公開中
三、竜神の影
ミラージュでの戦いから二日後。
ASTRAL KNIGHTS本部は慌ただしい空気に包まれていた。
NIGHTFALL幹部、ゼノス・ブラックハート。
その出現は世界中を震撼させた。
黒蝕だけでも脅威なのに、その裏で敵組織が本格的に動き始めたのだ。
本部の医務室。
ノア・アークライトはベッドの上で天井を見つめていた。
体の傷はほとんど治っている。
だが心は落ち着かなかった。
頭の中で何度も繰り返される。
あの言葉。
『君は必ず私の前へ来る。』
なぜ自分なのか。
なぜ敵は自分を知っていたのか。
十三年間生きてきて、自分が特別だと思ったことなどなかった。
炎を操れる能力も、兄のロゼや総隊長たちに比べればまだ未熟だ。
なのに。
ゼノスは確信しているようだった。
まるで未来を知っているかのように。
「考え事?」
聞き慣れた声がした。
キルだった。
果物の入った袋を片手に持っている。
「お見舞い?」
ノアが尋ねる。
「そう。」
キルは椅子へ腰掛けた。
「エリア団長が持って行けって。」
「優しいなぁ。」
「本人は仕事が忙しいから。」
少し沈黙が流れる。
キルはノアの顔を見た。
「まだ気にしてるのか。」
「うん。」
隠しても意味がない。
キルにはすぐ見抜かれる。
「怖い?」
ノアは少し考えた。
そして首を振る。
「違う。」
「じゃあ何だ。」
「分からない。」
ノアは拳を握った。
「でも、知りたい。」
窓から差し込む光を見つめる。
「私に何があるのか。」
キルは黙ったまま聞いていた。
そして小さく笑った。
「なら強くなれ。」
「え?」
「どんな真実でも受け止められるくらい。」
ノアは驚いた。
だが次第に笑顔になる。
「そうだね。」
その時だった。
突然、本部全体に警報が鳴り響く。
ビーッ! ビーッ!
二人は飛び起きた。
『全隊員へ通達。緊急事態発生。』
館内放送だった。
『大規模黒蝕反応を確認。全戦闘員は第一格納庫へ集合せよ。』
ノアとキルは顔を見合わせる。
嫌な予感がした。
十分後。
第一格納庫。
ASTRAL KNIGHTSの主力部隊が集結していた。
レオン。
アルト。
エリア。
ロゼ。
カイル。
アリシア。
主要メンバー全員が揃っている。
大型モニターには映像が映し出されていた。
誰も言葉を発しない。
あまりにも異様だった。
海。
水平線の向こう。
黒い柱が天へ向かって伸びている。
「発生地点は北海域。」
アルトが説明を始める。
「調査衛星によると黒蝕エネルギーは過去最大。」
画面が切り替わる。
数値を見た瞬間。
カイルが目を見開いた。
「ふざけてるだろ。」
過去最大の十倍。
ありえない数字だ。
レオンの表情も険しい。
「原因は。」
「不明。」
アルトは続ける。
「だが現場付近でNIGHTFALLの活動を確認。」
会議室がざわつく。
レオンは決断した。
「出撃する。」
即答だった。
「総隊長。」
アルトが言う。
「危険です。」
「分かっている。」
レオンの瞳は変わらない。
「だからこそ俺たちが行く。」
沈黙。
やがてアルトはため息を吐いた。
「なら俺も同行します。」
「当然だ。」
レオンが笑う。
ノアは三大中心人物を見つめていた。
やはり凄い。
どんな状況でも迷わない。
それが本物の強さなのだろう。
いつか自分もそうなりたい。
そう思った。
三時間後。
海域到着。
輸送艦の甲板に立ったノアは息を呑んだ。
巨大だった。
海の中心に黒い塔が存在している。
高さ数千メートル。
雲を突き抜けている。
その周囲を黒い雷が走っていた。
「なんなのこれ……。」
ノアが呟く。
ロゼも目を細めた。
「普通じゃない。」
エリアは不安そうだった。
「嫌な感じがします。」
そして。
その時だった。
ゴォォォォォォ!!
