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【第一部】第三作戦:出来損ないの私
第二作戦:聖十字騎士団 の続きです
ーー視界が、暗くなる。
時間の進む速度が、遅くなったのように感じられる。
皆、呆気に取られていた。高い実力を持つ曹長が、胸元を、貫かれたからだ。
「…ガハッ…。」
フェイの口から大量の血が溢れ、彼女の白いポロシャツや黒いコートを紅に染めていった。
自慢の刀は手から離れ、手を伸ばそうとしても体はいうことを聞かず、そのまま地面へと落ちていく。
「(あぁ…終わりかぁ…こんな、ところ、で……。)」
…思えば、どうして私は曹長になったんだろうか。
確かあの日だったはず。
私の家は上級貴族だった。そんな中、私は生まれつき片目の色が違い、視力も貧しかった。何をしようとしても上手くいかない。
そんな私を、両親は「醜い」「穢らわしい」などと吐き捨て、私の存在を表に出そうとしなかった。貴族の名を汚さぬ為だったんだろう。だけど、そんな中私の兄さんだけは違った。
私よりも、才能がある筈なのに、見捨てればよかったのに、両親とは違い、私のことを気にかけてくれていた。
「綺麗な瞳だね、フェイ。まるで宝石のサファイアみたいに、輝いている。」
そう温かい笑顔で微笑みながら、私の頭を大きな手で撫でてくれた。そんな兄さんの温かい手が、撫でてくれる手が好きだった。
兄さんとなら、どこへだって行ける。でも、叶うことはない。兄さんは家の次期当主だ。こんな醜い私と一緒にいては、両親から、周りからいいように思われない。
だから、逃げた。
夜中、家を抜け出し、裸足の足で走って、走って、遠くへ行った。
誰も、追いつけないほどに、何処まで行ったか、分からないぐらいに。
その後の家のことはあまり覚えていないけど、家を抜け出して数年後、こんな噂を耳にした。
「ねぇ、???家の次期当主様、自殺しちゃったらしいよ。」
『そうなの?才能があって人気もあったのに?』
その言葉を聞いた時、私は信じられなかった。本当かもどうかも分からないけど、嘘であってほしい。
本当ならば……
なぜ、貴方が死ぬ必要があったのか。
私よりも才能があって人気もあって誰からも愛されている、神の子の様な扱いを受けていた貴方が!!
醜く才能もない、「出来損ないの私」の方が、何故生きているのか!!
私は、路地裏の壁に寄りかかって、膝を抱えて座った。泣いて、泣いて、泣きまくった。
私に優しくしてくれた兄を見捨て、家を出た私が憎い。臆病な、自分が憎い。
でも、今更戻る気はない。兄さんのいない家なんて、世界なんて、価値がない。ならいっそ、地獄への道を歩もうか。
でも…少しでも、誰かのために、今自分と同じように泣いている誰かのために生きたい。
「…私が、救うんだ。」
例え同じように地獄への道に引き摺り込んでしまうようなことがあっても、今、寄り添ってくれる人のいない私みたいにはさせない。
私が、誰かに寄り添う人になるんだ。
そこからは、強くなるために鍛えた。旅に出ていた時に落ちていた刀を拾って、誰かを襲っているやつを切って、名前も知らないけど、人を救った。
感謝されることもあれば、罵倒されることもあった。でも、どうとも思わなかった。私が好きでやっているから。好きで人を助けているから。罵倒なんてされたって、ちっとも気に病む必要なんかない。
ある日、国から手紙が届いた。
【徴兵令届】
そう書いてあった。丁度いいかもしれない。私はそこから、軍人になるための道を歩んだ。途中で敵兵と戦って片腕を失うこともあった。私の強さは才能なんてものじゃない。努力して、手に入れた「力」だ。
軍曹になったある日、最近治安が悪いと聞くスラム街を見回っていたら、路地裏に小さな子供を見つけた。
壁に寄りかかって座って泣いていた様子が、過去の自分と酷似していた。この子は私とは違い、綺麗な見た目をしていた。それも、こんな汚い場所とは場違いなほどに。声をかけ、親は何処にいるのか聞いた。
「母さんと、父さんは…いない…俺を残していっちゃった‥…。」
嗚咽混じりにそう話す彼。こんな小さい子供を残していったのか。だが、彼に傷があまりないあたり、少なくとも両親はカスなやつではなかったのだろう。
