この学校は、きっと何かがおかしい。
これは、わたしの学校生活を綴ったモノ。
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目次
【淡本町私立淡本中学校:1限目】登校、警鐘。
...田舎の中学校だから、当然なのかもしれないが。
クラスは学年ごとにひとつのみ。人数も極めて少ない。
私は、ちらりと横目で周りのクラスメイトの顔を伺う。
どの子も、どこか具合が悪そうな、暗い表情をしていた。
なぜそんな顔をしているのか、自然と理解できた気がする。
そう、この中学校はど田舎育ちの私でもわかるほどに
何かが絶対におかしかったから。
その理由は、まだわからない。
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ガラガラ、と若干建付けの悪いドアが鳴いた。
入ってきたのは、若い...いや、若いというより、もはや高校生なのでは。
そう疑ってしまうほどに、少女のような容姿をした女性。
スーツを着用しているということは、教師なのだろうか。
彼女は教卓の前に立ち、私たちの方を向いた。
だがその視線はウツロで、目が合うようで合わない。
「皆さんの担任になりました、北マツビです。どうぞ呼びやすい呼び方で。
担当教科は理科と数学です。分からないことがあれば、気軽に聞いてください」
そう機械的に告げたあと、楽しいクラスにしましょうねと
決まり文句のようなものを添え、北先生は軽く会釈をする。
釣られて、私たちも頭を下げた。
不意に、何かを思い出したかのように
北先生がぽんと手を叩いた。
「そうだ、自己紹介。皆さん、忘れないうちに自己紹介しましょう」
そう言った後に、先生は口元に細くて白い人差し指を当てた。
黒い瞳はやはり視線を掴めず、ぬらりとした光沢を帯びている。
「ですが、本名を教えてはいけませんよ。名前は大切なものですから」
大切だからこそ、教えるのではないだろうか。
予想外の発言に、わたしは戸惑いの色を隠せなかった。
他のクラスメイトも同じ様子で、まさに混乱状態といった様子。
偽名を考えろ、という意味なのだろうか。
全員、必死に考えているようだ。
少し経った頃、北先生が手を叩いた。
シンキングタイム終了。それを知らせる合図だった。
「遅くなってはいけませんから。まず、あなた」
「は、花子です!」
そう言って、涙目で女子生徒が立ち上がった。
きっと、いい名前が浮かばなかったのだろう。
立たなくて結構ですよ、そう先生に言われ、花子ちゃんはまた涙目で勢いよく座った。
他にも次々と名前を聞かれ、全員が適当な偽名を答えた。
そして、わたしの番が回ってきた。
どうしよう、私は何も思いついていなかった。
「次、あなた」
必死で頭を回す。だって、きっと3年間使われる名前。
悔いのないように決めたかった。
せめて、なるべく今の名前に近い名前を...
「あなたの、なまえは?」
「...あ.........」
急かすような、その一言。
黒い瞳で見つめられると、身体中の細胞が静止してしまったかのように
身体のどこも動かすことができなかった。
口から出た言葉は、喘ぎにも似た呼吸だけ。
だが、北先生はそれを名前だと認識してしまった。
「...独特な名前ですね、”あ”」
「......!」
そう言って笑う北先生を見て、私の額に嫌な汗が伝った。
このひとは、何かがおかしい。
そうだ、このひとには何もない。
中身がない。ただの器...?
だからだ、どこを見ているのかもわからない。何を考えているのかも...
...北先生の周囲を浮遊している、
天使の羽が生えた目のオブジェクトと目があった。
多分、こっちが北先生。
教師名簿[北マツビ]
右目が髪で隠れた、小柄な教師。
多分この学校で一番頭が良く、A先生のメンテナンスを任されている。
白髪に赤色のメッシュが入っているのが特徴。
...実は彼女の周りを浮遊しているオブジェクトこそが北先生。
生徒はメカクレの方を北先生だと認識している。
教員はみんなそのことを知っていながら、生徒には話さない。
身長:154cm(メカクレ)10cm(北先生)
体重:46kg(メカクレ) 200g(北先生)
性別:女性(メカクレ) 不明。そもそも性別ある?(北先生)
年齢:下手すれば18歳前後に見える(メカクレ) 不明(北先生)
性格:わからん。何こいつ?????
