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最高のグループ_4話
激突する魔力と剣気。
静寂を切り裂く衝撃音が森に響き渡る中、戦場は再び混沌へと陥った。
「カイト」の姿をした個体――それはもはや人間としての理性を失い、ただ生存本能のみで動く捕食者の化身となっていた。
その速度は目にも止まらぬ速さで変化し、菜乃が構える防壁を紙のように引き裂いていく。
菜乃「……っ! 盾の耐久度が限界です! 全員、回避してください!」
菜乃の声に呼応するように、彼女は自身の魔力を極限まで練り上げ、防御魔法を再展開した。
しかし、襲いかかる個体の爪が放つ衝撃は凄まじく、防壁の亀裂から漏れ出したエネルギーが周囲の木々を粉砕する。
悠斗「……っ! 逃げるだけじゃねえ……俺たちはあいつを見捨てねえって決めたんだよ!!」
悠斗は叫びと共に、自身の魔力847を全て剣に集中させた。
彼は一閃の斬撃で個体の突進を受け流し、その隙を突き、強烈な一撃を叩き込む。
しかし、受けた衝撃で彼の体は後方へと弾け飛んだ。
莉音「悠斗くん!!」
莉音が悲鳴を上げながら駆け出す。
彼女の治癒魔法が黄金の光となって悠斗の傷口に注ぎ込まれる。
しかし、その顔には涙が絶えず溢れていた。
回復させるたびに感じるのは、かつての仲間たちが命を落とした時の感触と、今目の前で変わり果てた友人の姿への絶望だった。
莉音「……お願い、神様……あいつの心まで壊さないで……」
柚子「……莉音、今は治癒に集中して! 悠斗を動ける状態に戻すことだけを考えて!」
柚子の声は鋭く、しかしどこか震えていた。
彼女は攻撃サポーターとして、個体の動きを封じるためのデバフ魔法を次々と展開していく。
本来の指示役である那央の命令に従いながらも、彼女の判断は常に「仲間の安全」に最優先されていた。
柚子「……私の魔力で、あいつの速度を落とすわ。菜乃、隙を見て一撃通して!」
那央「……いいぞ! 柚子のデバフが効いている今だ! 夜雨、さらに負荷をかけろ!!」
那央の叫びと共に、戦況は動いた。
彼は自らも魔法を編み出しながら、仲間の位置と魔力残量を瞬時に把握し、最適解へと導く。
彼の脳内では常に「生存率」と「勝利への道筋」が計算され続けている。
夜雨「……了解。僕のすべてを捧げるよ……月が見えないこの場所で、あいつに『眠り』を強制する……!」
夜雨が深く息を吸い込み、自身の魔力1846を解放した。
彼の周囲から溢れ出した紫色の波動は、地表の土を浮き上がらせるほどの圧力を伴って「カイト」へと押し寄せる。
それは強烈な重力の枷となり、個体の動きを物理的に停止させた。
しかし、その代償として夜雨の顔は蒼白くなり、膝が折れそうになる。
那央「……今だ!! 悠斗、全力でいけ!!」
悠斗「……ああッ!! これで……これで終わらせる!!」
悠斗の大剣が放たれた。
それはかつての友人を救いたいという願いと、今の敵を倒さねばならないという義務の狭間で生まれた、悲痛な一撃であった。
衝撃波が森を揺らし、全ての音が消えた。
静寂が訪れる。
「カイト」の姿をした個体は、その場に崩れ落ちた。
剣は胸元に深く突き刺さり、その口からは血ではなく、黒い魔力の残滓が漏れ出している。
莉音「……あ……っ…………」
莉音が声を上げられず、ただ呆然と立ち尽くした。
彼女の手から放たれていた光は消え、代わりに冷たい雨のような涙が地面を濡らしていた。
菜乃「……終わったのか……?」
菜乃の盾が力なく下りる。
守り抜いたはずのものが、壊れてしまったという事実に彼女は言葉を失った。
悠斗「…………カイト……」
悠斗は剣を地面に落とし、震える手で顔を覆った。
彼が求めていたのは勝利ではなく、かつての友人の笑顔だった。
しかし目の前にあるのは、冷たい死体のような静止した肉体だけだ。
柚子「……みんな、落ち着いて」
柚子の声は掠れていた。
彼女は震える足で一歩前に出た。
冷静であろうと努めるほどに、その内側にある後悔の炎が自分を焼き尽くそうとしていた。
那央「……俺たちが、守れなかった……」
那央の声が静かに響いた。
彼は指揮官としての役割を脱ぎ捨て、一人の若者としてその場に崩れ落ちた。
自分たちの指示のせいで、仲間の死を見過ごしたあの日から、彼らはずっとこの瞬間を恐れていたのだ。
夜雨「……でも、僕たちはここにいるよ。今も、一緒にいる」
夜雨は力なく笑いながら呟いた。
彼は自分の魔力を使い果たし、意識が遠のく中で仲間の手を探した。
那央(……まだだ。終わらせちゃいけない)
那央は涙を拭い、立ち上がった。
彼の瞳には再び強い光が宿る。
それは絶望への敗北ではなく、生き残った者としての決意だった。
那央「……いいか、みんな。俺たちはあいつを守れなかったかもしれない。でも、これから先は違う」
彼は仲間たちを見渡した。
涙を流す莉音、呆然とする菜乃、震える悠斗、そして疲れ果てた夜雨と柚子。
那央「俺たちは『最高のグループ』だ。あいつの最期に立ち会ったことだけは……絶対に後悔しないようにしよう」
その言葉を合図に、彼らは互いの手を取り合った。
Red Fang(レッドファング)の影はまだ長く伸びている。
そして、この「カイト」という存在が何者に変えられたのかという真実は、まだ深い闇の中に隠されたままであった。
彼らの旅は続く。
後悔を糧にし、守れなかった約束を果たすために。
森の奥から、再び不穏な風が吹き抜けた。