公開中
家族も増える予定です!!
男性妊娠あり。モブ男→ラフタの片思い描写もありますが、寝取られではありません。
ゲームリリース前に書いたものです。
スパークライダーのチーム、aMazINC.のメンバーが顔をそろえて立っていた会見の様子を男が知ったのは、会見終了から数十分後だった。
Sharestarのトレンドを独占していたので、配信された公式動画を興味本位でのぞいてみたのだ。
タイトルは『aMazINC. 衝撃の結婚報告』。
aMazINC.とはスパークライダーのチーム名だ。メンバーは三人か四人、いた気がする。そのメンバーの一人が結婚したのだろう。それ自体は珍しくないのにトレンドを独占したのだ。衝撃というタイトルに違わぬ内容のはずだ。
男は動画を再生した。
画面の右端からメンバーが入ってくる。三人メンバーのようだ。
身長が抜き出ている長髪の男がマイクを構える。
本日はみなさん、お集まりいただきまして、ありがとうございます――という、たいくつな前口上などスキップ一択。再生回数が跳ね上がっている箇所にシークバーを当てた。
カメラのフラッシュがまばらにたかれる会場内で、黒と黄緑が混ざった髪の男が一歩、前に出ているシーンが映った。マイクを持ちながら、嬉々として何かを言う直前だった。
――僕たち、結婚します!
――三人それぞれに恋人がいたとかじゃなくて、僕が、シュウとノアと結婚するんです!
――シュウは僕とノアと結婚するし、ノアは僕とシュウと結婚するんです!
――ちなみに家族も増える予定です!!
マイクを持っていないほうの手で、太ももまである長い上着におおわれた腹をさすりながらの、連続爆弾投下である。とうぜん記者たちのざわめきとフラッシュの量は爆発的に増えた。
動画のタイトル通り、aMazINC.は結婚したのだ。メンバー三人で完結された、同性婚で、重婚で、デキ婚で、男性が妊娠したという、四重の衝撃。
あまりにも衝撃が過ぎて、妊娠した男の横にいたメンバー二人のコメントは聞いていなかった。妊娠した男の言葉をひたすらに脳内で反復していた。
動画を再生し終えた男は、男性妊娠という奇跡に酔っていた。
すぐにメンバーの名前を確認する。妊娠した男の名前はラフタ。妊娠させた二人の男のうち、長髪の男はシュウと言い、もう片方のサングラスの男はノアと言うらしい。
名前を知った男は、Sharestarのラフタのアカウントをフォローした。
ラフタの自撮り画像をあますことなく保存した。
aMazINC.が出した曲を次々と購入しては聴きあさった。
結婚する前のaMazINC.が出した最後の曲を、特に多く聴いた。
この曲を収録している頃には、ラフタは子種を宿していたのかもしれないと思うと、興奮がおさえられなかった。
男はその劣情をラフタ本人にぶつけようとはしなかった。ラフタを抱いたシュウとノアには恨み言をつぶやいたが、物理的な危害を加える気はなかった。そもそも三人は産休も育休もまとめて取っていたようで、スパークライドで接触する機会がない。だから男はaMazINC.を物理的に害せないのだ。
Sharestarのシュウのアカウント――ノアのアカウントは業務用にしか見えなかったので除外した――で精神的に害そうとしたことは一度だけあった。だが自宅と思われる内装のテーブルに並べられた料理を幸せそうにほおばっているラフタの画像を見た瞬間、男の手は止まった。
もしここでシュウを攻撃をして、間接的にラフタを悲しませたらと思うと……。
男はそのままスクロールして、ラフタの画像を数枚保存してから、シュウのアカウントをフォローした。活動を休止している今となっては貴重な、第三者視点のラフタの供給元だからだ。
少しずつ腹が大きくなっていくラフタの画像を満喫する毎日に終止符を打たれたのは、会見から半年後だった。
ラフタが産気づいたと、シュウのアカウントから報告された。
それきりラフタのアカウントは更新されなくなった。
本日は快晴なり。広々とした公園の広場で、いつまでも遊んでいたい陽気だ。
けれど尿意には勝てない。男は友人たちに声をかけてから、最寄りの公衆トイレに向かった。
用を足して、トイレから出る。帰りの方向を確認して、さあ戻ろう、としたときに、子どもの声が遠くから聞こえてきた。
踏み出そうとした足が止まった。ふだんなら気にもとめない泣き声なのに、なぜか今回は気にかかった。スピリチュアルは信じていないのに、運命のように感じてしまったのだ。
ふやふやと泣いているその声は、まだ赤子のようだ。ここは休日の公園。どこにでも親子連れはいる。しかし現在男がいる位置は、広場の端のほうにある、静かな場所。木陰は多い代わりに、遊具はひとつもない。子どもにとってはつまらない場所なので、おそらく泣いている赤子を、騒がしい場所から避難させた親がいるのだろう。