備考:たまにメカクレだけで歩いてる。怖い。
【淡本町私立淡本中学校:2限目 】不具合、それにまつわるハルシネーション。
自己紹介が終わり、北先生が何やら話している。
だが、今のわたしには全く耳に入ってはこなかった。
ずっと、あの目に見られているような不安感が拭えない。
もしかすると、これは気がつくべきではないことだったのかもしれない。
それどころか、タブーとされる部類のものに触れてしまったのかもしれない。
きっと、目に見られているのも勘違いではない。
冷や汗が止まらず、きっと周囲から見れば私は具合が悪そうだったのだろう。
隣の席の男子生徒が、大丈夫かと声をかけてきた。
確か...名前はカラと言ったか。
カラ君は、中1にしては背がとても高く、わたしより頭2つ分程度高い。
きれいな銀髪は肩口で雑に切りそろえられていて、中性的な雰囲気を感じさせる。
「本当に具合悪そうだけど。絶対保健室行ったほうがいいって」
「いや、大丈夫...」
「北先生!えっと、この子が具合悪そうで。保健室ってどこですか!」
カラ君は、勢いよく手を上げてそう言った。
北先生は少しわたしの顔色を見てから、保健室の場所を伝える。
「下駄箱がありますね。まずそこに行って、そこから右に進んでいくと職員室です。
そして職員室の右隣が保健室です。”あ”さん、顔色がとても悪いので、よく休んでくださいね」
「は、はい」
そう言われ、わたしは椅子から立ち上がった。
が、たちくらみが酷く、すぐには動き出すことができなかった。
「キミ、ひとりで行ける?なんならおれも...」
「いや...!そんなの申し訳ないから...」
ふらふらとした足取りで、わたしは教室を後にした。
こんなときでもやはり扉は不快な音を立て、わたしの精神をひどく逆立てた。
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:
なんとか保健室の前までついた。
わたしは、少し震える手で真っ白な扉をノックする。
すると、間を置かずにすぐ扉が開いた。
出てきたのは、端正な顔立ちをした男の人。
この人が養護教諭の人なのだろうか、男性は珍しい...と思う。
肌は白衣と同じくらい真っ白で、まるで白雪姫のよう。
金色の髪は、毛先から赤いグラデーションがかかっていて、
ベリーショートくらいの長さ。若干クセ毛なのか、所々で毛がはねている。
「君は、一年一組の......これ、名前?」
恐らく、”あ”という偽名のことを指しているのだろう。
私だって、これが名前だと認めたくはない。
ここは否定すべきだ。
「いえ...違います。本当はもっとちゃんとしたのを付けたくて...」
「もたもたしていたら、北先生にやられたんだね。
彼女は、そういうところがあるから...前にも似たようなことをしていたよ」
「変更とか、出来ないんですか?」
私の問いに、彼は手を顎に当てて考える素振りをする。
何か、この名前をどうにかすることができるかもしれない。
そう思い回答を待ってみたものの、第一声は”ごめんね”だった。
「申し訳ないけど、それはもう変更が出来ないんだ」
「そうですか...」
「あだ名、ということであれば擬似的な変更は可能だけど」
「...!本当ですか...!」
それを聞いて、わたしは少しほっとしたと同時に、
今まで気張っていた分力が抜けてしまったようだ。
足に力が入らなくなり、倒れ込みそうになる。
それをすかさず先生が受け止めてくれた。
「君、大丈夫かい?少し横になったほうがいい、今運ぶから」
そう言って、先生はわたしを軽々と持ち上げてみせた。
そういえば、このひとは身長も高い。180以上あるのではないだろうか。
私は、少しの安心感を覚えた。
保健室の先生というのは、きっとそういう雰囲気を持ち合わせているのだろう。
だが、何か肩のあたりに違和感がある。柔らかいものが当たっているような...
見ると、北先生よりは小さいものの、
世間一般的に見れば”巨”の部類に入ると思われる胸が。
でも、声は明らかに男性だった。手も骨ばっていて男性らしい...このひとは一体?
