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【第一部】第一作戦:陽が照らす中で
※順次更新します。「短編」カフェですが、私の小説の場合余裕で3000文字超えることがあります。
【国・組織紹介】
【ヴァルハイト大帝国】
高度な魔力科学(魔導技術)で急成長した近代的な軍事国家。実力主義で、冷徹なまでに「効率」と「規律」を重視する。街は黒い鉄や蒸気機関、歯車で構成されている国。
【帝国軍 第零特殊異能連隊】
軍のトップが直属で動かす、選りすぐりの異能者(超能力者)だけで結成されたエース部隊。一般の兵士では歯が立たない「人外の猛獣」や「敵国の騎士団」の首を狩るための隠札。
【ルミナス聖教皇国】
神への絶対的な信仰によって統治された、古くから続く歴史ある宗教国家。巨大な大聖堂を中心に、白い石造りの美しい街並みが広がっている。彼らにとってヴァルハイトの「魔力科学」や人外の持つ「異能」は、神を冒涜する「悪魔の力」であり、それを滅ぼすための聖戦を続けている。
【聖十字騎士団】
異能や人外を「悪魔の力」として排除する、冷徹で美しいエリート騎士たち。
神に生涯の忠誠を誓い、過酷な訓練を耐え抜いたエリート中のエリート騎士団。超能力(異能)は使わないが、信仰心によって発動する「神聖魔術」で異能者を圧倒する。
【ガイア領獣王連合】
人間たちに領土を追われた獣人、竜人、エルフなどの「人外」の諸種族が、生き残るために手をつないだ巨大な部族連合。文明的な建物は少なく、巨大な大樹の内部や、切り立った崖の洞窟などを要塞にしています。自然の精霊と意思を通わせる能力を持ち、大自然そのものを味方にして戦う。
【牙狼遊撃大隊】
圧倒的な身体能力と、自然を操る異能でゲリラ戦を仕掛けてくる人外の軍勢。
狼の獣人や豹の獣人など、トップクラスの身体能力と隠密性を持つ種族で構成された、ゲリラ戦専門の野生部隊。音もなく忍び寄り、人間の首を一瞬で刈り取るため、大帝国の兵士たちから最も恐れられている
【アジール自由聖域領】
激しい戦争の被害から逃れてきた難民や孤児、傷ついた脱走兵たちが身を寄せる、国境線上の完全な「非武装聖域」。どの国もこの領土を攻撃することは国際法(軍律)で禁止されている。質素だが、世界中から集まった医療技術と薬草によって、静かで穏やかな時間が流れる唯一の場所。
【 白十字救済会「サナトリウム」】
国籍や種族、人間か人外かを一切問わず、戦場で行き倒れた命を救う国際医療組織。ここには主人公の敵である「聖騎士」も「獣人」も怪我人として等しく収容される。施設内での戦闘は絶対厳禁。
─[一九三八年 四月五日]─
「…今日から第零特殊異能連隊特攻部隊ニ等兵として新しく入りました、アース・フェアローレンと言います。よろしくお願いします。」
一人の男性が、丁寧に会釈をすると同時に軽く自己紹介をする。
男性─アースの髪はここ、戦場とは場違いだった。空で爛々と燃え盛る太陽に照らされ、首筋で結ばれた銀髪がキラキラと光を反射する。まるで、血に汚れた戦場には不釣り合いな、繊細なガラス細工のようだった。
それは、誰のものかもわからない血が飛び散り、土と混ざり合って異臭を放ち、"人と人が殺し合う戦場"とは不釣り合いすぎていた。だが、アースの瞳には、その地獄絵図さえ見慣れた景色として映っていた。
──彼がこの血臭漂う戦場に身を投じることになったのは、数年前の『あの日』があったからだ。
戦場と似た様に、いや、二十四時間、三百六十五日ずっと人々の怒号や銃声、悲鳴が響き渡っているのは少し違うかもしれない。
