名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
月の麓に集まって 第一話「新学期のあの日」
月下人狼の新二次創作
やっと再開します
beri視点
透き通るような青空
少しばかり暖かく熱を持った風
鳥の影が目の前を過ぎる
キーンコーンカーンコーン
私は高校に上がって、初めての進級を迎えた
つまりは高校2年生になったのだ
「今年も一緒のクラスになれたね!べり!」
去年から仲良くしてるフェンリルだ
出席番号が遠いせいで、座席は距離があるのだが…
「このあとどっかいこーよー!」
大きな声を出してこちらまで届く声量で話しかけてくる
「先生来るからちょっと黙ってろって…!」
私がそう言い終えたタイミングだった
沈黙に教室のドアが擦れる音が響く
「はじめまして」
「2年1組を担当することになりました、後藤です」
全く顔も見たことのない先生だ
今年から入ってきたのだろうか
後藤先生は後ろを向くと新品のチョークを手に取った
黒板には|後藤 貴之《ごとう たかゆき》と書かれている
「1年間よろしくお願いします」
なぜかあまりいい気はしなかった
去年も男の先生だったから?
クラスに華がねぇってか!
そんな事を考えていた
休み時間に入ると真っ先にフェンリルがこちらに向かってきた
正直、私は今年こそ新しい友達を作りたいと思っている
なのでフェンリルをちょっと無視さえしようと思っていた
「ねえべり僕あの人と話してみたい」
そう言ってフェンリルが目配せした先にいたのは時雨だった
私は去年委員会が一緒で名前だけ知っていたが、あまり話したことはなかった
フェンリルにとっては初対面なのになぜこんなことを急に言いだしたんだろう
「あそこの自己紹介カード見て?」
時雨の名前が書かれた自己紹介カードの趣味の欄には見覚えのあるゲームが書かれていた
確かフェンリルが好きだったはずだ
私はそういうことかいと少しがっかりしたような気でいた
「おーい!フェンリルもべりもいんじゃんここ」
「俺マジで最悪だわ」
話を割るように来たのはFlareだ
2年1組にFlareはいなかったはずだが…
「マジで聞いてほしいんだけどさ」
「だーれも知り合いいないんだよ3組」
「俺何かした??」
相当酷いクラスだったんだろう
今までにないくらいの勢いでFlareは話し始めた
「俺1組が良かったーー!!!」
「え、まってここ時雨もいんじゃん」
「もう無理だわ俺」
ここで時雨の名前が出るとは思ってなかった
まさかの友人だったらしい
「Flare時雨知ってんの!?」
「僕あの人と話してみたいんだよね」
フェンリルはそこに食いつきFlareと話始めた
しかし急に周りで話していた人たちがいなくなり、違和感を覚える
私が腕時計を確認した頃にはもう少し遅かった
休み時間終了の鐘が鳴ってしまった
「やべっ俺戻るわ」
Flareは3組の方まで走っていった
フェンリルと急いで席に着く頃、担任が教室に入ってくる
「今日は初日だからね、先生が号令かけますよ」
「はいみんな、起立」
まだ少し休み時間の余韻が残る教室に先生の号令がかかる
なんだか慣れないような気がする
そうして始まった1時間目
まずは自己紹介をするらしい
出席番号順に前に経って自己紹介をしていくパターンらしい
どうしよう
終わった
私はそこまで苗字が早いわけでもないくせに
このクラスにあ行が少なすぎるせいで私の前には片手で数えるほどしか人がいない
そうして焦る私を見ながらフェンリルはニヤついている
あいつ絶対に許さない
「では時雨くんから、どうぞ」
時雨…?
そうか、あいつが一番早いんだ
フェンリルがニヤついていた理由はこれだったのかもしれない
そう思うと少し申し訳なくなってきた
「時雨です」
「ゲームが好きです」
「1年間よろしくお願いします」
そうして担任が先陣を切って拍手をする
それに続いて生徒たちも手を叩く
完璧だ
自己紹介の流れとして申し分ない
名前、趣味、そして挨拶
このまま私のところまで来い!
そう願った
「こ、こんちゃ」
「えぇっと趣味はいっぱいあるんですけど、まあ?特に好きなのは?まあいっぱいあって選べないんですけど?」
「えっと出身中学は…」
終わったーーーー!!!
終わりだ!
名前すら言わず趣味も結局言わず
別に2年生になった今そこまで関係ない出身中学の話を持ち出してきた
頼む次のやつ
お願いだから挽回してくれ
「田中です」
「よろ」
なんだなんだ
なんだんだこれは
妙にスカした若干痛いやつだ
修学旅行の班決めとかで余ったりしそうなやつだ
「次はberiさんかな」
まずい
ぼーっとしていた
何も考えていないし、この流れはまずい
恐る恐る席を立つ
気持ちゆっくり歩いて時間を稼いだが何も頭に浮かばない
その間も足は動き、もう目の前にはおおよそ30人のクラスメイトがいた
「beriです」
「趣味はネイルチップとかゲームとかです」
「よろしくお願いします」
なんだー!とかってなんだよとかって
同じ言葉を2度使うな気持ち悪い!
自己反省会をしながら自席につく
これ、毎年やってる気がする
そうしてその後も続いた自己紹介を聞き終えた
正直言って名前なんてちゃんと覚えてない
はじめの数人以外ね
自分の番が終わると気が抜けて頭に入ってこないものである
キーンコーンカーンコーン
30人の自己紹介をしたんだ
そりゃあ時間だって押すだろう
担任が口を開いた途端にチャイムが鳴ってしまった
「あぁ、えっと、それでは起立」
何か言いたげだったように見えるがなんとか1時間目は終わらせることができた
そして、その後はびっくりするくらい何もなかった
学年集会や教科書の確認があったくらいだ
私はフェンリルとFlareと一緒に家に帰ることにした
年齢操作はゆるしてちょ!!
じゃないと学園系は難しいんでね…
月の麓に集まって 第二話「異変」
beriはフェンリルとFlareと一緒に家に帰ることにした…
---
フェンリル視点
ドキドキワクワクって感じももうないけど
なんとか新学期は始まった
Flareとberiと一緒にいつもの帰り道を歩いている
「ねえ駅前の新しいゲーセン行かない??」
beriが言った
beriのことだからカフェとかご飯かと思ったんだけど
まさかのゲーセン
僕的にはそっちのほうが助かるんだけどね
「いいよ!!いこいこ!!」
割とそのまま帰りたそうにしていたFlareの手を引いてゲーセンに向かった
入店すると同時に耳に響く音楽、効果音…
これゲーセンって感じがして結構好き
新しくできたというだけあって内装はとても綺麗だ
「私これやりたかったの!一緒にやろうよ」
beriがそう言って向かった先にはどこにでもありそうな釣りのゲームがあった
長方形に長く、反対側には同じ制服を着た2人組が見える
「私が誘ったからね〜今日は私の奢りだよ!ちょっと待ってなね」
そう言うとberiはメダル貸出機の方へ行ってしまった
Flareと取り残されてしまったがメダルがなければ何もすることがない
やり方だけでも見ておこうと思い反対側にいる同じ制服を着た二人組に目をやった
「うわーガチミスったあああああ!」
「やばいwwもう奏者コインほとんどないよ?ww」
「Sereが最初に注ぎ込みすぎたせいじゃないのぉ!?」
「違うでしょ!早く帰って勉強しなっていう神からのお告げじゃない?w」
顔を知らないので、多分1年生か3年生なんだと思う
すごく仲の良さそうな2人組だ
「べり戻ってきたよ」
一緒に2人組を眺めていたFlareが口を開いた
べりはメダル用のバケツ3つににいっぱいメダルを詰めて帰ってきた
「すごい量!いくらしたんだよこれ」
「えー?10000円くらい?」
「べり金ないんじゃなかったの…?」
「最近バイト始めたんだよ!さあさあ遊べ遊べ〜」
普段から金がない金がないと喚いていたberiがここまで奮発してくれるなんて思ってなかった
正直期待してなかった
でも!これだけの量で遊べるんだから!
人の金だし楽しまないとね
beriはコインを鷲掴みにすると慣れた手つきでドンドン投入していく
さながらパチカスみたいだ
それに続いて僕もFlareもコインを入れていった
「あーもう!!全部なくなっちゃったじゃんSere!このヘタクソ!」
「だ、だから私のせいじゃないって」
Sereと呼ばれる生徒と目が合った
少し嫌な予感がする
「えっと…そこの君?コツ教えてあげるからさ…ちょっと取引しない?」
Flareとberiと顔を見合わせた
多分コインと引き換えにコツを教えてやろうってことだよね…?
「いいんじゃない?ほらコインいっぱいあるし」
そう言ったのはberiだった
beriに言われたんじゃ仕方がない
beriのお金で買ったコインだしね
「いいですよ」
「何枚欲しいんですか?」
「ガチ!?Sereやるじゃん!!」
「じゃあ30枚くらい!!」
「奏者落ち着いて…」
そうして僕たちはコイン30枚と引き換えにこのゲームのコツを教えてもらった
その後もなんやかんやあって、3時間くらいはこの2人組と一緒に遊んでいた…
「あ、俺そろそろ帰んなきゃ怒られる」
Flareが帰るということで全員一緒にゲーセンを出た
「今日はありがとねー!楽しかったよーー!!」
2人組にもお別れをして3人で駅に向かった
改札を通りホームに出るとちょうど電車が来た
始めにberiが降り、次の駅でFlareが降りる
この3人の中で一番学校から家が遠いのは僕だ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
電車が停まるたびに人は減っていく
広々と席が使えるから、こんな電車通学も僕は嫌いじゃない
リュックから英単語帳を取り出し、適当にパラパラ開いてみる
「2年生はここからかな…」
本当に誰もいなくなった電車でなら独り言だって言えてしまう
そこから特に覚えようと単語を見るのではなく、ただただ眺めるように目を滑らせた
「終点です」
僕は単語帳を閉じ、電車を降りた
シーンとした空気
人の気配はほとんどない
まあこんな山の中だもんね
そりゃ誰もいないさ
ずっとこんなところにいるのもどうかと思ってわざわざ遠くの高校を選んだ
そのおかげで通学には片道2,3時間掛かっちゃうんだけどね
家までまだ遠いので、駅前のバス停でバスを待つ
あと30分で来るらしい
1年経ったけれどこのバスを待つ時間は慣れない
なんて言うんだろう、ちょっと怖い気がしちゃう
そして10分ほど経った頃だった
ふと下を向いてみると、自分の立っている場所を中心に黒いもやが広がって見えた
「なにこれ!?」
最初は自分の真上だけ雨でも降り出したかと思った
けどそういうわけではないみたい
もやはだんだん広がっていく
だんだん怖くなって僕はその場から逃げ出した
その時だった
もやは逃げる僕を追いかけるように急激に広がった
次の瞬間僕の視界はガクンと下がった
足に地を踏む感覚がない
僕の背負っていたリュックが頭上に見えた
落ちる
僕は本能的にそう察した
月の麓に集まって 第三話「欠けた日常」
Flare視点
家に帰ってスマホを開く
LI◯Eの通知が来ていた
beriからだ
<「今日楽しかったー!ありがとう!」
<「また今度どこか行こうね!」
このグループLI◯Eにはフェンリルもいるはずなんだが、まだ返事は来ていないようだった
「beriの奢りならいいよ」>
<「え!?また!?お金なくなっちゃうよ😭」
流れ作業でYou◯ubeでショート動画を見ているうちに、夜ご飯の時間になった
夜ご飯を食べても、風呂から出てもフェンリルからの返事は来なかった
ここまで気にするのはフェンリルはいつも即レスと言っていいほど返事が早いからだと思う
ピロン
LI◯E通知だ
<「フェンリル明日提出の課題先生なんて言ってたっけ?」
なんだよberiかよと少しがっかりした
でも明らかにフェンリル当てのメッセージに返信がないのはあいつにしてはおかしい
「フェンリル死んだ?」>
<「まだ家着いてないのかも?」
<「あ、でもフェンリルいつもどこにお構いなしで返ってくるか」
beriも何かしらの違和感は感じているらしい
でも特にできることもないので、今日はもう寝ることにした
---
次の日
---
遠くでアラームの音が聞こえる
…まだ眠い
…
…
…
---
beri視点
フェンリルが心配で、いつもより早く駅に来てしまった
フェンリルと普段合流する駅だ
Flareもここに来るはずだけど何も連絡せずに早く来てしまったものだから、あとで何か言っておこう
電車から降りて、改札を出る
もう30分ほど待っているがフェンリルは来なかった
「フェンリル来ないんだけど」>
「Flare視点も来ないの?」>
返事が来ない
そろそろ行かなきゃ学校に遅刻してしまう
あとからちゃんと来てくれることを信じて私は学校へ向かった
校門に着くとそこには担任が立っていた
まるで誰かを探すみたいにキョロキョロしている
なんとなく見つかりたくない気がして、他の人たちに紛れて校門を通ろうした
「あ、beriさんだよね」
「ちょっとお話があるんだけど良いかな」
「え…いいですけど」
ちょっと待ってくれよ
まだ新学期始まって1日しか経ってないぞ??
もう既に何かやらかしてしまったのかと思うと冷や汗が止まらない
校舎へ歩いていく生徒たちを横目に見ながら私は職員室まで案内された
「失礼します…」
普段嗅ぐのとは違う匂い
少し張り詰めたような空気
大人しかいない、仲のいい人は誰もいない空間という不安感
職員室は少し苦手だ
先生は私をその場で待つように言うと椅子を2つ持ってきた
向かい合わせるようにして先生は椅子を置く
「座って」
「フェンリル君のことなんだけどさ」
手に汗がにじんだ
別に身に覚えがあるとかではないのだけど、少し身構えてしまう
フェンリルに何かあったんだろうか
「はい…」
「親御さんから捜索願いが出ててね、何か知ってることはないかな?」
「beriさんがフェンリル君と仲がいいと言うのを聞いてね…」
知ってること…?
知ってることが多いんだけども、今ここで必要な情報が出せる気はしない
「知ってることと言いますと?」
「昨日帰るときとかに何かなかったかな」
「昨日は駅で別れて、そこからは知りません…」
キーンコーンカーンコーン…
朝礼の始まるチャイムが鳴った
「そうだったか、ごめんね急に」
「ありがとね」
「これだけだよ」
「フェンリルに何かあったんですか…?」
「まだ家に帰ってきていないらしいんだよ」
「心配なのはわかるけど、落ち着いて待っててね」
落ち着いてってなんだよ…?
そう思う気持ちを抑えながら私は職員室を出た
朝礼は生徒達だけで進められており、もう全て終わったようだ
私が教室に入って自席に着くと、しばらくして担任も教室に入ってきた
「今日提出の課題は帰りに集めます」
「連絡は以上です」
「欠席者の確認をしたいので一度席に着いてください」
そう言われ自由に移動していたクラスメイトたちは席に戻った
フェンリルの席だけぽかんと空いていた
そういえばFlareも朝見なかったんだった
不安に不安が重なった
月の麓に集まって 第四話「捜索」
親友2人の姿が見えず、beriは不安だらけの朝を迎えた…
---
Flare視点
眩しい光を瞼越しに感じる
「何時だ…?」
枕元のスマホを持ち上げる
そこには8時30分の表示があった
朝礼が始まる時間だ
つまり遅刻確定!
