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【第一部】第二作戦:聖十字騎士団
第一作戦:陽が照らす中で の続きです
「こ、こんなタイミングで…!?」
その法螺貝の音を聞き、アースは眉を顰め、目を見開いて冷や汗を流す。汗が頬を、顎を伝っていく中、一番最初に動いたのは──この男だった。
「とっとと動け馬鹿タレがァ!!!死ぬぞォ!!」
法螺貝の音とはまた違う、低い怒鳴り声。一等兵のイーサンだった。一等兵というだけあって、こういう場面には何回も遭遇し、慣れてきたのだろう。すぐさま剣を取り、並外れた脚力で素早く前線へと向かう。他の兵士も銃や剣を各々持ち、前線へと赴いて敵と対峙していた。金属が、発砲音が、戦場全体に轟いている。
「あ、は、はい…!!」
アースもそのイーサンの声にハッとして、腰にさしている刀剣をスラリと鞘から抜き、イーサンの後を追った。
「…………。」
その様子をカイは目を細めて、"笑顔を消して"無表情で見ていたが、やがて彼も銃を持ち、その場から離れた。
─場面は変わって前線、アース達は敵国【ルミナス聖教皇国】の兵士と対峙していた。暗い、無彩色で構成された軍服である自分たちとは違い、相手は白や、黄金など、自国が「宗教国家」であることを表すような色の軍服を身に纏い、激しい猛攻を仕掛けてくる。
「(やばいっ、このままじゃ死ぬ……!!)」
刀剣を持っている腕をなんとか動かし、歯を食いしばって相手からの攻撃を防いでいるが、それすらアースにとっては必死だった。相手の一撃一撃が重く、アースの体力を削り取っていく。周りにも敵兵が応援に来ているが、それに意識を向ける暇すらない。
『異能を使い、醜く生き、争うしか脳がないバカが。さっさと死ね。』
アースと対峙している敵兵からの罵詈雑言。アースはそれに憤りを感じるも、相手が悪すぎる。アースが必死な一方で、相手はその動きを冷めた目で見つめていた。表情も全く変えず、機械的にさえ感じられる動きでアースの体に傷を負わせていく。アースの軍服や顔は自身の血や地面の土まみれで、その端正な顔を汚していく。
体力が持たない。そろそろ限界を感じていたその時─
「うちの可愛い後輩に何してんだァァァァァッ!!!!」
耳をつんざくような高い声の怒号。敵兵の後ろから人が跳躍して現れる。太陽を背にしている為、顔が影で隠れて分からなかったが、アースにはその声ですぐ誰かわかった。
「フェイ曹長!?」
アースは驚いて閉じかけていた目を見開き、敵兵の意識もフェイの方へと向けられた。
ーーーキイイイイィィィンッッ!!!
フェイの持つ刀と相手が持つ剣がぶつかり、甲高い金属擦過音が、両者の刃から響き渡る。
「ここは私に任せてお前は後ろで治療してもらっとけ!!!」
敵の刃を回避し、受け止めながらフェイは後ろも見ずに、アースの方へとそう叫んだ。
「…!すみません!!すぐ戻ります!!」
フェイのその頼もしすぎる言葉と、片腕片目で戦うフェイの圧倒的強者の姿を見ながら、何もできない自分の無力さに悔しさを感じ、唇を噛みながらアースは踵を返して、地面を蹴ってフェイに背中を向けて後ろへと走り去っていった。
「(なんとかアースを逃がせたはいいものの、どうするか…。こいつの噂は聞いている…アルヴァレック・スピエタート…ルミナス聖教皇国の聖十字騎士団団長…こりゃあとんだ大物が来たもんだ。)」
フェイはそのアースが去っていく足音を聞きながら、敵兵─アルヴァレックの方へと向ける。曹長であるフェイも十分に強いのだが、相手の力量は計り知れない。なぜなら、"汗ひとつ流すことなくフェイの攻撃を防いでいる"からだ。
『…自分を犠牲にし、何もできない無能を逃すか。そんな情は、戦場にとって邪魔でしかない。』
アルヴァレックは去っていくアースの背中を見て、それからフェイの方へと視線を戻した。底冷えするような言葉。
ルミナス教皇国がヴァルハイト大帝国を【悪魔】と見ているのと似たように、アルヴァレックはフェイのことをなんとも思っていないようだった。彼の口元にはなんの表情も浮かんでいない一方で、瞳だけは海のように冷たく、見られているだけで自分の芯が冷えるような青い海の色をしており、輝いていた。
「ハッ、あんたからは無能に見えるかもだけど、私にはあの子が将来、とんでもない大物になる未来が、見えているぜ?」
フェイはその言葉を鼻で笑い、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。だが、余裕そうに見えているが、フェイは結構体力を失っていた。なぜなら、フェイはここから離れた別の前線にいたからだ。だが、アルヴァレックとアースが対峙しているのを聞き、すぐさま其方へと長い距離を移動した為、体力も削られている。そして聖十字騎士団団長という名を持つアルヴァレックの異様な攻撃の重さも原因だった。アルヴァレックが五体満足なのに対し、フェイは片目と片腕を失っている。ハァハァと息を切らしながら、アルヴァレックの持つ剣を弾き返していく。
『…そうか。なら、そうなる前に、叩き潰すまでだ。お前も同じでな。』
アルヴァレックはフェイの言葉を聞いてそういうと、片手を剣の柄から離し、腰の方へとかけ、何かを抜いて銃を取り出した。
「…っ!?まずっーー」
フェイもそれを見て汗を流し、地面を蹴ってその場を離れようとするが、足元の地面が血でぬかるんで動けない。
アルヴァレックの指が、銃の引き金へとかけられる。
ーヅガァァン!!
その直後、銃撃音が、響く。
フェイの、胸元を、銃弾が、貫いた。
(第二作戦:聖十字騎士団 終)
【キャラクターに関する小ネタ】
・アルヴァレック・スピエタート…スピエタートは「無慈悲」「容赦がない」などの意味を持つ
→作中でもある通り、冷酷な一面が見られる為