「わん」
虚ろな目で呟く少年。
彼の心は長年の虐待により壊れていた。
これは虐待を受けた少年が保護され、幸せな日々を送る物語。
注釈:最初にかなりひどめの虐待描写があります。苦手な人はUターンでお願いします。
作者の一言:絶対に幸せにします。
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目次
#1 犬
正直ドン引きするレベルの虐待描写があります。
見るのは自己責任でお願いします。では始まります。
「むかーしむかし。あるところに一匹の可哀想な犬がいました。」
---
僕は犬だ。
家の中で飼われているから飼い犬なのだろう。
けど、僕は今、ひどくお腹が空いていた。
丸一日、飼い主が帰ってこないのだ。
まぁ、帰ってきたとしてもろくに餌なんてくれないけどね。
カサカサブンブンとハエやゴキブリの巣と化している家はゴミだらけでひどい臭いを放っていた。
僕はしばらく、そのゴキブリを無理やり口の中に入れて飢えをしのいでいた。
が、そろそろ限界だ。
せめて、柱にくくりつけられているリードを外せられれば自由に動けるのに。
僕の背の高さではとてもじゃないけど外せない。
仕方なく、飼い主が帰って来るのを大人しく待つ。
⋯生きてる内に帰ってきてくれるといいんだけど。
死んだら死んだで別にいい。特に思い残したこともない。
強いて言うなら、お腹いっぱいご飯が食べたい。
そんなことをぼんやりする頭で思っていると、突然、玄関の扉が開いた音がした。
あぁ、もう帰ってきたのか、と思っていたが、どうやら違うみたいだ。
バタバタと何人もの足音が聞こえる。
「酷い臭いだ。」
「あぁ、全くだ。仕事じゃなければこんなとこ来ねぇよ」
大人の男の人の声と共に、何かを運び出す音がする。
なんだろう。強盗とか?
僕が色々考えている内に、僕のいるリビングの扉が開く音がした。
「うわ。ここの方がひでぇ」
ボヤく男性の声がどんどん近づいてくる。
僕は見つからないようにできる限り息を潜める。
「あ?人?おいお前、こんなところで何して⋯」
警察官の格好をした男性が僕を見つけ―――固まった。
どうしよう。見つかった。また酷いことされる⋯?
とりあえず、言わなきゃ。隷属の印であるあの言葉を―――
「⋯わん」
喉が乾いていて掠れてしまったが、震える唇を懸命に動かして言う。
この言葉は僕が従順な犬である証だ。従順な犬ならすごく酷いことはされない。
男性はしばらく呆然と僕の方を見ていたが、やがて我に返ったのか慌てた様子で無線機を手に取る。
「小学生低学年ぐらいの男児を発見。服の類を身に着けておらず、全身に火傷や痣を確認。犬の首輪を付けられており、リードで自由を奪われている。ひどく痩せていて体も震えている。至急、救急車の手配を。」
ところどころ上擦った声で無線に向かって叫ぶ男性。
急に目の前で大きな声を出されたので僕の体がビクリと震える。
怖い。逃げなきゃ、でも逃げ場なんてどこにもない。
男性はゆっくりと僕に近づく。
なんで?もしかしてあの言葉が聞こえなかったの?
「わん」
さっきより大きめの声で言うと、男性は何かを取り出した。小型のナイフだ。
どうして?なんで?
「⋯っ!わん⋯っわん⋯わ、わん!わん!わん!!わんっ!!」
なんで近寄ってくるの?半狂乱で叫ぶように言葉を繰り返す。
ナイフは痛い。怖い。
すると男性はリードを手に取って、ナイフで切った。
そして素早くナイフをしまうと、自分の上着を脱いで僕に掛ける。
そして僕を抱きかかえると揺れないように慎重に玄関の方へ歩き出した。
「もう大丈夫だからな。」
男性がポツリと言った泣きそうな言葉の意味がよくわからなくて。
僕はいつ投げられてもいいように体を固くした。
温かい春風が吹いていた。
あとがき
やりすぎですかね。
絶対に幸せにするので気に入ったら見てくださいね。
#2 温かい水
外へと運び出された僕はパトカーの荷台に座らせられて毛布を被せられた僕は家に入っていく人々をぼんやりと見守っていた。
と、いうよりやることがなかった。
ただ、あまり家の外に出たことがなかったので、少しだけワクワクする。
すると、一人の女性が近づいてきた。
「大変だったね。白湯だけど、飲む?」
「⋯わん。」
差し出された紙コップを受け取って口に含む。
一応この言葉を言うのを忘れない。ただ、この言葉を言ったら女性は少し眉を下げた。
舌が痺れないことを確認してゆっくり飲む。
ちょっとぬるいぐらいのお湯は僕の体をポカポカと温めてくれた。
「ねぇ、名前言える?」
「⋯。」
困ったような女性の様子を見つつ、僕は考える。
名前、名前⋯?名前とは立派な人だけにつけられるものなんじゃないのか?