急激に学校へ行く気がなくなった
このまま寝過ごしてしまおうかとさえ思った
が
流石にフェンリルが心配ということで重い体を起こした
朝食は食べる時間もないので菓子パンをひとつ入れたリュックを背負って家を出る
ギリギリのところで電車に駆け込み、早歩きで学校まで向かった
職員室に遅刻の届けを出し、俺が教室に着いたのは1時間目が始まってしばらく経った頃だった
できるだけ音を立てずにそっと教室のドアを開ける
「Flareさん遅刻ですか」
俺を見るなり担任のババアが全員の前でそう言った
もう帰りたい
小さくうなずき教室に入る
自分の席に着くも全く居心地が良くない
ほんとなんで3組になんてなっちゃったんだろ
授業が終わり休み時間になると、beriが教室まで駆け込んできた
「Flare!!来てた!よかった!!」
「あぁごめん朝寝坊した」
「それよりフェンリル見てない?」
beriがこんなことを言うってことは、フェンリルは学校に来ていないんだろう
やっぱり昨日何かあったのかもしれない
「見てない」
beriの目の縁に、一瞬涙が滲んだように見えた
「フェンリル捜索願い出てるんだって」
「私探しに行く、今日早退」
「え、嘘でしょ正気?」
「ほっとくの?Flareは」
「…」
俺に何かできることがあるだろうか
考えても、特に何も思い浮かばない
どこに行ったのかだってわからないし
あまりに身勝手な行動をするberiについていく気にはなれなかった
俺が返事をする前にberiは行ってしまった
別にフェンリルがどうでもいいとかそんなのじゃない
なんだか腹が立ってくる
誰に対してなのかは自分でもわからない
---
beri視点
私はカイロを温めながら保健室に行った
しばらくそれを脇に挟んでおき、体温計で38度という高熱を叩き出すことに成功した
家に親はいないから一人で帰りますと保健室の先生に告げ、私は無事に学校を早退することができた
駅前のゲームセンターに、自販機の前
コンビニの裏や普段行かない住宅街など
色んなところを練り歩いてフェンリルを探した
なぜか見たことのある顔の先生が歩いているのを見た
しかし本物のフェンリルは見つからなかった
スマホのマップアプリを開いて、まだ行ってないところを探した
相当集中していたんだろう
私は後ろから近づく気配に気付かなかった
「こんにちは」
「昨日の人だよね?何してるのこんな時間に」
そう言いながら肩を叩いてきたのは昨日ゲーセンにいたあの2人組だった
何してるのこんな時間にはこちらのセリフなんだが…
振り返ってみると2人の手には大きな袋とゴミ拾い用のトングが握られていた
「まだ学校授業中でしょ?サボり?」
「こら!サボりとか言わないの奏者」
そうだ、3年生は今日駅前のゴミ拾いをやっているんだった
「何か探してるみたいだけど大丈夫?」
「えぇ…っと…」
「フェンリルを探してて…」
「昨日一緒にいた男の子だよね?奏者知ってる?」
「知らなーい」
「あの後は見てないよ」
そうか…
誰も見てないんだ
本当にどこに行ってしまったんだろう
「最近物騒な事件多いし、早いとこ家帰んな?」
「というわけで私たちはゴミ拾いあるから、じゃあね」
「ちょっ!奏者待てって!」
駅前でなんの収穫も得られなかった私は、フェンリルの家のほうまで行ってみることにした
前に一度行ったことがあるので大体は道を覚えている
定期券が使えないので、切符を買い電車に乗る
だんだん建物が少なくなり、畑や緑が増えてくる
長い間電車に乗り続けたどり着いた終点には、1人だけスーツを着た男が立っているのが見えた
その男は私と目が合うなり駅から離れ、山の神社へと姿を消した
少し気味が悪いものを見たが無事にフェンリルの家の最寄り駅までは到着することができた
この駅のすぐ近くにバス停があったはずだ
そう思い周りを見渡してみるとバス停…と、その下に落ちている黒のリュックが見えた
リュックの上でキラリと光るキーホルダー
あれはフェンリルの誕生日に私が買ったものだ
間違いない
あれはフェンリルのリュックだ
額から汗が止まらなくなった
私は震えて半分動かなくなったような足を、バタつかせるようにバス停まで歩きその場で崩れ落ちた
「なんで…?どうしてここにリュックだけ…?」
私の中で考えられる最悪の事態がいくつも浮かんでは消えた
フェンリルは誰かに攫われてしまったのだろうか?
それとも電車に…?
電車じゃないならバスに…?
いやいやそんなはずはない…
私はスマホを取り出しフェンリルのリュックの写真を撮った
そして、フェンリルとFlareのいるグループLI◯Eにそれを送った
今は昼休みの時間だから、もしかしたらFlareから返信が来るかもしれない
Flareはそんな私の期待を裏切らなかった
<「これフェンリルのリュックじゃね?どこにあったの」
「フェンリルの最寄り駅前のバス停」>
<「怖すぎだろ…俺もガチで心配になってきた」
<「でもフェンリルのことだからね、きっと大丈夫だよ」
Flareからそう返信があって少し落ち着いた
私はフェンリルのリュックを背負い、自分のスクールバックをその上からかけ直した
次に行く場所は決めている
あの神社だ
元々の設定がある方とかいらっしゃると思うんですけど、この小説に出る時点である程度無視されるのは許してほしいです!
それと複数垢ある方に関してなんですが基本的にみんな一般的に知られてる名前のほう一筋でやっていきます
サブ垢も出演とかはしないです
これらに関してもしどうしてもっていうものがあったら、それはまた別で相談してください!
月の麓に集まって 第六話「大きく吠えて」
beriは山の神社へと向かうことにした…
---
フェンリル視点
「いってぇ…」
結構な高さ落ちたのか
背中には強い痛みが残り、腰も完全にやっている
痛みに耐え目を開く
そこは光ひとつない真っ暗な空間が広がっていた
今持っているものはポケットに入れていたスマホだけ
生憎インターネットには繋がらない
そして背負っていたリュックはなぜか持ってない
スマホのライト機能を使い辺りを照らしてみる
「わっ!?ネズミ!?」
目の前をネズミほどの大きさの影が通過した
早くここから出なければ
少し移動してみようと思いその場で体を起こす
背中と腰にピリピリとした痛みが走る
なんとか壁をつたって立ち上がり、スマホのライトを頼りに前へ進んだ
といってもどっちが前でどっち後ろなのか全くわからないけど…
そこから少し歩いたところだった
目の前に壁が現れた
その壁をまたつたって歩いてみたが、またまた目の前に壁が現れた
そこで僕はやっと広い部屋のようなものに閉じ込められていることを悟った
そしてここに落ちたときから謎の違和感がある
まるで現実味がないのだ
わかりやすくいえば夢を見ているような気分
それもめちゃくちゃ鮮明な夢
感覚は全部完璧にあるし、夢あるあるの視界のぼやけとかもない
けれどなにかがおかしい気がする
そんな事を考えていると僕がまだ見ていない方の壁にはドアがあったらしく、そこが少し開いて薄く光が差し込んだ
僕は一気に怖くなった
ドアの向こうには長身のスーツを着た男が立っていた
シルエットしか見えないので顔はよくわからない
「ここ、開けておくからね」
「早く出な」
以外にもその男は優しい口調で話しかけてきた
しかし完全に怯えた僕はその語りかけに返答をすることはできなかった
僕は何も言わないことを確認すると男はいなくなった
早く出ろと言われても、出入り口はドア一つしか見当たらない
仕方なく僕は男が立っていたドアへ向かった
ドアの先に男はもういなかった
別の部屋へと繋がっており、その部屋には大量のビデオテープが並べられていた
中央にはプレーヤーとテレビが置かれたテーブルもある
テーブルに近寄ってみると、プレーヤーの前にひとつのビデオテープが置いてあった
そのビデオテープにはなんと僕の名前が書かれている
こんな気になるビデオテープ、見るしかないじゃないか
プレーヤーにビデオテープをセットするとテレビに映像が流れ始めた
これは…僕の家の最寄り駅
ちょうどそこに電車が来たようだ
「えっ!?これ僕?」
その電車から降りてきたのは自分だった
そして画面の中の自分は電車から降り、道を渡ってすぐのバス停まで…
その時、道にとてつもないスピードでトラックが突っ込んできた
道を歩いていた自分は、そのトラックに跳ねられ画面外にまで飛んでいった
「なにこれ…」
これは趣味の悪いCG?
それとも最近流行りのAIの動画?
なんにせよ、こんなビデオテープが大量に並べてあるところに長居したくない
次の部屋へと続くドアを開ける
ドアの隙間からひんやり冷たい空気が流れ込む
ここにも男の姿は見当たらない
どうやらここは牢屋らしく、鉄格子の付いた部屋がいくつも続いている
どうしてこうも関係なさそうな部屋がくっついているんだろうか
僕が無心で歩き始めた時だった
「あ、ねえ!そこの君!」
「ここから出して!お願い!」
たしかにそう聞こえたのだが人の姿はどこにも見当たらない
何かいるとしたら、牢屋に入れられた大型犬が一匹いるだけだ
「私だよ私!」
「見えてるでしょ!ほら目が合ったよ!」
犬は尻尾をバタつかせ、首に繋がれた鎖をじゃらじゃら鳴らしている
「犬が…?喋った…?」
「犬じゃない!!」
「立派な人間だぁ!」
何を言っているんだこの犬は…?
もしかしてこれは罠で、この犬は敵なのか…?
「もしかしてお前、敵なんじゃないのか!?」
「捕まってんのに敵なわけねーだろ!!!」
「君もここから出たいでしょ?案内してあげるから!」
どうにも怪しい犬だが、出口まで案内してあげるという言葉に負けてしまった
すぐ横に掛けてあった鍵を使い、牢屋から出してやった
「ありがとう…!」
「じゃあ案内してあげるから、付いてきてね」
「君、名前は?」
「僕はフェンリル」
「君は?」
「名前…?」
「思い出せない…」
名前が思い出せない?
もしかしてあの男の仕業か?
「じゃあ…わんことかどう?」
「だから私は犬なんかじゃあ…」
わんこがそう言いかけた瞬間、巨大な破裂音と共に後ろの壁が崩れ始めた
暗闇からこちらを覗く1対の赤い目
「殺される」と本能的に思わせてくる
「まずい見つかった!」
「逃げるよ!!」
「ええわんこ待って」
崩れた壁を踏み越えてわんこは颯爽と駆け抜けていく
そんなわんこの後を追って僕も走ろうとした
しかし背中と腰を思い切り打ち付けた影響でうまくその場から踏み出すことができなかった
「いててでぇっ…」
「脱走者、確保しました」
「やめっ!やめろ!」
「はなせ!!」
わんこはドアの前で立ち止まりこちらを向いた
「ああもう!何してるの!」
「ちょっと痺れるけど我慢してね」
あたりに白い霧がもくもくと立ち込める
だんだんと鼻がピリピリしてきて、ついには体が言うことを効かなくなった
「え…わんこ…なにして…」
「いいから行くよ!」
どうやらこの霧は敵も同様の効果があったらしく、僕は地面にどさっと落とされた
わんこに片腕を噛まれ、ゆっくりドアの向こうまで引っ張られる
「よっこらしょー!」
わんこが勢いよくドアを閉めた
「ここまで来れば大丈夫」
わんこのよだれでびしょびしょになった左腕をハンカチで拭いた
それを見たわんこは少し不服そうな顔をしている
「たすけてあげたんだけどなー」
「そんな態度かあー」
「ごめん、ありがとう」
そうは言ってみたものの、全く理解が追いついていない
何が起きたんだ
結局この犬はなんなんだ
僕を捕まえたやつもわからないし
あの壁をぶっ壊してきたやつ?あれもまったく分からない
「とにかく…フェンリル?だっけ」
「君はもうここに来ちゃだめだよ」
「う、うん…」
「わかったならさっさと行きな!」
わんこの声に押され、僕はすぐ横にあった階段を上がった
異能力は今までのシリーズのものを基本にしながら今回のシリーズにあうように改変したものにしようと思っています
全く元の原型がないほど変わる人もいるかもしれないです
月の麓に集まって 第五話「二次遭難」
Flare視点
学校が終わってすぐに、俺は教室を飛び出した
beriからの連絡を見るにフェンリルの最寄り駅に行ったんだろう
階段を駆け下り無い体力で駅まで走る
駆け込み乗車で電車に飛び乗った
長い間電車に揺られ、たどり着いた終点にberiの姿はない
フェンリルのリュックもない
おそらくフェンリルのリュックを回収したままberiはどこかへ行ってしまったんだろう
「beri今どこにいる?」>
「学校終わったからフェンリルの最寄り駅まで来てる」>
<「今神社で探してる」
<「でもいなそうだから、そろそろ帰ろうと思ってる」
beriの返信を見た俺は神社に迎えに行こうと思い足を進めた
しかし長い階段を目の前にし、登る気力が失せてきた
それでもberiはずっと前から一人でここに来ているんだ
自分はなにも手伝えていなかったという無力感、申し訳なさが俺を登らせた
一番頂上には青い空と対比をなすように紅い鳥居がそびえ立っている
周りを取り囲むように生えた木々が風に揺られ音を立てる
周囲があまりに静かだから自然の音がよく響く場所だ
鳥居をくぐると少し質素な本殿が建っていた
屋根はボロボロ、目の前に置かれた賽銭箱は手が入りそうなくらいの穴が空いている
「beri今どこにいるの?」>
山の上にぽつんと経った神社だから、行けばすぐ見つかると思ってた
しかしどこを見てもいない
だから俺はそう聞いてみることにした
少し辺りを|彷徨き《うろつき》ながら返事を待つが一向に返ってこない
フェンリルを探しに行ったberiを探しに行くなんて訳がわからない状況になってしまった
このままではフェンリルを探しに行ったberiを探しに行ったFlareを探しに行く人が現れてしまうかもしれない
このあたりからただならぬ気配を感じた俺はすぐに階段を降り電車を待った
次の電車は1時間後
スマホで時間を潰そうと思い、普段はあまり見ないがニュースを開いてみる
政治、ゲーム、政治、事故
動物、情勢、ゲーム、事件
ジャンルも毛色も違う記事たちが並ぶ中、ひときわ目を引くものがあった
---
◯◯◯県◯◯市で◯◯小学校に勤める教員3名が突然死
△△県での突然死と関係性アリか
---
突然死とだけ書かれるとその詳細が気になってしまうものだ
しかも同じ学校の教員3名が同時期に突然死なんて、絶対何か原因があって死んだとしか思えない
世の中には物騒な事件が多い
そんな事を考えていると、いつの間にか俺の横にはスーツを着た長身の男が立っていた
急に現れたように見えたので俺は少しびっくりしてスマホを落としそうになった
何してくれんだよこの男
その男を横目で観察してみると、片手に銀のアタッシュケース
もう片方の手は白い手袋をしていた
片方だけ手袋をするなんて随分違和感がある
男は腕時計を確認すると、まだ電車は来ていないのにも関わらずスタスタと線路の方へ歩いていってしまった
ちょうど男の足が線路の上に踏みかかると、男の体はみるみる透明になり次第に見えなくなってしまった
「???」
しばらくの間、俺の口はぽかんと空いて目が点になっていたことだろう
目の前で起きた光景が現在とはとても思えなかった
そこから電車が来るまで変わったことは何一つとして起きなかった
beriから返信が来ることもなかった
俺が電車に乗る頃には既に太陽は沈み始め、吹く風も肌寒いものへと変わっていった
外より暖かい車内で俺は猛烈な眠気を感じ、そのまま眠ってしまった
月の麓に集まって 第七話「火炎瓶」
Flare視点
ぼんやりとした明かり
ふわっと肌に吹き付ける生暖かい空気
いくら目をすぼめてもはっきり見えない輪郭
俺は感覚的に夢を見ていることを理解した
揺れ動く電車は、絶えず体を揺さぶり
誰もいない車内は奇妙な夢の空間を更に非現実的なものに仕立て上げる
俺はその場で立ち歩き少し車内を探索することにした
隣の車両を覗き込んでみると、その奥には絶えず車両が続いている
隣の車両に移動するとそこには銀のアタッシュケースがひとつ置かれていた
あの男が持っていたものと非常によく似ている
そのアタッシュケースに触れてみようとしたとき、「起きてください」という声が頭の中でぐわんぐわんと反響し俺は夢から覚めた
目を開けるとそこにはどこかで見たことがあるような女の子が立っていた
ちょうどその時に停車していた駅は俺が降りるべき駅だったので、電車を降りた
