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ゆめまぼろし
大好きなMIMIさんの「ゆめまぼろし」です。
無垢だったあの頃が本当にあったのか、幻だったんじゃないかって時々思うけど、そうやって分かんなくなりながら一生懸命もがいてる今は夢でも幻でもないから。それだけでちょっと勇気をもらえて、ちょっとだけ、頑張れる気がする。
「………」
部屋を整理してると、こんな物が出てきた。
「……落書き帳、とか懐かしすぎ」
懐かしく思いながら、すっかり色褪せているそれを手に取る。古びた紙特有の匂いが鼻を突いた。
あのときお気に入りだった、うさぎとくまが手をつなぐ表紙をなぞる。
ぱらぱらと中を見てみると、懐かしい思い出が蘇ってきた。周りの男の子が好きになるような、戦隊ものには全くハマらなかったんだよな、とか。あのときお気に入りだった、ペンギンの絵が描かれた水性ペンってどこにいったんだっけとか。ぼんやり、考える。
その中に、一際目立つ絵を見つけた。
「……なんだっけ、これ」
草原のような場所に立つ不格好な後ろ姿。暗闇を照らす星。そして、暗闇の中、存在感を放つ“なにか”。
それがなんだったのか、今の僕には分からなかった。まるで、幻の生き物のような背格好をしている、大きな美しいなにか。
……思い出せないけど、確かに、なんとなく分かる気がする。
その場所に、心当たりがあった。まだ確信ではないけど、それはいつしか、お気に入りだった場所。
『それ』は、その絵の中できらきらと輝いているように見えた。美しくて、眩しくて。
汚れきった僕の瞳に映る、褪せていった、昔描いた落書き帳の景色。
あれから、何年経ったのだろう。すっかり忘れてったはずの無垢な感情の場所へ、思いを馳せる。
*
「私立入試開始まで残り――」
滔々と喋り続ける担任を横目に、窓を眺めた。
真っ白な空。細い木の枝。
……冬は、寂しくて嫌いだ。
明日から、学生である僕は冬休みに入る。中学生活、最後の冬休み。受験最後の追い込みの時期でもあるので、気を引き締めて頑張らなくちゃいけない。
のは、分かってるのに。
ずるずると、失敗したことばかりが頭を駆け巡る。初めて模試で取ってしまったC判定とか、いつも通り「なんとなく上手に」出来なかった友人との付き合いとか。だめだなあ、とかぼんやり考えても、なにも変わらないことは分かってるけど。
気を紛らわすために、昨日見た絵のことを思い出した。
……確か、あの場所に一緒に行ったのは。
放課後の予定が決まる。
*
「……で、私を呼んだのはそれだけなの?」
「ん、しばらく会ってなかったしね」
許可もとらずに靴を脱いで玄関をあがっていくけど、彼女は慣れたのか文句を言わずお茶の用意をしようとする。
「いいよ、そんなの」
「先部屋行ってて」
僕の言葉に返事をせず、短くそう告げて気にせずお茶を注ぐ彼女に相変わらずだな、と苦笑した。
*
「見てよ、これ」
例のスケッチブックを出してみると、彼女は――幼馴染のよるは、案の定「懐かしっ」という声をあげた。
「それ、私も持ってたなあ……卒園記念にもらったんだっけ」
ぺらぺらとページをめくるよるだったが、そのページになると、ぴたりと手の動きを止めた。
「……絵上手いね」
「やった」
「それは置いといて、私もなんとなく覚えてるかも。でも……」
あの、例の生き物を指差す。
「これは見覚えないなあ。なんだろ、これ?」
「冬休みでしょ。一緒に探しに行こうよ」
「一応不登校だから冬休みとか知らないけど」
「皮肉だからね」
よるは、ちょっとだけ笑った。呆れたような、でもちょっとだけ、楽しそうな。いつもと変わらない笑顔を見て、僕は少しほっとする。
「いーよ、連れて行って」
*
「今日は泊まってくでしょ?」
「……え?」
当たり前のように首を傾げるよるに、一瞬思考が止まる。
「……え、だってほら、昔はいつもこうやって泊まってたじゃん」
「いや、それはそう、だけど……」
確かに外はすっかり暗くなっていて、時計の長針は7時を指す。帰るにはもういい時間だ。
「僕もよるも、もう15歳で」
「うん」
「無垢だったあの頃とは違うわけで」
「うん」