とりあえず、飼い主さんが言ってた言葉の中で一番多かったものを言うことにした。
「どれい⋯?」
驚いたような女性の態度に焦る。
どうやら答えを間違えたらしい。
どうしよう、何か他に⋯。
「ごみ、いぬ、だけん、のろま、ぐず」
挙げ連ねていくが、どんどん女性の顔が陰っていく。
間違えてるんだ、僕は。何か、何か他になかったか。
焦って呼吸が荒くなる。
「⋯ごめ、なさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
わからない。なら、謝らないと。
壊れたからくり人形のように謝罪を繰り返す。
すると、女性はそっと隣に座って背中に触る。
「⋯っ!?わん!」
この人もさっきの言葉聞こえてなかったんだ。
僕は飛び跳ねて女性から離れると、僕が従順な犬であることを示した。
女性は突然のことに目を丸くする。
僕はその場を離れるべく走ろうとするが、最近走るどころか歩くこともしていなかったので、その場にべしゃりとコケた。
女性がオロオロとした様子でこちらに歩み寄ってくる。
怖い。逃げたい。
「ごめんね。びっくりしたね。」
「ぅ、ぁ」
ヒョイッと僕を抱き上げた女性はもう一度荷台に座らせる。
しかし、今度は隣には座ってこなかった。
僕が震えだしたからだ。
目を限界まで見開いて、次何かされても対処できるように目を逸らさない。
女性は辛そうな顔でまた白湯をくれた。
今度は受け取らなかった。
---
病院につき、いくつかの診断が下された僕は入院することになった。
僕が怯えるので個室にしてもらった部屋は柔らかい日差しに包まれている。
なんでも胃がびっくりしちゃうからと言われてジュースと点滴が主食の生活。
背中と手の火傷の状態があまり良くないみたいで、看護師さんが包帯を頻繁に取り替えに来る。
そんな生活に慣れ、食事に固形物が出てくるようになった頃、一人の男性が来た。
僕を最初に見つけた警察官さんだ。
「君のお母さんの親戚の家が引き取ってくれることになったよ」
優しい顔で告げられた言葉に、僕は顔に絶望の色を浮かべた。
警察官の報告書
別視点で物語を見てみましょう。ではどうぞ。
事の発端はとある自動車の事故だった。
加害者側が信号が赤にも関わらず、ゆっくり交差点に侵入し、ぶつかってしまったのだ。
幸いにも被害者側は軽症で済んだものの、一歩間違えば大きな事故になっていただろう。
近くの交番に勤務していた俺は事故現場に借り出された。
しかし、どうにも加害者達の言動がおかしい。
酒でも飲んでるのかと思って呼気を測るも反応がない。
とりあえず車の中を見せてもらったところ、白い粉の入った袋が出てきた。
あ、これもしかしなくても幸せになるお薬だ。
そう思った俺はすぐに本部に応援を呼ぶよう無線を飛ばした。
それから2日後、薬物が二人で使うには些か多く、販売目的も兼ねているかもしれないとしてかなり早めに家宅捜索が行われることとなった。
意外と近所だったこともあり、またしても借り出されてしまった俺は家へ向かう。
家は外からでも異臭がした。
こりゃ死体でも埋まってなけりゃいいけど、と同僚にボヤきながら入る。
中はごみ収集所よりもゴミで溢れかえっているひどい有様だった。
おまけにゴキブリが当然のようにその辺を歩き回っている。
あー。入りたくねー。
が、仕事は仕事だ。やるしかない。
周りの刑事たちも気乗りしていない様子で入っていく。
俺はとりあえず部屋を開ける。
そこは広さからいってリビングなのだろう。
正直、ゴミで埋まりすぎてリビングと呼ぶのがおこがましいが。
「うわ、ここの方がひでぇ」
とボヤいていると、髪の毛のようなものが目に入った。
生ゴミに隠れて見えないが人がいるらしい。
ホームレスか?家がないからってここに入るか?普通。
「あ?人?おいお前、こんなところで何して⋯」
近寄って、姿を見て、一瞬時が止まったような気がした。
小学校低学年ぐらいの小さな男の子。服は身につけておらず、首輪をはめられリードをつけられている。
手にはタバコを消したような火傷がいくつもあり、ところどころ膿んでいる。
そして、背中全域に広がった大きな火傷。
脇腹付近に切られたような古傷。
そして全身を余すことなく打撲痕が残されている。
この異様な光景に脳が理解を拒んだ。
「⋯わん」
ひどくかすれた小さな声が心を抉る。
ひどく虚ろな目は焦点があっておらず、ただただ空を眺めている。
子供に、なんてことするんだ?