泣き声はまだまだ続いている。
高音に混じって、低音も聞こえてきた。小さい音だったけれど、風に乗ったそれは確かに男の耳に届いた。
透き通っている、雑味のない音だ。
音の正体を知りたくなった男は、音源に向かって歩き始めた。
音が近づくにつれて、正体が明るみになっていき、男は確信した。
これは鼻歌だ。しかも旋律には聞き覚えがある。
何度も聴き直した、aMazINC.の曲だ。
なつかしい曲だった。と言っても曲をはじめて聞いてから、まだ一年しか経っていない。しかし言い換えれば、あの衝撃の結婚報告会見から、もう一年も経ったのだ。
男はもうラフタに劣情を抱いていなかった。強制的に距離をとらされたおかげで、正気にもどれたのだ。
気持ちが落ち着いたからこそ、しばらくしてからやっと気づけた。
ラフタは、シュウとノア、どちらとの子どもを妊娠したのだろう、と。
いくら重婚したとはいえ、子種を受け入れられるのは一人分だけ。だからシュウかノアのどちらかとしか子どもを宿せないはずなのだ。
そう疑問に思ったことはあったが、調べる気は起きなかった。少しの罪悪感と、多くの無関心があわさった結果だ。
男はもうaMazINC.に関心はない。
けれどラフタへの劣情を思い出した体は、aMazINC.の曲を歌っている鼻歌の正体を知ろうとしている。
歩き続けていくうちに、やがて音源が見えてきた。
薄暗い木陰のしたで、パーカーのフードを深くかぶっている人物がベンチに座りながら、赤子を抱いていた。
遠くから見ているだけでもわかるほどに、ベンチの座面からはみ出ている足が長い。ずいぶんと大柄な人物だ。横幅もあったので、性別は男でまちがいない。
パーカーと首のすきまからは髪が垂れていた。毛先は胸元まで伸びている。男にしてはなかなかの長髪だ。
そこまで観察してから、やや間を置いて、男の心臓がドッと急激に跳ねた。
パーカーの男の髪色が、aMazINC.のリーダー、シュウとまったく同じことに気づいたからだ。
低音の鼻歌と、パーカーの男の姿が結びつく。
あれはシュウ・アヤカシだ。
あのラフタと結婚したシュウが、いま、あそこにいるのだ。
シュウの腕の中で泣いている赤子はラフタとの子どもに違いない。
――そうか。ノアではなく、シュウが父親だったのか。
実の子どもだから、シュウがめんどうを見ているのだと、男は納得した。赤子の特徴を見もせずに、そう決めつけた。
唯一のささいな疑問は解消された。男の中にあった何かが冷めていく。
長く待たせているであろう友人たちへのいいわけを考えながら、男はその場から離れていった。
育休中のaMazINC.のシュウを見かけた、という話をするつもりはなかった。それが男に残された善性だった。
「おーい」
ラフタの声が聞こえたシュウは歌うのをやめて、顔をあげる。こちらに歩み寄っている最中だったが、まだ少し遠くにいたので、赤子をおどろかせない程度に声をあげる。
「おかえり」
「ただいまー。はあ、あっつい」
ベンチに着いたラフタはシュウのとなりに座って、シュウと同じく正体を隠すために深くかぶっていたフードを脱いだ。
ラフタにならって、シュウも片手でフードを脱いでみる。さほど涼しいとは感じない。
「そんなに暑いのかい?」
「あー、いや、あいつが何かしでかさないかと気が気じゃなくてさ。なんか体温あがってたみたい」
シュウのひざの上で寝そべりながら泣いている赤子の腹を、ラフタはぽんぽんとたたく。上目遣いでシュウを見て、問いかける。
「大丈夫だった?」
先ほど遠くからこちらをうかがっていた男のことだと、シュウは理解した。
「うん。何もされなかったよ。声もかけられなかった」
「ふーん。じゃああいつ、ただシュウの鼻歌につられちゃっただけっぽいな。勝手に警戒して、悪いことしちゃったな」
男がいた位置からさらに遠い位置から、ラフタが男を監視していたことも、シュウは気づいていた。
シュウは赤子の黒い髪をなでながら言う。
「ここ、けっこう端っこなんだけど、何か用事でもあったのかな」
「あいつもトイレに行ってたよ。僕が入るときにすれ違った」
「……なるほど」
つまり男は公園の端にあるトイレに行っていただけで、シュウたちに接触する気は最初からなかったようだ。
けれどラフタからしてみれば、シュウと赤子を残してトイレに行き、用を足してトイレから出たときに、二人がいるルートを、知人でもない男が歩こうとしているシーンに遭遇すれば、警戒して当然。男のあとをつけながら二人のもとに戻って、今に至る。
二人を害されなくて安心したラフタは赤子に両手を伸ばす。
「抱っこさせて」
シュウが了承する前に、ラフタは赤子を抱きあげた。
赤子はラフタの腕の中で縦に抱かれる。ラフタの肩に顔をうずめてぐずぐずと泣いていたが、すぐに泣き声はやんだ。
