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第3話
「お疲れ様ー、恋夏ちゃん!」
練習終わりの片付けに終われていた私に、ふわりと明るい声をかけてきたのは
同じバスケ部の、瀬名颯先輩だった。
いつも人懐っこい笑顔を浮かべていて、誰とでもすぐに仲良くなれる。
後輩の私に対しても、気さくに話しかけてくれる、部活の人気者だ。
「瀬名先輩、お疲れ様です。ドリンクどうぞ」
「わぁ、ありがとう!恋夏ちゃん」
クシャッと笑う目尻の優しさに、私は少しだけ肩の力を抜いてドリンクを渡す。
瀬名先輩は、チームの中でもムードメーカー的存在で、海翔とはまた違った
柔らかいオーラを持っている。
……だからこそ、時々向けられるその真っ直ぐな視線に、私は戸惑うことがあった。
「………ねえ、恋夏ちゃんってさ。最近、海翔とよく一緒にいるよね」
ふと、瀬名先輩の声のトーンが、ほんの少しだけ低くなった。
えっ、と驚いて顔を上げると、相変わらず先輩の顔にはいつものニコニコした笑顔が
はりついている。けれど、その瞳の奥だけが全く笑っていなかった。
「え……あ、その、マネージャーとしての仕事で……」
「……ふーん、そっか。あいつ、自分のことばっかで周り見えなくなるから、恋夏ちゃんが困ってないか心配でさ」
先輩はそこで言葉を区切ると、ふっと視線を落とし、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。
「………本当は、俺がもっと話したいんだけどな」
「え……?」
聞き返す間もなく、先輩はいつもの柔らかい笑顔に戻り、私の頭をポンと撫でた。
「なんちゃって!じゃ、俺着替えてくるね。お疲れ、恋夏ちゃん」
ひらひらと手を振りながら去っていく背中を見送りながら、私の心臓は
嫌な音を立てて、バクバクと鳴っていた。
いつもニコニコしている先輩の、あの目の奥にあったものは何だったんだろう。
海翔に対するライバル心?それとも……私に向けられていた別の感情?
遠くで片付けを終えた海翔が、不思議そうにこちらを見ているのが視界の隅に映る。
海翔のことでいっぱいだったはずの私の胸に、先輩の不穏な影が重なっていく。
体育館の熱気が冷めていく中、ざわめく胸の鼓動だけは
いつまでも静まらなかった。