その女の子も同じく電車から降りた
あとから話を聞くと、昨日同じ駅で降りるのを見たのに、ずっと眠っているのが心配だったから声をかけてくれたそうだ
「起こしてくれてありがとう。お名前は?」
同じ制服を着ているものだから、失礼かもしれないが名前が知りたかった
もしかしたら同じクラスの子かもしれないし
「猫又です」
「1の2です」
なんだ後輩かと内心思った
けれどこんなに優しいくてかわいい後輩と知り合えるなんて、俺超ついてる
「俺Flare」
「2年生だよ」
「わっ!先輩なんですね」
「2年生大変そうですもんね、おつかれさまです」
猫又と名乗る女の子に俺はもう一度感謝を告げて改札を出た
俺は別に2年生大変だからとか言う理由で寝てたんじゃない
フェンリルとberiを探しに…
俺はそこで事の重大さに再び気づいた
このままberiから返信がなかったらどうしよう
明日もしberiが学校に来なかったらどうしよう
俺には何も出来ることがなかった
返信が来ること、学校で明日会えることを祈りながら俺は結局その日は布団に潜って終えた
---
beri視点
<「学校終わったからフェンリルの最寄り駅まで来てる
」
「今神社で探してる」>
「でもいなそうだから、そろそろ帰ろうと思ってる」>
Flareもここに来るみたいだし、一緒に探そうと思った矢先、私はおかしなものを発見してしまった
それは地面に広がる黒いもやだった
雨が振っているわけでもないのにそのもやは雨水を食い広がっていく水たまりのよう
「なんだこれ面白い」
私はその場でしゃがみ込み、指を黒いもやに突っ込んでみた
黒いもやに触れた私の指は地面にめり込んだかと思うほど深く沈み込んだ
しかし指に何も感覚はなかった
そう、そこに地面はなかったのだ
地面に触れる勢いで落とされた指には私の体重が乗っており、前かがみで転げ落ちるようにして私は黒いもやに吸い込まれていった
しばらく宙に浮いたようなフワッとした感覚を味わったのち、自分のスクールバックの上に落ちた
幸いスクールバックの上に落ちたことにより大きな怪我はしなかった
けれどもしそのまま落ちたら無事では済まされなかっただろうと思う高さだ
それはそうと、かなりめんどくさいところに私は来てしまったみたいだ
それはなぜか?前を見たら分かる
こちらを狙う獣のような赤い目が、目の前に大量にあったから
全てこちらを見ているようだ
できることなら全ての荷物を置いて逃げるところだが、生憎私はフェンリルのリュックまで持っている
これを置いて逃げてしまっては私がわざわざここまで来た意味がなくなってしまうように思えた
動き出す赤い目
駆け巡る思考
辺りを見渡すもそこは森の中のよう
スクールバックの肩紐を握る手に汗がにじんだその時
大きな発砲音と共に、私の眼の前を高速で何かが通り抜けた
「逃げろ!」
男性の太い声が響く
ハッと振り向くと長身の男が立っていた
すごくあの駅で見た男と似ている…
瞬く間に燃え広がる獣たちを背後に、恐怖から震える足でなんとか男の元へと逃げ込んだ
「そんな荷物あんだったら置いて逃げろよこの無能」
「えっと…それは…」
私が言いかけると男は再び獣に銃を向け、1発、2発と弾を撃っていく
銃口から放たれた弾の全てが獣の頭部に命中し燃え広がる
それ見た獣は怯えたように逃げていった
男は胸元からハンカチを取り出し銃口を拭く
「なぜここにいる?」
「えっと…えっと…」
こんな訳がわからないことが目の前で立て続けに起きて私の脳はパンクしていた
「…まあいい」
「もっと安全な場所に移動する」
「ついて来い」
私はその男に言われるがまま、その場を後にした
月の麓に集まって 第八話「フロンティア」
今回ちょっと長いっす
よろこべ
beriは謎の男に言われるがまま付いていくことにした…
---
beri視点
ひしめき合うようにぎっしり詰まった木の葉がこの森の不気味さを増長させる
この薄暗い森の中を、男は何の迷いもなく歩いていく
そばを流れる川の音
どこかで鳴いた鳥の声
湿った土を踏む自分たちの足音
その全てにどこか不思議な感覚を覚える
まるで夢を見ているみたいなのに、やけに感覚はリアルに伝わってくる
「ここだ」
男はそう言って足を止めた
よそ見ばかりしていた私は男が止まるまで気が付かなかったが、目の前には小さな小屋があった
今にも崩れてしまいそうなのにどこか安心感を感じる
「入るぞ」
「はい…」
きぃーっと高い悲鳴を上げながらドアが開く
小屋の中は生活感で溢れていた
生活感といっても、ここで暮らしているような生活感ではないが…
中央に置かれた古い木のテーブルの上にはいくつもコップや食器が置かれ、すぐ横の椅子には銃がいくつも積み重ねられていた
壁のハンガーには衣服の代わりに銃弾が入った袋がかけられている
「悪かったな汚くて」
「俺は少し用事があるから外に行く」
「ちょっとここで待ってろ」
俺は銃に弾を詰めると再びドアを開け外へ行ってしまった
小屋には私一人…と、この銃や食器たちのみ
奥の方を見るとちゃんとキッチンらしきものがあった
試しにシンクの水道をひねってみると綺麗に澄んだ水が出てくる
「暇だし…良いよね片付けくらい」
何か自分にも出来ることがしたいと思った私はこの小屋の掃除をすることにした
まずはテーブルの上からだ
食器は最近に使われたようなものから、中が完全に干からびているものまである
とりあえず全ての食器をシンクに移動させ水をかぶせた
これだけでもかなりの数だったもので重労働である
食器の汚れが浮くのを待つ間に散らかった銃を整理していく
ホコリを払い大小様々な銃をガンラックに立てかけておく
多分これで大丈夫…なはず
ドアの近くにあったほうきで適当に掃き掃除をしてから洗い物に取り掛かる
「これ何食べたんだ…?」
びっくりするくらい油でギトギトの皿や、明らかに食べ物ではなさそうな色の液体の残ったコップ
刃先がボロボロになっているナイフ
しかしなぜかフォークやスプーン、箸などは一切見当たらない
「変わってるなあ」
考えていても仕方がないので洗剤を駆使しつつなんとか全ての食器を洗い上げた
丁寧にタオルで水気を拭き取り食器棚に戻していく
「ナイフはどこだろ」
色んな引き出しを手当たり次第開けてみる
そこには火薬っぽいものが入っていたり、空き瓶だけが大量に並べられた引き出しもあった
「ここか…?」
そう言いながら開いた引き出しにはチョコレートらしきお菓子が入っていた
ぐぅ…
私のお腹の音だ…
本来なら夜ご飯を食べていただろうか
これだけ掃除頑張ったし…いいよね
私はチョコレートを取り出しそこにナイフをそっとしまった
銃を下ろして綺麗になった椅子に座りチョコレートの包装を破る
それは小指ほどのサイズのブロックのチョコレート
一口かじってみると中に白い粉のようなものの塊があった
砂糖の溶け残りだろうか?
チョコレート自体は普通のチョコレートといった感じだ
お腹が空いていたのもあって普段より美味しく感じる
最後の一口を口に入れゴミを捨てようとしたときあの男が帰ってきた
「すまん遅くなっ…」
「お前…何してんだよ」
男は大きな袋を抱えて帰ってきた
綺麗になった小屋を見て唖然としているようだ
「暇だったんで、掃除してました」
「いやそれはありがたいんだが」
「そのゴミ、お前何食った」
ひえーー!!バレた
バレてしまったよ
こうなったらもう言うしかない
「チョコレート…いただいちゃいました」
「はぁ…お前ほんと無能だな」
「それ怪しいやつからもらったんだよ」
「だから食べずに取っておいたんだ」
「中に何も入ってなかったか?」
男の話を聞くうちにお腹がキュルキュル言い出した
軽く目眩がする
「えっと…白い塊が…」
男は大きくため息をついた
「帰りが遅くなった俺も悪いが勝手に食べるとは思わないだろ…」
「しかも案の定、毒盛りやがったなあの野郎」
「毒!?」
えっ!ど、毒!?
私死ぬの?
人生高2でサ終しちゃう感じ?
毒なんて聞いてしまって私は大焦りだ
男は袋を置くとコップに謎の粉を水で溶いたものを持ってきた
「これ飲んで」
目眩がさっきよりひどい
バランス感覚が完全におかしくなってきた
視界が暗転しているうちにガクンと椅子が倒れてしまう
「…まずいなこれ」
男はコップを私の手に握らせた
本能的にこれを飲まなければ本当に死んでしまう気がして、私は意識があるうちに一瞬でコップの中を飲み干した
震える手で床にコップを置き、私はそのまま眠ってしまった
---
どれくらい時間が経ったんだろうか
私が目を覚ますより先にガチャガチャと騒がしい音が耳に飛び込んできた
「起きたか」
男は椅子に座って何やら銃をいじっているようだった
「先ほどは申し訳ございませんでした…」
「お前のおかげでこんなに広くテーブルを使えるしな」
「今回だけだからな?次はないぞ」
男は銃を持って立ち上がるとガンラックへと立てかけた
「俺はモロトフ」
「お前、名前は?」
「beriです…」
「お前は何しにここに来たんだ」
男はモロトフと言うらしい
声に威圧感はなく、はじめとは違ってこちらに語りかけてくるように話始めた
「友達を探してたんです」
「そしたらこんなとこに来ちゃって…」
モロトフは少し考えるような顔をしてから口を開く
「その友達の名前、フェンリルじゃないか?」
「もしそうなら心配いらない」
「俺の友人が現実に帰したと聞いた」
フェンリルは無事なんだ
そう聞くとふっと肩の荷が下りたような気がする
だがちょっと待てよ…?現実に帰したってなんだ
「現実に帰したって言うのは…?」
「そこから話さないとだよな」
「いいか?まず俺等がいるここは現実世界ではない。まずこれを理解しろ」
なんだか納得できる言葉だ
今までの違和感の正体はこれだったのかもしれない
「ここは異世界と言うにはちょっと惜しいんだがな、ほぼそんな感じだ」
「異世界への入り口へと通ずる場所と言うのが正しいか」
話を聞けば聞くほどわからなくなっていく気がする
ここは異世界への入り口?
異世界っていうのはファンタジー的なあれなのか?
「一旦ここまでにしておくかな」
「何か質問は?」
そういえばモロトフは駅で見かけたスーツのあの男によく似ている気がする
私はそれを聞いてみることにした
「あの、駅前にいませんでした?モロトフさんの言う現実世界の…」
「駅前?知らないね。どこの駅のことだ」
「それと、さんはつけなくていい」
「あまり堅苦しくするな」
「|月ノ里《つきのざと》駅の前に、スーツの男がいたのを見て…」
「知らないね。人違いだよ」
モロトフは本当に知らないみたいだ
また少し話をした後ここを出ることになった
現実世界まで案内してくれるらしい
「そういえば銃を撃ったあと燃えてたような気がするんだけど、あれはそういう弾なの?」
「あれは俺のエコーのせいだ」
「異世界に現実世界の人間が入ることで、自分同士が共鳴し、一部の人間がまれに発現する」
「本当に少数だけど、なぜか最初からエコーを持つ人間も一応いるらしい」
何も知らない身からするとモロトフがただただ厨二臭いことを話しているように思えてしまう
けれど自分はこの目で見てしまったからやけに信憑性はある
「ちなみに俺のエコーは弾の軌道をある程度思い通りに出来る」
「90℃軌道を曲げたりとかは出来ないけどね」
「そして見てもらって分かった通り命中した場所を発火させることができる」
なんかすごいな〜と半分上の空になりながら話を聞きながら歩いていた
急に階段が集まれ、モロトフは足を止める
別れもそろそろらしい
「気を付けて帰れよ」
「うん!ありがとう!」
私は自分のスクールバックとフェンリルのリュックを持ったまま現実世界への階段を上がった
外に出るとそこはもう真っ暗
私が黒いもやを見つけた時と同じ場所に出ていた
こんな時間に神社なんて怖くて仕方がないので私はさっさと神社を後にした
溜まりまくっていたLI◯Eのメッセージに返信をしながら電車を待つ
「Flareごめん今気付いた」>
<「遅いよ心配した」
<「フェンリルは?」
「私は見てないけど多分無事っぽい」>
「明日には連絡返ってくると思うよ」>
<「はーん?」
<「明日何があったのか全部話せよ」
「分かったよ」>
こうして私は無事家に帰った
月の麓に集まって 第九話「再集結」
フェンリル視点
わんこに助けてもらってすぐ僕は家に帰った
本当ならバスで帰るところを家まで走った
スマホの日付は僕が思っていたより1日進んでいる
LI◯Eの通知も溜まりに溜まっている
親にどれだけ心配をかけてしまったんだろうか
僕が家に着いた時には既に日付が変わっていた
玄関のインターホンを鳴らすと両親が泣きながら飛び出してきた
「こんな遅くまでどこ行ってたのよ!」
「心配したんだからね!」
「警察にも連絡したんだぞ」
「でも無事でよかったよ」
僕はごめんなさいと繰り返した
あとでどこに行っていたのか執拗に聞かれたが、本当のことを話しても信じてもらえないだろうと思った
そのため電車に乗り間違えて全く知らない場所にいたというバレバレすぎる嘘でなんとか乗り越えた
ほんとなんでこれでいけるんだよ
『ごめん今家に帰った』>
『心配かけちゃった』>
メッセージを少し巡ってみると、月ノ里駅前の神社まで2人は僕を探しに来てくれていたみたいだ
申し訳ないが、どこに行っていたのか聞かれてしまったら2人にもあの嘘を突き通すしかない
返信を終えると急いで風呂に入り夜食という名の夕食を食べ布団に潜った
こんな時間に帰ってきたからと言って明日学校を休むわけには行かない
---
次の日、beriといつも合流する駅でberiと会った
その直後にFlareもやってきた
3人で電車に乗り込むと満員電車なんてお構いなしにやはり2人は聞いてきた
「どこ行ってたの!」
「私心配したんだからね」
beriはそう言って僕のリュックを渡してくれた
「ありがとう…」
「電車乗り間違えて全然知らない場所まで行っちゃって…」
「そうだったんだ」
Flareが言った
作戦成功だ
「待ってFlareよく考えてみてよ」
「このリュック月ノ里駅で拾ったんだよ?おかしくない?」
しまった
そこまで考えられていなかった
何も言えず立ち尽くす僕を見てberiは呆れたような顔をする
「別のところ行ってたんじゃないの?」
「私知ってんだからね」
Flareはそれを聞いてもキョトンとした顔を浮かべていて、唯一何も知らないようだった
僕はberiとの個人チャットを開く
『Flareは知らない?』>
<「多分知らない」
<「まだ話さなくていいよ」
『分かった』>
「えっと…2人ともどうしたの?」
「てかberiは話してくれるって言ったよね」
beriはやってしまったと苦笑いをしながらこちらに目を合わせた
いやいや、僕何も知りませんからね
そして電車は止まり、学校へ向かった
校舎に入り階段を登ってberiと一緒に3組の教室へ行くFlareを見送る
「フェンリル、誰に出口まで案内してもらったの?」
Flareが見えなくなった途端にberiは聞いてきた
「誰って言われても…犬だったよ」
「わんこって名前付けた」
「犬にわんこってそのままじゃん」
本当にその通りだけども
あの時は何も思いつかなかったんだからしょうがない
beriがまだ何か言いたげに口を開くも担任が教室へ入ってきた
空気がなんだか重くなる
僕がいないうちに何かあったのかと思ったが、担任の顔を見たらすぐに分かった
眉間に寄ったシワに、山のように曲がった口
誰がどう見ても不機嫌そうに見える
「どうしたんだろ」
「私もわからない…」
みんなが空気を読んで自席に戻りだす
それを見てberiと僕も席に着いた
「えー、朝のST始めます」
「最近物騒な事件が多いらしいですね」
「みんな気を付けて下さい」
「本日から通常授業が始まりますから気を引き締めて受けるように」
先生はそう言って出席確認をし始める
胸ポケットにボールペンをしまうと無言で教室を出ていってしまった
「後藤先生今日どうしたの?」
「もしかしてあれが本性?」
ぬるっと朝のSTが終わり教室がざわめき出す
僕は席を立ちberiの座席へと向かった
月の麓に集まって 第十話「最近流行りの突然死」
朝のSTが終わりSSフェンリルはberiの座席へと向かった…
---
フェンリル視点
「担任なんか機嫌悪いよね」
「友達が突然死で亡くなったみたいなのはどこかで聞いたんだよねそういえば」
突然死?