「だからその……それなりに成長したんだからあの頃と同じままではいけないでしょって」
「……うん?」
「あぁ……」
まるで伝わらない。
「え、だって私、|冬夜《とうや》のこと襲わないし冬夜だって私のこと襲わないでしょ?」
「それはそうだけどそういう問題じゃないっていうか……」
その後もなんとか説明してみると、やっとよるは「ああ、」と頷いた。
「……そっか。そうだよね」
よるは、目を伏せる。その瞳が、なぜだか少しだけ寂しそうに見えて。……多分、気の所為だけど。
元々色素の薄いよるが、なんだか消えてしまいそうな錯覚に陥った僕は、思わず「よる?」と声をかけた。
「ううん、なんでもない。……ただ、そう、だよね。私も君も、もう子供のままじゃいられないんだよな〜って思っちゃっただけ」
それは、そうだよ。そうに決まってるよ。そう言いたくなったけど、言わないでおいた。
いつまでも子供気分でいられない。だってもう、中学3年生だ。もう少しすれば高校生となって、大学生、あるいは就職して社会人になって。将来のことを本気で考えなきゃいけないし、もう夢を見ている場合じゃないのだ。
「……まあ、折角だし。今日は泊めてもらおっかな」
「ほんと?」
顔をあげたよるは、来客用の布団を出してくるために階段を降りていった。
*
よるの部屋のベランダから見える夜空は、とても見栄えがいい。かなり広いので、幼い頃は2人で空を見上げて、天体観測をしたものだ。
「ごめん、お風呂時間かかっちゃった」
「いや、こちらこそ先にもらっちゃってごめん」
窓を開けて二足あるサンダルに勝手に足を通して星を見ていると、よるがお風呂から上がってきた。「星見える〜?」と言いながらこちらにやってくる。
「……わ、ほんとだ。綺麗だね」
「でしょ」
星空は僕のものでもなんでもないのに、なぜか誇らしげになってしまう。
左を見ると、よるが楽しそうに空を見ていた。あれはなんとか座だとか、今日はあれが見えないとか。手を伸ばして、愛おしそうに星を眺めるよるのきらきらした瞳に、思わず見惚れる。
「でも私、星が綺麗なこと以外夜って嫌いだなあ」
「ちょっと、分かる気がする」
「自分の名前なのに?」
「よるだけには言われたくないな」
冗談交じりで、よるは笑いながら続ける。
「朝がさ、ちょっとだけ怖いの。きっと上手く眠れて、優しい朝を迎えられたらそれはきっと温かくて、怖くなんてないんだろうなって。
……でも、いくらそうやって思って、いくら言葉に出してみても、月の裏でそんな言葉は空を切るだけでさ」
「……うん」
「人生って、孤独だよねえ」
よるの瞳は、変わらず美しい星を映している。君は、笑う。
僕は、すぐに答えることが出来なかった。……よるが抱えてきた、押し殺してきたどうしようもない孤独を、見てしまった気がしたから。
でも、人生とはそういうものだ。割り切って、なんとか頑張らなくてはいけない。実際、信じられるのは自分だけとよく言うが、自分すら信じられなくなることもよくある。
「そうだね」
考えてから、短くそう返した。なんて言うのが正解なのか、馬鹿な僕には分からない。正解なんてないのも、分かっている。
きっと、よるに限らず、きっとみんなそうなのだと思う。寂しくて、怖くて、俯いて涙をこらえる毎日を、僕と同じように送っている。それでも誰もが、その孤独に、泣き出したい心に知らんぷりをする。
僕は、また始まりだす“今日”の前で、ちょっとだけ、ほんの少し俯いた。
今日ぐらいは許してほしいななんて、思う。
「でも、その孤独も受け入れられたら、否定しないで、優しくぎゅって出来たら、それがほんとの『強さ』なのかなあ」
「……こんなこと言えるの、君だけだよ?」
「そりゃ、嬉しいな」
実際ちょっと誇らしかったのでそう言ってみるけど、「ほんとに思ってる〜?」と疑われてしまった。それをいちいち訂正する必要もなかったから、そのままにしとく。
抑え込んだ、過去の傷と痛み。星を見てても、それは消えないから、2つ持って明日からもほんの少し生きてみる。
「……よる」
震える声。
「ん?」
「今夜は、隣にいるから」
「……ありがとね」
多分この幼馴染は、僕が受験とか、そういう類のいろんなものに振り回されて、会いに行けていなかったときも、1人で孤独を押し殺していたんだろうなって。想像するのは容易だった。
