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白猫
昼どきになって呼びに行ってもゆめが和室にいないと思ったら、縁側でごろりと寛いでいた。
庭に植わった棕櫚の木と白い秋明菊を背に、寝転がったままおはじきを弾いている。
「ゆめ、ご飯だよ」
声をかけるとぼんやりした顔で無視をする。癖のついた髪がそよそよとゆるやかな風にあそんだ。
見上げる秋空は蒼く、さわやかに深い。
「まったくもう」
近づいていって手を差し伸べると、触れる寸前で勢いよくからだを起こす。
僕をからかっているのだ。もうすました顔で
「ごはんなに?」
なんて訊いている。
「素麺だよ」
「またー?」
「文句言わないの」
今年も夏に買いすぎた素麺が秋まで残っている。
そろそろゆめの好きな薩摩藷をたべさせてやりたいけれど、夏の名残りが消え去るのはまだ少し先になりそうだ。
僕の後をなぞるようについてきていたゆめが、和室に入るなり僕を追いこして駆けだす。ほんとうに気ままだな、と思うと、愛しさにふっと笑みがこぼれた。
ゆめは、痩せた白猫のような子どもだと思う。
自由気ままで、歯も生え替わらない子どものくせに妙に典雅で、飽き性のわりに負けず嫌いで、いつもこちらが振りまわされる。
うまれる前には不安もあった。元来子どもはあまり好きではなかったから。けれど今ではもう、ゆめのいない生活は考えられない。
ゆめがうまれてから僕の世界はずっと、ゆめを中心にまわっている。それが親になることなのだと思う。
僕が居間にはいると、ゆめはもうきちんと自分の座布団に座っている。手を膝のうえにそろえて、ちょこんと鎮座する姿は人形のようだ。
思わぬ成長を見た気がして、嬉しいことがひとつ増えた。