公開中
優希の日記
視点を変えてお兄ちゃん。
4月◯日
今日は弟になる子に会ってきた。
名前は壱。正直、名付けのセンスを疑うような名前だけど、壱は嬉しそうだった。
壱は自分の名前を知らないようだった。
最初に聞かされたのは本当は俺のいとこだってこと。
そのご両親は現在逮捕されて服役中ということ。
そして、虐待を受けていたこと。
虐待の内容は俺には教えてくれなかったけど、お母さんとお父さんは聞かされたらしく、
「優しくするように」
と念を押された。言われなくてもそうするつもりだった。
壱をできるだけ安心させるためにとプレイルームで行われた面会。
壱はおもちゃでバリケードを作って部屋の隅でジッとしていた。
多分バリケードより内側に行ったらダメなんだろうな、と思いつつ壱に話しかけた。
最初は喋らないし、ずっと俺達の目を見ているし、怯えられてるなって印象だったのだけど。
しばらくしたらちょっとずつ話してくれるようになったし、笑顔も見せてくれた。
なんだ、普通の子じゃないか、とちょっと安心していた。
だから多分ちょっと油断してしまったんだと思う。
ちょっとだけ忘れていた。虐待児だっていう注意を。
「俺達は、家族になるんだから」
といったようなことを言ったと思う。
すると、壱の顔色がみるみる青ざめていった。
呼吸が荒くなり、喉を掻きむしり苦しそうだった。
俺は落ち着けようと、背中をさすろうと、近づいた。
そう。バリケード内に入ってしまった。
いや、と怯えた声で言われ、やってしまったと思った。
そして、取り返すがつかなくなったまま、壱は気を失ってしまった。
ちょっと考えたらわかったはずだ。
虐待を受けていた子にとっての「家族」が良いものではないことぐらい。
壱には酷いことをしてしまった。
お父さんもお母さんも、俺のせいじゃないからあまり自分を責めるなと励ましてくれた。
けど、俺のせいで心の傷が更に広がってしまっていたら?
しばらく自分を責め続けたんだけど、ちょっと考え方を変えてみた。
傷つけてしまった分以上、壱を幸せにすればいいんだ。
そうしたらずっとマイナス思考だった考えがだんだん
「何をしたら喜んでくれるかな」という案を出すように変わっていた。
次会ったらきちんと謝ろう。
謝って済むことじゃないことなんて百も承知だ。
けど、謝意を伝えるのは悪いことじゃない。
悪い記憶なんて打ち負かすぐらい楽しい思い出を増やしていこう。
次会える日が楽しみだ。