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第1話
新シリーズスタートです!
「卒業生代表――青木紬」静まり返った体育館に、担任の先生の張りのある声が響き渡った。私は深く息を吸い込み、ゆっくりと立ち上がる。紺色のセーラー服の襟を正し、壇上へと続く階段を一段ずつ上っていく。ローファーが床を叩く規則正しい音が、やけに大きく耳に届いた。壇上のマイクの前に立ち、客席を振り返る。そこには、優しく微笑む先生方と、まぶしいほどの笑顔を浮かべた同級生たちの顔があった。手元の答辞を開き、私は声を丁寧に紡ぎ出す。「暖かな春の光が降り注ぐ今日、私たちは卒業の日を迎えました。思い返せば、私たちの『学校生活』の始まりは、決して平坦なものではありませんでした。小学校に入学してすぐ、当たり前だった日常は突然のウイルスによって奪われました。小1の三月、お別れも言えないまま始まった一斉休校。それから始まった、マスクとディスタンスの日々――」
ー2019年4月。
「お母さん、ランドセル重たい!」 ピカピカの、まだ私の小さな体には大きすぎる赤いランドセルを揺らしながら、私はお母さんの手をぶんぶん振って歩いた。 校門の前に着くと、大きな看板に『入学式』って書いてある。「つむぎ、おめでとう。今日から一年生だね」「うん! つむぎ、お勉強いっぱいがんばるの!」 見上げると、ピンク色の桜の花びらがひらひらと頭の上に降ってきて、私はそれをつかまえようとして、何度も何度もぴょんぴょん跳ねた。 一年一組の教室は、黄色い帽子をかぶった子たちで、まるでおひさまの中にいるみたいに真っ黄色だった。 お家ではいつもお母さんの後ろにすぐ隠れちゃうくらい、ちょっと弱虫な私は、知らない子がたくさんいて急にドキドキしてきた。 自分の机にちょこんと座って、小さな手をぎゅっと握って小さくなっていた、その時だった。「ねえねえ、お名前なんていうの? 私、ゆい! いっしょに遊ぼう!」 隣の席の女の子が、にこにこの笑顔で顔をのぞかせてきた。「……あおき、つむぎ、です。よろしくね」「つむぎちゃん、よろしく! 休み時間になったら、いっしょにジャングルジムいこう!」 ゆいちゃんが私の手をぎゅっと握ってくれた。お互いのおっきな笑顔が、そのまま、まっすぐに見つめ合えた。 担任の先生も、いつも優しくて、私の大好きなはちみつの匂いがした。 真面目なことだけが取り柄の私は、ひらがなの宿題を、毎日いっしょうけんめいノートに書いた。先生はそれを見て、大きな赤ペンで、ぐるぐるとノートいっぱいの「はなまる」を描いてくれた。「つむぎちゃん、とっても上手に書けたね!」 先生に褒められるのが嬉しくて、学校のテストで「100」って赤い数字がもらえるのが誇らしくて、私は学校がどんどん大好きになった。休み時間になると、みんなで黄色い帽子をかぶって元気よく校庭へ飛び出して、手を繋いでどこまでも走り回った。5月1日から元号は平成から令和になった。その時は全然わからなかったけど。
時はたち、三月の、ある日の放課後だった。いつもは優しい笑顔の担任の先生が、その日はなんだか、すごく真剣で、どこか悲しそうな顔をして教壇に立っていた。教室の中も、いつもと違うざわざわした空気に包まれている。「みんな、静かに聞いてね」 先生は、ゆっくりと言葉を選びながら私たちに言った。「明日から、学校は長いお休みになります。お外で悪いウイルスが流行ってしまって、みんなの体を守るためです。だから、明日からはお家から出ないで、静かに過ごしてください」びっくりした。まだ、私が楽しみにしていた丸と四角の算数をやっていないのに。長いお休み。最初は、夏休みがもう一度来たのかな、なんて呑気なことを思った。だけど、隣の席のゆいちゃんを見ると、ゆいちゃんはすごく不安そうな顔をして先生を見つめていた。「帰りの会が終わったら、自分の机の中の荷物や、後ろのロッカーにあるお道具箱を、全部ランドセルに詰めて持って帰ります。いいですね」 いつもなら、一年の終わりに向かって少しずつ持って帰るはずの荷物を、今日中に全部詰め込まなくちゃいけない。私の小さなランドセルは、教科書やノート、色鉛筆やお道具箱で、パンパンに膨れ上がった。閉まらないフタを、お母さんみたいに力いっぱいぎゅっと押さえて、なんとか鍵をかける。背負うと、入学式の日の何倍も重たくて、後ろにひっくり返りそうになった。「つむぎちゃん、バイバイ。またね」校門の前で、ゆいちゃんが小さく手を振ってくれた。「うん、ゆいちゃんバイバイ! また春休みに公園で遊ぼうね!」 私は元気よくそう言って、ゆいちゃんの手を振り返した。 それが、大好きだったゆいちゃんの「マスクのない笑顔」を見た、最後の瞬間だった。次の日から、小学校のチャイムの音は聞こえなくなった。 お友達とちゃんとお別れも言えないまま、私の楽しかった一年生は、そこで突然、ぷつりと糸が切れるように終わってしまった。
この物語では私の経験をもとに物語を描いています。コロナ時代を覚えている小学生が少なくなっている中この描写がうまく伝わったかわかりませんが、、、
これからよろしくお願いします!(?)