そう考えていると、それを見透かしたかのように先生が口を開いた。
「私は旧量産型タイプA。気軽にA先生とでも呼んでくれたら嬉しいよ」
「旧量産型...?」
「こう見えても、私は医療用ロボットなんだ。昔は量産可能な個体だったんだけど、
工場の老朽化だったり資源の高騰だったりで、もうタイプAは私が最後の1体だ」
このひとが、ロボットなんて。
言われても信じられないほどに、人間そっくりだと思った。
性別についても、ロボットなら納得がいく。
きっと、男女問わずに安心感を与えるため、両性という形でデザインされたのだろう。
一通り謎が解けた私は、先程運んでもらったベッドの上でため息をついた。
なかなかに疲れる1日だ、正直早く家に帰りたい。
「そういえば、具合が悪くなった原因に心当たりはあるかな。
カルテに書かないといけないんだ」
そう言いながら、A先生がくるりと椅子を回転させて
こちらの方を向いた。その姿は、何気ない行動なのにも関わらずすごく絵になる。
わたしはすこしドキドキしながらも、ひとつしかない心当たりを話すことにした。
話すべきではない、とは考えなかった。
きっと、冷静な判断を欠いていたのだろう。
「あの、北先生のことで...北先生って」
そこまで言いかけたところで、急に立ち上がり駆け寄ってきた
A先生に口を塞がれた。きっとタブーだったんだ、そう思い、軽率な行動を後悔した。
先生の力は強くなかった。ただ、わたしの口から
こぼれ出そうだった言葉のみを押し返すようだった。
「言っちゃダメだ...校長は、いつ会話を聞いているのか分からないから...」
「すっ、すみません...」
「大丈夫...君が謝る必要は無いんだ。ただ、ここの教師について
何か変だと感じることがあっても、絶対に口に出してはダメだ」
...やはりここは、普通ではないのだろう。
変なことばかりで、ずっと保健室にいたいくらいだ。
わたしのことを庇ってくれた。
A先生は、きっとまともなひとだ。
「先生、ひとついいですか」
「...何だい?」
「この学校は、なんですか?」
バチッ、と一際大きい電子音が聞こえた。
一瞬先生の目が赤色に光ったが、本人はそれを気にせず、
はたまた何も知らずに口を開いた。
「当然...ただの中学校だよ」
教師名簿[旧量産型タイプA]
毛先から赤いグラデーションがかかった金髪が特徴の、背が高い養護教諭。
北先生に度々メンテナンスをしてもらっているが、忘れっぽいのが悩み。多分ギガ足りてない。
美人揃いの淡本中学校でも、かなり上位に位置する容姿の持ち主で、
さらに両性ということから一部の男女に熱狂的な人気がある。ちなみに名前はAだが胸はEカップ。
体育の教師がシャトルランしかできないバカであるため、保健の授業も担当している。
昔この学校で問題を起こして初期化されたらしい。
身長:182cm
体重:82kg
性別:両性
年齢:前回の初期化から6ヶ月
性格:思いやりが強く、優しい性格。…とプログラムされている。
備考:実は西先生の専属医だったり。
【淡本町私立淡本中学校:3限目】探検、露出する異常性。
学校探検...3限目の内容は、それだった。
学校内のマップが手渡され、北先生を先頭に校舎内を見て回る。
まず、北先生は1年1組の教室の隣にある空き教室を見せた。
「ここの教室は使われていないので、着替えなどの際に使用します。
ですが、放課後にはあまり立ち入らないようにしてくださいね」
「先生、それはなぜですか?」
カラくんが手を上げ、そう質問した。
この子は、空気が読めないタイプなのだろうか。
悪い子ではないのだが...