海面が揺れる。
塔の頂上から漆黒の光が放たれた。
空が歪む。
空間が裂ける。
巨大な門が出現する。
全員が武器を構えた。
誰もが理解した。
来る。
ヤツが。
門から姿を現したのは、一人の男だった。
銀髪。
黄金の瞳。
黒いマント。
圧倒的な存在感。
ルシアン・ドラグノフ。
NIGHTFALLの王。
『竜神』
ノアの背中に冷たい汗が流れる。
前回よりも遥かに近い。
その威圧感だけで足が震える。
ルシアンは静かに周囲を見渡す。
そして。
視線が止まった。
ノア。
たった十三歳の少女へ。
「また会ったな。」
その一言で空気が凍る。
レオンが前へ出た。
「お前の相手は俺だ。」
巨大な剣イグニスを構える。
炎が燃え上がる。
だがルシアンは動じない。
むしろ少し笑った。
「紅蓮の剣か。」
次の瞬間だった。
消えた。
誰も反応できない。
気付けばルシアンはレオンの目の前にいた。
「!!」
拳が放たれる。
ドォォン!!
海面が数百メートルの高さまで吹き飛んだ。
レオンが弾丸のように飛ばされる。
全員の表情が変わる。
たった一撃だった。
総隊長が。
最強クラスの戦士が。
吹き飛ばされた。
「総隊長!」
エリアが叫ぶ。
しかしルシアンは止まらない。
圧倒的。
まるで災害そのものだった。
アルトが双剣を抜く。
冷気が爆発する。
「全員下がれ。」
珍しく声が低い。
本気だった。
彼は一歩前へ出る。
ルシアンを見る。
ルシアンもまた彼を見ていた。
「ほう。」
少しだけ口元が上がる。
「やっとまともな相手か。」
アルトは何も答えない。
冷気が広がる。
海面が凍っていく。
数キロ先まで。
その異常な光景にノアは息を呑んだ。
これが副隊長。
総隊長以上の実力を持つと言われる男。
アルト・ブレイドの本気。
「凍れ。」
世界が白く染まる。
巨大な氷竜が出現した。
今まで見たこともない力。
氷竜は咆哮を上げながらルシアンへ襲いかかる。
しかし。
ルシアンは笑った。
「それでいい。」
黄金の瞳が輝く。
次の瞬間。
背後から漆黒の龍が現れた。
空を覆うほどの巨大な黒龍。
氷竜と黒龍。
二体が激突する。
世界が揺れる。
凄まじい衝撃波。
ノアは吹き飛ばされそうになる。
キルが支えた。
「下がれ!」
戦場が違う。
次元が違う。
そこにいるのは人間ではない。
怪物同士の戦いだった。
そして。
ノアは見てしまう。
激突の中心。
その奥で。
ルシアンが微笑んでいた。
楽しそうに。
まるで本気を出していないように。
その瞬間。
ノアは悟った。
まだ誰も。
ルシアンの本当の強さを知らない。
海を揺るがす戦い。
世界を滅ぼす黒蝕。
竜神ルシアン。
そしてノアに隠された秘密。
全ての運命が動き始めていた。
轟音が響く。
海が割れ、空が裂ける。
副隊長アルト・ブレイドと、NIGHTFALLの王ルシアン・ドラグノフの激突によって、周囲数キロの海域は戦場と化していた。
巨大な氷竜。
巨大な黒龍。
二つの力がぶつかり合うたびに、世界そのものが悲鳴を上げているようだった。
「すごい……」
ノアは呆然と呟く。
自分が今まで見てきた戦いとは次元が違った。
アルトの氷が海を凍らせる。
ルシアンの闇がそれを砕く。
まさに最強同士の戦いだった。
だが。
その様子を見ていたレオンの顔は険しい。
「まずいな……」
キルが振り返る。
「何がです?」
「アルトが押されてる。」
その言葉に全員の表情が変わった。
確かにそうだった。
激しく戦っているように見える。
しかし。
よく見るとアルトは防戦一方だった。
対するルシアンは笑っている。
まるで遊んでいるかのように。
「まだだ。」
ルシアンが片手を上げる。
次の瞬間。
黒龍が咆哮した。
ドォォォォン!!!
巨大な黒い衝撃波が放たれる。
氷竜が粉々に砕け散った。
アルトは双剣で防御する。
しかし。
吹き飛ばされた。
海面を何百メートルも滑っていく。
ノアは自分の目を疑った。
あのアルトが。
本部最強と噂される男が。
押されている。
ルシアンはゆっくり歩き出した。
「期待したほどではない。」
冷たい声だった。
アルトは立ち上がる。
口元から血が流れている。
だが目は死んでいない。
「まだ終わりじゃない。」
「ほう?」
ルシアンが笑う。
「なら見せてみろ。」
アルトは両手の双剣を構えた。
凄まじい冷気が発生する。
海が凍る。
空気が凍る。
雲までも白く染まり始めた。
本気だった。
今まで誰にも見せたことのない力。
レオンの目が見開かれる。
「まさか……」
エリアも驚いた。
「あの技を……あれは…最大体力を消費する技だぞ……」
アルトは静かに呟く。
「絶対零度。」
その瞬間だった。
世界から音が消えた。
白い光。
ただそれだけ。
次の瞬間。
海域全体が凍結した。
数十キロ先まで。
巨大な氷の世界が誕生する。
ルシアンですら一瞬動きを止めた。
「面白い。」
だが。
その表情は楽しそうだった。
本当に楽しそうだった。
そして。
ルシアンの黄金の瞳が輝く。
「ならば私も見せてやろう。」
ゴォォォォォ!!