最近よくニュースになってるやつか
僕がいない間に起きたニュースで知ってるのは教員3名が突然死したっていうニュースだけだ
「小学校の先生やってる友達がいたらしいよ」
「怖いよね〜」
beriの情報源は不明だが、確かに友人が突然死なんてことになったらあんな怪訝そうな顔をするのもおかしくない
物騒な事件が多いみたいな話もしていたし、なんだか辻褄が合う気がする
その後は難なく授業を終え、昼休みの時間となった
本来のルールならば多分ダメなんだろうが先生がいないのをいいことにFlareは弁当を持って1組の教室までやってきた
「え、Flareじゃーん」
「1組来るの?」
「一緒に食べる人いないんだよ!」
「わるかったかよ!」
Flareはぶーぶー言いながら椅子を持ってきてberiと僕の食べていた机の横に置いた
昼休みは机を好きに移動させて食べるタイプなので意外と他クラスの生徒が混じっていてもバレない
「悪くないって〜ごめんごめん」
beriとFlareがそんなやり取りをしている中僕の目は時雨の方を向いていた
彼は一人教室の隅で弁当を食べていた
「beri、あの人も読んでいい?」
「時雨?いいよ」
「Flare仲いいんでしょ」
時雨の周りのグループ達を掻い潜りながらFlareと一緒に時雨の元へ向かう
「時雨!一緒に弁当食べよう」
「えー来たの」
「しょうがないなあ」
Flareのおかげで時雨をこちらへ引き込むことに成功した
周りに余っていた机を更に2つ繋げ、僕の右にberi
beriの正面にFlare、その隣に時雨が座る感じでお昼を食べ始める
「本当に1組メンツ良くない?」
「俺今からでもここに来たいわ」
「無理だから、3組で友達作る努力しろよお前」
「は?時雨も友達いねーじゃん」
時雨は意外にもズバズバ物を言う
Flareの前だからだろうか
そうやって時雨とFlareが話している時
ガラガラっとドアの音が聞こえ、教室全体が静まり返った
担任が入ってきたのだ
「えっまってキモ!!」
前の方で食べていたクラスの明るい女子たちが担任を見るなりそう言い出す
何事かと思い少し覗き込んでみる
担任は白目を剝き口から血を垂れ流しながら教室へ入ってきた
酒に酔ったような千鳥足で、歩いてきたところには血の足跡がついている
鉄臭い空気が教室に充満する
「?????」
Flareは机に伏せる形で気を失ってしまった
僕も気持ちが悪くて仕方がない
「フェンリル床見て床!」
「え?」
担任に気を取られ全く気が付かなかったが、僕たちの足元に黒いもやが広がっているように見えた
びっくりして椅子から立ち上がったberiがそのもやに落ちていく
なんだか僕もはいらなければいけないような気がする
「知ってるの、君」
「見えるんだね」
時雨は僕に向かって何か意味深なことをいうとberiを追うようにもやの中へ飛び込んでいった
僕もその後を追い恐る恐るもやに入った
もやに入って現れたのは少し古臭い小屋だった
beriと時雨はなんの迷いもなくその小屋の扉を開け入っていってしまう
「ちょ!ちょっと待てよ!」
中に入るとそこには長身の男が椅子に座って、時雨と話をしていた
「このタイミングで来たってことはそういうことなんだよな?時雨」
「しかもまだエコーに目覚めてねえ奴らまで連れてきやがって」
「モロトフ、今俺等の目の前であの現象を確認したんだ」
「だからこれは正しい判断だと言えるね」
どうやらあの男の名前はモロトフと言うらしい
時雨について説教してるように見えるが…
「フェンリルモロトフ知らないでしょ」
「私は時雨がモロトフを知ってること知らなかったけどね」
僕以外の二人は既にモロトフと会ったことがあるらしく、beriの話を聞くに悪い人ではなさそうだ
そして、さっきモロトフの言っていたエコーについても詳しく聞いた
時雨はエコーが使えるって言うことなんだろうか?
僕は頭をハテナでいっぱいにしながらモロトフと時雨の会話を隣で聞き続けていた
STとはショートタイムの略ですね
朝の会とか帰りの会とかと一緒です
月の麓に集まって 第十一話「辺獄、リンボ」
時雨とモロトフが会話を続けている…
---
時雨視点
「だから、目の前で起こったからこうするしかなかったんだって!」
「エコーに目覚めてねぇ奴らのお守りしてる余裕なんてねえぞ」
「時雨ひとりでも席を外してこればよかったじゃねえかって言ってんの」
「全く、分かってくれないね」
「いいよモロトフなしで」
「3人で行くから」
「ちょ、お前何言って…」
俺のエコーは現実世界からここにワープするゲートを作り出すこと
ここは一部異世界に詳しいやつはリンボと呼ぶ
異世界への入り口はこのリンボにあるんだが、その点有用に見えるが戦闘には役立たない
なのでモロトフなしでは戦力が心もとない
それでもあの担任の様子を見に行くだけなら特に戦闘も起きないだろう
「行くから」
俺は愛用しているショットガンを背中に担ぐ
両手でberiとフェンリルの腕を掴み無理やり小屋の外へと引きずり出した
「何何!」
「本当にモロトフいなくていいの?」
「フェンリルも私も戦えないよ?」
フェンリルはこちらを向いてコクリと頷く
「極力戦闘を避ければ済む話だ」
「モロトフが気にしすぎなんだよ」
「二人とも、まだここまでしか来たことないね?」
ここリンボは現実世界と異世界が混ざったような場所だ
リンボにある異世界への入り口をくぐって、異世界へ行ったことがないのならエコーの覚醒も望めるわけだ
「ない…ね、多分」
「ないと思う…」
「異世界に行くことでエコーに目覚めるのは知ってるか?」
「もちろんみんながみんなそうじゃないんだが、ここに来て元気ならエコーの適正があるやつが多い」
そんな事を言ってみたは良いものの
半分2人に付いてきてもらうために言ったようなものだ
能力が手にはいるかも!?なんて言われたら行きたくもなるだろう
どうして半分なのかと言うと、エコーに目覚めたとしてそれが有用なものなのかは完全に運であるからだ
俺が過去に見てきたものだとエコーに目覚めた瞬間に四肢がもぎ取れて死んだやつとか、希死念慮にかられて自ら敵に殺されに行ったやつがいる
俺の知り合いが動物にもエコーがあるのか知りたくなって持ち込んだネズミはみんな内臓から破裂して死んでいった
というわけで…モロトフに無事を証明するためには2人には有用なほうのエコーを引き当ててもらわなければならない
そう思うと危ない気もしてきたが、生憎この2人はただのクラスメイト
Flareまでいたら思いとどまっていたかもしれないが、運良くいないときた
「今から異世界への入り口に向かう」
「付いてきて」
まだ2人は迷っているらしかったが俺が歩き出すと付いてきた
このまま上手くいくと良いんだが
---
???視点
時雨がこちらに向かってきている
あいつ、リンボにすぐ来れるから俺より圧倒的に早い
俺はあの教師に現れた`前兆`を見て駆けつけたと言うのに
先を越されてしまっては負けたような気がする
しかし浅いところにあの教師はいないようで参っている
異世界は入り口を中心として円状に広がっていて、入り口から近いほど浅い場所と言われる
深いところへ行けば行くほどエコーの副作用が強くなるし、敵だって一筋縄ではいかなくなってくるのだ
もういっそ時雨を待ったほうが良いのだろうか
あいつがスマホを確認するとは思えないから、その場合俺は入り口に戻らなければ…
---
時雨視点
しばらく歩いて入り口にたどり着いた
小屋はリンボの中でも比較的入り口に近い場所にあるので助かる
そんな中2人は辺りをキョロキョロ見回して不思議そうな顔をしている
無理もない
何もなかった森の中、急にぽつんと建物があるのだ
それは円柱状に伸びた古い遺跡のような外見で、太陽の光も良く差し込む
(本物の太陽ではないんだろうが…)
円柱状の建物の中心にはぐるぐると渦を巻き、今にも落ちてしまいそうなほど綺麗な宇宙が広がっているように見える
俺も初めてこれを見たときには驚いたものだ
まあ異世界は全くもって綺麗なもんじゃないんだが
「これが…入り口?」
beriがゲートを覗き込みながら言った
「そうだよ」
「今からこれに入る、準備はいい?」
「まあ何かあったら時雨が助けてくれるよね…?」
フェンリルのその一言に少し息が詰まる
戦闘を避けるとは言ったもののあまりうまくいった試しがないことを今思い出した
感情的になって適当なことを考えてしまったのだと少し後悔する
けどもう、行くしかないんだ
「もちろん」
「ほら行くよ」
苔を被った石の枠に手をかける
なんだかいつもより重く感じる体を腕で持ち上げゲートの中へ飛び込んだ
一瞬重力が反転したように体の向きが変わると、ストンと異世界の地面に足がつく
目を開くとそこにはペンタがいた
「ペンタ?なんで?」
俺が聞くと後ろからドサドサっと重たいものが落ちた音がした
beriとフェンリルに詳しいゲートのくぐり方を説明することをすっかり忘れていた
「いってぇ…」
「フェンリルちょっとどいて!髪踏んでる!!」
「あ、ごめんごめん」
ペンタは俺の後ろにいる2人を見つめている
「えっと…どなた?」
「誰を連れてきたんだよ時雨」
俺はペンタに事の経緯を話した
学校であったこととモロトフと話したことなど話している途中、ペンタがチラチラ2人を見ていることに気付く
「えっと…聞いてる?」
「あぁ、ごめんごめん」
「けどあれ見てよ」
「片方男の方失敗じゃね?」
こんな浅いところでエコーに目覚めることはないだろうと思っていた
けれどその俺の考えはどうやら間違っていたらしい
「ふぇ…フェンリル!?」
beriは足元から凍りだすフェンリルを見て後退りを始めた
「え!?助けてよ!ねえ!」
俺はペンタに目配せをした
するとペンタは下を向いて横に首を振る
典型的な失敗作といったところか
せめて死ぬところは最期まで見てやろう
月の麓に集まって 第十二話「間引き」
フェンリルは足元から凍りついていく…
---
beri視点
「ん〜やっぱだめか」
「しょうがない、置いていこう」
え?ちょ待ってよ
フェンリルがこんな状態なのに置いていく?
一体時雨は何を考えているんだ
「だめだよ置いていかないで!!」
もう既に歩き始めていた時雨とペンタがこちらを振り返った
そして呆れた目をして話始める
「エコーはね、有用なものだけじゃないんだよ」
「フェンリルはハズレを引いた」
「ただそれだけのことだ」
「ここはリンボと違って危険なんだよ」
「失敗作に構っている余裕なんてない」
どうして?どうしてこんなにも時雨とペンタは冷めているんだろう?
