小1の三月、突然コロナで奪われた日常。いうことを聞かない問題児だらけの荒れ果てた教室。普段の生活ではちょっと弱い地頭「普通」の平凡な女の子・青木紬が、「ここから抜け出したい」という思いで、激動のコロナ時代を舞台に過酷な中学受験の戦いとその先に待つ新しい学校生活の物語を描きます。
続きを読む
読み方
1話ずつ表示します。
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
第1話
新シリーズスタートです!
「卒業生代表――青木紬」静まり返った体育館に、担任の先生の張りのある声が響き渡った。私は深く息を吸い込み、ゆっくりと立ち上がる。紺色のセーラー服の襟を正し、壇上へと続く階段を一段ずつ上っていく。ローファーが床を叩く規則正しい音が、やけに大きく耳に届いた。壇上のマイクの前に立ち、客席を振り返る。そこには、優しく微笑む先生方と、まぶしいほどの笑顔を浮かべた同級生たちの顔があった。手元の答辞を開き、私は声を丁寧に紡ぎ出す。「暖かな春の光が降り注ぐ今日、私たちは卒業の日を迎えました。思い返せば、私たちの『学校生活』の始まりは、決して平坦なものではありませんでした。小学校に入学してすぐ、当たり前だった日常は突然のウイルスによって奪われました。小1の三月、お別れも言えないまま始まった一斉休校。それから始まった、マスクとディスタンスの日々――」
ー2019年4月。
「お母さん、ランドセル重たい!」 ピカピカの、まだ私の小さな体には大きすぎる赤いランドセルを揺らしながら、私はお母さんの手をぶんぶん振って歩いた。 校門の前に着くと、大きな看板に『入学式』って書いてある。「つむぎ、おめでとう。今日から一年生だね」「うん! つむぎ、お勉強いっぱいがんばるの!」 見上げると、ピンク色の桜の花びらがひらひらと頭の上に降ってきて、私はそれをつかまえようとして、何度も何度もぴょんぴょん跳ねた。 一年一組の教室は、黄色い帽子をかぶった子たちで、まるでおひさまの中にいるみたいに真っ黄色だった。 お家ではいつもお母さんの後ろにすぐ隠れちゃうくらい、ちょっと弱虫な私は、知らない子がたくさんいて急にドキドキしてきた。 自分の机にちょこんと座って、小さな手をぎゅっと握って小さくなっていた、その時だった。「ねえねえ、お名前なんていうの? 私、ゆい! いっしょに遊ぼう!」 隣の席の女の子が、にこにこの笑顔で顔をのぞかせてきた。「……あおき、つむぎ、です。よろしくね」「つむぎちゃん、よろしく! 休み時間になったら、いっしょにジャングルジムいこう!」 ゆいちゃんが私の手をぎゅっと握ってくれた。お互いのおっきな笑顔が、そのまま、まっすぐに見つめ合えた。 担任の先生も、いつも優しくて、私の大好きなはちみつの匂いがした。 真面目なことだけが取り柄の私は、ひらがなの宿題を、毎日いっしょうけんめいノートに書いた。先生はそれを見て、大きな赤ペンで、ぐるぐるとノートいっぱいの「はなまる」を描いてくれた。「つむぎちゃん、とっても上手に書けたね!」 先生に褒められるのが嬉しくて、学校のテストで「100」って赤い数字がもらえるのが誇らしくて、私は学校がどんどん大好きになった。休み時間になると、みんなで黄色い帽子をかぶって元気よく校庭へ飛び出して、手を繋いでどこまでも走り回った。5月1日から元号は平成から令和になった。その時は全然わからなかったけど。