この学校の異常性を、嫌というほど肌で感じている勘のいい女子生徒はもちろん、
他の男子生徒までが彼を変な目で見る。
そんなの聞いてどうするんだ、ろくな答えは返ってこないぞ、と。
「それは...どこにでも、見てはいけないものというのがあるからです」
やはり、先生の口から出てきたのはそんな返事。
それでは、次に行きましょう。そう言って、また歩き出した。
次に、北先生は職員室の前で止まった。
2回軽くノックをして、扉を開ける。
「みなさんも、もし職員室に用事がある際はノックを忘れないように。
まぁ...よほど緊急の場合なら、ノックをしない程度どうということはありませんが」
少し、他の教師の方も紹介しておきましょう。
そう言って、職員室にいた教師を呼んできた。
「こちらが西先生、国語の教師の方です」
「...」
西先生は一言も喋らず、胸ポケットからメモ帳を取り出す。
そして机の上で何かを書いてから、私たちに見せた。
...達筆すぎて読みづらいが、恐らく書いてある文字は”よろしくお願いします”。
「西先生は喋るのが苦手なので、基本筆談です」
一言も喋らず、包帯やガーゼなどがあてられた頭や頬。
そして、切断されたように綺麗さっぱりなくなっている右手にも、
同様に包帯が巻かれていた。
私は、改めてこの学校は異常だと感じた。
日常生活もままならないような怪我なのに、働かせるなんておかしい。
普通、休みを与えるはずなのだから。
「こちらが南先生、社会の教師です」
「よ、よろしくお願いします...えへへ」
明るい黄土色の髪の毛を、二本に束ねた女性教師。
この人は、特に何もおかしい部分がない気がする。
むしろ、私が見た教師の中で1番人間味がある。
「これで、以上になります」
「英語の先生や、体育の先生は?」
またしても、カラくんが質問した。
「お二人とも、今日はお休みなんですよ」
そう北先生が言うも、それ抜きにしてもこの教師の少なさはおかしい。
だって、こんなにも広い職員室に、椅子が5個しかなかったのだから。
そこには特に触れることもなく、次に連れられたのは保健室。
2限目に私がお世話になった、A先生がいる場所だ。
「ここは保健室です。具合が悪くなったら、ここに来てくださいね。
具合が悪くなくても、悩みがあるのなら彼に聞いてもらうといいでしょう。
...A先生、いらっしゃいますか?」
北先生がそう尋ねると、A先生が扉を開けて出てきた。
「A先生、お時間大丈夫でしょうか」
「構いませんよ」
改めて見ても、A先生はものすごく背が高い。
背が小さめの北先生は、首を痛めてしまいそうな角度でA先生を見ている。
「A先生はこう見えて医療用のロボットです。
両性タイプですので、女子の方も男子の方も安心して悩みを話していただけます」
「よろしくお願いします」
そう言って、A先生は軽く会釈をする。
女子も男子も、若干ざわついているのが聞こえた。
この学校は異常性だけでなく、教員の顔面偏差値も目立っていたりする。
男子生徒は北先生、女子生徒は西先生に若干ざわついてはいたが...
A先生はその中でもひときわ美形だ。
そんなことは置いといて、次は校長室に向かっているようだ。
北先生は、校長室の扉を2回ノックする。
すると、中から出てきたのは若い教師。
糸目の男性で、長い黒髪を束ねている。
「皆さん、こちらが校長先生です」
私たちは、そう言われた瞬間目と耳、いや五感のすべてを疑った。
こんな20代前半に見える人が、本当に校長なのだろうか。
「みんなよろしくー」
テンションも軽く、この人が校長であることが
心配になるほどだった。
多分、この学校の異常性の元凶はこの校長だ。
教師名簿[校長]
校長なので、名前も校長であるのは当然。校が名字で長が名前???
校長のくせにこの学校の教師陣で最年少。
本人はちょっぴりそれを気にしているらしく、話し方を若干爺臭くしている。
A先生をゴミ捨て場から拾ってきたり、国語教師を保護してきたりなど、
ここの教師は校長に恩がある人が多い。
身長:175cm
体重:63kg
性別:男性
年齢:23歳、若過ぎ。
性格:明るくフレンドリー。
備考:資格とか持ってなさそうだよね???