私にはとてもそんな真似できない
急いでフェンリルの足元に近寄って、素手で氷を殴りつけた
冷たい
痛い
時雨とペンタはそれを見てもなお置いていこうとする
「beriは来ないの?」
「フェンリルがこんな状態で置いていけるか!」
時雨は返事もせずにまた後ろを向いて歩いていく
ペンタが何かこちらを気にするように目を向けるも、時雨のあとについて行ってしまった
なんて勝手な人なんだ
「フェンリル大丈夫?」
「うん…確かに凍ってはいるんだけどさ」
「全く痛くも痒くもないんだよね」
こんなガッチガチに凍っているのにそんなことがあろうか
私が必死に氷を殴り続けているとやがて氷にヒビが入った
「あ!抜けそう」
そういった途端ズボッとフェンリルの足が氷から抜けた
なんだ本当に平気そうじゃん
「もしかして僕自分でやった…?」
「そんなまさか」
「でもそれがエコーってやつだとしたらあり得るんじゃないかな」
「試しにそこら辺の草凍らせてみてよ」
「草?こんな感じ?」
フェンリルが草に手を振りかざすと葉の一つ一つに霜が降り、やがてカチカチに凍ってしまった
「すごいじゃん!!!」
「えへへ…?」
フェンリルの無事が分かったがどうにも時雨とペンタの後を追うのは気が引けた
あんな奴らについて行っていいことはないだろう
このゲート付近をしばらく見渡してみる
その光景はまるで現実世界にいるように見えた
高いビルが立ち、コンビニや飲食店が屋根を並べている
ここが異世界とは信じられない
「beri…どうする?」
「時雨たち探す?」
フェンリルこそ時雨たちに思うところがあるはずだ
それでもフェンリルは時雨たちの後を追うことを提案してきた
「フェンリルはそれでいいの?」
「だって…帰り方とかもわからないし…」
それはそうだ
今ここにあるゲートは上向きに付いていてジャンプしても届きそうにない
しかもそんなゲートなら帰り道に使うものとも思えない
「しょうがないね…」
私とフェンリルは時雨たちが向かったであろう方向に歩いていくことにした
---
時雨視点
「本当に大丈夫なの?あの2人」
「置いていって良かったの」
「ゲート付近なんて敵は来ないし、不適合者まで連れて深い場所へ向かうなんて俺にはできないぞ」
「そんなに気になるならペンタが迎えに行ってやればいいじゃない」
「ごめんて〜」
近道をしたのもあってそろそろ第二環に到着する
あの2人だけでは到底ここまで来られないだろう
「そういえば俺第三環まで行って探してたんだけどさ、いなかったんだよあの教師」
「…つまり?」
「四環以降だねおそらく」
第四環なんてまだ俺は行ったことがない
最近になって第二環でのエコーの副作用に慣れてきたと言うのに四環まで行かなければならないのか
「副作用大丈夫…?」
「ペンタは?」
「俺は平気だな〜最近異世界に入り浸ってたし」
「そうそう、最近エコー進化したんだよ」
「どこまで分かるようになったんだ?」
「うっすらだけど顔まで分かるよ」
ペンタのエコーは血痕などの戦いの跡からその時に起こったことを読み取ることができる
今まではあまり使い所がなかったが、顔まで見えるようになったならかなり使えるだろう
「俺が書いた地図あるんだけどさ、見る?」
https://files.mattyaski.co/6d634a7c-b821-4323-847f-189812e2c4b2.webp
そう言ってペンタは真っ白の紙に鉛筆で書いたような地図を手渡す
「これは…俺でもこれくらいわかるぞ」
「知ってるよそれくらい!文句あるか!」
「ないけど」
そうしているうちに第一環と第二環を隔てる壁が現れた
やっとここから第二環に入る
「ここから降りて下の門をくぐらないとね〜」
近道をしてきた関係で俺たちは崖の上のような場所にいる
ここからツタを使って下に降りるのだが、どうやら門の前に何かいるようだ
「時雨ここからそのショットガン当てられないの?」
「だめだ、ちょっと遠すぎる」
「降りて戦うしかないか〜」
流石に門の目の前に敵がいたら戦闘は免れない
大抵ひとつの環につき4〜5個は門があるんだが、他の門に移動するとなると非常にめんどくさい
俺はツタを足に引っ掛けて慎重に崖を降りていく
下までは10mほどある
「気をつけろよ〜」
ペンタが上で見守ってくれているようだ
そんなペンタの方をふと見上げたとき、ペンタの背後には敵が構えていた
月の麓に集まって 第十三話「難攻不落の異界」
時雨視点
「危ない!!!」
ペンタの背後には腕の先に鎌のついた、4本の足で移動する機械型の敵が迫ってきていた
高く振り上げられた腕は静かにペンタの首を見据えている
このままじゃ危ない
そう思った俺はペンタの服を思い切り引っ張りこちらへ引き込んだ
「なに!?!」
ペンタがきちんとツタを握るのを見て俺は服を手から離した
このまま早く下に降りなければ
俺が一歩下に下がる
ガクンと大きく視界が揺れる
「時雨!」
目の前には切れたツタが中を舞っていた
あいつ、ツタを切りやがった
ツタを掴もうとしても指をすり抜け、俺の体は支えを失った
地面と衝突した俺の体は少し跳ね上がり、どすんと音を立てる
少し遅れてきた重力が身体の自由を奪う
背中から落ちなくてよかった
ショットガンが背中にぶっ刺さっていたかもしれない
「大丈夫か!」
ペンタの問いに身体を起こそうとするもどうも自由が効かない
「すまん…身体が動かない…」
俺は地面に突っ伏したままペンタにそう告げた
その間にもあの機械の敵はあっという間に地面に降りてきて、今にも俺に鎌を振るおうとしている
それに気が付いたペンタが腰から小さな刀を抜く
カーンという音を響かせながら、思い切り機械の腕に突き刺した
その衝撃にあいつは大きく仰け反る
「行くよ時雨」
ペンタは俺を担いで元来た道を歩いた
歩いたというか、多分本人は走っているつもりだったんだろうが
しばらく進むとあの2人の姿が見えてきた
「時雨?」
真っ先に駆け寄ってきたのはフェンリルだった
俺はフェンリルを置いていったにも関わらず、今こんな醜態を晒している
「これは詳しく話してあげたほうがいいんじゃない?時雨」
「うん…」
俺はペンタに担がれたままゲート付近に向かった
2人には申し訳ないが一緒に戻ってもらうことになった
「それじゃあ時雨くん」
「勝手に進んでおいて怪我までしてるみたいだけど?」
「詳しく聞かせていただこうか」
beriは俺の態度にガチギレといった感じだった
それもしょうがない
本当に間違ったことをしたと今思った
俺は2人にフェンリルを置いていった理由が異世界の危険性にあるということ
異世界に現れる敵はリンボに現れる敵なんかよりずっと強いということ
そして異世界と担任との関係性までを話した
「ここに担任がいるってどういうこと…?」
「担任の様子が明らかにおかしかっただろ?あれ最近ニュースになってる突然死の一歩手前なんだよ」
「実はここにいる敵は全員現実世界に`生きて`いる人間なんだ」
「だから担任もここにいる」
「でも突然死して死んじゃうならここにはいないんじゃないの?」
「beriの言うとおりだね」
「でもここからはペンタのほうが詳しいからペンタ頼むよ」
ペンタはやれやれといった様子で話始める
「ここにいる敵…人間の魂とでも言おうか」
「その魂にちょっとイタズラするとああいった突然死が起きる」
「俺たちはその犯人を探してるんだよ」
beriとフェンリルはキョトンとしている
「でも生きてる人間の魂しか異世界にないんだよね?」
「じゃあ担任なんて探してももういないんじゃ…?」
ペンタがそんなフェンリルの問いに答える
「確かにそう思うだろうフェンリル」
「でも死んでしまったらすぐに魂が消えるわけじゃないんだ」
「まだ担任をここで見つけられる可能性はあるってことか」
「でも担任もう死にそうだったよね」
「ここでゆっくりしている時間もないってことか」
「飲み込みが早くて助かるよ〜」
ペンタの説明で2人がすべてを理解したとはとても思えない
だがしかし、担任は今ごろ死んでいるだろう
急がなければまた犯人の証拠を逃してしまうことになる
「というわけで今すぐにでも行きたいんだけどさ〜?」
「この時雨とかいうやつ崖から落ちて怪我してんだよね〜?」
「こんなやつ連れて行ってる余裕なんてないよね〜?」
ペンタ、なんて|厭味ったらしい《いやみったらしい》らしいことを言ってくる
確かにそんなような理由で俺はフェンリルを置いていってしまった
しかしそのフェンリルはピンピンしている
完全に逆の立場になってしまったようだ
「ごめん…俺が悪かった」
「もう二度とあんな事言わないから、俺も連れて行ってくれないか」
「だってさお二人さん」
「どうする?」
beriとフェンリルは顔を見合わせしばらく悩んだような顔をしたのちに台車をどこからか持ってきた
「これ周り見てたらあったんだよね」
「乗ってもらおうよ」
台車なんて乗り心地い最悪だと思うが今はそんな事を言っている場合じゃない
俺は渋々beriの誘いに乗った
何かあったらすぐに逃げられるようにという理由で俺の台車はペンタが押すことになった
さっきも見たいつもの道を台車に押されて俺たちは進んでいった
月の麓に集まって 第十四話「思わぬ再会」
フェンリル視点
時雨の台車を押すペンタにberiと一緒に付いていく
どうやら異世界はいくつかに分かれているらしく、ゲートから離れれば離れるほど危なくなっていくと言う
しばらく歩いていると第一環から第二環を繋ぐ門が見えてきた
「エコー持ちはここから先ちょっと副作用が出るかもしれない」
「特にフェンリルは危ないかもね」
副作用…?
ペンタの言葉に僕は怯える
第二環に入った途端にぶっ倒れたりするのか…?
「進むにつれてberiもエコーに目覚めるかもしれないからそれも気を付けるように」
「何があってももう置いていったりしないけどね」
時雨はすっかり反省した様子だ
「今が放課後の時間ならいいんだけどね」
「知り合いに身体の不調を回復させるようなエコーを持つやつがいるんだが、そいつは中学生だから放課後に来ないんだ」
「時雨中学生に手出してんの?」
「beri変な言い方するな」
「ごめんって〜」
なんやかんや門の目の前までやってきた
第一環でも感じていたことだが、進むほど人工物が減っていっている
どんどん田舎っぽい雰囲気に近づいていると言うか…
「さっき来た時には敵がたむろしてたんだが今はいないね」
「時雨あそこの崖から落ちたんだよ〜」
ペンタが指差した先にはかなりの高さの崖があった
あんなところから落ちたらそりゃあ動けなくなるだろう
「下手に近道するもんじゃないね…」
「多分、左足のどこか折ってる」
「骨折!?」
「大丈夫なのそれ」
「さっき話した知り合いが来る時間になったら俺はそっちに行くとするよ」
時雨は思ったより過酷な状況にあった
この先を動けない時雨と3人で進んでいかなければならない
僕たちは門をくぐって先に進む
ここからはもう山の中といった感じだ
ゲート付近に立っていたようなビルたちは面影すらない
門をくぐって10分ほど経った時だ
視界がゆっくりだが揺れているような気がした
「フェンリル大丈夫?なんかふらふらしてるよ」
「ごめん、ちょっと目眩が…」
僕がそう言うとなぜかペンタと時雨は少し笑った
話を聞いてみると、副作用が出たということは完全にエコーに目覚めたという証拠にもなるらしい
最初になぜか自分が凍りだしたのは意味がわからないが、なんとかなっているようで安心した
「フェンリルの歓迎会とかやらないとだよね〜時雨」
「どこでやるんだよ?小屋か?」
「人数増えるんだったらあの小屋も改修工事が必要になるよね」
「モロトフに頼んでおくよ」
吹き抜ける生暖かい風は木の葉を揺らし
土を踏む自分たちの靴はとんとんと音を立てる
後ろを振り向くと、3人分の足跡とタイヤの跡が残っている
「第三環っていつ着くの?」
「うーんそうだよな、beriはこの中で唯一副作用ないもんな」
「副作用持ちのやつからすれば第三環とか本当は行きたくないもんだよ…」
beriの問いに時雨が答えた
「まあ俺みたいに何回も来たら慣れるけどね」
ペンタは副作用の耐性に自信があるようだ
何回も来たら慣れるってことは、これが初回になる僕はきっとひどいんじゃないか…?
そう思った途端第三環までの道のりがもっと長くなればいいのにと思ってしまった
「前、誰か戦ってるぞ」
時雨の目線の先には僕たちと同じ制服を着た2人組の姿があった
すごく、すごく見覚えがある…
時雨の言っていた知り合いというのは中学生らしいし、この2人ではないだろう
カンッ
金属と金属がぶつかり合うような音
張り詰めたような空気によく見えていなくともあの2人組が戦っていることがわかる
僕たちは急いで向かうことにした
---
奏者視点
「Sere危ない!」
敵の数が多すぎる
ここに来る途中で拾った金属バットももうボコボコになってしまった
猿のような見た目をした奴らはSereに飛びかかろうとしている
「えいっ!!!」
頭を抱えてしゃがみ込んだSereの前に駆けつけ、ボコボコのバットで猿の頭に一発お見舞いする
「奏者ありがとう…でも後ろにも」
「あれ?」
後ろから複数足音がする
誰か来た!?
振り向くとそこにはこちらに向かって走ってくる
3人と…台車の上に1人?
もしかして助けに来てくれたの!?
「邪魔だどけー!」
台車を押していた人が思い切り台車を突き飛ばす
銃を構えた人を乗せたまま台車が思い切り近づいてくる
「きゃああっ」
横に倒れ込むようにして台車を避ける
猿たちの注意が台車に向く
台車に向かって猿たちが襲いかかろうとした時だ
パーンッ
パーンッ
パーンッ
猿たちに見事ショットガンが命中する
飛びかかろうとしていた猿たちは宙に留まることなくバタバタと倒れていく
「す…すご…」
Sereも目を丸くしている
「あ、あのどなたですか!?」
Sereがそろりそろりと起き上がって言った
のそのそ歩いてくる3人組の中には見覚えのある顔があった
同じ制服を着てるし多分間違いない
Sereも近づくにつれてそれに気付いたみたいだ
「ゲーセンで会いました…?」
「会いました!そう!その時の!」
「けどなんでお二人ここにいらっしゃるんです?」
そう確かこの人の名前はberi
後ろにはフェンリルもいる
もう一人と台車マンは知らんけど
「ちょっと事情がありまして…」
Sereはそう言うと助けを求めるようにこちらに視線を向けた
「まーちょっとね」
助けてくれた恩もあるし、Sereと私はここに来た経緯を話すことにした
月の麓に集まって 第十五話「あれは誰?」
異世界にてSereと奏者に出会う
ここに来た経緯を聞くことにした
---
beri視点
「3年今日下校早くてさ?またゲーセンに行こうと思って歩いてたら突然黒いもやもやが足元に出てきてさ?」
奏者は身振り手振りで当時の状況を説明してくれている
黒いもやもやというのは私もフェンリルも見たものと似ている
「そしたら急に落っこちて、気が付いたら全く知らない森にいたんだよ」
森…?
リンボのことだろうか
そして先ほどから気になっていたのだが、時雨の表情がだんだん曇っていっている気がする
変なものでも食ったんだろうか
「ちょっと歩いてたら遺跡みたいな建物が出てきてさあ」
「中覗いてみたらすっごい綺麗な宇宙みたいなTHE!異世界転生ゲートみたいなのがあったの」
よく死なずに2人でそこまで辿りついたな
いや、もしかして私たちが雑魚い…?
「Sereが入ってみようとか言うから入ったんだよ?」
「そしたらこの有様ってわけ」
「ちょっと待ってよ奏者」
「私はこんなとこまで歩いてこようなんて言ってないよ?」
「じゃあ何もせずあそこで待ってれば良かったってこと?」
「そんなこと言ってないじゃん」
だんだんと口論にエスカレートしていく2人を遮るように時雨が口を開く
「ちょっと聞きたいんだけどその黒いもやってどんなの…?」
2人は顔を見合わせ静かになると、いっせいに話始めた
「最初は水たまりかと思ったよ?でもどんどん広がってくから絶対おかしい!」
「端っこはもやもやしてるんだけど中心の方はちょっと波打つ感じだったはず」
「お、おう…」
何やら時雨は困ってるようだ
そんな時雨にペンタが近づき何か耳打ちをした
「ちなみに僕もそれ見たことある」
「あっ、私も」
私はフェンリルの発言に便乗した
「実はそれ`俺のエコーの特徴と全く同じ`なんだよ」
「正規のリンボへの行き方はそれじゃないし、黒いもやの特徴も一致しすぎてる」
「生憎俺はそんな変なタイミングでエコー使ってないけどね」
正規の行き方ではないことはなんとなく察していたが、あれが時雨の仕業だったとすると色々おかしい
それでも思い返してみると教室からリンボに行ったときはあの黒いもやがあった
時雨は実は二重人格…?
いやでも神社からリンボに行ったとき時雨はいなかったはずだ
時雨じゃない人が時雨のエコーを使うとぁいう意味わからん状況になってしまう
「誰か近くにいなかったのか?」
「えーっといたよ」
「スーツ着たでかい男」
「私も見たんだけど…フェンリルも?」
「…いたかも」
鳥肌が立った
3人バラバラのタイミング、場所で同じ人を見るだなんておかしい
しかもその黒いもやと同タイミングに
「めちゃくちゃモロトフっぽくね?」
ペンタがそう言った
「俺もそう思う…」
その時、私はモロトフに駅で会ったか聞いたが知らないと言われたことを思い出した
それを話したが時雨にあいつが嘘を言わない確証はないと言われてしまった
やっぱりあのスーツ男はモロトフだったんだろうか
「にしてもいい加減足が痛い」
「今から向かえばちょうどいい時間だろ」
時雨の知り合いという人だろう
中学生の
そう、中学生の!
ここからちょうど真反対の場所によくいるらしいので今すぐ向かうことになった
「えっと…私たちは?」
「危ないし帰り方わからないでしょ」
「付いてこい」
「あっはい」
「名前は?」
「奏者です!奏者ボカロファン」
「Sereです」
どうやら少し緊張している様子だ
まあこんな訳の分からないことが続いているし仕方がない
そして結局、エコー未習得者3人とかき氷くらいなら作れるかもしれないフェンリル1人
それに足骨折の負傷者と非戦闘系エコーのペンタ1人というRPGだとしたらクソみたいなメンツで進んでいくことになってしまった
月の麓に集まって 第十六話「特急」
ここからちょうど真反対にいるという中学生の元に行くことになった
---
フェンリル視点
台車を押すペンタを先頭に、僕とberiが続きその後ろにSereと奏者が付いてきている
10分ほど歩いてきたが、妙に気温が高くなってきた気がする
足を動かすたびに額に汗がにじむ
制服の長い袖を捲ってもまだ暑い
辺りは溶岩が黒く固まったような地面が続いており、ところどころ赤く熱を持つ部分が見え隠れしている
「ペンタさあなんでこっちの道にした?」
「お前が台車だからだよ!水の中台車押していけってか!?」
「ちょっとお前の書いた地図貸してみろ」
地図参考↓
https://files.mattyaski.co/6d634a7c-b821-4323-847f-189812e2c4b2.webp
「俺たちはこの地図で言うところの第三環の北側にいたわけだ」
「その水色に塗りつぶしてあるところはほぼ水没してんだよ」
「そういうことか…悪かった」
ペンタや時雨でもこの第三環に来る機会はそう多くないのだろうか?