時はたち、三月の、ある日の放課後だった。いつもは優しい笑顔の担任の先生が、その日はなんだか、すごく真剣で、どこか悲しそうな顔をして教壇に立っていた。教室の中も、いつもと違うざわざわした空気に包まれている。「みんな、静かに聞いてね」 先生は、ゆっくりと言葉を選びながら私たちに言った。「明日から、学校は長いお休みになります。お外で悪いウイルスが流行ってしまって、みんなの体を守るためです。だから、明日からはお家から出ないで、静かに過ごしてください」びっくりした。まだ、私が楽しみにしていた丸と四角の算数をやっていないのに。長いお休み。最初は、夏休みがもう一度来たのかな、なんて呑気なことを思った。だけど、隣の席のゆいちゃんを見ると、ゆいちゃんはすごく不安そうな顔をして先生を見つめていた。「帰りの会が終わったら、自分の机の中の荷物や、後ろのロッカーにあるお道具箱を、全部ランドセルに詰めて持って帰ります。いいですね」 いつもなら、一年の終わりに向かって少しずつ持って帰るはずの荷物を、今日中に全部詰め込まなくちゃいけない。私の小さなランドセルは、教科書やノート、色鉛筆やお道具箱で、パンパンに膨れ上がった。閉まらないフタを、お母さんみたいに力いっぱいぎゅっと押さえて、なんとか鍵をかける。背負うと、入学式の日の何倍も重たくて、後ろにひっくり返りそうになった。「つむぎちゃん、バイバイ。またね」校門の前で、ゆいちゃんが小さく手を振ってくれた。「うん、ゆいちゃんバイバイ! また春休みに公園で遊ぼうね!」 私は元気よくそう言って、ゆいちゃんの手を振り返した。 それが、大好きだったゆいちゃんの「マスクのない笑顔」を見た、最後の瞬間だった。次の日から、小学校のチャイムの音は聞こえなくなった。 お友達とちゃんとお別れも言えないまま、私の楽しかった一年生は、そこで突然、ぷつりと糸が切れるように終わってしまった。
この物語では私の経験をもとに物語を描いています。コロナ時代を覚えている小学生が少なくなっている中この描写がうまく伝わったかわかりませんが、、、
これからよろしくお願いします!(?)
第2話
第2話です!相変わらず長いんですけど許してください笑
2020と書かれたカレンダーの四月と五月のページは、バツ印だらけだった。お外で悪いウイルスが流行っているから、学校はずっとお休み。普段はちょっと弱虫な私だけど、これだけ長い間お家の中にいると、さすがにつまんなくなってくる。テレビをつけても、ニュースのおじさんが怖い顔をして「ウイルスの感染者が……」とお話ししているばかりで、全然おもしろくない。お家の中でできる遊びは、もう全部やっちゃった。 お気に入りの絵本は何回も読み返しちゃったし、お母さんとやったトランプも、私が負けてばっかりで途中で泣いちゃったからもう終わり。「お母さん、学校いつから始まるの?」リビングでパソコンをパチパチ叩いてお仕事をしているお母さんの背中に、私は何回目か分からない質問をぶつけてみた。「もうすぐ始まるって、学校からメールが来たよ。つむぎ、やっと二年生になれるね」「本当!? やったぁ!」 私は嬉しくて、ソファーの上でぴょんぴょん跳ねた。やっと二年生の教室に行ける。新しい教科書ももらえる。何より、大好きなゆいちゃんにまた会えるんだ。私は急いでお部屋に戻って、まだ一回も使っていない二年生のノートをランドセルに詰め込んだ。学校が始まったら、ゆいちゃんと手を繋いで、校庭のジャングルジムまでどっちが早いか競争するんだ。 お家の窓から見えるあおぞらを見上げながら、私はワクワクして、胸を小さく弾ませていた。