【淡本町私立淡本中学校:4限目】校則、再認。
4限目は、校則の確認。
そして、校則に関することの質問に答えてくれるらしい。
どうやらこの学校の校則は少し独特らしく、
毎年何も知らない生徒が誤って校則を破ってしまう事例が多発したという。
渡された紙に書かれた校則を見てみると、やはり少しおかしい。
・登下校は原則、奨励服のみとする。
・廊下は基本歩き、必要なときは静かに走ること。
・スカートを切る、丈を長くするなどの改造行為は禁止。
・腰パンなども禁止とする。
・校長室は基本ノックすべし。緊急時のみ、ノックは不要。
・第二理科室は立ち入り禁止とする。入った場合、当校は
何があっても責任を取ることは出来ない。
・養護教諭の様子がおかしい場合、すぐに逃げて
校長室まで知らせに来ること。
・国語の教師は生きています。
・チャイムは鳴った時点でアウトです。
ちゃんと授業前には席に座っていてください。
・当校の花壇は養護教諭が手入れをしています。虫がいるのは普通のことです。
・花壇を掘るな。
・試験中などのカンニング行為は厳禁である。
・花壇の花踏むな。
・花焼くな。
校則自体もおかしいものの、言葉回しなども
少し独特で、話し口調なのが少し不気味だった。
あの校長は正しい文章の書き方すら分からないのだろうか。
「それでは質問を受け付けます。気になったことは気軽に聞いてください」
実を言うと、最初から最後までのすべての文が気になる。
すると、ひとりの女子生徒が手を上げた。
「アキラさん、どうぞ」
そう言われると、彼女は立ち上がった。
その子は女子にしては背が高く、ガタイがいい。
本人も自分が少女らしくないと知っているのか、髪は男子ほどに短い。
「国語の教師は生きていますって、これどういう意味でしょうか」
彼女は、わたしが一番気になった一文を読み上げた。
生きている人間に、わざわざ生きているなどと言うだろうか。
わたしは、それが何かを隠して言った、言い訳のようにしか見えなかった。
「文字通り、彼は生きていますよ」
「なら、なぜわざわざ書くのですか?」
「理由はありません。ただ本当に生きているからそう書いているわけで、
そもそも死んだ人間が立って歩くわけないでしょう」
北先生は早口でそう言って、この話題はこれで終わりとでも言いたげに、
他に質問がある人はいないか問いかけてきた。
まだ煮えきらないような顔をしながらも、アキラちゃんは席についた。
やはり、何か隠されているような空気感だった。
いつもゆったり話す北先生が、早口で話した。
それは、早く話を逸らしたいという心理の現れだ。
「先生、この養護教諭の...から始まる一文についてなのですが、
具体的に様子がおかしい状態とは、どのような状態なのでしょうか?」
カラ君が、手を上げてからそう質問をした。
確かに、そこも気になる部分だ。
きっとA先生はロボットなのだし、不具合がなんとかみたいな理由なのだろう。
「A先生はロボットなので、たまに不具合を起こします。
私も毎週しっかりメンテナンスはしていますが...
その状態の彼は何をするか分かりませんので、
目が赤く光っていた、などの場合はすぐ逃げることを心がけてください。」
北先生の回答を聞いて、わたしは鳥肌が立った。
だって、2限目に会ったA先生は
目が赤く光っていたではないか。
〜来ていない!校長の勝手に質問回答コーナー〜
Q.A先生は両性ということですが、
三人称は何を使えばいいのでしょうか?
A.僕たちは普通に”彼”って呼んでいるよ。
本人の性自認も、男性の方に寄っているんだって。
Q.”あ”(語り手)の性別はどっちですか?
A.確認してみたけど、性別の届け出は無かったよ。
だから、君が感じるように捉えればいいんじゃないかな。
参考までに、あの子の髪型はショートボブ、
制服は男子のものを着用しているよ。
【淡本町私立淡本中学校:5限目】下校、警鐘。
...やっと、待ちに待った5限目が来た。
この時間を耐えきれば、わたしはやっと家に帰ることができる。
そして5限目の内容は入る部活について。
部活の一覧の紙を渡され、顧問の教師、部員数を見てから
入る部活について検討をする。
そして明日、本格的に見学などをして入部届を出すことになる。
わたしが入りたいのは陸上部。
渡された紙を見た。陸上部は...
部員数は男子5人、女子6人の合計11人。
まあまあ多い方だ。
顧問は、まだ会ったことのない先生と...A先生?
A先生は養護教諭のはずではないだろうか。
そう思い、職員室の光景を思い出す。
きっと人手不足なのだろう。
だが、その間保健室はどうするのだろうか?