無線で救急車の手配をした俺はリードを切ろうと小型のナイフを探りつつ、少年の方へ近寄る。
すると、少年の態度が変わった。
虚ろな目を見開いて、こちらを凝視している。
「わん」
さっきより少し大きめに発せられた声はまるでこちらに言い聞かせるように聞こえた。
ナイフナイフ⋯あ、あった。
取り出すと、少年は体を震わせ、逃げるように少しずつ離れる。
「⋯っ!わん⋯っわん⋯わ、わん!わん!わん!!わんっ!!」
半ばパニックになっているのか、ゼイゼイと呼吸を荒げつつ逃げようと体を反らせている。
ナイフが怖いことなんてわかりきっているが、リードの外し方なんて知らないので、さっと切ってさっとしまう。
少年は何が起きたかわからないといった様子でこちらを見ていた。
俺は自分の上着を脱いで少年に被せる。
震える体は上着に埋もれてしまうほど小さく、無性に泣きたい気持ちを堪えて少年を抱いて外へ出る。
「もう大丈夫だからな。」
身を固くした少年を安心させるように声をかけ、外に出た。
春、別れと出会いの季節。どうか、この少年にいい出会いを。
そう願わずにはいられなかった。
---
警察病院にて、DNA鑑定をしてもらったところ、あの薬物所持の男女二人が親だということがわかった。
その他色々な検査をして、驚くほど多くの診断を下された少年は入院することとなった。
最初は複数人と一緒の病室にされたのだが、少年がひどく怖がるので個室にしてもらった。
俺は休憩の合間をぬってちょくちょく少年のところへ面会に行った。
少年はベッドにいる時間より、部屋の角で座ってることが多く、看護師さんを困らせていた。
そんな生活が二週間過ぎた頃、少年の母親の親戚が見つかった。
少年のおばにあたる人物で、大学生の息子がいるが、引き取れるとのことだ。
俺は急いでそのことを少年に報告しに行く。
少年の顔はひどく不安そうだった。
#3 フラッシュバック
病院のプレイルームに連れて行かれた僕は着くないなや急いで角に座り込む。
しばらく待っていると、三人も入ってきた。
男性二人に女性一人。
年齢的に親子なのだろう。
そんなことをぼんやり思っていると、息子さんであろう若い男性がこちらに近づく。
「君が|壱《いち》くん?俺の名前は|野木優希《のぎゆうき》。今日から君のお兄ちゃんだよ。」
ニコニコと朗らかに笑いながら僕に話しかけてくる優希さん。
壱くん?誰のこと?なんで僕に話しかけてくるの?
色々な疑問が脳内を駆け巡る。すると、今度は女性が近づいてきた。
「私は|野木優美《のぎゆうみ》です。今日からあなたのお母さんになります。よろしくね」
僕の前でしゃがみ込み、目線を合わせて喋る優美さん。
お、かあさん?よくわからない。
混乱してきた僕。最後にゆっくり男性が近づいてくる。
「俺は|野木昴希《のぎこうき》。今日から君のお父さんだ。よろしくな」
距離は他の二人より遠めに保ってくれている昴希さん。
おと、うさん?やっぱりよくわからない。
怖い。急に三人も来て怖い。わからない。何が言いたいのか。
沈黙が訪れる。
三人とも僕の方を見てる。
どういうこと?何か、何か言わなきゃいけないのか?
「ぁ、の。壱って、僕の、名前です、か?」
かなりどもってつっかえつっかえな声で疑問に思ったことを聞いてみる。
すると、本人たちは予想外のことを言われたかのように目を丸くする。
「知らなかった、の?」
優希さんの戸惑ったような声にコクリと頷く。
僕の頷きにますます信じられないような顔をする三人。
壱。僕の名前。名前あったんだ。嬉しい。
「壱。壱。ふへへ」
口に出してみると嬉しさが込み上げてきて思わず頬を緩める。
しばらくニコニコしていたのだが、三人がいることを思い出してハッとする。
恐る恐る様子を伺うと、三人とも何やら複雑そうな顔で微笑んでいた。
「あ、の。優希さん。」
「お兄ちゃんって呼んで?」
「おに、いちゃん。」
「どうしたの?」
「今日は、何をしに来たんです、か?」
緊張が溶けてきて声のつっかえが取れてきた。
少し体の強張りも取れた気がする。
「壱くんに会いにきたんだよ。」
「僕に?」
「うん。俺達は、《《家族になるんだ》》。」
---
ジジッ⋯
『私達はぁ!家族だもの!家族の言う事ぉ!聞くのは当然でしょぉ!?』
---
急に飼い主さんのヒステリックな声が脳裏をよぎった。
家族。《《家族は怖い》》。
突然、呼吸ができてないような気がしてくる。
息を吸っても吸っても、苦しい。
苦しい、怖い。
僕の呼吸が急に荒くなって、三人が驚く。
「ゼーッカハッヒューッケホッヒューヒュー」
喉をかきむしりながら床に倒れ込む僕にお兄ちゃんが近寄る。
そして、こちらに手を、伸ばして⋯
「ヒッ。やだ!!」
僕はその手を振り払う。
お兄ちゃんのひどく驚いた顔はもう僕には見えない。
怖い。苦しい。怖い。怖い。怖い!