正解が分からない、明日が怖い。そんな、ぼんやりとした不安。それでもそこに優しい夜があって、よるがいる。
それだけは、夢でも、幻でもない……んだと、信じていいのかもしれない。
だから、多分、今は、
「……それで、いいんだよ」
「ん?なんか言った?」
「……独り言」
*
『僕の夢は、先生になることです』
胸を張って、黒板の前でそう語るのは、幼い僕。
少し心臓の音がうるさいけど、僕は拙い言葉を一生懸命紡ぐ。後ろにはお母さん達の姿。授業参観だろうか。教室の隅には、よるの姿もあった。
発表が終わる。割れんばかりの拍手があって、僕は少し恥ずかしくなった。
お母さんと、目が合う。少し目を赤くしたお母さんは、嬉しそうに深く頷いてくれた。
*
「………」
ふっと、目が醒めた。隣には、まだいびきをかくよるの姿。
今日から冬休みなので、学校の心配もいらない。……受験生の僕は、そんなこと言っている場合じゃないのだけれど。
現在不登校状態となっているよるの進路は、分からない。ただ、勉強はそれなりに頑張っているらしいから、高校に進学する可能性だってある。
「……随分、懐かしい夢だったな」
あれは確か、小学3年生でした「将来の夢」の作文発表。あのあとお母さんがたくさん褒めてくれて、大好きな唐揚げを作ってくれたんだっけ。
最近のようで、遥か遠い過去のようで。あの暖かい記憶は、夢だったのかと少し疑ってしまう。
それでも、夢かどうか判らぬけど、それはいつも暖かく、心細く揺れる。
仕事で忙しい母のことは、ここ数日目にしていない。女手一つで僕をここまで育ててくれた母には感謝しかないけど、……それでも少し、寂しいと思ってしまうのは、我儘だろうか。
「………ふわぁ、あれ、とうや……?おはよぉ、」
「……おはよ」
確実にこれはまだ目覚めてないなあと思いながら、挨拶に答えた。
小学生の頃は、朝が強い僕が朝がとことんだめなよるを叩き起こして学校に連れて行ってたっけ。なんて、淡い記憶。
「……起きてる?」
「……ん……おきて……おき……る………」
「寝てるなこれは」
*
「そういえば、よるの両親は?」
「んー……確かにここ最近見てないかも」
朝ごはんをもぐもぐしながら、首を傾げるよる。
「大丈夫なの、それ?」
「そっちのお母さんだって忙しそうだし冬夜と当分会ってないでしょ。いーよ、うちの親はいつ私を捨ててもおかしくないし」
ごく普通に、悲しむようでもなく、自然にそう口にするよるに「軽いなあ」と呟いた。
「……あー、でも、お金は大丈夫。口座にたくさん貯金してくれてるし、時々諭吉さん机に置いてあるし」
「じゃあ、いい……のか?」
「うん、いいんだよ。それを親からの『愛』って呼んでいいのか分かんないけど」
「愛、なあ」
……僕は確かに、親から愛を注がれて生きてきたと思う。
どんなに忙しくても、小学生のときは必ず授業参観に出てくれた。おいしいご飯を作ってくれる。たとえ一緒にいる時間が少なくなっても、ほぼなくなっても、それは変わらないままだ。
「……それを『愛』って言い切れたら、少しは楽になれたのかなあ」
よるはごちそうさまでした、と律儀に言ったあと食器をさげながら、「今日の夜行ってみようよ、あそこ」とにっこり笑った。
*
「さっっっっむ!!死んじゃう!」
「生きて」
きゃーきゃーと騒ぐよるを横目に、夕方の東京を眺める。僕達が住む住宅街を抜け、少し歩いた先にある都会の喧騒。まだ5時前だと言うのに、すっかり日は沈み、ビルや蛍光灯の光が存在を主張していた。
「は〜、手袋持ってくればよかった……」
「そんなもふもふのコートとマフラーの完全防備なのに?」
「手袋なくて完全なわけないでしょ!」
「毎年『死ぬ!!!』って言われてたらまたか……ってなるのも当然だよね」
「それはそうだけど〜!」
いつもよりテンションが高いよるを見るのはちょっと面白い。
「ココアでも買ってきなよ」と助言したら、コンビニへと駆けていったので、呆れながらもそれを追いかけようとする。
*
「ついた……!ここらへんだよね」
「多分」