というかこの異世界とやらはどこまで続いているんだろう
遠目で時雨の持っている地図を見てみるが、第四環以降は行ったことがないから書けない…といった感じに見える
「暑くない…?」
「Sereどうにかしてよ」
…
「Sere?」
なんだか様子がおかしいのだろうか
Sereを呼ぶ奏者の声を聞いた僕は後ろを振り返った
「ちょ、ちょっと!みんな待って!」
そこにはぐったり地面に突っ伏したSereの姿があった
何も物も言えずといった様子で奏者が前を行くペンタたちに止まるよう呼びかける
「うわ、ペンタ?」
「水の中でも行くべきだったんじゃ?」
「俺に死ねと!?」
Sereの周りに皆が駆けつける
はぁはぁと速い呼吸を繰り返しとても苦しそうだ
「誰か水とか持ってない…?」
「私は小屋に荷物置いてきちゃったからなんにも持ってないんだけど…」
beriと同じく僕も小屋に荷物を置いてきてしまっている
今カバンを持っているのは奏者とSereだけだ
「はっ!水筒!それだ!」
奏者は慌ててリュックから水筒を取り出し蓋をひねる
Sereの体を3人がかりで起こしてなんとか中身を飲ませる頃に成功した
「けほっ…けほっ…」
「Sere大丈夫?あ、私の水筒今日口つけてないから安心して?」
Sereはこちらが体をささえずとも自力で起きられるほどには回復したが、この先歩いていくことは厳しそうに見えた
「Sereと奏者だけでも反対側から行かせたら?」
時雨が言った
「お前Sereと奏者だけで行けると思ってんの…?ここ一応第三環だぞ」
「じゃあペンタが付き添いしたら?」
「お前の台車誰が押すんだよ」
「そりゃ…まあ…ね?」
時雨が僕とberiを交互にチラチラと見つめてくる
Sereを無理やり連れて行くわけには行かないし、そうするしかないだろう
というわけでSereと奏者とペンタは反対方向に元来た道を戻っていった
おそらく向こうのほうが遅れて到着になるだろう
「じゃあ行こうか」
beriが時雨の台車をぐっと押す
ぐらりと台車が大きく揺れる
「うっわあ!?」
「ペンタおっせえなって思ってたんだよね〜」
「あ、フェンリルも乗っちゃえよ台車」
少し時雨には申し訳ない気がしたが少し端に寄ってもらい、なんとか無事台車に収まった
「じゃあ〜出発進行〜」
今までのペンタは何だったのかと思うくらいのスピードで台車が進んでいく
しかも台車には2人男が乗っているというのに
「ゴリラやんberi」
「あ?時雨降りたい?」
「スンマセン」
beri、恐るべし
私8月の後半から海外逃亡するのでめちゃくちゃ書き溜めしてます
beriさん海外逃亡中も小説が更新されるよ!やったね!
それと、いつもファンレター書いてくれてる人たちありがとうございます
全部もう画面を舐め回しながら読んでおります
モチベーション上がります
これからも小説をよろしくお願いします〜
月の麓に集まって 第十七話「月の麓」
beri、フェンリル、時雨の3人は暑さに耐えながらも予定通りの道を進むことにした…
---
Flare視点
--- 数時間前… ---
俺が気が付いた頃には時雨たちはいなくなっており、教室は普段よりざわついていた
教室前方には他クラスの先生まで来て大きな人だかりができている
「みんな早く教室から出ていってください」
群がる生徒たちをなんとか外に出そうと大勢教師が集まってきたようだ
そうだ、思い出した
後藤先生の様子がおかしかったんだ
俺は先生たちに誘導されるまま教室を出るとすぐにスマホを開いてberiたちのグループLI◯Eを開いた
そこには何一つとして新しいメッセージはない
「今どこにいるの?」>
きっと俺が寝てる間に教室を出ていったんだろう
しばらく廊下で待機していると、2年生は全員家に帰ってくださいといったような放送が流れ出した
俺は大喜びする生徒たちを横目に自分の教室へ行って荷物をまとめる
外に出てみるとパトカーが何台も停まっていた
「後藤先生あれ息してなかったよね…」
「ねー!本当こっわい」
横を通り過ぎるクラスメイトの声が聞こえた
これだけのものを目の前にするとこのクラスメイトが言っていることは本当なのだと信じざるを得ない
それにしても気味の悪いものを見た
その上一緒に帰る人もいない
3人してフルシカトなんてあんまりだ
「ただいま」
家についた俺はカバンを部屋に投げ込みベットに倒れる
時計の針は14時30分を指そうとしている
そのまま意識が薄れていって、ついには眠ってしまった
---
「ここは…」
また夢の中だろうか
まるで監視カメラになったような視点だ
しばらく真っ黒な地面をただ見ていたのだが、3人誰かが歩いてきた
それはどう見てもあの3人
beri、フェンリル、時雨だった
なぜか時雨とフェンリルは台車に乗っていて、物凄いスピードで通り過ぎていった
監視カメラの視点では3人に付いていくことができない
ただ通り過ぎていく3人を見ただけの夢
少しして、俺は目が覚めた
時間は19時
夕食と風呂を終え、ベットでスマホを眺めていると過ぎる時間は早いもので
あっという間に深夜0時になってしまった
「そろそろ寝るか…」
窓から差し込む月の光が眩しい
ベットから起き上がり、俺がカーテンを閉めようとした時だった
何やら後ろが光っている
「…?」
振り返るとそこは俺の影になっている場所
とうか、なるはずであろう場所が陰るどころか黄色い光に包まれていた
今日は満月
ちょうど真上に月が上がっている
俺は少し非現実的な何かを感じた
興味本位でその光に足を踏み入れてみると足はすっぽり飲み込まれる
流れに身を任せ、俺はその光のなかに完全に入り込んでしまった
眩しくて眩しくて、とても目が開けられない
しばらくするとだんだん光が落ち着いてきたので俺はそこで初めて目を開いた
そこは森の中
遠くで狼の遠吠えが聞こえる
少し寒い
「また誰か来たのか…?」
「今日は満月だし誰かしら迷い込むだろうとは思ってたけど…」
木の陰からスーツ姿の男が現れた
腰にはハンドガンが添えてあり、背が高く少しばかり威圧感がある
「え、えっと…ここは…?」
「付いてこい」
「ここで立ち話は良くない」
右も左も分からない状態だった俺は、その男についていくことにした
月の麓に集まって 第十八話「気絶するほど絶品ね」
時雨視点
beriの頑張りのおかげで想定よりも早く到着してしまった
あんな火山地帯二度とごめんだ
「この辺なの?」
「私もう台車押したくないよ」
「ああ、この辺りのはずだ」
ゆっくり流れる小さな川
その周辺に肩を並べるまだ小さな薬草の数々
先程までの暑さが嘘のように心地よい
「あれ?時雨?」
光の声がした
やっぱり今日もここに来ているようだ
「なにこれ!台車?」
「そしてえっと…この人たちは?」
俺は今日ここに来た経緯と共にberiとフェンリルについて話した
光はそっかそっかと相槌を打つと俺の足を指さした
「これは?折ったよねこれ~」
beriとフェンリルはニヤニヤ笑いながらこちらを見ている
「高いところから落ちちゃって…」
「光治せる?」
「私のエコーはそんなに都合よく調薬出来ないからね?」
「どうなるかわからないけど…それでもいいなら来て」
フェンリルに台車を押してもらいながら光の後を追う
黄色い大きなビニールが木の枝から垂れ下がってできたテントのような場所を光はまるで研究室のようにして使っている
どこから持ってきたのかもわからないくらいにボロボロの棚には目いっぱい薬草や調薬した薬、怪しいものが浮いている瓶などが並べられていた
「ここに寝ててね」
大きな葉っぱが敷かれた場所に俺は台車から恐る恐る立ち上がり寝転んだ
光は添え木と布を持ってきて俺の足に巻き付ける
そして材料を取りに行くと言ってどこかへ行ってしまった
「すっごい、いっぱい薬置いてある」
beriが棚を眺めながら言った
「光のエコーは簡単に言えば薬を作り出せるんだ」
「もちろん危ないやつもね…」
「ひえー」
光は第三環でやっと目覚めたエコーなのもあって、まだエコーの扱いに慣れていない
ほんとに最初の頃なんて、渡された薬を飲んでみたら口から火が出たことさえあった
それに加え、今まで作ってきた薬その全てが例外なくクソ不味い
「お待たせー」
光は両手に変なものを色々持って帰ってきた
さっき見た薬草みたいなのもあるが、魚の骨や動物の毛皮らしきものもある
で、その茶色いのは何…?
「私だってこんなの触りたくないよ…」
「けど必要なの!」
光はそれらを瓶の上に持っていき、両手で強く握る
紫色の毒々しい煙を出しながらもそれらは液体になって瓶に溜まっていく
「俺これ飲むの?え?」
「僕も台車押さないよ?」
フェンリルが追い打ちをかけてくる
もう飲んで治すしか道はないようだ
「できました〜✨️」
満面の笑みの光が瓶を持って仰向けになった俺の枕元までやってくる
(枕なんてないけどね…)
「口開けててよ?」
「時雨、ドンマイ」
「骨は拾ってあげるよ」
beriもフェンリルも酷いことを言うもんだ
それでも光はお構いなしにその劇物を俺の口に流し入れた
「ゔっ!!!げふっ…」
「まっっっず!!!」
なんて味だ…
オブラートに包むと熟成生ゴミ風味の激苦渋青汁といった感じだろうか
しかも熟成生ゴミ風味が口の中に残って最悪だ
これはこの世に存在していい味ではない
「これで骨が戻りやすくなるから、固定したまま少し休めば大丈夫!」
「お…おう」
「ありが…と…」
俺の意識はそこで途切れている…
多分、不味すぎて体が全力拒否した結果だろう
光の薬の味が改善される日は来るんだろうか…
月の麓に集まって 第十九話「濁流の罠」
時雨が光の作った薬を飲んでいる頃…
---
ペンタ視点
やっと今まで歩いてきた道を戻り終えて水没林が見えてきた
こちらは暑くはないもののジメジメしていてあまり心地のよい居場所ではない
「そういえば奏者?だっけ?」
「なんで金属バットなんて持ってるの?」
俺はずっとこれが不思議で仕方がなかった
多分あの猿たちと戦うのに使ってたんだろうが不自然なほどに穴が空いている
「これですか?」
「拾ったうちは綺麗だったんですけど使ったらこんなボッコボコになっちゃって」
「野球部だったとか?」
「相当強い力加えなきゃこんなにはならないよ…」
Sereが言った
俺と同じでSereもその金属バットの変わりように違和感を覚えているらしい
そもそもあのバットは俺のものだ
第三環のあの火山地帯で出会ったでかいゴブリンのような化け物から奪ってきた
そいつはモロトフでも手を焼くくらい強かった
そんなゴブリンが散々振り回しても傷ひとつなかったものを奏者はこの一瞬でここまでボコボコにしてしまったんだ
これはエコーの影響と考えるのが自然だろう
「奏者体調に変化はないの?」
「え?ない」
「昨日明け方に寝たせいでちょっと眠いくらい」
第三環でエコーの副作用が出ないとはなかなかに珍しい気がする
モロトフも俺も時雨も光も第三環に来た途端に何かしら不調を訴えたほどだったから
そうやって少し話しては静かに歩き、また話しては少し歩きを繰り返していると自分たちの足元が遂に水で浸かるあたりまでやってきた
この奥を見てみると根っこを水中まで張り巡らせたような木がたくさん生えており、その水はとても綺麗とはいい難い色をしていた
「奏者先に行く?」
俺のすぐ後ろを歩いていたSereがその光景を見るなり奏者に前を譲ろうとした
「ええー!やだよ」
「Sere先行って」
「じゃあ奏者先頭来る?」
俺は冗談交じりにそう言った
「ちょっと楽しそうかも」
「先頭行くよ」
まじか…と内心思いながらも先頭を奏者に譲った
ここは広い一本道のようなものだから特に迷子にはならないだろうから先頭を行かせても問題ないだろう
奏者が水深が深くなるところに足を踏み入れる
みるみるうちに濁った水の中に飲み込まれていく足は、ちょうど膝のあたりまで水がやってきてから止まった
「こっわ!これふっか!」
「右側行くと全身浸かるから気を付けてね」
「それ一番最初に言えよ…」
右側はこの中で一番背丈の低いSereなら余裕で溺れるだろう
前から来る水の流れに逆らいながら
こんなに靴がビチョビチョになるなんて聞いてないだの足に触れる水草の感触が気持ち悪いだのブツブツ文句を言いながらも俺たちは歩いていった
「今どれくらい?半分来た?
