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惚れ薬の偽物の恋④
4話! 反撃の味、苦い酒
警察の騒動からさらに数ヶ月が経ち、二人は人里離れたアパートの一室へと移り住んでいた。指名手配は解除されたものの、裕太の独占欲は薄れるどころか、あなたを外の世界から遠ざけたいという方向へ加速していた。
しかし、完璧に見えた裕太のタイムラインに、初めての破綻が訪れる。
逃亡生活の疲労が重なった裕太は、効果が切れる一時間半前のタイマーをセットし忘れ、ソファで深く眠り込んでしまったのだ。
チクタク、チクタクと時計の針が進み、ついに運命の十時間が経過した。
「……あ、れ?」
小夏は、自分の頭の中が急激にクリアになっていくのを感じた。胸の奥を支配していたあの甘いモヤが、潮が引くように消えていく。代わりに蘇ってきたのは、無理やり薬を飲まされ、心を狂わされていた日々の圧倒的な恐怖だった。
(私は……この男に薬物でコントロールされていたんだ……!)
隣のソファでは、裕太がまだ眠そうに寝返りを打っている。手足は自由に動く。そして彼のズボンのポケットからは、部屋の鍵の頭がのぞいていた。
「う、ううん……小夏ちゃん……?」
裕太がうっすらと目を覚まそうとした。小夏は激しく鐘を突くような心臓の音を必死に抑え、とっさにいつものトロンとした目つきを作り直した。
「ん? ゆうたどーしたの?」
「あ……あは……。小夏ちゃん、ゆうた、って……。まだ、僕のこと大好きな目のままだ……」
裕太は自分が寝過ごしたことに気づいてパニックになりかけていたが、小夏の完璧な演技を見て、崩れ落ちるように安堵の息を漏らした。
「よかった……! 寝過ごしちゃったから、小夏ちゃんが正気に戻って僕を嫌いになっちゃったかと、心臓が止まるかと思ったよ……」
裕太は小夏の腰にすがりつくようにして強く抱きしめ、胸に顔を埋めた。小夏はその隙を見逃さなかった。裕太の頭を優しく撫でてさらに油断させながら、彼女の冷徹な指先が、彼のズボンのポケットへと音もなく滑り込んだ。
「いつもみたいにちゅーしよ」
「え……? ちゅー、しよ、って……小夏ちゃんから……? うん……! する、したい……っ!」
完全に警戒心を無くし、目を閉じてキスに陶酔する裕太。その瞬間、小夏は彼のポケットから部屋の鍵を完全に抜き取ることに成功した。
しかし、ドアへ向かおうと一歩を踏み出したその時、指先でチャリ、と微かな金属音が響いてしまった。裕太の瞳から一瞬で甘さが消え去る。
「……んで、……何で、小夏ちゃんがそれを持ってるの? 『ちゅーしよ』って言ったの、僕を騙すためだったんだね……?」
「あっ」
裕太は獣のような瞬発力で小夏に飛びかかり、ベッドへ押し倒した。凄まじい力で指をこじ開けられ、鍵を強引に奪い返されてしまう。
「嘘つき……! お薬が切れて、僕のことなんてこれっぽっちも好きじゃなくなってたんだ……!」
裕太は裏切られた絶望と怒りで涙をボロボロと流しながら、台所へと駆け込んだ。しかし、あまみるくの肝である練乳のボトルは完全に空っぽだった。
「ない……ないよ、練乳がない! これじゃあまみるくが作れない……!」
焦りに駆られた裕太の目が、棚の奥にある強い洋酒のボトルに留まった。
「……そうだ。これなら、お薬がもっと早く馴染むかもしれない。今日はこの特製のお酒を飲もうね」
裕太はグラスに強いお酒を注ぎ、その中に通常の倍以上の量の惚れ薬の粉末をドボドボと投入した。ベッドの上の小夏にのしかかり、手首を頭の上に押さえつけた。
「ん、やだぁ……っ、ん……!」
小夏が涙を流して拒絶するのも構わず、アルコールのツンとした匂いと薬の苦い香りが混ざった液体が、無理やり喉の奥へと注ぎ込まれた。
強いお酒の効果は凄まじかった。薬の成分は恐ろしいスピードで血管を駆け巡り、わずか数十秒で小夏の脳を直撃した。さっきまで感じていた凄まじい恐怖や逃げ出したいという意志が、脳の奥から急速に消去されていく。
「……ん、ゆうたくん……すき、大好きぃ……っ」
倍以上の薬とお酒の相乗効果により、小夏の目からは、抗えないほどの激しい愛おしさで大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。裕太はその姿を見て、狂おしいほどの歓喜に顔を歪ませた。
「小夏ちゃん、泣くほど僕のことが好きなの? あは。もう二度とお薬を切らしたりしないからね。ずっと僕のそばで、幸せに暮らそうね」