たどり着いたのは、小さな丘。都会の景色が一望できる上、眺めもいいのにひっそりとしすぎているせいなのか、ここで他の人を見たことがない。……まあ、そんなわけはないのだろうけど、「自分達だけが知っている秘密の場所」みたいな感じが好きだったので、それでいいのだけれど。
「……久しぶりに来たなあ」
よるは、愛おしそうに目を細める。
「懐かしいね。小学生のときとかさ、毎日ここに来て」
「うん」
「宿題とか騒ぎながらやってさ」
「うん」
「冬は星を見て、全然知識がない冬夜に星座覚えさせて」
「覚えるの苦手なんだよ」
「あれだけ教えたから流石に覚えてるでしょ。じゃあ、あの星は?」
「……オリオン?」
「それは星座の名前でしょ!ベテルギウスってかなり有名な一等星じゃん!」
「分かるか」
怒らせてしまったみたいなので、本当にキレられる前に「ほら」と事前にコンビニで買っておいたおにぎり達を差し出す。
「夜ご飯食べよ」
「……さっすが冬夜ー!気が利く〜!!」
「手のひら返しが酷いね」
満天の星空を眺めながら、少し冷えた肉まんを笑顔で頬張るよるを、少し微笑ましい気持ちで見ている。
すると、ふと、よるが悲しそうな顔をした気がした。
「……どうした?」
「冬夜って敏感すぎるよね」
よるは、肉まんの袋をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ袋代わりのビニール袋に投げ入れた。
「……懐かしすぎて、しんどくなってくるっていうか」
変わらず、よるはずっと星を見つめている。昨日の夜もそうだった。僕の方を、見ようとしない。
「ごめん、すぐ、とめる」
弱々しくそう呟いてから、小さな鼻を啜る音。
……泣いてるのか、と数秒遅れて気づいた。
「だめだね、明るくふるまおうと思ってたのに」
「全部、あふれちゃった」
なんとなく、察する。
昨日、僕は『分かった気で』いた。よるが押し殺していたこととか、全部。
でも多分、……なにも、分かっていなかったのかもしれない。
変わっていて、どこか掴みづらくて、それでいて、無邪気な一面もある。僕にとって、成瀬よるはそういう人間だ。
「どうやって、今日を認めてやればいいかなあ」
ぽつり、と放たれた言葉に、僕は、なにも言うことができない。
「……答えてくれないの?」
「それ、質問なの?」
「質問だよ」
「……曖昧に目を背けて生きてきた、私の命にまだ価値があるんだって」
「言えたらよかったのにね」
*
「うぁー、……色々ごめんね」
「大丈夫だよ、別に」
そっけなく、返してみる。
「……あのね、聞いてくれる?」
「…………うん」
時刻は6時。よるは、初めて僕の目をしっかりと見据えた。人と目を合わせるのは苦手だ。でも、今だけは目をそらしてはいけない気がして。僕も、よるの少し赤くなった瞳を見つめる。
「私ね、看護師さんになりたかったんだあ」
「知ってるよ」
「冬夜は流石に知ってるか。10年前、だっけ。転んで足折ったとき、優しく声をかけてくれた看護師さんが、すごくきらきらして見えて」
「……うん」
「頑張ったの」
憂いを帯びた横顔は、いつもより幼く見える。
「勉強も人付き合いも苦手だったけどさ、絶対に夢を叶えてやるんだって。憧れのあの人になりたかったから、明るくなろうって、頑張ってみた」
「……でもさあ、分かんなくなってきちゃって。なにも辛いことはないんだよ。優しい友達も、普通の生活もある。なのに、なんか、うまくできなくなっちゃって」
「周りがどんどん大人になっていって、自分だけ取り残されてるみたいで。怖いの。とりあえず、勉強だけは頑張ってみてるけど」
「そっか」
「うん、そうなの。親もさ、私のこと否定しないし。だから、うーん、なんていうか……」
よるは、原っぱに寝そべった。ちょっと前に教えてくれたベテルギウスに手をかざして。
「……昔ね、星にお願いしたんだ。あの人みたいになれますようにって」
「………あの空に期待した“未来の自分”に、なれなくてごめんなさい、って思っちゃうの」
今日見た夢を、思い出す。
教師になりたかった。勉強に励んだ。そして僕はまだ中学3年生で、まだまだ未来のことなんて分からない。なのに、その夢は次第に薄れ、時が経つとともに、「どうせ無理だ」という負の感情の渦の飲み込まれていく。
「10年前の世界は、広かった気が今はするの。
