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友達交換
私にはやんちゃな友達がいた。
《《いる》》じゃなくて《《いた》》。
そう、今はいない。
殺されたから。
いや、消された、の方が正しいか。
この事実を知っているのは、私と、あの人だけ。
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やんちゃな友達、|穂香《ほのか》。
最初は人生で一番の友達だと思ってた。
だけど、
「|早紀《さき》ってさぁ~、結構頭悪いよね~」
「え?」
「だって、普通の人が分かるようなこと、分かってないじゃん?」
きっと彼女は、無邪気に言ったんだろう。でもそれは、ただの演技だった。
本当はテストの点だって穂香よりよかった。なのに馬鹿にされた。
放課後、重たいモヤモヤを持って帰っていた。
その時だった。
住宅地の中に、風変りなお洒落な店があった。
西洋風の小窓や飾り。早紀はそれにとても惹かれた。
それには、見た目の他にもう一つ、理由があった。
その店には大きな看板が付いていた。そこには、
『友達交換屋~友達、交換します~』
「友達を、交換・・・?」
丁度いい、早紀はそう思ってしまった。
「入ってみよう・・・」
その時お金は持っていなかったが、取り合えず入ってみる事にした。
「おや、いらっしゃいませ、お客様」
そこには、少し胡散臭い喋り方をする青年がいた。
薄茶色の髪を下の方で短く結んでいる青年の顔は整っており、親しみやすい印象を与えた。
「ここに来たということは、交換したい友達がいるという事ですね?」
青年は微笑んだ。
「は、はい。でも、お金を持ってなくて・・・」
「あぁ、大丈夫ですよ。ここはお金はいりませんから」
早紀は驚いた。
「いらない!?じゃあどうやってお店を経営してるんですか?」
「あ、そうですね、一度ここについてお話しておきましょう」
ここは「友達交換屋」。
苦手なお友達を交換出来るところです。
嫌いなお友達を交換したい場合、当店のメニューの中から新しいお友達の性格を選んでください。
そうすると、頼んだ直後に、お友達が変わります。
あなたと当店スタッフ以外の記憶や出来事は改変されます。
次に、お代についてです。
当店は通貨を全く必要としません。
その代わり、前のお友達を受け取ります。
そう、新しいお友達と前のお友達を《《交換》》するのです。
以上で説明を終わります。
「なるほど・・・お金の代わりに友達を・・・」
「ええ。当店はそれで運営しております。お金については別の方法で稼いでいるので」
「メニューから選ぶんですね」
そう言うと、青年は「こちらでございます」と言いながらメニューを早紀に渡した。
早紀は数ページあるメニューをペラペラとめくった。
その中に、一つ気になるものがあった。
・川本 メイ(オタク気質の12歳女)
「オタク・・・?」
早紀もだいぶオタクだった。これなら気が合うんじゃないか。そう思い、それを指名した。
「じゃあ、これで・・・」
「かしこまりました。もう交換いたしましたので、これからは友達のように接してくださいね」
青年は薄く笑った。
「もう、変わったんですね・・・」
「はい。もう一度メニューをご覧ください」
早紀は言われるがままにメニューを見た。すると。
・三萩野 穂香(やんちゃな12歳女)
「穂香だ・・・!」
そこには、しっかりと穂香と書かれていた。
「変わっているでしょう?これで交換が終わったんです」
「なるほど・・・」
その後、早紀は青年に見送られながら帰った。帰り際、
「またお友達が悪かったら、当店に来てくださいね」
と言われた。
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あれから数週間後。早紀は新しい友達、メイと話していた。
「そーそー、早紀が教えてくれた〇〇くん?あれねー私もハマったの!」
「ほんと!?いいよね~」
「うん。でもさ、私結構同担拒否でさ~、目の前で語らないでくれる?」
「へっ?」
「確かに推してる歴は少ないけど~、一番愛してるのは私だと思うんだ~。キーボードもイメージカラーに変えたし?早紀はそんな事してないよね?」
「え・・・」
これにはだいぶカチンときたが、早紀は気にしないことにした。
次の日。
「ねぇねぇ、この子なんだけどさ~、凄い好きなんだよね!」
「えっマジで!?私も好きなんだけど!」
「えっ、ほんと!?歴どのくらい!?」
早紀は共通の推しが見つかり、大興奮で質問した。
「どのくらいだっけ。早紀は?」
「私は3年!結構初期から推してるの!」
「へぇ~あ、でも、私4年半くらいだった気がするよ~」
最初はただ単に尊敬した。自分でさえ古参なのに、4年半というと、デビュー直後なのだ。
「あ!っていうか、そろそろ例のイベントじゃん!」
「え?イベントって何?」
「え?ほら、活動から2年のアニバーサリーライブで今年の夏イベントするって・・・」
「あ、あー!それね!ちょっと、忘れてて~あはは」
早紀は違和感を覚えた。4年以上も推しているのなら、当たり前に分かるはずなのだ。
そして早紀は気づいた。
歴盛りに
「・・・ねぇメイ。今日の放課後先に帰っていい?」
「え?いいけど・・・用事?」
早紀は企んだ。
--- 「うん」 ---
「おや、また来たんですね。いえいえ、大歓迎ですよ」
懐かしい声が店内に響いた。
2回目は優しい子。でもダメだった。
3回目はかっこいい子。それもダメ。
4回目は強い子。全然ダメ。
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23回目は、勇気のある子。
いじめを注意したせいでいじめを悪化させました。
24回目は馬鹿な子。
一緒にいるのが苦痛でした。
「もう、やだ・・・」
早紀は苦痛に溺れた。
「何で・・・」
周りから見ると、自業自得。でも早紀は気づけなかった。
そのまま、早紀はずっと友達を交換し続けた。
その回数は100回を超えた。
中学生になった。
別の小学校の出身の友達が出来た。
その子も交換した。
その回数は150回を超えた。
高校生になった。
全く無縁だった人が友達になった。
その子も交換した。
その回数は300回を超えた。
大人になった。
職場で友達が出来た。
その人も交換した。
その回数は500を超えた。
一生交換した。
青年は、
静かに見守った。