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観覧車 回れよ回れ想い出は 君には一日 我には一生 栗木京子
「おっ、優奈じゃん」
突然、背後から聞こえたやたらと懐かしく、目頭が熱くなる声。私はぱっと振り向いた。
「あ…久しぶり、武」
小学校時代、私の初恋を掻っ攫っていったのは、そう、眼の前の男、栗原 武。
幼稚園から小学校まで一緒で、幼稚園は人が少なかったから3年間、小学校では4年生のとき以外同じクラスだった私の唯一の幼馴染、と呼べる人だろう。そして今は互いに高校生。
「ちょっとでかくなったんじゃね?まあ当たり前かw3年会ってねえしw」
そう、この男は中学校が違う。私立を受けたのだ。頭も良く、運動もでき、顔もとてつもなくいいのだ。私はバクバクと大きく鳴る心臓と、ニヤけてしまいそうな表情筋を押さえてなんとか話し続ける。
「そりゃ身長伸びるよ、てか武のほうがでかいじゃん…」
「まあな!」
小学校の頃は私より少し小さかったくらいの武が、今じゃぱっと見私より10cmは高いだろう。
「バスケは続けてんの?」
「おう!部活でやってる、先輩達にしごかれながらなw」
そう言って、眩しく笑う彼の顔を、私は直視出来ずに目線を下げる。この笑顔こそ、私が心打ち抜かれた決定打だ。
「優奈は今何してんの?」
「家庭科部、料理したり裁縫したり」
「すげぇ!流石優奈だわ!」
武は本当に無邪気に笑う、優しくて純粋な彼を、私は小学生ながら本当に愛していた。
「あ、良けりゃ今から飯食い行かね?」
「え…?」
なんとも言い表せないほど幸せな気持ちに心包まれ、一瞬頭が真っ白になった。
「おーい大丈夫かー」
「あ、ごめん。いいね、行こ。」
「うっし!久しぶりだなー二人で飯とか。そういや小5で一緒に優奈んちで留守番したきりじゃね?」
そうだね、と返しながら思い出す。私と武が仲良くなったのは両親の影響でもある。武の母と私の母が仲良いらしく、よく小さい頃から二人で遊んでいたりした。今思えば、あの頃が一番武を独り占め出来ていた幸せな日々だった。
「どこ食べいこっか」
「うーん…どうすっか…」
「マック?近いし、安いし」
「そうすっか!久しぶりだなマックー」
彼は両手を上に上げ、頭の後ろで組む。小さい頃と変わらないところを見つけて、内心ちょっとうれしくなる。
「マックで何食う?やっぱ俺はビックマックかなー」
「じゃあエビのやつにしよ」
「あぁシュリンプフィレみたいなやつ?」
「そう」
「昔と食の好み変わってねーw」
「武もじゃん」
「確かにw」
こんな他愛のない話が、武とするだけで幸せな気分になる。互いの近況報告やらなんやら話してるとすぐにマックに着いた。
「俺買ってくるよ」
「え、いいよいいよ私行くから」
「いーの、俺に行かせて」
「いやいいよ申し訳ないから」
「久しぶりにあった幼馴染にくらいちょっとかっこつけさせてよ」
「わ…わかった…けど…」
「おっけ、買ってくっから座ってて」
「ありがと」
「いいえー」
必ず、二人でどこかに行くと、何かと譲り合ってなかなか進まなかったな、なんてことをまた思い出す。二人で座れてきれいな席を見つけた。向かい合わせだが、他校も下校時間なのか意外と混んでいる。
まあ自分が耐えればいいだけだと思い、席に着く。
なんとなく窓から外を見ると、移動遊園地が見えた。
「観覧車…」
「ん?観覧車がどうかした?」
「へ!?」
「驚きすぎ驚きすぎw」
いつの間にか私の後ろにいた武は私の顔の横らへんに顔を近づけてくる。私は全く気づいていなかったため、結構大きい声で叫んでしまった。
「いや突然後ろにいたらびっくりするから…」
「ごめんてwほら買ってきたよ」
「ありがと…あとでPayPayで送金するから」
「いいよいいよ俺のおごり」
「やだそれは気がすまない」
「だーめ」
「やだ」
私は携帯で彼に料金を送金する。
「いいって言ったのにw」
「私が気にするからだめ」
「あっそw」
またまた談笑しながらマックを食べる。食べ方は綺麗だけど、口の周りにソースを付けちゃうところ、ジュースを一番先に飲むところ
「変わってないなぁ…あ」
「漏れてるぞーw」
「だねw」
彼のこういうところが私は大好きなのだ。そうこう話している間に食べ終わり、そろそろ出るかという話になった。けどまだ彼とは離れたくない。
「あの…さ…」
「ん?」
「観覧車乗ろうよ、久しぶりに」
「いいじゃん、なっつー」
なんとか怪しまれずに誘えただろう、観覧車なら並ぶし、意外とゆっくりだから、長くいられる。とか思っていたけれど、結構空いており、すぐに乗れてしまった。
「おぉー、移動の割にはたけーなー」
「だね」
そう言いながら無邪気に窓に張り付いた彼を、これからもずっと眺めていたい、一緒にいたい、その気持ちが押さえられなかった。
「あ、あのさ」
プルルルルルル、という彼の携帯がゴンドラの中に響く。
「あ、すまんちょっと電話」
「う、うん」
「あーごめん、ちょっと幼馴染に会ってさ、うん、そう、大丈夫だよ、明日会うでしょ?」
今まで聞いたことないくらい優しく幸せそうな笑顔、それを見た瞬間私は悟った。
武にはもう、私が愛しているくらい愛する人がいて、その人と結ばれているのだと。
武が電話をしている間、私は周りの音が一切聞こえなかった。
「ごめん、彼女がさ」
「彼女…いたんだね」
震えて泣きそうな声を、なんとかいつもの声に寄せながら言う。でも、彼は気づかずに幸せそうに笑う。
「おう!世界1可愛くて世界1大好きな彼女だ!」
自信満々にそういう彼を見て、私の心はガラスのように崩れた。
「そっか…いいね」
なんとか祝いの言葉を絞り出す、本当はこんなことを言いたくない。けれどとても愛している人だ、せめてこの関係を続けよう、そう心に決めた。
観覧車をついに降りたとき、緊張していた糸がぷつんと切れたように涙が零れそうだった。けれど彼の前で見苦しい姿を見せるわけには行かない。少しばかり違和感のある笑顔を顔に無理やり貼り付けて彼に向けてこう言う。
「彼女さん、待ってるよ。早く行ってあげな」
「おう!ありがとな!!」
そう行って彼は走ってその場を去った。私はずるずると体を引きずるようにして、誰にも見られない場所へ隠れた。そして、声を殺しながら、外が暗くなるまで泣き続けた。彼には今日ばかりの思い出かもしれない今日が、私には一生背負っていくなんとも言えない記憶となって心の奥が締め付けられた。