「まだ3分の1」
「最悪」
そんな奏者に比べてSereは元気そうだ
「奏者前今動かなかった?」
Sereが口を開いたと思ったらそんな怖いことを言う
「え?え?」
「脅し?」
「今浮いてた葉っぱがこっちに向かってちょっと動いた気が…」
Sereが言い終わる間もなく10mほど先から大きく水しぶきを上げ巨大な影が空中に飛び上がった
とんでもない大きさだ
ツルツルとした茶色い皮膚に大きな口
俺達くらいなら一呑みで完食といったところだろうか
「やばいやばい逃げて逃げて!!」
「Sere後ろ下がれって!」
奏者の急かされるも急なことで体が動かなかったのか、プールの中を片足ついてチョンチョン進んで行くようにもたもたSereは下がろうとする
あまりの恐怖にSereを待っていられなかった奏者は俺の横を通って先に後ろへ戻ろうとした
「うわっ!!!」
その声も半分は水中から聞こえた
ゴポゴポと水を飲み込む音と共に
多分水深が深いところがすぐ横にあったんだろう
だから右側は行くなと言ったのに
俺は急いで奏者の腕を掴みこちらに引き上げる
「おええええ水飲んじゃった」
「ありがとうペンタ」
このやり取りのせいでバレたのかなんなのかはわからないが、巨大な影はゆっくりこちらへ向かってくる
「は、早く逃げて!」
このまま後ろへ戻っても間に合わないと思った俺は、Sereを抱きかかえすぐそばの木の枝の上に押し上げた
そこからSereは手を伸ばし俺もなんとか木の上へ避難する
最後に奏者に向けて、俺とSereは必死に手を伸ばした
月の麓に集まって 第二十話「雪弾打球」
奏者視点
Sereとペンタが伸ばす手が遠ざかっていく
何かに足を引っ張られている
水はどんどん深くなっていき、遂には頭の先まで水に浸かってしまう
私は後ろを振り向きやつの姿を目視した
大人が両腕を開いたほど大きな口は、私の右足を咥えている
こんなに汚い水の中で目を開けるのは色々危ない気がするが、そんな事を言っている暇はない
すかさず手にある金属バットで眉間に一発ぶち込んだ
しかし水中ではあまり勢いがつかず、やつはピクリとも動かなかった
だんだんと息が苦しくなる
視界に霧がかかる
その時、私のすぐそばを確実に何かが通り過ぎていった
それもものすごい速さで
やつはそれに当たったのかびっくりして私の足を離した
「奏者引っ張るよ!」
ペンタとSereがそれぞれ片方ずつ私の腕を握って強く引っ張った
そのおかげで私はなんとか木の上に上がることができた
「奏者大丈夫??」
「てかあの状況でもこの金属バット持ってたの?」
Sereはとても心配してくれているようだ
「馬鹿じゃん…こんなに重いのに」
いやいやそのとおりだけれども
なんか離したくなかったんだよね
木の上から下を見てみる
やつは木の上に上がった私たちを狙っているようにあたりを旋回している
「そういえばさっきのは?」
「あれSereだよ」
そうペンタが答えるとSereはドヤ顔でこちらを見てきた
「あいつぶっ◯して時雨に自慢してやろうか」
ペンタの目はやる気だ
Sereは何やら口から白い息を吐くと、それを手に集まるように丸めて雪玉を作り出した
「触ってみる?」
「う、うん」
Sereに促されて私はその雪玉に触れた
カッッッチカチだ
鉄球かと思った
「これ投げるからその金属バットで打ってやろうよ」
「天才か??任せて!」
そこまで腕に自信はなかったが、ここは失敗なんてできない
Sereが空中に軽く投げた雪玉を、私は思い切りバットで打った
--- カキーンッッッッ ---
金属と金属が激しくぶつかり合う音が響く
これはもはや雪玉ではない…
一直線に落ちていった雪玉はやつの頭に見事命中
やつの頭をかち割って、辺りの濁った水は赤く染まる
断末魔すら聞けなかった
「こっわこの2人…」
「Sereエコー獲得おめでとう」
ペンタはSereの頭をよしよししている
そう気安く触ってやるなよ
「や…やめて…」
Sereが嫌そうな顔をしてこちらに寄ってきた
「そういえば私のエコーは?」
「これエコーなのか…?」
「俺にはそうは見えなかったけど」
「えーーー!」
「Sereずるいよー!」
「へへ」
その後私たちは木を降りて、左側をずっと慎重に進んでいった
特に何か起こることもなく、無事に時雨たちと合流することができた
「ねえ時雨俺たち水没林のあのでけえ魚倒したぞ」
「本気で言ってる?」
「キモいよお前ら」
「何かいいものあった?」
「あ…」
ペンタが何やら気まずそうに私とSereを見つめる
「死体確認せずに来ちゃったな」
「なんだよお前無能かよ」
「は?」
口論になる時雨とペンタをなんとか落ち着かせ、ここにたどり着くまでに起きたことを時雨たちに話した
Sereのエコーの話をするなり光と呼ばれる人はSereを連れ出した
「見たい!見たい!雪玉やってみて」
「あっはい…」
Sereはピンポン玉ほどの小さな雪玉を作ると光に手渡した
「へえ面白い…」
なんだかんだ光とSereはその後も仲良くおしゃべりしてた
「時雨足はどう?」
ペンタが時雨に聞く
時雨の足は添え木と一緒に布でぐるぐる巻きにされていた
「あー、もうほとんど大丈夫っぽいな」
「ありがとう光」
「いえいえそれほどでもー!」
「あ、そうだSereこれから第四環行くんでしょ」
「これ持ってってっ」
大量の緑色の液体が入った瓶を光はSereに抱えるほど渡した
「ありがとうございます!」
「おーいかき氷組〜そろそろ行くみたいだよ〜」
光がテントの裏側に向かって呼びかけるとボウルいっぱいにかき氷を作ったフェンリルとberiが出てきた
何してんだ
暇だったのか
「えへへへ」
こうして私たちはみんなと合流し、第四環を目指すことになった
なんと第四環へ向かう門はここのすぐ裏にあるということで、光とはしばらくお別れだ
「光ありがとね〜」
「また戻ってくるから」
「それまで待ってろっていうこと…?」
「うん」
「おいおい時雨やめとけって足折られるぞ」
「なんか言った??」
「いえなにも!」
光のテントに台車を残し、私、Sere、ペンタ、時雨、beri、フェンリルの6人による第四環の探索が幕を開ける…
もう二十話?
はっやいですねえ
お気づきの方いらっしゃるかもしれませんが基本的に予約投稿は12時公開にしてます
そしてそこそこお話が進んで来たので番外編のリクエストの募集をしますよ〜
あの時もしこうだったらみたいなIFストーリー
小説で描かれていなかった部分のお話など
1話に収まりそうな内容なら基本的に何でもOKです
皆さんからのリクエストお待ちしております♡
by海外逃亡期間が長過ぎて予約投稿まみれになるberi
月の麓に集まって 第二十一話「覚めない夢」
時雨たちと合流した奏者たちは第四環へ向かうことにした…
---
Flare視点
男について行った先には森の中にぽつんと建つ小屋があった
「入れ」
スーツの男に促されて、俺はドアをくぐる
そこには非常に見覚えのあるスクールバックやリュックが置いてあった
確実にあの2人のものだ
「こ…これ…」
最悪の事態が頭に浮かぶ
この男は何者なんだ?
そしてberiとフェンリルはどこに行ってしまったんだ?
「荷物置いて行ったのかよ」
「ん?何か知ってそうだね」
「知り合いの荷物で…」
「beriとフェンリルか?」
「時雨もいたが」
男は次々と俺のよく知る名前を出していく
「はい…」
俺は今からこの男に何をされるんだろうか
beriとフェンリルと同じ目に遭わされる?
あと時雨もいるって言ってたな
生きていることを祈ることしか俺にはできない
「帰るか?」
「えっ?」
想定外の言葉だった
「まさか会いに行きたいなんて言うなよ」
「多分帰ってくる」
「運が悪けりゃ死んでるだろうけど」
もう訳がわからない…
この男の言い方的にはberiやフェンリルを男が直接危害を加えたというわけではなさそうだ
けど、運が悪けりゃ死んでるってなんだよ
「運が悪けりゃ死んでるってどういう…?」
スーツの男は明らかにめんどくさそうな顔をしながら言う
「じゃあ名前教えろ」
「俺はモロトフ」
「Flareです」
「そうかFlareか」
「ここは異世界に繋がってんだ」
「その異世界にあいつらは行ったんだよ」
「自らね」
異世界?
急に話がファンタジーになりすぎだ
なぜか自分の部屋から森の中までワープしてるしこの男は拳銃を持ってるし
現実世界では見ない光景はたしかに多いし今目の前で起きてる
俺はどうかしてしまったんだろうか
「何も分かっちゃいなそうだな」
「で?帰るか?」
もちろん帰れるものなら帰りたい
けど、異世界と聞くと少しワクワクしてきた
もしこれが夢か、俺が頭おかしくなってるだけなら楽しまないと勿体ない気がする
「あいつらに会いに行きたい、です…」
「はぁ…」
「向かった場所の見当は付いてる」
「けどお前その格好じゃさすがにまずいぞ」
そう言われて自分の服装を見直してみる
「パジャマやんけ…」
俺は閃いた
今日1組は体育の授業があったはず…
フェンリルのリュックを開けると案の定体操服が入っている
確か午後に体育だったはずだからまだ着てない
「まあそっちのほうがマシだな」
モロトフがそう言う
だろ?俺もこっちのほうがいいと思うね
現実だったらこんなことしないけど、まあ夢の中なら大丈夫だろ
そうして俺はさっさとフェンリルの体操服に着替えた
「正直俺もあいつら心配なんだよ」
「だから俺が会いに行くついでに一緒に行ってやるってだけだからな」
「今後もおんぶに抱っこなんて承知しねえからな」
「はい…」
まあ今後なんて多分ないだろうし大丈夫大丈夫〜
異世界って何があるかな?
ドラゴンにエルフにゴブリンとかか?
異世界に行くのが楽しみだ
「何も知らないだろうから俺が全部教える」
「1回で覚えろよ」
モロトフはそう言って小屋を出る
そんなモロトフの後ろを俺は付いていく
モロトフからは本当に多くの話を聞いた
エコーにリンボ、異世界の構造とかだ
俺の夢にしてはやけに設定が凝っている気がするがまあ気の所為だろう
そして俺にもエコーあんのかな…?
めちゃくちゃ楽しみになってきた
しばらく森を歩き異世界っぽいゲートをくぐる
しかし出た先に広がっていたのはただの都会のような光景だった
「ここじゃないとでも言いたそうだな」
「歩けばわかる」
「どれくらいかかるの?あいつらのところまで」
「順調にいけば30分くらいだ」
「一直線で第四環まで行ける裏道を使うからな」
裏道…?
なんかかっこいい
「そこは俺しか開けられないからあんまりあいつらに話すなよ」
「はい」
秘密の裏道かあ
ロマンしかねえな
俺は珍しく本当に面白い夢を見れているみたいだ
「それとこれ持ってろ」
そう言ってモロトフが渡してきたのは木の伐採に使うような小さな手斧だった
「危ないんだよ、この先」
異世界での戦闘…?
想像するだけでワクワクが止まらない
まるでラノベの世界に来てしまったようだ
月の麓に集まって 第二十二話「銀世界」
時雨視点
いよいよここから第四環に突入する
少なくともまだペンタや俺はまともに探索したことがない未開の地といったところだ
「えっとー、Sereには話してなかったかもしれないから言うんだけど」
ペンタが少し不安そうな顔をして言う
「エコーには副作用があって、中心のゲートから離れれば離れるほど大きくなるんだ」
「Sereは第三環でエコーに目覚めたから今まで大丈夫だったかもだけど第四環に入ったらまずいかもね…」
Sereがそっと奏者の影に逃げる
ペンタが脅すようにしてこんな事を言うからすっかり怖がってしまったようだった
「何かあったらすぐ言ってね」
「エコーある奴ら全員ここからは体調崩すだろうし」
多少はSereの不安も和らぐようにと声をかけた
そう、ここから先副作用に怯えるのはSereだけではない
俺もペンタもフェンリルもエコーがある
今までみたいな行き当たりばったりからのゴリ押しでなんとかなるようなものではないのだ
「僕はもうすでにキてるけどね…」
「フェンリルゲート入った瞬間にエコー発動してたもんね」
「私びっくりしたよあれ」
フェンリルは…やばそうだな
最悪途中で戻って光に預けることも考えなければいけなさそうだ
「じゃあ行きますか」
ペンタは先陣を切って門の扉の前に立った
「はーい」
俺は一番後ろにつくとしよう
自分の身長の3,4倍はありそうなほど大きな石の扉は、ペンタが目の前に立った瞬間に地響きのような音を立てながら開き始める
扉に張り巡っていたツタは開く門に押し込まれだんだんとたるんでいく
開きかけの扉の隙間から白い霧が漏れ出す
狭い出口を我先にと飛び出すように、鋭い空気が肌に吹き付ける
「さっっっむ!!!」
当たり前だろペンタ
お前だけ半袖なんだよ
なんでこいつはもう夏服なんだろうか
だんだんと露わになる第四環の姿は、まるで雪国のように真っ白な雪で覆われている氷雪地帯のようだ
火山地帯でダウンしていたSereはこの光景を見て少し笑顔になっている
「これほんとに入るの…?」
ペンタは目の前に広がる白銀の世界に半袖で挑むのだ
そりゃ寒いだろうがペンタに先を行ってもらうしかない
「行けよペンタお前が先頭だ」
「そうだそうだ〜」
他のみんなが面白おかしく便乗する
「分かったよ!行きゃいいんでしょ行けば!」
両腕をさすりながら門をくぐっていくペンタのあとに皆が続く
これは長袖でもかなり寒い
白い雪に足を踏み入れると、軽く2,3cmほど沈み、ぎゅぎゅっと雪の詰まる感覚がある
積もってからさほど経っていないんだろう
幸い今は雪が降っていない
「Sere〜寒いよ〜」
「どうにかしてよ〜」
「私雪玉しか作れないから…」
「えー、じゃあフェンリルは?」
「ぼ、僕!?」
とんでもないキラーパスを目撃してしまった
フェンリルも凍らせるようなエコーだったはずだ
全くここで使えるエコーを持ってるやつがいない
「かき氷…いる?」
「いらないよお…」
「みんなダメじゃん!私にもエコー早く欲しいな〜」
皆で寒さになんとか耐えながら、あれから30分ほど歩いた
けどずっと雪が積もっているだけで他に何も見つけることができなかった
「時雨俺そろそろ腕凍りそうだよ」
「引き返さない?」
ペンタがそんな事を言った時だった
突然足元が細かく揺れ始め、遠くからゴゴゴゴ…と地響きが聞こえた
「なにこれ地震?」
「フェンリルが変なこと言うから」
「なんで僕!?」
「beriもだろ!」
全く初めての経験で、原因は予測もできなかった
異世界で地震なんてあるのだろうか
「そこの人たち〜!!」
「右に寄って!」
何やら遠くから声が聞こえた
俺たちがその声に従って右側に寄ろうとした時、ピシっと地面に亀裂が走る
元より左側にいた奏者がその亀裂に落ちてしまった
「奏者!!!」
なんとか掴まっていた奏者をSereとberiで引き上げる
「危ないあと少しで人生ゲームオーバーだったわ」
「ありがとう」
亀裂は深い
このまま落ちていたら本当に死にそうだ
「そこの人たち大丈夫だった?」
先程の声の主が姿を現す
…非常食だ
あの時に会った犬だ
「わんこ!」
フェンリルが非常食を見るなりわんこと叫んだ
「非常食どした?」
「犬でも非常食でもねーわ!」
「失礼だなあ」
「でも犬じゃん…」
beriが非常食に近づきもふもふと頭を撫で始める
「こっち来るとこうなるの!」
「てかそれは置いといて」
「君たち何してんの?」
俺は非常食に事の経緯を説明した
「へぇ…こんな時間だしみんなで家出かと思ったよ」
時間…?そうだ完全に忘れていた
異世界は現実世界と時間が合ってないせいでこちらは真昼間に見えている
「ちなみに何時なんだ」
「え?多分2時か3時くらいだよもう」
明日も学校なのにそれはまずい
本体が死んだ魂はおよそ1日経ったら消えてしまうから今ここで帰るわけには行かない
「それと探してる魂なら多分ここにはないよ」
「え?」
「私第四環走り回ってたからね」
「それとスノーワームも地下走り回ってるし今は危ないよ」
「エコーの副作用ヤバそうな子もいるし今日は帰ったら?」
非常食にそう言われて後ろを振り返ると雪の上で見事に虹をかけているフェンリルがいた
「わんこの言うとおり帰りたい…かも…うっ」
「おえぇええええ」
俺たちがここまで来た意味がよくわからなくなってしまったが、近くに石碑があるということで今日はそこから帰ることにした
石碑は異世界から現実世界に帰るために使う
場所が毎回ランダムに変わるせいでなかなか思う通りに帰れない時もあるので少し厄介だ
「私はもうちょっとここにいるからさ」
「じゃーね〜」
非常食が走り去っていくところを見つめていた
「えっと…帰るか…」
言い出すのも申し訳なかったが、虚無すぎる空気だったし俺がこんな事を言いだしたんだから仕方がない
石碑にはよくわからない文字の書かれた石板とゴツゴツした妙に光る石が置いてある
この石に触れると異世界に来る前の場所まで戻れる
「帰り方見せるから付いてきてね」
俺は石にそっと触れた
視界が暗転し、目を開いた時には教室に…教室?…そうだ教室から俺たちは入ってきたんだ
夜の学校に閉じ込められてしまった
少し遅れてフェンリルとberiもほとんど同じような場所に帰ってきた
「へへへ…」
「へへへじゃないよ全く…」
異世界からは出られたがどうやら俺たちは学校から出る方法を探さないといけないようだ…
こうなるだろうとは思ってたんですけど流石に11日分書き溜めはきっついので1日おきくらいになりそうです
これを書いているのは8日なので未来の私がどうしてるかは知りません()
月の麓に集まって 第二十三話「詐欺イーヌ」
わんこに促されて異世界から現実世界に帰ることにした…
---
フェンリル視点
僕たちが帰ってきたのは教室
そう、時雨のエコーでリンボへ飛んだ場所と全く同じ
ただ問題なのは時間帯だ
誰もいない教室でもカチカチ音を立て動く時計の針は5時を指そうとしていた
わんこ2時か3時って言ってたよな?!
嘘つきやがって!
