公開中
チャプター23
そして、無陀野さんが帰ってこないまま夜になった。
「恋バナしよーぜ!」
そう一ノ瀬くんが提案した。
私は、みんなと仲良くなれるチャンスだと思い、楽しみにしていたのだが――。
矢颪くんと皇后崎くんは、参加する気なし。
漣さんは手術岾くんの話しかしない。
帆稀ちゃんも恥ずかしそうにして、なかなか話そうとしない。
ということで――。
あっさり却下されてしまった。
『恋バナしたかったぁ……』
しょんぼりしていると、その後も漣さんが「手術岾くんと一緒に寝たい」と言い出した。
すると突然、矢颪くんが何かを思いついたように立ち上がる。
そして、どこからか縦長のホワイトボードを持ってくると、ステージが見えないようにカーテンを両側から閉めた。
ホワイトボードには――。
**『男子立ち入り禁止』**
と、大きく書かれている。
「男女は別だ!!」
『……』
……なんだか、矢颪くんが一番張り切っている気がする。
男子とは話せない。
それなら――。
女子同士で仲良くなろう!
ということで、私は漣さんと仲良くなる作戦を開始することにした。
『漣さん……下の名前で呼んでいい……?』
そう尋ねると、漣さんはすぐに頷いた。
『……!』
漣さん――水鶏ちゃんは、思っていたよりずっと優しい。
**友達が増えました!!**
三人で円を描くように、頭を中心へ向けて寝袋に入る。
すると、自然と一息ついた。
『今日も楽しかったぁ……』
「す、すみません……。こんな私なんかと……一緒に寝る形になってしまって……!」
寝袋に潜りながら、私と水鶏ちゃんに謝る帆稀ちゃん。
私は、そんな帆稀ちゃんを安心させるように声をかける。
『ぜんっぜん、気にしてないから大丈夫だよ……!!』
「チッ。別にアンタのせいじゃねぇけど、ロクロと寝れねぇのは納得いかねぇ! 男子共が寝静まったら夜這いしに行ってやる……!」
『……』
水鶏ちゃん、やっぱり積極的だなぁ。
……見習おうかな。
水鶏ちゃんの言葉に、帆稀ちゃんは頬を赤らめる。
「わ、私は邪魔にならないようにジッとしてます……!」
『連帯責任で私も先生に怒られるようなことがなければ、別になんでもいいよ……!』
それから、水鶏ちゃんたちと男子に関する話題が始まった。
会話は徐々にエスカレートしていき――。
水鶏ちゃんが、帆稀ちゃんの脇に向かって指先をこちょこちょと動かし始める。
「蘭! お前も手伝え!」
『おまかせあれ〜!』
水鶏ちゃんの声に、私は帆稀ちゃんへ襲いかかる作業に加わる。
「お助け〜!!」
しばらくして――。
「飽きた」
『めっちゃ楽しかった……!』
水鶏ちゃんが大人しく自分の寝袋へ戻っていく。
私も、自分の寝袋へ戻った。
散々くすぐられた帆稀ちゃんは、恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに寝袋の中へ顔を隠す。
そして――。
「うぅ……つまらなくてごめんなさい……」
『……』
また謝ってる。
私はそんな帆稀ちゃんを見つめながら、苦笑する。
すると水鶏ちゃんが、次の話題へ移ろうとうつ伏せになり、私の方へ視線を向けた。
「そーいやぁ、お前、あの無口野郎のことずっと見てるよな?」
『……』
無口野郎って――。
皇后崎くんのことかな……。
「好きなのか?」
『……え』
一瞬、頭が真っ白になる。
『す、好き……!? ち、違うよ……! かっこいいなって思って見てただけ……!』
「かっこいいから、ねぇ……」
『そ、そう……! かっこいいから……!』
「ふーん。じゃあ……好きなタイプは?」
『好きなタイプ……?』
え、えっと……。
少し考えてから、私は口を開く。
『不器用だけど優しくて、落ち着いた安心感のある人……かな』
「……それ、皇后崎さんじゃないですか……?」
『……!』
帆稀ちゃんにまで言われてしまった。
確かに……言われてみれば、皇后崎くんは当てはまっているのかもしれない。
い、いや……。
皇后崎くんに迷惑だよね……。
うん。
考えるの、やめよう。
そんなことを考えていると、場の空気はどんどん盛り上がっていく。
私はワクワクしながら、二人の話を聞いていた。
……でも。
自分の恋の話となると、やっぱり少し恥ずかしい。
「(自己規制)上手いかどうかってのも、条件に入れてみろよ」
水鶏ちゃんがそう言った瞬間――。
しばらくの沈黙が生まれた。
『……え?』
『ええ……!?!?』
顔が一気に熱くなる。
な、なんでそんなの条件に入れる必要が……!?
隣を見ると、帆稀ちゃんも私と同じような顔をしていた。
「お前ら、案外可愛いな……」
『……っ』
だって……。
皇后崎くんと……そんなこと……。
『あ、あれ……?』
なんで、皇后崎くんのことを考えてるんだろう……。
そして――。
「……蘭……可愛いな……」
ふと、皇后崎くんがそんなことを言う姿を想像してしまった。
『わぁぁぁ……!?!?』
ありえない!!
皇后崎くんが絶対に言わないようなことを想像しちゃった!!
申し訳なさすぎる!!
しかも……。
ちょっとだけ、優しそうだなとか思っちゃった……!
「い、糸哭さん……? だ、大丈夫ですか……?」
『ごめん……大丈夫じゃない……』
その時だった。
カーテンの外から、男子たちの悲鳴が聞こえてきた。
「……なんだ?」
『奇襲か何か……?』
私たちは慌ててカーテンの外を覗く。
そして――。
『……え?』
そこには、血蝕解放をした一ノ瀬くんが、泣きながら巨大な銃器を乱射している姿があった。
『えええええ!?!?』
「な、なんで!?」
「おい、やめろ!!」
銃声が轟く。
ドォン!!
ドォン!!
ドォン!!
『ちょっと待ってぇぇぇ!?』
体育館が揺れる。
壁が崩れる。
天井から瓦礫が落ちてくる。
「逃げろぉぉぉ!!」
「なんでこうなったんだよ!?」
私たちも全員パニックになり、体育館の中を逃げ回る。
そして――。
気づいた時には、意識を失っていた。
次に目を覚ました時。
時計の針は、七時を指していた。
眩しい朝日が体育館の屋根を照らし、その光がコートの上で倒れている一ノ瀬くんたちを照らしている。
『……』
……何があったんだろう。
昨日の夜のことが、ほとんど思い出せない。
今日の授業が始まる前。
いつもの教室で無陀野さんを待っている私たちは、全員ひどく憔悴していた。
特に男子は――。
顔が青ざめている人までいる。
「なんか……酷い夢見てた気がする……」
『……』
私も、ぼんやりと昨日の夜を思い返す。
……恋バナをして。
皇后崎くんのことを考えて。
それから――。
『……』
私は、いつものように皇后崎くんへ視線を向ける。
けれど。
昨日のことを思い出してしまって――。
今日は、まともに見ることができそうになかった。