「さっきまでシュウの気分だったくせに、今は僕の気分になっちゃってたんだねー。よしよし」
赤子のよだれで肩が濡れるのもかまわず、ラフタは赤子のほおを軽くつついた。赤子の白くてやわらかい肌は、ラフタの指先によくなじむ。
シュウはベンチの座面に置いていた二つの物――リュックと抱っこ紐のうち、抱っこ紐を手に取りながら、ラフタに声をかける。
「じゃあこのままラフタが抱っこしてくれるかな」
「もちろん。じゃあ紐つけるから、ちょっとだけパス」
抱っこ紐と入れかわる形で、シュウの手にわたった赤子はまたぐずりだした。
「ちょっとだけガマンしてね」
シュウは赤子の丸い耳にキスをした。リップ音も何度も鳴らして、愛情をわかりやすくプレゼントする。本格的に泣き出すまでの時間稼ぎをシュウがしているあいだに、ラフタは急いで抱っこ紐を体に装着していく。
「急げ、急げ」
「早く早く。もう泣いちゃいそうだよ」
ケラケラと笑いあいながらの攻防戦をくり広げている最中に、シュウのパーカーのポケットから着信音が鳴った。
シュウは赤子を片手で抱き直してから、ポケットにしまってあったモバディをもう片方の手で取り出し、画面を見る。
「ノアからだ」
「出ていいよ。ほい、装着完了! へいパス!」
「はい」
赤子をラフタにわたしてから、シュウは通話ボタンをタップする。
「もしもし」
「もしもし。いま入園手続きが終わったところだ。再来週には慣らし保育が始まる。それも終われば、晴れて正式に入園できるぞ」
「ありがとう。お疲れさま」
「このあとはどうする。俺が公園に迎えにいくか?」
「いや、そのまま家に帰っていいよ。俺たちも帰るから」
ラフタが横で「シュウ、ちょっと待って」と口をはさんだ。
赤子を抱えながらシュウに向かって身を乗り出して、シュウにくっつく形でモバディに顔を寄せる。
「ノアー」
「なんだ?」
「この子もごきげんになってきたし、このままスーパーに寄っちゃわない? 買い出しもまとめて済まそうよ」
シュウも声をかける。
「いいね。じゃあいつものスーパーの入口で待ちあわせしたいな。どうかな? ノア」
「スーパーデビューか……」
生後半年でデビューするのは一般的に考えるとかなり遅いが、有名人の赤子なのだ。産まれたばかりの状態で連れて行くのは危険だろうと三人そろって判断したものだから、こんなにも遅くなってしまった。
せめて保育園に通わせてから、とも考えていたのだが、ラフタはその考えを変えたようだ。
ノアも思い直したらしく、ラフタに賛成する。
「保育園より先に商業施設で慣らしてみるのも悪くない。俺もこのままスーパーに向かおう。他に言っておきたいことはあるか?」
シュウとラフタは三秒ほど考える。結果、ラフタが口を開く。
「この子の預かり先も決まったじゃん。そしたらaMazINC.は復帰できるじゃん」
ノアが選んだ保育園なら、安心して赤子を長く手放せる。つまり休業期間は終わる。
世間から姿を消していたaMazINC.はふたたび舞台に返り咲けるのだ。
「へへ。楽しみだね」
ラフタはすっかり泣きやんだ赤子の真ん丸な瞳を覗きこんでいる。
ノアと同じ、灰と金色の瞳を。
「将来、この子も僕たちの活躍を見てくれるよね」
「当たり前じゃないか」
シュウはモバディを持っていないほうの手で、赤子ごとラフタを抱き寄せる。
「俺たちの子も、ワクワクドキドキさせてみせよう」
「そのためにも早く復帰して、なまっているキレを戻さないといけないな」
機械越しに聞こえてきたノアの声も、いつもよりやわらかい。
親三人がそろって感慨にひたっていると、シュウとラフタにはさまれていた赤子がバタバタと手足を動かし始めた。
シュウはあわててラフタと赤子を離す。
「わわっ。ごめんよ。たいくつだったね」
「お? やる気満々じゃん。さすが僕たちの子! じゃあ行こっか!」
ラフタは赤子をくるんでいる抱っこ紐を調節してから、ベンチから立ち上がる。シュウも立ち上がり、ベンチの座面に置いたままだったリュックを背負う、その前にノアに声をかける。
「そろそろ切るね」
「ああ。またスーパーで」
「うん。また」
シュウは通話を切った。沈黙したモバディをポケットにしまってからリュックを背負い、もう歩き出していたラフタのあとを小走りで追う。
すぐに追いついたシュウはラフタに問いかける。
「フードはかぶったほうがいいかな?」
「この子もこれから世間に出るんだし、もういいでしょ。ノアも許してくれるよ」
二人はともに木陰から出た。途端、太陽のまぶしさにおどろいた赤子はまた泣きだした。
これはもう仕方がない。二人は苦笑しながら、にぎやかな地を目指した。
数日後。Sharestarのラフタのアカウントが半年ぶりに更新された。
子どもの顔が隠されていても、親子四人がしあわせそうに笑っていることは画像からじゅうぶんに伝わってくると、フォロワーからは好評だった。