アースはそんな中で、ボロボロの衣服を纏いながら、路地裏にあるゴミ捨て場に、壁に寄りかかる様にして座り込んでいた。十分に栄養も摂取できない影響で普通の子供より細く小さな体をしていた。
「…痛い…。」
ポツリとそう呟く。腕や足には怪我をしたのか、包帯が所々巻かれている。彼の両親は彼に何か食べさせる為、彼に其処で待つよう言い、その場を離れてから一切帰ることは無かった。
死んだのか、生きているのか、アースには分からない。ただ、ひどい空腹感と喪失感を抱え、足を抱えて俯いた。
「……母さん、父さん……何処に、いるのッ……。」
涙を流し、嗚咽混じりにそう言うが、そのアースの声は誰の耳にも届くことなく、冷たい風にかき消される。
だが、突如、彼の周りに影が覆い被さる。アースはハッとして、小さな手の甲で目元の涙を拭きながら見上げた。
「大丈夫かい?あんた。」
見上げた先には、軍服を着た一人の女性が立っていた。軍人なのか、軍服の様なものを着こなし、鞘に収めた刀を背中に背負っている。
だが、その女性には、片腕はなかった。アースは呆然としながら、その女性の顔を見つめる。女性は片目は見えず隻眼で、半円型の黒い眼帯をしていた。だが、その視線は氷の様に鋭く、心の中を全て見透かしているかのように見えた。
「…酷い惨状だね、親は?」
女性は辺りを見渡し、座っているアースと同じ目線になるようにしゃがみ込んでそう問いかけた。
「…母さんと父さんは…いない。俺を残していっちゃった…。」
数秒間を空けてから、再び涙が溢れそうになるのをグッと堪え、女性と目を合わせてそう答えた。
「孤児か…チッ、ねぇあんた、名前は?私はフェイ。フェイ・ティミダ。」
女性はアースの言葉を聞き、小さく舌打ちをした後、自分の名前を言うと同時にそう言った。
「……アース・フェアローレン。」
アースも、それに答える。いつもならこういう時はすぐには名乗ったりなどしない。だが、フェイが其処ら辺のやつとは違い、悪い人ではないと直感で察していた。
「いい名前だね。で、アース。」
フェイは頬杖をつき、口元に少し笑みを浮かべてそう軽く褒めた後、アースと目を合わせた。
「私のいる場所も、ここと同じで血生臭いさ。だがね……ここと決定的に違うのは、背中を任せられる仲間がいる。生き残れば、飯も、寝床も用意してやる。──さぁどうする? ここで惨めに野垂れ死ぬか、私の手を掴むか」
フェイはそう言って手袋をはめた片手をアースへと差し出した。アースはその言葉を聞き、フェイの差し出された片手を見つめた後、決意したような鋭い目を向け、小さな自分の手を、フェイの掌に乗せた。
「良い判断だ。じゃあ行くよ、ついておいで。」
フェイはアースの手を強く、痛みを与えない程度、だが絶対に話さないように握り、自身が立ち上がるのと合わせて腕を上げ、アースを立ち上がらせた。
手を握ったまま、前を向いて歩き出すフェイの背中は頼もしく、アースを絶対に死なせないという力強さがあった。
アースはそれを感じながら、フェイの歩みに遅れをとらないないように走り出す。
その時から、アースは既に軍人への一歩を踏み出していた。
──話は戻って白い大きなテントの前。
「あぁ、君が噂の新人くんか。僕はカイ・クレプシス。第零特殊異能連隊特攻部隊伍長の役を担っている。分からないことは聞いてね。」
アースの目の前に立つ男性─カイは、頼りがいのある年長者のような柔らかい笑みを浮かべた。しかし、背後に血の匂いが漂うこの戦場において、その絶えない笑みは、どこか底知れない不気味さをアースに抱かせた。
アースは何処か、心の中で「不思議な人…。」と呟きながら、「はい」と返事をした。