この学校はつくづく、生徒であるわたしが心配になってしまうほどお粗末だ。
「皆さん、気になる部活はありましたか?」
北先生がそう言った。そこから軽く連絡事項などを伝えられ、
いよいよ下校だ。初日は5限のみで助かった。
早く帰りたかった私は、手早く荷物をまとめた。
渡された教科書は量が多かったため、2回に分けて持って帰る。
リュックを背負い、教室を後にしようとした。
すると、後ろから声をかけられた。
振り返ってみれば、そこにいたのはカラ君。
「よ、アサ」
アサというのが、わたしのあだ名。
もとい、擬似的な改名。
流石にあの名前は不便すぎるので、本当に助かった。
「あ、カラ君。どうしたの?」
「いや、一緒に帰らないか?」
そう言ってもらえて嬉しかった。
思えば、1番最初にわたしに話しかけてくれたのが彼だった。
わたしは二つ返事で了承して、一緒に下駄箱まで向かった。
靴を履き替えると、開放感に包まれた。
明日もあるとはいえ、やっと気を休めることができる。
場合によっては転校かな、と考えながら
カラ君と一緒に校舎の外に出た。
すると、何やら1年生が集まってざわざわしている。
早く帰らないのだろうか、そう思いながら、
カラ君に早く行こうかと話しかけた。
「ちょっとアサさん、今帰れないみたいだよ」
「え?」
アキラちゃんにそう言われ、わたしは耳を疑った。
もう下校だと、北先生は言っていたではないか。
帰れないのなら、そう生徒に知らせるはずだ。
見ると、校門は閉められていて、トゲの付いた
ワイヤーのようなものが巻き付けられている。
ピンポンパンポン、腑抜けたメロディが耳を刺す。
校内放送の音が外まで響いてきているようだ。
『えー、1年生の皆さんにお知らせします。
本校は下校というシステムを採用していないため、校門は開きません。
各々校舎の好きなところで寝泊まりをお願いします。
尚、夕食は給食と同じように、運ばれてきたものを配膳して教室で食べてください。
以上、校長先生がお送りいたしましたー』
校内放送が終わった後、私たちは暫くそこから動けなかった。
2年、3年の人は何事もないかのように過ごしているようだ。
きっと心配した家族が迎えに来てくれる...
そんな希望も、わたしは忘れてしまうことになる。
〜来ていない!校長の勝手に質問回答コーナー〜
Q.美術と音楽の教師がいないようですが、授業はやらないのですか?
A.自習だよ。個人の創造性を尊重するスタイルなんで。
Q.校長先生は糸目ということですが、今後開眼はしますか?
A.チミは何を言ってるの?開眼する糸目は糸目じゃないよ。
【淡本町私立淡本中学校:6限目】慟哭、守秘された異常。
わたしは、校舎に向かって走り出した。
聞かなくてはいけない、嘘をついたあのひとに。
ただの中学校、だなんてとんでもない嘘ではないか!
突然走り出した私を、カラ君が追いかけてきた。
走りながら、わたしに聞いてくる。
「どうしたんだ!?急に走り出して」
「A先生に、聞かないと...」
「A先生、ってあの養護教諭の人か!?」
下駄箱に着き、乱雑に靴を履き替える。
上靴のかかとを踏んだまま、わたしはまた走り出した。
校則にあった、必要なときは静かに走ることという一文を思い出し、
なるべく静かに、だが素早く走った。
保健室の前に辿り着き、わたしはノックもせずに扉を開けた。
「A先生!」
「君は、アサさんだったね。後ろの君は、カラさんかな」
顔色ひとつ変えず、A先生はそう言ってカルテを取り出した。
別に具合が悪いわけではない。
ロボットなんだから、顔色が変わらないのは当然か。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
わたしはずいと一歩前に出て、できるだけ真剣な声で問いかけた。
「先生、この学校はただの中学校と仰ってましたね。
あれ、嘘だったじゃないですか」
問い詰めるわたしに、A先生は少し困った顔をする。
だが、わたしと後ろにいたカラ君の空気に押されたのか、
渋々といった様子で話し始めた。
「申し訳ないけど、私にも守秘義務があるんだ。
簡単にこの学校の目的について話すことはできなかった」
A先生の言うことは、確かに納得できるものだった。
彼だって仕事なのだから。私は少し頭に血が登っていたのかもしれない。
少なくとも、冷静ではなかった。
「先生、学校の目的ってなんですか?」
「カラ君...!今言ってたでしょ、守秘義務が...」
「いいよ、教えても。ただし、他の人には言っちゃダメだよ」
少し周囲を確認する素振りを見せてから、先生はそう言った。
本当にいいのだろうか?わたしがそう思っているそばから、先生は話し始めた。
「校長は、昔言っていたんだ。我が校の生徒は幸せになる義務があるって」
「義務、ですか」
「そう。きっと、あまりに無理やりな方法だけど、
彼なりに...生徒のことは考えているはずなんだ...でも...いつから...」
A先生は、話の途中で急に顔を曇らせ、
そのままぶつぶつと独り言を話している。
結局、この学校の本質的な部分は掴めない。
もう戻ろう、そうカラ君に目線で訴えかける。
だが何を勘違いしたか、彼はそのまま質問を続けた。
「先生、最後にひとつ。ここの卒業生は、その後どうなったか知っていますか?」
「...卒業生?ああ、確か......」
そう言い、A先生は凍りついたようにフリーズした。
「どうかしましたか?」
「いや...どうだったかな...おかしいな...これ...わたし前から勤めてるのに...