「誰もいない学校ってちょっと怖いかも…」
普段は全くその気のないberiが珍しく怖がっている
僕たち以外に誰もいない、広い、薄暗い学校
よくある学校の怪談とかにぴったりな舞台だ
時雨が教室の窓から外を眺める
「校門は閉まってそうだな」
「でもとりあえずは校舎から出よう」
僕たちは階段を降りて1階に向かう
自身の下駄箱にスリッパを戻し靴に履き替える
あまりに周りが静かなものだから、下駄箱のロッカーを閉めるときなぜか少し緊張しながら音が立たないようにそっと閉めた
「フェンリルなにか喋った?」
先に靴に履き替えたberiがひそひそ声で言う
「喋ってない」
僕もフェンリルに答えるようにひそひそ話してみた
すると急に時雨が僕とberiの肩を叩き、外を指差した
そこには4人ほど生徒がこちらに向かって歩いてくるのが見えた
同じクラスにいた気がする
まずい、こっちの下駄箱だ
「掃除用具入れに隠れよう」
時雨が言ったものの一人しか入る余裕がなく、時雨は僕を掃除用具入れに押し込むとberiと一緒に走っていってしまった
外履き用の靴で廊下を全力疾走する日が来るなんて思わなかっただろう
僕は4人が来る前に自力で扉を閉め、息を殺す
そもそもこんな時間になんの用だろうか
それが気になって仕方ないので少し聞き耳を立ててみることにした
とんとんと足音が近づく
自分の心臓の鼓動がその足音が聞き取りづらくなるほどに大きくなる
そっと扉に耳をつけ、待ち構えていた
「マジでだるくね?校長の野郎」
「それなそれな!後藤いなくなったのによ」
「私も顧問いなくなったのに朝練続かせるとは思ってなかったよ」
「大会終わるまではどーせこれでしょ」
「私がそろそろ死んじゃうって」
なんの話だ…?
部活の朝練か何かか…?
やがて声は小さくなり、何も聞こえなくなった
できるだけ静かにそっと掃除用具入れから出ると、beriと時雨が廊下から歩いてきた
「フェンリル大丈夫そうだね」
「私と時雨は1年の下駄箱まで行ってたよ」
「掃除用具入れも案外悪くなかったよ」
「ちょっと怖かったけどね」
僕たちはなんとか下駄箱から出て、空いていた校門から学校の外へ脱出した
「そういえば…もうこの時間だけどどうするの?」
「荷物はリンボだし」
beriに言われるまで全く気にしていなかった
もう5時になるっていうのに今更家に帰るのはあまり気が乗らなかった
そして今家に帰ったら何と言われるか…
「親に連絡入れなきゃまた捜索願出ちゃうよ」
LI◯Eには急に友達の家に泊まることになったという嘘を送っておいた
時間が時間なのもあって既読はつかなかったが、ついたとしたら絶対何か言われる
「俺がリンボに行って荷物取ってくるから朝ごはんに良さそうな店探しておいて」
時雨は黒いもやを出しながらリンボへと消えていく
「朝ごはんに良さそうな店かあ…」
朝にここらへんを歩くことはないし全く知らない
朝食のサービスがあるチェーン店くらいしか僕には思い浮かばない
「私いいとこ知ってるよ」
「今日やってるかわからないから見に行こう」
「わかった、行こうか」
beriと一緒にその店まで歩くことにした
月下人狼知らなそうな方からファンレター頂きました
知らないと英語やらカタカナやら漢字にひらがなのよく分からん名前の人達が大勢出てきて頭おかしくなってそうですよね、大丈夫なんですかね…()
それでも読んでいただけるなんて私とっても嬉しいです
これからも頑張っちゃいます
月の麓に集まって 第二十三話「夢か異世界か」
フェンリルたちは学校からの脱出に成功し、外で朝食をとることにした…
---
Flare視点
本当にモロトフが言っていた通り30分ほど何もないコンクリートでできたトンネルを歩いた
途中でスリッパだったことに気がついた俺は落ちていた靴を借りることにした
俺とモロトフが立てる足音だけが奥までぼんやりと反響する
進むにつれてトンネル内の空気は冷たく、足元には薄い氷が張るようになっていた
「あそこが第四環だ」
モロトフの声はどこか震えていた
体調があまり優れていないのだろうか
半袖半ズボンの俺でも少し寒いと感じる程度だから寒くて震えているというわけでもなさそうだ
「すまん、ちょっと休むから先に行っててくれ」
「あとから足跡を追うよ」
そう言うとモロトフはその場に座り込んでうつむいてしまった
額はつーっと汗が流れていっている
「わかった」
俺はそんなモロトフを後にしてトンネルを進み続けた
地面の氷も厚みを増し、第四環から吹き込む雪も勢いを増す
半袖半ズボンではなかなか耐え難い寒さになってきた
ようやくトンネルの出口にたどり着き、真っ白な雪の上に一歩踏み出す
ぽふっと足が軽く埋もれる
「半袖半ズボンで何してるの君!?」
声の方を向くと大型犬はこちらを向いてわんわん吠えていた
多分こいつじゃないだろう
無視して進もうとするとその犬はこちらにだんだん近づいてきた
「その格好じゃ自殺と一緒だよ!」
「しかもその様子じゃ君エコーないよね?」
「どうやって第四環まで来たの」
「そもそも一人なの?」
「誰かと来たの?」
突然質問攻めをしてくる犬に俺はどうすればいいのかわからなくなってしまった
しばらく黙り込んでいると、どこからか大きな地響きのようなものが聞こえてくる
「まただ…」
犬は俺に今すぐ帰るように言うとどこかへ走り去ってしまった
モロトフにこのことを伝えようと思い俺はトンネルへと戻る
「会えたか…?」
モロトフはまだ体調が戻らない様子だ
何なら地面にほぼ寝転ぶような感じで横になっているものだから余計に悪化したようにも見える
「犬がいたんだけど、地響きが聞こえて今すぐ帰れって…」
少し考える間が空いた後、モロトフはゆっくりと壁に手を付きながら起き上がった
「多分あいつらまだここまで来てないんだろうな」
「ここに見知らぬ顔が来ることはなかなかないんだ」
「あいつが今すぐ帰れとしか言わないのなら何も見ていないんだろう」
「つまり…?」
「ここで待つか現実世界に帰るかだ」
「もし今帰るなら、次来たときは会わせてやるよ」
「今日は副作用が強くてとてもこのまま待っていられそうにない」
どうやらエコーに目覚めると異世界では副作用というものが出るらしい
だんだん慣れてくるようだがなぜか今日は特に副作用を強く感じるというのだ
「じゃあ帰ります…」
トンネルの中にあった石碑の前に置かれた石をモロトフは指差し言った
「この石に触ると現実世界に帰れる」
「俺が手本を見せる」
モロトフがすっとその石に触れるとその場からモロトフの姿はなくなっていた
一人でここに残ってもどうすればよいのか分からないので、せっかく異世界に来れたワクワクを殺しながら俺もその石に触れた
月の麓に集まって 第二十四話「背負うべきもの」
--- あれから1週間後… ---
---
beri視点
第四環にたどり着いたあの日以降、私たちは一度も異世界へ出向くことをしなかった
担任の魂はもうすっかり消えてしまっていたからだ
次の日登校すると先生たちが登校してきた生徒を普段とは別の教室に誘導していた
私は今までの教室が気になり階段を上がる
そこには警察官があの担任が倒れたであろう現場にわらわらと集まっていた
そんな事態でも休校という処置にはならなかった
多分だけど、こんなような突然死があまりにも増えてきたせいじゃないかと思う
ニュースで見かける頻度も増えてきたなんてもんじゃない
初めの方は一人一人その状況まで詳しく話すように報道されていたものが
今では◯◯県では今日何人が…なんていう病気が流行った時のような報道になってしまっている
そりゃあ突然死が起きるたびに大騒ぎしていたら何もできなくなってしまうだろう
原因不明の突然死…
おそらく原因は、異世界にある
なんとなく私はそう思った
けれど何の手がかりもない今私一人にできることなんてないだろう
「行ってきます」
今日も突然死関連のニュースを見ながら学校へ向かう
昨日は有名な俳優が突然死してしまったようでネットはかなり荒れているようだ
ここまで広がってしまうといつ自分の番が来るだろうかという不安まで覚えてしまう
「beriおは」
「おはよーberi」
フェンリルとFlareに会うと、この不安は自分だけでなく周りにも向けられる
いつかこの3人が欠ける日が来るんだろうか…
教室に入るといつも以上に時雨が神妙な顔をしていた
少し気になるが、こちらから声はかけずらかった
「時雨何かあったの?」
フェンリルもそんな時雨の様子に気づいたのか、私に聞いてきた
「わかんない…」
なんとなく異世界から帰ってきてから気まずい空気が流れている気がする
しばらくすると時雨は急に席を立って教室の後ろで立ち話をするフェンリルと私のところまで歩いてきた
「お、おはよう」
そんな時雨に私はこんなものしか口から出なかった
時雨は何を言いに来たのだろうかと耳を傾ける
「モロトフから話があるって」
「今日の放課後から異世界に行かないか」
私はフェンリルと顔を見合わせてしまった
正直異世界にはあまりいい思い出がないし、そう好んで行きたい場所でもない
帰りが遅くなれば両親への言い訳も必要だ
「お願い」
「かなり重要な要件らしいんだ」
「それ異世界じゃないとだめなの…?」
やはりフェンリルもあまり乗り気ではなかったようだ
「異世界じゃないとだめだと聞いてる」
そこまで担任には思い入れがなかったし、そんな担任の魂を逃してしまったことには正直あまり悔いていない
それでもなお感じるこの居心地の悪さはなになんだろうか…
「とりあえず、考えておいて」
「放課後にまた聞く」
そろそろSTが始まる時間だ…
私たちは席に戻った
たああああああああいへん申し訳ございませんでしたぁ!
いやあオーストリアから帰ってきてはおりました
けど忙しくてね…ハイ
(ペルソナにハマっていたのもあります)
これからテストが近づくので毎日更新というわけには行かないと思いますが、流石に2週間以上空けたりなんてしませんよ
誓います
本当に申し訳ございませんでした!
月の麓に集まって 第二十五話「旅は道連れ」
時雨視点
モロトフの野郎…
俺の連絡先しか持っていないからってこんな大事なことをメールで送ってくるなんて
詳細は伝えずに放課後来るようにだけberiたちには言っておいたが、到底すんなり来てもらえるとは思えない
学校で過ごす時間が放課後に近づくたびその不安は強まっていった
beriやフェンリルには、全く異世界に行くメリットがないと思われてしまってる上本当にどうすればいいのか…
いっそのことモロトフが現実世界で直接話してくれたらいいのに
そんな気持ちを抱えたまま、帰りのSTが終わってしまった
beriたちを横目で見るとまだ何かコソコソと話をしているようだ
一人…また一人と教室の人は減っていく
取り残される俺とberiたちがだんだんと目立ってくる
少し気まずさを感じ俺はスマホの画面を何の意味もなくスワイプさせていた
そのせいで俺はすぐ後ろにまで来ていたberiたちに気づけなかった
「時雨?」
フェンリルが俺の肩を叩いてようやく存在に気付く
「どうする?」
「来てくれるって言うなら今から行くことになるけど」
2人はしばらく顔を見合わせてから言った
「行くよ」
「私特に用事ないし」
「僕もないから、行けるよ」
遊びに誘うのとは少々訳が違うのだが、来てくれるということらしくホッとした
もしこれで連れてこれなかったなんてことになってしまったらモロトフに何を言われるかわからない
モロトフと約束していた時間も近い
もう教室には自分たちしかいないし、ここでエコーを使ってしまおうか
「あー!3人ともー!」
「そろそろ帰るのー?」
「あっFlare」
なんで今なんだよ!!!
タイミング最悪だ
「そういえばちょっと前に変な夢見たんだよ」
「お前たちが異世界にいるとかデカイ男に言われたわ」
…!?
おそらくそれは夢なんかじゃなく、何らかの方法でFlareも異世界に行ってしまったんだろう
でも急にこんなことを言い出すものだから、beriもフェンリルも完全に固まってしまっている
「それどこまで知ってるの…?」
恐る恐るFlareに聞いてみる
「知ってるってなんだ?」
「覚えてるじゃなくて?」
本当に夢だと思っているらしい
それならもう一度眠ってもらおうか…
「こいつも連れてく」
「行くぞ」
「え?何何」
俺は半ば強引にFlareの腕を掴み、エコーを発動する
beriやフェンリルはもう分かったようで、先にもやの中へと入っていってくれた
後はFlareと俺だけだ
嫌がるFlareを無理矢理黒いもやに押し込んだ
「だからなんだっt」
無事に4人とも小屋前のリンボへ到着した
少し遅れてしまっているが、これくらい許してほしいものだ
Flareの腕を掴んだままもう片方の手で小屋の扉を開けた
月の麓に集まって 第二十六話「6人目の協力者」
フェンリル視点
時雨はFlareの腕を掴んだまま片手で小屋の扉を開ける
なぜかFlareは異世界について知っているようだったけど、一体どういうことなんだろう
そして時雨がFlareを巻き込んでまでして僕たちをまたここに呼んだ理由はなんだろう…
開いた扉の先にはモロトフが椅子に座っているのが見えた
「入ってこい」
モロトフがそう言うので僕たちは小屋の中へ入っていく
「な…時雨、こいつを呼べなんて言ってないが」
「モロトフFlare知ってたの?」
「じゃあいいじゃん戦力追加ってことで」
モロトフは大きなため息をついた
モロトフにとってはFlareを連れてくることは本意ではないように見える
「で話ってなんなの?」
beriがモロトフに聞いた
「最近現実世界に起きている突然死の話だ」
「気をつけろって話?」
「話を聞けberi」
「簡潔に言うなら原因は異世界にあることが分かったんだよ」
突然死の原因が異世界に…?
どうしてわかったのかは置いておいて、異世界は現実世界に干渉することがあるなんていうのが驚きだ
「それで…?」
「異世界に来れる人間は少ない」
「というか来れたとしても、エコーで死ぬやつらを考慮したら突然死よりも多くの被害が出るだろう」
「言いたいことは分かるか?」
わかるようで、わからない…
来れる人が少ないから何だって言うんだ?
「わかってなさそうだな…」
「俺たちにしか解決できないんだよ、これは」
「だから戦力の増えた今、協力して欲しいんだ」
「時雨も言ってやってくれよ」
今まで黙っていた時雨が口を開く
「元々は俺とモロトフで探索を行っていたんだがな」
「わんこやペンタ、光は後から参加してくれた協力者なんだ」
「何が起こるかわからない異世界では戦力は多いに越したことはない」
「そこで異世界に行ける僕たちに協力をしろと…?」
僕はエコーが使えるけど、beriはまだだしFlareもわからない
モロトフの言っていた通りエコーで死ぬかもしれない
そんな危険性がある人間を抱えた状態でも戦力なんて言えるのだろうか?
モロトフや時雨からはなんとなく手当たり次第集めているような印象を受ける…
「私エコー使えないんだけど…」
「なんか勝手に進められてるけど俺もだよ」
やはりFlareも未覚醒のようだった
そんな人間でも探索に出向かせなければならないほどに事態は切迫しているのだろうか
「だから言ったろ時雨…」
「それでも今のままじゃ間に合わないぞ」
「こちらから後で説明はさせてもらう」
「でも…少し考えてみてほしい」
「第四環までたどり着けるような人間ならエコーで死なない」
「ああ…それは俺も肯定できる」
「そもそも第四環までたどり着いたのは最近だったが、エコーで死んでいったやつらは異世界に入ってすぐに覚醒することが多かったんだよ」
それを見込んで、か…
異世界が原因で起こる現実世界の突然死
ニュースでも持ちきりのこの異常事態
そう考えてみればとっくに事態は切迫してきていると言えるのかもしれない…