いを。
「幾つ感じていくだろう」
*
彩羽がいなくなってから、たくさんの人が声をかけてくれた。
でも、それはただの気休めで。
根拠もない希望をうたっているだけで。
全部、世の中の辻褄に合うように、消費されていく。
世の中にとっての、綺麗事だけでできていくんだ。
僕だって、ただ。
生きる価値が、生きた証が。
欲しいだけなのに。
*
『ねえ、架理。人が歌う声にはね、一つ一つ命があるんだよ。みんな、違う声を出すから、違う命が生まれるんだ。素敵なお話じゃない?』
『一緒に歌おうって、いつの話をしてるのっ…。中学生にもなって、そんなの叶うわけがないじゃん!私は…あと少ししか生きれないのっ』
どっちも彩羽が僕にくれた言葉。
でも、全然違う。
分かりきった嘘でも。
分かりきった真実でも。
ときに美しく、ときに汚くなってしまう。
それが、人なんだって。
許せるように、なりたいんだ。
「どうだろな」
僕が変わるには、最初から変わらなきゃいけないかな。
そしたら、愛も夢も増えるかな。
でも、最初からやり直した道に、君はいないかもしれない。
*
『もしも』のことを言うのか。
『嘘』をつきつづけるのか。
僕の前にある選択肢。
どっちを選べば良いんだろう。
彩羽のときみたいに、後悔はしたくない。
全てやりきって終わりたい。
どっちにしろ、たらればの話なんだけど。
なんて一人で考えて。
本音が頭の中を駆け巡る。
結局、本当のことを言えなくて。
自分が馬鹿だと思ってしまう。
--- 「でも」 ---
僕の前にある、『もしも』と『嘘』の道。
この道にはないことを目指したっていいんじゃない?
どこにもないけど、僕は何かになりたいんだから。
道に正解も間違いもないんだ。
だったら、もう一つ。
新しい道で、新しく生きればいい。
「僕は、歌いたいんだ」
きっと、歌じゃなにも変わらない。
でも、歌いたいんだ。
君が好きだと言ってくれた僕の歌で。
君に届くような歌を。
何千回奏でたって、褪せはしない。
君と僕とたくさんの夢を、
「歌いたいから」
*
「楪くんって、寝ることが好きなんだっけ?」
何のために生きればいいのか。
でも、誰のために死ねばいいのか。
「うん。寝ること、好きだよ」
未だに何もわからないけど。
「最近は、音楽を聞くことも好きかな」
この世界には、たくさんの夢で溢れてるんだ。
「音楽?なんの曲を聞くの?」
だから、僕の命に価値がなかったとしても。
「…彩羽。僕、やっと歩き出せそうだよ」
「ん?なんか言った?」
「いや、ひとりごと」
いろんな人の夢を歌っていけばいいんだ。
「今日は、とってもいい天気だよね」
世界は美しいから。
--- 『生きていこう』 ---
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