「医者を呼んでください!」
昴希さんの切羽詰まった声を最後に、僕の意識は途切れた。
#4 ぬいぐるみがくれたもの
目を覚ますといつもの病室だった。
お医者さんに「もう三人は帰った」と言われた。
次会った時怒られたらどうしよう、迷惑かけちゃった。
とぐるぐる悪いことを考える。
すると、誰かが病室に入ってきた。
慌てて布団を深く被って様子を伺う。
「よぉ。引き取りに来た人たちとはどうだったか?」
いつもの警察官さんだ。
少しホッとする。
「パッと見たけどいい人達そうだったな。よかったじゃねえか」
いつものように僕に一方的に話しかけてくれる。
僕から話しかけたりはしない。だって、何か言って怒られたら嫌だから。
警察官さんも僕が話すのが苦手なことを知っているからこうしてずっと話しかけてくれる。
「そろそろ退院できるって聞いたぞ。」
「⋯え?」
知らなかった事実に思わず声が漏れてしまった。
慌てて口を塞いで相手の様子を伺う。
警察官さんは気にしていないのかいつものような優しい顔のままだった。
「お?なんだ?知らなかったのか?一週間後に退院だって話らしいぜ。」
一週間後。結構早い。
どうしよう。退院したら。僕はどこへ行けば⋯。
引き取りに来るって言ったって迷惑なはずだ。
早く出ていかないといけないのだろう。
「ようやく元気になってきたってところだろうな。偉いな。よく頑張った。」
警察官さんはよく僕を褒めてくれる。
僕は別に偉くもないし、褒められるほど頑張ってもいないと思ってる。
だから、こんなに褒められるとちょっと気まずい。
「それに最近ご飯も食べられるようになったって聞いたぞ?すごいじゃないか。」
当たり前のことなのに。
他の人は当たり前のようにできていることなのに僕にはしばらくできなかった。
だからきっと看護師さん達を困らせたし、きっと嫌われているはずだ。
「あ、そうだ。今日はこれを渡そうと思っていたんだ。」
ゴソゴソとカバンから何かを取り出し、ベッドのすぐそばに置いた。
なんだろう、と見てみると、小説本と大きなクマのぬいぐるみだった。
「男にぬいぐるみってのもどうかと思ったんだが、なんだか寝れてないみたいだし、抱き枕みたいなのがあれば安心して寝れるのかなーと思って買ってきたんだ。」
ポリポリと頬を掻きながら警察官さんがボソボソ話す。
僕はぬいぐるみを手繰り寄せるとギュッと手を握ってみた。
モフッとした感触のするぬいぐるみはお日様の匂いで、胸がポカポカした。
「それはもうお前のものだ。好きに使ってくれ。それじゃあ今日は帰るよ」
僕のもの⋯?はじめて。
お礼を言おうと顔を上げたが、もう警察官さんはドアを開けて帰ってしまった。
僕はぬいぐるみを恐る恐る抱いてみる。
柔らかく肌触りのいい感触で、僕の体を包んでくれるぬいぐるみ。
それをギュッと縋るように抱きついた僕は気づけば寝ていた。
久しぶりに深い眠りにつけた僕の体をぬいぐるみは守るように安心させるように包みこんでくれた。
優希の日記
視点を変えてお兄ちゃん。
4月◯日
今日は弟になる子に会ってきた。
名前は壱。正直、名付けのセンスを疑うような名前だけど、壱は嬉しそうだった。
壱は自分の名前を知らないようだった。
最初に聞かされたのは本当は俺のいとこだってこと。
そのご両親は現在逮捕されて服役中ということ。
そして、虐待を受けていたこと。
虐待の内容は俺には教えてくれなかったけど、お母さんとお父さんは聞かされたらしく、
「優しくするように」
と念を押された。言われなくてもそうするつもりだった。
壱をできるだけ安心させるためにとプレイルームで行われた面会。
壱はおもちゃでバリケードを作って部屋の隅でジッとしていた。
多分バリケードより内側に行ったらダメなんだろうな、と思いつつ壱に話しかけた。
最初は喋らないし、ずっと俺達の目を見ているし、怯えられてるなって印象だったのだけど。
しばらくしたらちょっとずつ話してくれるようになったし、笑顔も見せてくれた。
なんだ、普通の子じゃないか、とちょっと安心していた。
だから多分ちょっと油断してしまったんだと思う。
ちょっとだけ忘れていた。虐待児だっていう注意を。
「俺達は、家族になるんだから」
といったようなことを言ったと思う。
すると、壱の顔色がみるみる青ざめていった。
呼吸が荒くなり、喉を掻きむしり苦しそうだった。
俺は落ち着けようと、背中をさすろうと、近づいた。
そう。バリケード内に入ってしまった。
いや、と怯えた声で言われ、やってしまったと思った。
そして、取り返すがつかなくなったまま、壱は気を失ってしまった。
ちょっと考えたらわかったはずだ。
虐待を受けていた子にとっての「家族」が良いものではないことぐらい。
壱には酷いことをしてしまった。
お父さんもお母さんも、俺のせいじゃないからあまり自分を責めるなと励ましてくれた。
けど、俺のせいで心の傷が更に広がってしまっていたら?
