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夢をみていたんだ
為替
〈はじめに〉
はじめまして、為替と申します。
ふわふわとした世界観を書きたいなあと思い、「ぼく」を主人公として作品を描かせていただきました。
直接的でも詳しいわけでもございませんが、少し死を連想させるような描写がありますのでご注意いただければと思います。
全体的にふわふわした雰囲気ですので、夢だと思いながら読んでいただけると嬉しいです。
…………そう、これは夢なのである。
永い夢を観ていたらしい。昼の、ぼくを影にしようとしている太陽のような安心感はなく、朝方の霧の浮くような不快感もなく、ぼくはただひとり電話ボックスの中に入っていた。
今ではあまり見ない。おそらくスマートフォンの発達や急激な都市化によるものだと考えられる。
ぼくはその電話ボックスをつかえないか、まわりを見渡した。外を見ると閉店間近の駄菓子屋や、ぎらついた電灯が見えた。
外に出ようとしてもなぜか出られなかったため、せまい電話ボックス内を見ることにした。中は薄暗かった。怖くなりあとずさりすると、足に何か当たった感覚がした。思わず下を見ると幾つかの本と、ほんのすこしの硬貨が たん、たん、とひとつずつ丁寧に置かれていた。
硬貨に描かれている数字らしきものは、数字とは認識できるが、それ以上は認識できなかった。
硬貨を入れてみた。入れてみたはいいがとくに宛てるような番号も思い出せず、ぼくはその場で茫然と立ちつくした。
ぼくはいきなり電車に乗っていた。車窓からは途方も無い、きらきらと輝いている星空と、星空にてらされた海が見えた。ゆらゆら、ゆらゆらと電車にゆられ、ぼくはそのまま景色を眺めた。かわりのない、ずーっと同じ海が続いていた。なぜかはわからないが、ぼくはその海に反射された星空にひどく惹かれた。
しばらく眺めていた。すこしして、人影が見えた。背の高い男の人と、五歳くらいの子供が見えた。ぼくはひどく安堵した。
ここでアナウンスが聞こえてきた。どうやら次の駅はずいぶんと先らしく、
『間も無く水中にはいるため、揺れにご注意ください。』
とのことだった。落ち着いた声だな、と感じたがぼくはとくに気にも留めず、そのまま水中に入っていくゆらゆらと、不快感のないゆれの感覚を味わった。
水中に入りきったらしい。ゆれは落ち着き、深海へと進んでいるようにまわりが暗くなっていった。こわい。そう感じた。
ぼくは咄嗟に立ち、電車から出ようと思った。なんということだろう、ぼくとしたことが走行中は出られないのにもかかわらず電車から出ようとしたのである。
落ち着こうとした。落ち着かなければなにもできない。とりあえず深呼吸をしたが、一向に落ち着かない。
いつのまにか駅に着いていた。おそらく焦りのためアナウンスも停車音も聞こえずだったのだろう、とぼくは落ち着いた頭でかんがえていた。
バスに乗っていた。また車窓を見ると、そこにはなつかしい田園風景がながれていた。なぜだろう、先ほど見た電話ボックスも海も星空も深海もどれも淡く思い出せないが、なつかしく感じてはいた。だが、いま見たどれよりもその田園風景はぼくを落ち着かせ、なつかしくさせ、あたたかくさせている。ぼくは泣いていた。視界がずいぶんとぼやけていた。
悲しいからでも、怖いからでも、不安だからでもなんでもない。ただ、あたたかさを感じたため泣いているのだろうと思った。
そろそろ終着だ、と感じた。またなぜだかはわからない。わからないのに感じるのは、頭のなかに浮かんでくるからである。まったくおかしい話だ。
どこかの家の玄関に立っていた。人の姿や気配は感じられず、薄暗い電球の下にぼくはいるのだと瞬時に認識した。なんだか嫌で嫌じゃないような感覚を覚えた。
ぼくは先ほどから、というよりかは初めからみえているものが、ふちからぼやけてきている。ぼくはここでようやっと、これが夢なのだと認識した。すべて点だったものが、線でつながった気がした。
そのぼやけた目でまわりを見た。なにもわからなかった。
僕はそこで目が醒めた。今日見た夢は、夢にしてはなにか重く、どれもちぐはぐで支離滅裂なものだと思った。
夢の内容を整理した。電話ボックスから電車、電車から見える海と星空へ、そこから深海に辿り着き、バスから眺めた田園風景から最後にどこかの玄関へ。ぼくは思い出した。これはいままでの記憶の断片的なものだと。
ぼくは電話ボックスが好きだった。朱色で、レトロな感じがして、なによりも硬貨を入れたりテレフォンカードを使って電話することが、まわりの使っているスマートフォンよりもデジタルでなくアナログで、『昔』を感じるのが好きだった。
電車が好きだった。ゆれて、眠たくなって、おとうさんに起こされる。これがたまらないのだ。
また車窓から眺める海岸線や夕日や空のうつくしさが幼いぼくを密かにくるわせていた。電車も車窓からの眺めも好きで好きでたまらなくて、ぼくは資金さえあればずーっと電車に乗っていたことを思い出した。
星が好きだった。きらきらと輝いていて、自分のちからで煌めいて、なんといってもその頑張って輝いた光が何億光年もの時間をかけてぼくのいる地球まで届くという、なんとも尊い事実が実感できることが、なによりもぼくの星好きをより深くさせた。
似たような理由で、海が好きだった。光の作用によりまわりのものが反射して、うつくしく波打ちゆらめかせる。ぼくはそういったうつくしいものに興味を示した。
だが、深海は怖かった。受験期のあのどこか深くに落ちるような感覚は、なかなかわすれられない。志望校に落ちそうだ、と日々妄想しては勉学に力を入れられず、成績も思うように伸びなくなっていたあの日々はなかなか思い出したくもないものだ。
バスも好きだった。電車とはまたすこし違うゆれかたで、それでもぼくは寝そうになっていた。おかあさんに起こされて、家路についたことを覚えている。
玄関は出会いと別れの場所である。「いってらっしゃい」と「いってきます」が毎朝、毎晩、ときには昼に行き交って、誰彼構わず言葉を交わせる、あの場所がぼくは好きで嫌いでたまらない。
いつしか玄関にぼくは立たなくなっていた。
玄関でおとうさんとおかあさんと別れ、玄関でぼくの想い人と出会った。なにもすべてが嫌なのではなくて、もちろんのこと思い出もある。けれども、ぼくにとってはすこしだけ、嫌なことが勝ってしまっていた。
夢の内容は、おそらくぼくの深層心理のようなものなのだろう。生きることに嫌気が差して差してたまらなくて、ぼくはぼくを無くそうとしていた。
天井にはちぎれたロープと薄暗い電気、床には輪っかに結ばれたロープが見えた。
そうか、ぼくはぼく自身を迷子にさせていたのだろう。希死念慮は消えなかった。が、もうすこしだけぼくをさがそう、と思える夢だった。
…………目が覚めた。
〈あとがき〉
読んでいただきありがとうございます。
この話以前の話もありますので、そちらを読んでいただけるとより一層この作品が理解できると思います。
ではまた。