うまくできなくなっちゃってから、毎日、今までやってきたはずのことも全部空っぽに見えちゃって」
「……空っぽに見えたとしても」
やっと、口を開いた。多分、うまく言えないし、僕にはよるを励ますこともできない。ただ、それでも言わなければいけないことがあった。気が、した。
「でも、大丈夫だよ。例え空っぽだったとしても、よるがよるなりにもがいてきたことは変わりないよ。
それだけで多分、充分だよ」
「……ありがと。そうだったら、いいな」
「10年後に笑えたら、いいなあ」
2人で、少しずつ息を吐いた。
*
「……見て、よる」
「ん?」
「月」
よるが、顔を見上げた。そして、徐々にその瞳が興奮に染まっていく。
「月が、赤い……!なにこれ、こんなに綺麗な赤い月、初めて見たかも……!!」
「今日、皆既月食がある日だったの忘れてた。綺麗だね」
「……てかさ、これ、冬夜が描いたあれに見えない?」
「え?」
少し後ろに下がる。
大きくて美しい、神秘的な赤い月。
幻の生き物のように見えたあの絵と、重なる。
「じゃあ、僕が描いたあれって」
「皆既月食の月だったんだ……」
よるのように寝そべって、月を眺める。……確かに、想像力豊かだった当時の僕には、まるで伝説の不思議な生き物に見えてもおかしくない。
なんだか力が抜けて、無意識に笑いがこぼれた。
「ふふっ、あはは……っ!なんか、わくわくして損したかも」
「人聞きが悪いな」
「ごめん、うそうそ。また、こんなに綺麗な月が見れてよかった」
……人生は、すごく儚いものなのだと思う。すごくあっという間に過ぎ去って、多分、あとになればこんな思い出も笑い飛ばせるのかもしれない。
泡みたいだ。すぐに、簡単に消えてしまうようなものだ。
……けど、きっと。
--- 美しくて。 ---
この孤独を、ぎゅって抱きしめてやれるのなら。
「……でもさ、夢で見るような幻の生き物より、すぐ身近にある月だったっていうほうがいいよね」
「よる、そういうの好きそうなのにな。なんで?」
「んー……なんとなく、?ちょっとなんか、元気出るよね」
「……私は、生きてるから」
「うん」
「不器用なままだけど、生きてるから。夢見て、星にお願いした無垢なあの頃なんか本当にあったのかなあなんて不安になっちゃうけど、でもそれだけは、夢でも幻でもないんだよね」
「……うん、そうだね」
「それだけが確かで、今の私にはなにも分からないけど」
抑え込もうとしていた、傷も、痛みも、不安も、孤独も、全部全部抱きしめて。少し、歩き出そうとしてみる。
--- 「でも私は、幻じゃないからね!」 ---
よるは、笑った。
くしゃっと、全ての憂いを吹き飛ばすように、笑った。
それは年相応で、そして、星よりも、月よりも綺麗だった。
「……ああ!」
震える声。
この1日で、たくさんのことを知った。改めて、自分に向き合った。それでも今日も明日も僕は僕のままで、劇的に変われたりはしない。
でも、今はそれでよかったんだ。
--- よかったんだ。 ---
また一歩ずつ、ゆっくりと。
ギリギリ間に合った…!!!!31日で年内ギリギリですが書き終わりました!!やったーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
成瀬よるちゃんと冬夜くん(名字決めてなかった)の蜜月を描きました。嘘です(?)
裏話とかは日記で書いてると思うのでぜひそちらも見てみてください。とりあえず書き上げられてほっとしています。
冬夜くんが昔描いた落書き帳の景色はゆめまぼろしのイラストをイメージしています。あの、真ん中にいる赤い幻の生き物的なやつは皆既月食のときの赤銅色の月だったって設定にしました。はい。
酷い出来だけど、書き上がったのは夢でも幻でもないからね。(
2023年は小説投稿全く出来ませんでしたが一応これが書き納めとさせていただきます!久しぶりに曲パロ書き上げて改めて楽しさを実感したので、近々また書きたいなって思っています。
歌詞を全て小説内に組み込んだので、よければMIMIさんの原曲も歌詞暗記するぐらい聞いてくださると嬉しいです笑笑
ということで最後まで駄文を読んでくださりありがとうございました!!ファンレターもお待ちしています…!「ゆめまぼろし」でした。