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第2話 : コートの上の距離感
「ねえ、佐々木さん。ポカリの補充お願いしてもいい?」
「あ、はい!すぐ用意します!」
放課後の体育館は、相変わらず活気と熱気に包まれていた。
数日前の帰り道、夕暮れのなかで並んで歩いたときの海翔の横顔を思い出してしまい
ジャグのコックをひねる手元がわずかに狂う。
あれから少しだけ、海翔との距離が近づいた気がしていた。
目が合う回数が増えたり、練習の合間にわざわざ私のもとへ水を飲みに来たり。
そのたびに胸が跳ねて、周りの部員たちにバレていないかと冷や汗をかく毎日だ。
だからこそ、私はマネージャーとして、いつも以上に気を引き締めていた。
エースの海翔に、変な噂を立てられたり、部活の邪魔になったりしてはいけない。
「オッケー、ナイスプレイ!」
顧問の笛の音と共に、紅白戦が中断された。
息を切らしたみんなが、戻ってくる。タオルを持って駆け寄ろうとしたとき
私よりも先に、他のクラスの女子マネージャーの子が海翔に駆け寄った。
「小鳥遊くん、今日のシュートのキレ、すごかった!はいっ、冷たいタオル!」
「………サンキュ」
別のマネージャーから差し出されたタオルを受け取り、海翔は軽く笑って汗を拭く。
その光景を、少し離れた場所から見て、胸の奥に
チクリと小さなトゲが刺さったような痛みが走った。
(……当たり前でしょ。海翔はチームのエースなんだから、みんなから人気なのは当然なのに)
分かっているのに、心が勝手にざわめく。
私は慌てて視線を逸らし、ドリンクのボトルを並べ直す作業に没頭しようとした。
「………おい」
目の前に、ふっと影が落ちる。
顔を上げると、そこにはいつの間にか海翔が立っていた。
汗に濡れた前髪が額にはりつき、その黒曜石のような瞳が真っ直ぐ私を見つめている。
「……どうしたの?もうすぐ練習再開するよ」
「お前、さっきから俺のほう全然見てねぇじゃん」
「っ………だって、仕事中だもん」
小声で言い返すと、海翔はふっと息を吐き、困ったような、
でもどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ほかの奴のタオル受け取ったけどさ、やっぱりお前のがないと、なんか調子狂うんだよな」
「っ…………なにそれ」
「ただの事実。……ほら、残りの練習も付き合えよ、マネージャー」
意地悪く笑うと、海翔は自分のポジションへと戻っていく。
その背中を見送りながら、さっきまで胸の奥にあったモヤモヤは
どこかへ綺麗に吹き飛んでいた。
試合のルールも、戦術の細かいことも、まだ全部は分からない。
でも、このコートの上で彼が一番に求めてくれているのが私なら………
それだけで、もう少しだけ、この甘酸っぱい片思いを頑張れそうな気がした。
そんな私を、少し離れたところから先輩が見つめていたことに
私は気が付かなかった。