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泡沫の告白
参加させていただきます。テーマ的にバレンタインを選びました。
一人の青年がロッカーの前に立ち尽くしている。青年が凝視しているのは、空っぽのロッカーの中に手紙が一つ。
「手紙!?なんで!?」
青年の悲痛な声が響く。後ろ手にはその悲痛な声に誘われ、騒ぎたてる青年や少女が多数。
「手紙?古いねぇ」
「バレンタイン間近だってのになぁ」
「|案外、幸せもんだよなぁ《可哀想そうに》...」
口々に述べる感想。しかし...
「「「行ってやれ」」」
その言葉だけは、皆同じだった。
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カランカランと音のなる階段を登って、錆びついた扉を開ける。
俺は今、高校生として初めての告白を受ける...はずだった。
世間はバレンタイン間近だし、こう、愛!の告白だと思った。
でも、手紙はどうだ。
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あることについて相談があるので、屋上に来てください。
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俺はこう思う。友人の悪戯か、イケメンの友人にチョコを渡してくれという相談ではないかと。
嗚呼、平凡顔で大してモテない俺の高校生活よ。なんて哀れなものだろう。
そんなことを考えていたら、後ろに誰かから肩を叩かれた。
振り返れば、目鼻立ちの整った顔に艶やかな黒髪、華奢な身体つきの女の子がいた。
これは、
「えっ?......望月さん?」
望月杏夏。それはそれは俺とは天の地の差ほどのカーストの女の子。拝めただけでも有難いかぎりだ。
「え、あ、手紙......望月さん?本当に?」
いやにうわずった声で聞いてしまう。
「...うん、私。あのね、」
この次の言葉を聞くまでは俺は有頂天だった。
「...バレンタインチョコを作るのを、手伝ってほしいの!」
|恋愛!《くそったれ!》
「あ~...え?」
「その、す...私!料理苦手で、チョコ渡したいんだけど...」
|料理苦手!?《かわいい!!》
「いいよ!俺、料理できるから...放課後でいい?」
そう言って、俺は涙を拭わずに勢いだけで彼女の料理レッスンに付き合う羽目になった。
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|初めは酷いものだった。《彼は手伝ってくれた。》
|少しの炒めものさえ焦がしている彼女に驚愕することが多々あった。《彼は何度失敗しても、許してくれた。》
|しかし、だんだんと上手くなっていく姿に俺も嬉しくなった。《彼が時折、微笑んでくれるのがとても嬉しかった。》
|そして、ようやく完成することができた。《未完成のままでも良かった。》
|俺は彼女の頭を撫でて、「おめでとう」と言った。《ずっと、こうしていたかった。》
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「よし、これで終わり!お疲れ様!」
そう彼が笑う。きっと彼はこのチョコが誰宛てなのか分からない。
あの日の屋上。好きと声に出してしまえば良かったのに、料理が苦手だと嘘をついてしまった。
だから、勇気を出そう。泡沫の告白になってしまわないように。
|「貴方の事が好きです」《ありがとう》