「…さ、まずは僕たちと同じ部隊の主な仲間を紹介しようか。」
カイはそう言うと、テントの中へと入り、アースにも入るよう促す。
促されるままテントの中に入ると、そこにはカイ以外に5人いた。皆軍服を身に纏い、それぞれ話し合っていたが、アースとカイの気配に気づくと、アースの方へと視線を向ける。
「…二等兵、アース・フェアローレンと言います。よろしくお願いします。」
アースは周囲の視線に少し緊張しながらも、同じように挨拶をする。
「こいつが新人か?細い体をしているな、役に立てんのか?」
壁際に立っていた大柄な男性は腕を組み、威圧的な雰囲気を纏い、鼻で笑いながら鋭い視線をアースに向けた
彼は第零特殊異能連隊特攻部隊一等兵、アースの先輩兵士である「レオナルド・イーサン」。
「揶揄うなよ馬鹿イーサン、ここに来たのだから彼も同じさ。」
カイはニコニコしながら間に入り、毒混じりに静止する。イーサンはそれを見て「チッ」と舌打ちをするが、それ以上は言わなかった。カイの方が階級が上である為だ。
「ごめんね、この馬鹿の言うことなんか聞かなくて良いよ。」
アースの方を向き、カイは申し訳なさそうに眉を下げて顔の前で手を合わせてそう言った。二等兵よりも階級が高い伍長がそうする必要はない筈だが、カイのその言葉に突っ込むように「誰が馬鹿だ!」と後ろでイーサンは怒鳴り散らかしていた。
「…あ、は、はい…。」
その様子を見て少し戸惑いながらも、アースは目を見開いて驚いたままそう返事をする。
「さて、君はここ【第零特殊異能連隊特攻部隊】がどういう場所か、知っているかい?」
カイはそのアースの様子を見て満足そうに頷くと、声音を一段落とした。
「世界の理を超越した力……『異能力』を持つ兵士の集まり、とお聞きしています」
「正解。でもね、ここはただの異能連隊じゃない。その中でも最前線を張る【特攻部隊】だ」
カイは細い目をさらに細め、楽しげに笑う。
「ここにいる奴らは全員、敵を殺すことだけに特化した『攻撃型』の能力者さ。治療だの偵察だのといった温い部類は、他の連中に任せておけばいい。僕たちの仕事は、ただ目の前の敵を蹂躙すること。──まぁ、じきに嫌でも拝めるよ」
カイの説明は簡潔だったが、だからこそこの部隊の狂気が伝わってきた。
配属されたアース自身も、確かに異能力を持っている。しかし──彼の持つ能力には、他とは違う特殊な"発動条件"が存在していた。特攻部隊配属といえど、サポートに回ることになるが…。
「ヒューーーー・ボオォォォーーーー!」
突如として束の間の休息は終わりを告げ、法螺貝の音が、高い音から低い音へと引きずるようにして鳴り響く。
アースもその前に説明されたから分かる。
ヴァルハイト大帝国を「悪魔」と呼び、異能者を滅ぼすための聖戦を続ける敵国──【ルミナス聖教皇国】の軍勢が、ついに前線を突破してきたのだ。
(第一作戦:陽が照らす中で 終)
【キャラクターに関する小ネタ】
・アース・フェアローレン…フェアローレンはドイツ語で「救われない者」というような意味
→親を失くした彼にピッタリな言葉。物語後半になると意味がよりわかってくる
・カイ・クレプシス…クレプシスは「偽っている者」という意味のつもり
→不気味な笑みという描写があるように、謎がある存在(後半に影響があるかも…?)
・フェイ・ティミダ…ティミダは「臆病」という意味を持つ
→普段クールで強気な彼女とは真逆(そのうちわかる)
・レオナルド・イーサン…レオナルドやイーサンは「強い」、「勇敢」などの意味を持つ。
→大柄なという描写があるように、強く勇敢なため