しばらく自分を責め続けたんだけど、ちょっと考え方を変えてみた。
傷つけてしまった分以上、壱を幸せにすればいいんだ。
そうしたらずっとマイナス思考だった考えがだんだん
「何をしたら喜んでくれるかな」という案を出すように変わっていた。
次会ったらきちんと謝ろう。
謝って済むことじゃないことなんて百も承知だ。
けど、謝意を伝えるのは悪いことじゃない。
悪い記憶なんて打ち負かすぐらい楽しい思い出を増やしていこう。
次会える日が楽しみだ。
看護師のカルテ
看護師視点です。
そしてあまり知識がないのでおかしいところがあるかもしれません。
少年が緊急で運ばれてきた。
骨が浮くほど痩せこけた少年は見るからに栄養状態が悪かった。
すぐに点滴を打とうと近寄ると、ひどく怯えられる。
こんな栄養状態で、しかも警察からの出動要請だった辺りで訳ありなのだとはわかる。
わかるが、ここは無理にでも点滴を打つべきだ。
私はできるだけ優しく声をかけながら点滴を打ち込む。
少し痛かったのか、針が刺さったらビクリと体が震えていた。
既に病院服を着せられている少年の体は服の隙間からでも酷い傷跡だらけなのが見えた。
手を見てみると、タバコを消したような火傷で埋まっていて、ところどころ膿んでいた。
手当をある程度し終えた私は、病室を手配するべくその場を離れる。
この栄養状態で傷の状態。他にも診断が下されそうだ。
それにしても。一体少年の身に何があったのだろうか。
---
少年は重症患者だった。
ついた病名はたくさんある。
私は少年―――壱くんの担当となった。
病室に入るといつも怯えられる。
なるべく優しく声掛けをするのだが、聞いているのかどうか。
そして、大変なのが、手を洗っている時だ。
火傷が酷いから染みるだろうに石鹸で何度も何度も手を洗ってしまう。
火傷で皮が剥けてしまっても、手が赤くなっても。
できるだけやめさせようとするのだが、気づけば手を洗ってしまうのだ。
それと、消毒液も欠かせない。
痛い。絶対に痛い。
が、壱くんは必死に手を洗う。
痛みに顔を歪めながら。
もしかしたら誰かに「汚い」と言われたからこうなってしまったのかもしれない。
そうだとしたら、壱くんをここまで追い詰めた人が許せない。
どうか壱くんが幸せになりますように。そう願わずにはいられない。
---
壱くんが倒れたと聞いていち早く駆けつけた。
面会に来た人たちは壱くんを引き取ってくれる人たちで話してみた限り優しそうな人たちだった。
そんな人達は真っ青な顔で必死に壱くんに声をかけている。
呼吸が浅く早い。
鎮静剤を打つと、そのまま医者のところへ運ぶ。
なんとか状態が落ち着き、病室へ運ぶ。
面会に来た人達は帰っていった。
心配そうに、不安そうに。
よかった。いい人そうな人たちで。
#5 幻覚
とうとう一週間が経ってしまった。
この一週間の内、何度も野木さん達は会いに来た。
けど、怖くなって話せなかった。
声を出そうにも喉がつっかえて言葉が出てこないのだ。
でも、ごめんなさいはちゃんと言わないといけないから、それだけ繰り返す。
けれど、僕がごめんなさいと言うたび三人は悲しそうな顔をする。
わからない。ちゃんと謝れてるはずなのに。
もう何が正解なのかわからないから、「わん」と言って隷属を示す。
でも、それを言うと三人は苦しそうな顔をする。
それが僕を不安にさせる。
嫌だ。怖いのは嫌だ。
きっと僕の存在がみんなを不幸にするんだ。
---
ジジッ⋯
『あ゙ぁぁぁああ!もう!!あんたのせいよぉ!私が不幸なのはぁ!あんたが生まれたからよぉ!!』
---
「かい、主、様?」
おかしい。なんでかな?
