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普通の魔法使いですが、歩く天災と相棒になります。【第四話】
学園生活が始まってから4日目の放課後。私は、自分の女子寮の部屋から授業のノートを持って出ようと、ドアをガチャリと開けた。
――開けた、まさにその瞬間だった。
「うわっ、びっくりした……!」
思わず短い悲鳴が出た。ドアのすぐ目の前に、サラサラの黒髪を揺らしたアルが、いつもの完璧な無表情のまま立っていたのだ。いくらなんでもこの顔面は心臓に悪い。
「あ。ちょうど出てきた」
「な、何ですか如月くん。人の部屋の前に無言で立たないでよ。心臓麻痺で消し飛ばされるかと思った⋯」
ノートを強く掴み抗議する私に、アルは微動だにしない綺麗な顔のまま、淡々と言い放った。
「明日の授業の調合とかよく分かんないんだけど、そのための材料一緒に買いに行ってくんない?」
「……は?」
調合が分からない? あなた、先週の魔術理論の筆記テストで学年トップの満点叩き出してましたよね!?
私がツッコミを入れる隙も、断る隙も与えないまま、アルは「行くぞ」と言わんばかりにきびすを返し、半ば強制的に私を連れ出したのだった。
やってきたのは、学校の麓に広がる賑やかな魔法城下町の市場だ。 明日の実習授業で使う『魔導調味料』を探しに来たわけだが――やはり、学園一の天才エリートの私生活ポンコツぶりは、外の世界でも健在だった。
「わっ如月くん、ちょっと待って! それ、明日の授業で使わないやつ!」
「……でも、綺麗だから」
「綺麗だからって理由で、一個金貨3枚もするハーブを無言でカゴに入れないでください! 戻して!」
放っておくと、お店の商品を直感だけで片っ端からカゴに放り込んでいく。さらに、ほんの数秒レシピのメモに目を落とした隙に、アルは珍しい魔導具の輝きに目を奪われ、無言のままふらふらと人混みの奥へ消えかけようとしていた。
「ちょっと如月くん! そっちは逆方向! 迷路の洞窟から何も学んでないんですか!? ほら、そこのお店の看板の前で待ってて!」
もはや買い物というより、危険な幼児の引率、あるいはただのお母さんである。
私はため息をつきながら、レシピと棚の商品を照らし合わせ、明日の授業に必要な『魔力を安定させる星屑ソルト』の適正な品質のものをテキパキと選んでいく。アルは看板の前で直立不動のまま、その様子をぼんやりと無表情で見つめていた。
「ふぅ……なんとか全部買えましたね」
無事にお買い物を終え、私たちは市場の隅にある木製のベンチに腰を下ろした。夕日に染まる街並みを眺めながら一息ついていると、隣に座るアルが、無言のまま私の目の前に何かをスッと差し出してきた。
それは、この街で今大人気の高級なマカロンだった。カラフルで、見るからに美味しそうだ。「……はい。これ、あげる」
「え、なんで?」
アルは相変わらず整った無表情のままだが、不器用ながらもお買い物に付き合って(というか引率して)くれた私へのお礼のつもりらしい。その瞬間、私は豊かな表情をこれでもかと輝かせ、身を乗り出して食い気味に叫ぶ。
「タダ飯!? タダ飯ですか、これ!?」
「……飯っていうか、マカロンだけど」
「同じだよ! ごちそうさまです!!」
まさかこんな高級スイーツをタダで食べられるなんて!私は大喜びでマカロンをひったくるように受け取り、さっそく一口かじって
「んー! 美味しい!」
と満面の笑みを浮かべた。
「浅野、現金だな」
「なんとでも言ってください! 如月くんのヤバすぎる買い物の引率代だと思えば、これでも安いくらいなんですから!」
私は高級マカロンを最後の一口まで大事に味わうと、アルに顔を向けて言う。
「いいですか如月くん。貴方のその魔力と顔に、生活での行動は似合わない。朝の着替えの時に鏡を見ることから始めてね!!」
「えぇ⋯⋯それでなんか変わる?」
相変わらず頼りない返事をする無表情な天才を連れて、私は夕暮れの街を歩き出す。
明日の調合実習の授業では、一体どんなトラブルが待ち受けていることか。私たちの前途多難なペア生活は、まだまだ始まったばかりだった。
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