卒業式だって見たはずなんだけどな...なんで...またあいつが...」
とりとめのない言葉を発しながら、A先生は激しく頭を掻きむしる。
大丈夫ですか、そう言ってカラ君はA先生の顔を覗き込んだ。
覗き込んだ瞬間、カラ君は急にわたしの腕を掴んで、
保健室から逃げるように走り出した。
視界の端には、頭を抱えてその場にうずくまっているA先生が見えた。
先生が心配だが、今はカラ君の行動に従ったほうが良さそうだ。
「カラ君、何かあったの!?」
「A先生の目...光ってたんだ、赤く」
とりあえず校長室行こう、そう言うカラ君に同意してから、
わたしは物思いに耽る。
1番まともだと思ったA先生が、1番異常なのかもしれない。
〜来ていない!校長の勝手に質問回答コーナー〜
Q.公式ホームページの教師名簿にいる東(あずま)先生とは誰ですか?
A.さあ、誰だったかな。僕、そんなひと雇った覚えないよ。
Q.それぞれの教師の悩みを教えてください
A.僕→若いこと
A先生→ギガ足りてない(忘れっぽい)こと
西先生→腕片方無いからグーチョキパーで何も作れないこと
北先生→レモンかけられたら一時消滅すること
南先生→情緒不安定なこと
【淡本町私立淡本中学校】マジで来た!校長の質問回答コーナー
この回は普段の物語の幕間のようなものです。
マジで質問が来た場合、このような形式で
取り上げさせていただくかもしれません。
(ただし、物語の核心を突く質問はその限りでない。)
校長は、いつものように何も入っていないポストを確認した。
するとおかしなことに、一通の手紙が入っていた。
少し驚きつつも、職員室に歩きながら内容をざっと見る。
要約すると、本校に入学したい。どうやれば入学できるのか?
という内容であった。ここまではいいが、校長はすこし恐怖心を覚えていた。
「うちの学校、所在地不明なんだけどね...」
どこからか住所が漏れた、ということだろうか。
なら、うちの教員がやったに違いない。
考えるまでもなく、こういうことをするのはA先生だろうが。
あいつ、本当にスクラップにして廃棄所送りにしようかな。
物騒なことを考えながらも、校長は返信の手紙を書き始めた。
”うちの学校の募集要項はこちらです。チミに当てはまっているか教えます。
まず、12歳から15歳であること。これは当てはまるだろうね、じゃないと
こんな手紙出さないだろうから。次に、淡本町在住であること。
これ、チミは当てはまってないよね。だって、そんな町無いからね。
そして、最後の募集要項。内容は教えることができない。が、チミは当てはまらない。
よって、うちへの入学は不可能だ。ごめんね。
p.s. チミにあって本校の生徒にないものなーんだ”
一通り書き終わり、校長は職員室の椅子の上で小さく伸びをした。
すると、扉が開く音がした。校長が振り返ると、そこには北先生がいた。
「校長、こんなところにいたんですね」
「ああ、北先生。チミA先生のメンテって何してるわけ?