待ちに待った、学校が再開する日。「お母さん、行ってきます!」 私は新しい二年生の教科書を詰めたランドセルを背負って、元気よくお家を飛び出した。 お日さまがピカピカ光っていて、風がとっても気持ちいい。「やっとみんなに会える!」と思うと嬉しくて、私の足は自然とトコトコ走り出していた。 だけど、久しぶりにくぐった小学校の校門の先は、私の知っている大好きな学校とは少し違っていた。 校舎の入り口に、見たこともない白いテントが立っている。「はーい、みんな一列に並んでね。おでこをピッとしますよ」 先生たちが真面目な顔をして、手に持った小さな機械で私たちの体温を測っていた。お熱があるとお部屋に入れないみたいで、なんだか病院にいるみたいに緊張しちゃう。 無事にお部屋に入って、もっとびっくりした。 すれ違う友達が、みんなお口に白い四角いマスクをつけていた。「つむぎちゃん、おはよ!」 声をかけてくれたのは、二年生でも同じクラスになれたゆいちゃんだった。 でも、ゆいちゃんのお口にも、やっぱり真っ白なマスクがついている。見えるのは目元だけで、あの大好きだったにこにこの笑顔が半分隠れちゃっていて、なんだかいつもと違う感じがしてドキドキした。「みんな、席は離して座ってね。お友達の机とおしゃべりしちゃダメですよ」 新しく担任になった先生が、黒板の前で大きく手を振っている。 小1の時は、机をくっつけてみんなでおしゃべりできたのに、机はみんな離れ離れ。 学校中が、ツンとする消毒液の匂いでいっぱいだった。「つむぎちゃん、お熱大丈夫だった?」 ゆいちゃんが話しかけてくれたけど、マスクのせいか、声が少しこもって聞こえる。私もお家からつけてきたピンク色のマスクの手触りを確かめながら、「うん、大丈夫だった」と小さくお返事をした。 学校は始まったけれど、何だか私の知っている学校じゃないみたい。 マスクの奥で小さく息を吸い込みながら、私は少しだけ不安な気持ちで自分の席に座った。学校は始まったけれど、悲しいお知らせはそれだけじゃなかった。「みんな、静かに聞いてね」 先生が黒板の前に立って、少し困ったような顔でお話しを始めた。「今年の遠足と運動会は、コロナのせいでなくなりました。みんなの安全のためだから、我慢してくださいね」「えーーーっ!」 教室の中が一斉に、がっかりした声でいっぱいになった。もちろん、私もその中の一人だった。一年生のとき、みんなでリュックを背負って歩いた遠足や、お外でお弁当を食べた運動会がすっごく楽しかったから、胸がキュッと切なくなる。 音楽の時間になっても、「みんなで大きな声で歌をうたっちゃダメです」と言われて、大好きな鍵盤ハーモニカも吹けなくなってしまった。学校から楽しい音がどんどん消えていって、ただ教科書のCDをじっと聴くだけの時間が増えていった。 そして、一番楽しみだった給食の時間が、一番静かな時間になってしまった。「今日から『もくしょく』をします。おしゃべりは絶対にしないで、前を向いて静かに食べてください」机をみんなで四角く合わせちゃダメで、前を向いたまま、一言もおしゃべりしないで食べる新しいルール。おしゃべりしたら先生に怒られちゃうから、私は真面目に、じっとスプーンを口に運んだ。 いつもなら「これおいしいね!」ってゆいちゃんと言い合えるのに、教室の中にはカチャカチャという食器の音しか聞こえない。 マスクを外した開放感から、後ろの席の男の子たちが、ニヤニヤしながらわざと大きな声を出して笑ったり、立ち歩いたりしているのが見えた。先生が「静かに食べようね」って注意しているけれど、なんだか全然すっきりしない。 大好きなお給食のはずなのに、なんだかいつもよりおいしくないな、って思った。 楽しいことが全部ダメになっちゃって、今の学校は、ただお勉強をするだけの場所みたい。 早くコロナが終わって、前みたいにゆいちゃんと手を繋いで大笑いできる日が来ないかな。 私はマスクの下で、小さく、ばれないようにため息をついた。
どうでしたか?次は来週の土曜日公開を予定してます!