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第1話
体育館の床を激しく蹴る、キュッ、キュッと乾いた音が響く。
誰もいなくなった放課後のコート。その中心で、海翔は何度もゴールに向かって
ボールを放っていた。
ジャグの片付けをしながら、私はその背中を目で追ってしまう。
汗に濡れたユニフォームの裾が微かに揺れ、彼の美しいシュートフォームを描く。
「………ん」
ふと、ドリブルの音がピタリと止まった。
拾いに行ったボールを持ったまま、海翔がこちらを振り返る。
汗を拭うこともせず、まっすぐ向けられた瞳と視線が絡み合った。
「……海翔、もう居残り練習終わりの時間だよ。はい、これ」
慌てて足を踏み出し、私はスポーツタオルを差し出した。
彼はそれを受け取る代わりに、ふっと意地の悪い笑みを浮かべて、近付いてくる。
バスケットボールの匂いと、爽やかな汗の香りが鼻をかすめた。
「なあ、恋夏」
「………なに?」
「今から俺が打つ3ポイントシュート、もし綺麗に入ったら今日の帰り、俺に付き合ってよ」
「……っ、それって……」
動揺する私を置いて、海翔はニヤリと笑って再びスリーポイントラインへと
戻っていく。
ボールの弾む音が、静かな体育館に心臓の鼓動のように響いていた。
「…………見ててよ、恋夏」
振り返りもしないその背中に向けられていたはずの視線を、私は慌ててそらす。
海翔の放つシュートはいつも綺麗だ。体勢が崩れていても、焦っていても
ゴールネットを正確に揺らす。
バシッ、と空気を切り裂くような鋭い音。
綺麗に、吸い込まれるようにネットが揺れた。
「…………あ」
息を呑む私の前まで、海翔はいつの間にか歩み寄っていた。
汗に濡れた前髪の隙間から覗く黒曜石のような瞳が、まっすぐ私を捉えて離さない。
「ほら、入った。約束な」
「……っ、ずるい!今のは練習の続きでしょ……?」
「部活終わりの、大事な延長戦だけど?」
意地悪く笑う海翔の顔が、ほんの少しだけ近づく。
ドキリと跳ねた胸の音を隠すように、私は持っていた濡れたタオルを
彼の顔に押し付けた。
「は……っ、早く汗拭いて片付けるよ!居残り練習、もう終わり!」
「うわ、冷たっ……!ちょっと恋夏、力強くない?」
バタバタと慌てる私を見て、海翔は満足そうに低い声で笑う。
放課後の静かな体育館。
チームメイトの前では「頼れるエース」として凛としている彼が、私に見せるこの表情も、この距離感も…………全部、私だけのものだったらいいのに。
茜色に染まり始めた夕暮れの空の下。
二人並んで歩く帰り道、私の胸の奥で、まだあのボールの弾む音がトクン、と
小さく鳴り響いていた。
1話目、どうでしたか?
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