飼い主様がいる。
飼い主様が、僕に、お湯を、かけ⋯
「あ、あぁ、ア゙ァァァァアアアアッッ!!」
嫌だ、怖い、痛い、熱い、どうして、ここに、飼い主様が?
__「どうした!?」__
誰かが僕を揺さぶってる。
誰?ボヤけてよく見えない。
__「おいっ!」__
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ⋯
「壱くんっ!」
い、ち?僕の、名前。
ハッとして、ゆっくり目を開けてみると、警察官さんが、僕を揺さぶっていた。
声はお兄ちゃんの声だったはず、チラッと周りを見ると、お兄ちゃん達も来ていた。
「ぁ⋯。」
「⋯正気に戻ったか。大丈夫か?ほら、ぬいぐるみ。」
警察官さんが僕のそばにいたぬいぐるみを手渡す。
それをギュッとして落ち着く。
なんで僕はここに飼い主さんがいると思ったんだろう?
「壱くん、大丈夫?」
心配そうなお兄ちゃん。
その声になんだかひどく安心した。
なんでだろう?わからない。
「一応、お医者さん呼んできますね。」
「はい。よろしくお願いします。」
警察官さんは病室を出ていく。
四人になった病室に沈黙が流れる。
大体三人が話しかけてくれるから、こんなに静かになったのは初めてだ。
「壱くん。そのぬいぐるみ、可愛いね」
お兄ちゃんがぬいぐるみを見て話しかけてくれる。
欲しいのかな?僕はお兄ちゃんにぬいぐるみを手渡す。
するとお兄ちゃんは驚いた顔をして、微笑んだ。
「貸してくれるの?ありがとう。優しいね」
ぬいぐるみを受け取ったお兄ちゃんはクルッとぬいぐるみの向きを変えて、顔をこちらに向ける。
「こんにちは!俺はくま!壱くんと仲良くしたいなー!握手してくれる?」
お兄ちゃんはぬいぐるみを動かしてフワフワの手を僕の方へ向ける。
僕はおずおずとぬいぐるみの手を取るとお兄ちゃんの顔がパァッと輝かせる。
すっかりニコニコ上機嫌のお兄ちゃん。訳がわからない。
わからないけど、怖くはなかった。
#6 家
お医者さんに診てもらって、なんともないことがわかった。
だから、前から決まっていたように僕は野木さんのところへ行くことになった。
僕はいつか野木さんたちに要らないと言われるだろう。だから、それまでそこに居よう。
「着いたよ。ここが今日から壱のお家だよ」
お父さんが車から僕を降ろしてくれながらそう言う。
その家はミルクティーのような優しい色の壁にチョコレートのような屋根がついていた。
これが、この人たちの家なんだ。
「どう?壱くん。気に入った?」
お兄ちゃんがウキウキしながら聞いてくる。
小さく頷くと、そっか、と優しく微笑んでくれた。
家の中はとても綺麗で、なんだか温かい気がした。
「壱くんの部屋、案内するね」
こっちだよ、とお兄ちゃんが手で招いてくれる。
テコテコと着いて行く。部屋は一階のリビングの隣にあった。
部屋の中は若葉色の壁。天井は空の模様で、まるで森の中にいるみたいだ。
ベッドは病院ぐらいフワフワそうで、勉強机には色とりどりのペンが並んでいる。
日の光をたっぷり含んだカーテンが、柔らかな春風にキラキラと揺れている。
ここが、僕の部屋⋯?
「どう?気に入った?」
お兄ちゃんに聞かれ、ハッと意識が戻った気がした。
コクコクと頷くと、お兄ちゃんは満足そうによかった、と言った。
素敵な部屋だ。僕は一体いつまでここに居れるのだろうか。
「今日は疲れたでしょ?晩御飯の時間まで部屋にいていいよ。何かあったらリビングに誰かいるはずだから。」
じゃあね、とお兄ちゃんは去っていってしまった。
部屋のドアが閉まり、僕は途方に暮れた。
とりあえず、部屋の本棚に警察官さんからもらった本を入れる。
他にも何冊か本があったので、ペラペラと見てみる。
僕は字がわからない。
しょうがっこう?にも通わせてもらえていないし、前の家に文字はなかった。
見渡す限り、ゴミ、虫、ホコリ。
文字はなかった。気がする。
けど、絵を見るとなんだか面白い。
これはどんな物語なんだろう?