A先生が本校の住所漏洩してる疑いがあるんだけど」
「そうなんですか?いえ、しっかりとメンテしてるはずなのですが」
珍しく、北先生は少し慌てた表情をする。
そんな北先生に、校長は今あった出来事をすべて話した。
すると、北先生が言った。
「本校のホームページに、コメントが来ていましたよ。
ようやくみつけた、いまそちらにむかいます...と」
「わお」
校長は内心で冷や汗ダラダラだった。
来られたらやばいかも、通報されたら僕はお縄につくかもしれない。
「まいったなー...」
【淡本町私立淡本中学校:7限目】探求、響く足音。
私たちはA先生の異常を伝えるために、校長室に駆け込んだ。
緊急なので、ノックはしない。勢いよく扉を開けると、
そこには誰もいなかった。間が悪く、校長先生は不在のようだった。
「まずいな、早く見つけないと。A先生が心配だ」
わたしは、校長室で校長を待っているように言われた。
カラ君は、校舎内を走り回って校長を探しに行くと言って、
校長室を後にした。
ひとりになり、一通り辺りを見渡してみた。
すると、棚の上に放置されている名札を見つけた。
気になって手に取ってみると、そこに書いてあったのは見覚えのない教師の名前。
「東...ケッカ?結果ってことかな」
独り言のように言ってみる。だが、確かにここの教師には
名前に規則性があるように思える。
西、北、南、そして、東。
下の名前にも、一定の規則性がある。
西先生の下の名前はマツロ。恐らく、末路を意味する。
北先生はマツビ。末尾を意味していると思われる。
南先生の下の名前はケツビ。こちらも、多分結尾のことだ。
そして、東ケッカ。これは結果ということだろう。
すべて、物事の終わりを意味する言葉だ。
だが、それに気がついたところでなんなのだろうか。
そういえば、A先生は方角の要素も無いし、終わりという意味も無い。
それもやはり、ロボットだからなのだろうか...
名札を棚の上に戻した瞬間、校長先生が入ってきた。
中にいたわたしに一瞬驚いたような顔を見せるも、
すぐにいつものフレンドリーな笑顔に戻る。
「やあアサさん、ごめんね。何かご用だったかな?」
「よかった、A先生の様子がおかしくて...」
「それは大変だ、すぐ行こう。チミも、心配ならついてきていいよ」
ふたりで校長室を出ると、走ってくるカラ君が見えた。
「カラ君!もう大丈夫、ありがとう」
「よかった...校長先生、おれもついていっていいですか?」
「うーん、チミはダメ」
さ、行こう。校長先生にそう言われ、私はカラ君のことが
少し気になりながらも、保健室に歩き出した。
しかし、なぜ私はついて行っていいのに
カラ君はダメと言われたのだろうか?
保健室に着くと、もはやうずくまる体力すら無いようで、
その場に倒れ込んでいるA先生がいた。
校長先生はすぐに駆け寄って、A先生の首元のチョーカーに手をかける。
チョーカーにはありがちな電源マークが描かれており、
再起動でもするのだろう。
少しすると、A先生が目を開けた。
「こ、校長?ぼくは一体何を」
「大丈夫?A先生。チミ倒れてたんだよ?」
「A...ああ、大丈夫です」
違和感のある会話をしながらも、一応は大丈夫なようだ。
A先生は私の方を見てから、申し訳なさそうな顔をして話し始める。
「アサさん、情けないところを見せてしまったね。
養護教諭が倒れて、生徒に助けを呼んでもらうなんて...」
「いえ、困ったときはお互い様です。それで、もう大丈夫ですか?」
「うん、私は大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
これで、この騒動は丸く収まった...はずだ。
だが、わたしには少しひっかかることがあった。
A先生の一人称が、一瞬”ぼく”に変わっていたこと。
いつもは赤いはずの目が、灰色だったこと。
旧量産型タイプAとは:
既に生産が終了している、両性タイプの医療ロボット。
病院の医師や看護師、もしくはカウンセラーなどとして
医療現場で多く使われていた。
男女どちらの性も併せ持つため、男性も女性も安心して
悩みを話すことができると好評であった。
だが、工場の老朽化などで生産が終了した矢先、
タイプAに仕事を奪われた医療従事者たちが、
片っ端からタイプAを破棄していってしまった。
最終的に、淡本中学校で働いている個体が最後の1体になった。
タイプAには、モデルとなった人物はいないと記録されている。
ただそれは、そう記録されているだけであって、
開発者が嘘をついている可能性なども、かつてメディアで取り上げられた。
タイプAの開発が始まる少し前に、ある市内では
ビジネスホテルで謎の死を遂げる変死事件が相次いだ。