空が黒く染まる。
巨大な魔力が集まり始める。
ノアは震えた。
本能が警告している。
危険だと。
逃げろと。
しかし身体が動かない。
圧倒的な力の前に立ち尽くすことしかできなかった。
「竜神解放。」
ルシアンが呟く。
背後に現れた黒龍が変化を始める。
鱗が増える。
翼が巨大化する。
角が伸びる。
まるで神話に登場する本物の神龍だった。
「そんな……」
エリアが言葉を失う。
アルトも驚いていた。
ルシアンは今まで本気ですらなかったのだ。
次の瞬間。
神龍が咆哮する。
轟音。
そして。
アルトの氷の世界が砕け散った。
「っ!!」
アルトは防御する。
だが間に合わない。
巨大な衝撃。
吹き飛ばされる。
海上基地の壁に激突した。
「アルト!」
レオンが叫ぶ。
副隊長が倒れた。
本部最強の切り札が敗れた。
絶望的な空気が流れる。
ルシアンは全員を見下ろした。
「終わりか。」
静かな一言。
しかし。
誰も反論できなかった。
その時だった。
ノアが前へ出た。
「ノア!?」
キルが止めようとする。
だがノアは止まらなかった。
怖い。
足は震えている。
手も冷たい。
それでも。
ここで逃げたくなかった。
ルシアンが興味深そうに見る。
「またお前か。」
ノアは炎の剣を構えた。
「みんなを傷つけさせない。」
ルシアンが笑う。
「無理だ。」
「無理じゃない!」
ノアは飛び出した。
炎をまといながら一直線に突っ込む。
ルシアンへ。
王へ。
竜神へ。
全力の斬撃。
しかし。
当たらない。
ルシアンは指一本で受け止めた。
圧倒的だった。
「弱い。」
その一言が胸に刺さる。
ノアはさらに攻撃を続ける。
何度も。
何度も。
何度も。
だが届かない。
まるで子供と大人だった。
そして。
ルシアンが手を振る。
衝撃でノアが吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
海面へ落下する。
意識が遠のく。
沈んでいく。
暗い海の中。
光が消える。
声も聞こえない。
身体が動かない。
その時だった。
誰かの声が聞こえた。
『起きなさい。』
優しい声。
知らない声。
だがどこか懐かしい。
『目覚める時が来た。』
誰……?
ノアは問いかける。
すると。
闇の中に一人の女性が現れた。
銀色の髪。
紅い瞳。
美しい女性だった。
『あなたはただの人間じゃない。』
ノアの目が見開かれる。
『あなたの中には、眠る力がある。』
その瞬間。
女性の姿が光へ変わる。
そして
ノアの胸へ吸い込まれた。
ドクン。
心臓が鳴る。
ドクン。
ドクン。
熱い。
身体の奥が燃えている。
そして。
海面が爆発した。
ドォォォォォン!!
巨大な炎柱が空へ伸びる。
全員が振り返った。
海の中心。
そこに立っていたのはノアだった。
だが様子がおかしい。
髪の一部が赤くなっている。
瞳も燃えるような紅色になっていた。
莫大な炎が身体を包んでいる。
「ノア……?」
キルが呟く。
ロゼも驚いていた。
レオンですら言葉を失う。
その姿を見たルシアンだけが微笑んだ。
まるで知っていたかのように。
「なるほど。」
黄金の瞳が細められる。
「ついに目覚めたか。」
ノアはゆっくり顔を上げた。
自分でも分からない。
何が起きているのか。
ただ。
力が溢れていた。
今まで感じたことのない力が。
ルシアンは静かに言った。
「やはりお前だった。」
そして。
神龍の闇と、覚醒した少女の炎が向かい合う。
世界の運命を変える戦いが、今始まろうとしていた。
読んでくれてありがとうございました!
初めて5000文字行きました
褒めてください(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
でももっと書けるように頑張ります!!
えいえいおー!!!_φ(・_・