字が読めたらいいのに。
そしたらきっと、誰かの役に立てる。
---
ジジッ⋯
『チッ。こんなところで寝てばっかでゴミみてぇな奴だな。役立たずなんてどこもいらねぇな?』
---
冷たい飼い主さんの声が聞こえた気がした。
思わずキョロキョロと周りを見るけど、どこにも誰もいない。
いないが、なんだか怖くなったのでぬいぐるみをしっかり抱き直した。
#7 床
コンコンっとノックが聞こえた。
別に寝てはいなかったのだが、ボーッとしていたので少し驚く。
「壱、入るよ。」
そう声をかけられたあと、ドアが開いた。お父さんだ。
お父さんはゆっくりと様子を伺うように入る。
そして、僕の姿を目に映すと、どこかホッとした顔をした。
「ご飯ができたんだけど、一緒に食べる?」
一緒に⋯
僕はコクリと頷く。
お父さんは心底安堵した顔でついておいで、と言った。
リビングは僕の隣の部屋だ。
ドアを開けると、お兄ちゃんが大きなソファに寝そべっていた。
お父さんが眉をひそめる。
「優希。ソファで寝そべったら誰も座れなくなるといつも言っているだろ?」
「ん?んー」
なんだか眠そうなお兄ちゃんが新鮮で思わずマジマジと見てしまう。
すると、僕のほうを見てお兄ちゃんが、ハッとする。
慌てて居住まいを正し、座る?と僕を促す。
おずおずと僕がソファの隅に座ったところで、お母さんがキッチンから出てきた。
何やらいっぱいお皿を持っている。
お父さんが手伝いに行った。
「ほらほら。手を洗ってきて?」
「はーい。壱くん、一緒に行こっか?」
コクリと頷きトコトコとついて行く。
この家の洗面台はとても綺麗で可愛らしい色とりどりのタイルがいっぱい敷き詰められている。
お兄ちゃんが手を洗ったあと、僕も手を洗う。
---
⋯ジジッ。
『汚ぇな!こっちに近づくなよゴミが!』
---
洗う。洗う。洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗うあら⋯。
「⋯壱くんっ!」
急にお兄ちゃんに手を掴まれた。
突然のことにとてもびっくりする。
お兄ちゃんはなんだか苦しそうな顔をしていた。
「⋯もう、手を洗うのおしまい!ご飯食べに行こ?ね?」
「⋯え、でも」
まだ洗い足りないちょっと赤くなった手を見て少し困惑する。
ぜんぜん洗えてない。まだ汚い気がする。
けど、お兄ちゃんに手を引かれてリビングへ向かう。
「あ、帰ってきた。何か揉めていたみたいだけど大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ、お母さん。さ、食べよ?」
なんだかちょっと納得がいっていなさそうなお母さん。
それをお兄ちゃんが交わしつつ、食卓につく。
食卓には色とりどりの料理が並んでいた。
綺麗だな。本当に全部食べられるのかな?
とてもいい匂いのする料理たちを前に思わずお腹が鳴る。
みんながそれを聞いてクスリと笑う。
なんだかちょっと恥ずかしくなる。
僕の席⋯前の家でもそうだったし、多分ここ。
「あ、そうだ。壱くんの席だけど⋯」
お兄ちゃんが言いかけて目を丸くする。
どうしたのだろう?と周りを見る。
お母さんとお父さんはちょっと怖い顔をしていた。
「壱くん?どうして床に座ってるの?」
お兄ちゃんの不思議そうな声に僕はキョトンとした。
#8 怖い顔、優しい声
「壱。今日からあなたの席はここだから。」
お母さんの少し固い声に驚く。
なんで急に怒ってるの?僕、何かしちゃったの?
お父さんも怖い顔をしている。
「壱くんの席は俺の隣だよ。覚えてね」
優しく言ってくれるお兄ちゃんもちょっと顔が強張っている。
やっぱり僕が何かしちゃったんだ。
これ以上怒らせないように大人しく言われた席に着く。
「⋯じゃあ食べようか。」
誰も喋らなくなった食卓でいち早く声を上げたのはお父さんだった。
お父さんはサラダを取り分けていく。
美味しそうだな。と羨ましげに見ていると僕の前にもサラダが置かれた。
思わずキョトンとお父さんを見たけど、目が合わなかった。
みんなが食べ始めたのをボンヤリと見る。
楽しいな。誰かと一緒に食卓を囲むなんて初めてだ。
色とりどりのごちそう。
それを前に思わず頬が緩む。
すると、それを見ていたお兄ちゃんが不思議そうな顔をした。
「壱くん?食べないの?」
「⋯食べて、いいの?」
つっかえつっかえに出た声を聞いて三人はギョッとしている。
僕、何か変なことを言ってしまったのだろうか?