「あんた、名前は?私はフェイ。フェイ・ティミダ」
名前を聞いてみた。あんな家の名前は捨て、昔拾った本に書いてあった、「ティミダ」という、「臆病」の意味を持つ言葉に変えた。
私には、お似合いだろう。
「アース…アース・フェアローレン」
幼い子供、アースはそう言った。フェアローレンは確か、「救われない者」だった気がする。ますます自分と同じように見えた。でも、私にはこの子を見捨てる選択肢はない。
私が、この子に寄り添い、仲間を、手に入れさせてあげるんだ。
そう思って言った私の言葉を聞き、彼は決意したように私の差し伸べた手に小さな手を乗せてきた。羽毛のように軽い、小さな手。私はその手を離さないよう、しっかりと握り、彼を戦場へと、軍人へと向かえた。
こんな小さな子供を軍人にするなんて、私は酷いやつだ。けど、それ以外の選択肢がなかった。
いや、見つけられなかっただけで、本当はあったのかもしれない。それを見つける"目"が、私にはないんだ。
でも、アース…あんたが生きられるなら、私は自分を犠牲にだってできる。そんな狂気さえ持っている私に、これ以上毒されないように。
けれどーーー
「フェイ曹長ッッッ!!!」
聞き覚えのあるその声によって、私の意識は強制的に引き戻された。ガシッと、私の体を地面にぶつかる寸前で、細い、でも鍛えられた腕が支えた。閉じかけていた瞼を持ち上げると、そこには見慣れた顔があった。その綺麗な瞳に涙を浮かべながら、此方をみているアースが。
「ここで、貴女に死なれると、困るんですよ…!!僕をもっと、鍛えてくれるんでしょう!?」
アースはそう言って私の体を担ぐ。が、目の前には今もあいつがいる。
『…戻ってきたか。手間が省けた。』
アルヴァレックはそう言って銃をもう一度構え、アースの方へと銃口を向けた。アースも刀剣を空いている片手で持ち、構えをとったその時ーー
「オラァァッッ!!」
低い、野太い声が響く。刹那、誰のか分からない血をその体に浴びまくったイーサンがアルヴァレックの背後から剣を持って急襲を仕掛けた。
『な……っ!?』
予想外の敵に流石のアルヴァレックも取り乱し、銃を手放し剣を構えた。刃と刃のぶつかり合う金属擦過音が再び響き渡る。だが、イーサンは体格を見れば分かるが馬鹿力の為、アルヴァレックの刀の方が押し負けている。
『チッ…!』
アルヴァレックも不味いと思ったのか、舌打ちをして体を横へずらして体勢を低くしイーサンの剣を危機一髪で回避する。イーサンの剣が地面に突き刺さった際に起こった土埃が、アルヴァレックの白い軍服を汚していく。アルヴァレックはそれすらも気にせず、後ろへと地面を蹴って下がった。
『全員、一度撤退だ!』
アルヴァレックの声が響き渡る。それを聞いた他の聖十字騎士団の兵士たちも、剣を収め、その場から離れた。アルヴァレックは此方を忌々しそうに睨んだ後、自身もその場から消え去った。
「やった…敵が引いたぞ!!!」
一人の兵士がそう叫んだ。それに呼応するように、周りからは大地を揺るがすような勝利の雄叫びが響き渡る。
「…あー、チッ、お前、何してんだよ。曹長ともあろうお方が、そんなボロボロになって二等兵の小僧に担がれてるなんてよ。」
剣を肩に担ぎ、イーサンが小馬鹿にするように鼻で笑ってそう言った。
「まぁまぁ、いいじゃないか。絆…というものだよ。」
その後ろからいつも通りニコニコしているカイがいつの間にかが姿を現し、イーサンの背中を刀の鞘で小突く。
「イッテェ!何すんだテメェ!」
「なにも、君が目上の人を馬鹿にするのが悪いんじゃないか?」
キレ散らかすイーサンに対し、カイは呆れるように笑って馬鹿に仕返した。
「さ、後ろで治療してもらおう。早くしないと死んじゃうしね。」
カイは視線をフェイに戻し、アースからフェイを受け取り担いで歩き出す。
「すまねぇな…やっぱり私はみっともない。」
自嘲気味にフェイは笑って、弱々しく掠れた声でそう呟く。
「みっともなくないですよ!曹長はすごいですから!」
アースは明るい笑顔を浮かべて笑って、励ますかのように言った。フェイはその言葉を聞いて、「そうかい…」と目を伏せて、でも少し嬉しそうに微笑んだ。
夜に近づくにつれ、太陽が落ちていく中、皆揃って歩く彼らの道を照らすように輝き続けていた。
(第三作戦:出来損ないの私 終)