ここは、役に立てなかった道具達の、最期の宿
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目次
エピローグ
「あの人のことを、守れなかった・・・」
「最期に、また会いたいの」
「僕は、なんのためにいたのか分からなくて。」
ここは、持ち主と別れを告げた道具たちの、最期の宿。
役割を果たせなかったモノ。主人への憶いを募らせるモノ。
実に様々な道具がやってくる、この『八百万荘』の女将は彼らの最期の話し相手。
道具たちは、どんな思い出をもって旅立つのか。
ただ、この宿に泊まった道具たちは、清々した顔で旅立つという噂だけが流れ続けている。
「いらっしゃいませぇ。」
※道具達の思い出には、残酷な内容が含まれることが考えられます。
苦手な方はバク転で帰っていただくのがおすすめです。
1.迷子の風船
ちりり・・・
ドアに吊られた小ぶりな鈴が、客の存在を知らせた。
「いらっしゃいませぇ」
間伸びした声が宿の受付から響き渡る。
女将の声はいつだってよく通るのだ。
「あの、えっと、予約、は・・・してないんですけれど・・・」
どもりがちな、頼りない声がポツリと落とされる。
完全に女将の声に気圧され、すっかり縮み込んでいるようだ。
今日のお客は、赤い風船だった。
「はい、何日お泊まりになりますかぁ」
「えっと、泊まるつもりじゃなくて、その、道を聞きたくて」
「うんうん、1泊2日ですねぇ」
「話聞いてました・・・?」
一方女将は、聞いてますよぉ、と適当にすら聞こえる返事を返す。
風船は不安だった。主人とはぐれて彷徨っていたら、なぜかここに来てしまった。
だから道を聞こうと思ってドアを開けたらこれだ。
全く話を聞かずに、勝手に泊まる方向で話を進める女将しか居ない。
こんなに広い宿なら、もう何人かは人が居たって良いはずだ。
助けを求める視線が右往左往し、他のまともな人間を探す。が。
全く人の気配がしない。本当に目の前のこの人以外に人間が居ない。
自分はもしや、とんでもない所まで来てしまったのではないかと思った時、
風船は自分の目の前に女将が立っていることに気づいた。
「もしもしぃ?」
「ヒィ・・・」
全くもって生きた心地がしない。なんだこのバケモンは。
「じゃあ2階のこのお部屋があなたの泊まる部屋ですからねぇ〜」
「えっ、いや、だから泊まらないって・・・!」
しかも、考えている最中にも話は進んでいた。
「鍵はこちらでぇす。夕飯は部屋にお運びしますねぇ」
「あっ」
居ない。反論の余地も与えずに居なくなった。本当になんなんだ。
掌に残された部屋鍵を握り締めて、風船は立ち尽くすほかなかった。