この家に来てから間違えてばかりだ。
「とっても美味しいから壱くんにも食べてほしいな。」
穏やかに微笑むお兄ちゃん。
その声を聞いても僕の心は晴れなかった。
オロオロと迷いながら料理を口に運ぶ。
「⋯!おいしい」
思わずポロリと言葉が出る。
慌てて口を塞いで周りの様子を伺うと、みんなニコニコと幸せそうに笑っていた。
よかった。今度は怒ってないみたい。
「それはよかった。お母さんも作った甲斐があったわ。」
ころころと笑うお母さん。
よかった。機嫌が直ったみたい。
密かに胸を撫で下ろす。
しばらく食べ進めていたのだが、僕の箸の進みだけすごくゆっくりになっていった。
量が多いのだ。
でも、それを言い出せずにずっと食べ続けていた。
「壱くん?大丈夫?お腹いっぱいになったら残していいからね?」
心配そうなお兄ちゃんの声が聞こえたが、首を横に振って食べ続ける。
だって、せっかくお母さんの機嫌が良くなったのに、残しちゃったらまた怖い顔になる。
それに、お母さんが頑張って作ってくれたのに残しちゃ悪い。
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⋯ジジッ
『何!残してんのよぉ!そんなにぃ!私の出したご飯がぁ!食べたくないのぉ!?』
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ごめんなさい苦しい食べなきゃ気持ち悪いせっかく作ってくれたのに吐きそうごめんなさい⋯
ぐるぐると考えが周る。
三人とも「もういいよ」「また今度食べよう?」と声をかけてくれるが、食べ進めた。
食べて、食べて、食べて⋯
「うっ⋯」
短く呻いてその場に戻してしまった。
みんなが慌てだすのを見て、やっちゃったと、絶望した。
⋯ごめんなさい
#9 涙を忘れた少年は
口を濯いでくるよう言われた。
まただ。またやってしまった。
やっぱり僕は無能なんだ。
僕はこれ以上失敗しては行けないと思った。
口を濯ぎ終えると部屋に入る。
ここでじっとしていれば失敗することはないはずだ。
部屋の中。静かなのに誰かが僕を責めているような気持ちになった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
心のなかでそう呟きながらぬいぐるみを抱く。
モコッと温かいぬいぐるみを抱くとちょっとだけ気持ちが落ち着いた。
そうしてしばらくの間一人、自分を責め続けていると、ドアがノックされた。
誰だろう。怒られる?追い出される?でも、それだけのことはしちゃったし。
『壱くん?大丈夫?体調悪い?』
お兄ちゃんの声。
優しいはずなのに、今の僕の心に鋭く突き刺さった。
返事、しなきゃ。はくはくと意味もなく口を開けては閉じる。
『入るね?』
静かにドアが開きお兄ちゃんが入ってくる。
パチリと部屋の電気をつけたお兄ちゃんは僕を見つけてホッとした顔をした。
そして僕の近くに来て屈む。
「壱くん、体調はどう?しんどい?」
本気で心配しているような顔をするお兄ちゃん。
これ以上は迷惑はかけられないから首を横に振る。
それをみてお兄ちゃんは心底安堵したような顔をした。
「今日は疲れてたんだね。頑張ったね」
別に、頑張れてない。
まだ、頑張れてない。
こんなに失敗ばっかりしちゃった。
「お母さんもお父さんも心配してた。壱くん大丈夫かなーって」
そんなわけない。
きっと僕を恨んでるはずだ。
僕のことが嫌いになったはずだ。
「だから大丈夫だよ。怖がらなくても。」
怖がっ⋯てる?言われてみれば僕の体は震えていた。
気づかなかった。一人で少し驚いていると、お兄ちゃんの手がサッと近寄ってくる。
そのまま、僕の頭の方へ⋯
「っ⋯!」
「⋯!?」
僕は思わずお兄ちゃんの手を噛んでしまった。
怖かったから。でも、噛みついてハッと我に返る。
やっちゃった。全身から血の気が引いていく。
また失敗しちゃった。
お兄ちゃんの手から血が垂れていくのがわかる。
鉄の味がする。
お兄ちゃんは驚いた顔をしていた。
けれど、顔を優しく作り変えていく。
「壱くん。大丈夫だから。ゆっくり口、開けられる?」
どうしよう。どうしよう。
怪我させちゃった。変に力が入って口が開かない。
一人でパニックに陥っていると、お兄ちゃんがもう片方の手で頭を撫でた。
「大丈夫だよ。怖かったね。ごめんね。」
優しい手に緊張が溶けてサッと噛んでいた手が口から離れる。
歯型がくっきりついてしまった手から血が垂れている。
痛そう。痛いのは怖いよね。ごめんなさい。
「ごめっなさい⋯」
お兄ちゃんは驚いた顔をしている。
僕も少し驚いていた。目から水が溢れてきたから。
お兄ちゃんはその水を優しく拭ってくれる。
夜の星たちがキラキラと温かく僕達を照らしていた。